カリア語
カリア語(カリアご、Carian language)は、鉄器時代のアナトリア半島南西部のカリア(今のトルコの一部)で使われていた古代語。紀元前7世紀から紀元前3世紀にわたる碑文が残っている。カリア本土のほかにエジプトやギリシアにも碑文が残る。 カリアはリュディアの南、リュキアの北西に位置し、ギリシア人の植民地であるイオニア・ドーリアに隣りあっていた。カリア語はリュキア語と同様にインド・ヨーロッパ語族アナトリア語派のルウィ語群に属する。 資料の制約のために充分に解読されていないが、1996年にトルコの調査団によってカリア語とギリシア語の2言語碑文が発見され、状況は劇的に改良された[2]。 資料
文字→詳細は「カリア文字」を参照
カリア文字はアルファベットで、一見するとギリシア文字によく似ており、おそらく他のアナトリアの文字と同様、ギリシア文字から発達したと考えられる[6]。しかし、ギリシア文字と同じ音価を持つのは4文字のみで、ほとんどの文字はギリシア文字とは無関係な音を持つ[7]。 文字の数は全部あわせると45ほどあるが、これは地域差のためで、ひとつの地域で使われる文字の数はせいぜい30前後である[8]。 カリア語の資料は19世紀から知られる。カール・リヒャルト・レプシウスはエジプトで落書きを発見し、カリア語を表していると1844年に正しく判断している[9]。アーチボルド・セイスが1887年に最初の解読の試みを行ったが、成功しなかった[10]。2言語碑文の存在にもかかわらず、カリア文字は長い間未解読であった。1980年代から1990年代にかけて、ジョン・D・レイ、ディーター・シュール、イグナシオ=ハビエル・アディエゴらによって従来の文字の読みが根本的に誤っていることが示された[11]。この新説は当初必ずしも受け入れられなかったが、カウノスでカリア語とギリシア語の新しい2言語碑文が発見され、正しさが検証された[12]。現在は使用頻度の少ない文字以外は音価が明らかになっている。 言語の特徴音声/a e i o u/ の5母音があり、アディエゴによればさらに /y/ があった。ほかに半母音(/j w ɥ(?)/)もあったらしい。ただし、カウノスの碑文には e が使われていない。ほかに書かれない母音があった[13]。 子音の中にはかならずしも明らかでないものがある。以下はアディエゴによる。
上記のほかに γ ŋ などと翻字される子音があるが、音価は不明。 文法名詞は単数と複数があり、格には少なくとも主格・対格・属格があった。与格の存在については議論がある[14]。動詞についてはあまりよくわかっていない。 語彙固有名詞を除くと、はっきり意味のわかっている語彙は mno-(息子)[15]、ted(父)、en(母)などのわずかなものに限られる[16]。 系統カリア語の語彙はほとんど不明だが、わかっている限りの語彙はアナトリア語派に同系語がある。固有名詞からは、カリア語はインド・ヨーロッパ祖語の *h2 を保存しているようであり、またサテム語的(PIE *k̑ > s)な変化を起こしていることからルウィ語に近いと考えられる。また、民族を表す接尾辞 -yn- は、ルウィ語の -wanni- と対応していると解釈される。格語尾もルウィ語と対応するとして矛盾なく解釈できる[17]。 脚注
参考文献
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