スペース・エクスプロレーション・テクノロジーズ (英 : Space Exploration Technologies Corp. )、通称スペースX (SpaceX ) は、テキサス州 ボカチカ 近郊に本社を置くアメリカ の航空宇宙メーカー であり、宇宙輸送サービス会社 である他、衛星インターネットアクセス プロバイダでもある。火星の植民地化 を可能にするための宇宙輸送コストの削減を目的に、2002年にイーロン・マスク によって設立された[ 3] [ 4] [ 5] 。SpaceXは、いくつかのロケットのほか、宇宙船 ドラゴン や衛星スターリンク (衛星インターネットアクセス を提供)を開発している。
概要
ISS に接近するクルードラゴン宇宙船
スペースXは、民間企業として初めて有人宇宙船を国際宇宙ステーション (ISS)に到達させた。2020年に打ち上げたクルードラゴン は、2011年 に退役したスペースシャトル以来の、アメリカでは5機目の有人宇宙船になる[ 6] [ 7] 。2020年 12月現在、スペースXはアメリカ航空宇宙局 (NASA) とのパートナーシップのもと[ 8] 、国際宇宙ステーション (ISS) への貨物補給ミッションを20回実施している[ 9] [ 10] 。
またスペースXは世界で初めて商用ロケットの再使用 を成し遂げたことでも知られている。ファルコン9 ロケットは2015年 に初の垂直着陸 を達成した後[ 11] 、2017年 からは実際に回収したロケットが再使用されており[ 12] 、既存の使い捨て型ロケット と比べて半分以下のコストでの打ち上げを実現している[ 13] 。打ち上げコスト低減を活かし、衛星インターネット のスターリンク にも参入しており、2020年 には世界最大の衛星コンステレーション事業者 となっている[ 14] [ 15] 。
2021年 現在は、惑星間宇宙飛行を見据えた超大型ロケット/宇宙船のスターシップ を開発中である。スターシップは、スペースXが進める火星植民計画 の要となる他、衛星打ち上げ市場に置いても既存のファルコン9/ドラゴンを置き換えるものとなる計画である[ 16] [ 17] [ 18] 。スターシップは完全に再利用可能なロケットとして計画されており、2020年代初頭に予定されているデビュー時には史上最大のロケットとなる[ 19] [ 20] 。
歴史
ファルコン9
2001年初頭、イーロン・マスク は非営利団体火星協会 と共に、火星に植物の生育室を設置するための資金計画について話し合った[ 21] 。同年10月には、温室を宇宙に送り出すための大陸間弾道ミサイル (ICBM)を購入するため、ジム・キャントレル (英語版 ) 、アデオ・レシ (英語版 ) とともにモスクワ に赴いた。NPO法人ラヴォーチキン やコスモトラス 社と会ったがマスクは素人だと思われ、一行は手ぶらでアメリカに帰国した[ 22] 。
2002年2月、一行はマイク・グリフィン(In-Q-Tel (英語版 ) 社社長)とともに、ICBM3基を探すためにロシア に戻った。コスモトラス社と再び会談し、800万ドルでロケット1基を提供されたが、マスクはこれを拒否した。その代わり、彼は手頃な価格のロケットを作れる会社を立ち上げることにした[ 23] 。
2002年 にマスクによってカリフォルニア州 エルセグンド (英語版 ) でスペースX社が設立された。設立時には、同年に買収された宇宙開発大手のTRW 社から、ロケットエンジン開発に携わっていたトム・ミュラー (英語版 ) とそのチームが合流している[ 24] 。また、マスクは会社設立のために1億ドルの自己資金を投入している[ 25] 。
2006年 にNASA と国際宇宙ステーション (ISS) 物資補給のための打上げ機の設計とデモ飛行を行う商業軌道輸送サービス (COTS) を契約した。2008年 に小型ロケットのファルコン1 で初めて軌道に到達し(民間資金で開発された液体燃料ロケット では初)[ 26] 、2010年 12月には中型ロケットのファルコン9 とドラゴン宇宙船 によるCOTSデモ飛行を行い、民間企業としては世界で初めて軌道に乗った宇宙機の回収に成功した。2012年 にはISSに民間機として初のドッキングも成功させ、補給物資や実験装置を送り届けた[ 27] 。
2014年 には、NASAと有人型のドラゴン宇宙船 の開発とデモ飛行を行う宇宙飛行士の商業乗員輸送開発 (CCDev) プログラムを契約した。2020年 5月に再び民間企業として史上初となる有人宇宙船の打ち上げ並びにISSドッキングを成功させた。
ドローン船に着陸したファルコン9の1段目
またその間の2015年 には、ファルコン9の第1段により、世界初となる衛星打ち上げロケットの垂直着陸を達成した[ 28] 。2017年 からは他社に先駆けてロケットの再使用を実施している。2018年 には大型ロケットのファルコンヘビー も運用を開始しており、民間の宇宙船を初めて太陽周回軌道 にも打ち上げた。
2016年 には、これまでユナイテッド・ローンチ・アライアンス 社の独占状態にあった米軍事衛星 の打ち上げ市場への初参入も果たしている[ 29] 。
スペースXは民間による火星探査 や移民構想 も掲げており、2016年 にはそのための輸送システムであるインタープラネタリー・トランスポート・システム (後のスターシップ )を発表した[ 30] 。
2024年7月16日、本社をテキサス州 ボカチカ にあるスターベースに移転すると発表した[ 31] 。マスクはカリフォルニア州にて生徒が性自認を変えたことを教師が保護者に通知することを禁止する州法を成立したことに反発したことから、自身が保有するX社 と共に移転を表明した[ 32] 。
主要製品
ファルコン1 、ファルコン9 Ver1.0、Ver1.1、FT、Block 5、ファルコンヘビー 、FH Block 5、スターシップ
ロケット
バージョン
ファルコン1
ファルコン9
ファルコンヘビー
第1段
1 × マーリン1A (2006年~2007年)
1 × マーリン1C (2008年以降)[ 33]
9 × マーリン1C (v1.0)
9 x マーリン1D (v1.1)
9 × マーリン1D のブースターを3基クラスタ
第2段
1 × ケストレル
1 × マーリン1C (v1.0)
1 × マーリン1D (v1.1)
1 × マーリン1D
全高 (最大; m )
21.3
54.9 (v1.0)
69.2 (v1.1) 70 (FT)
70
直径 (m )
1.7
3.6
3.6
離床推力 (kN )
347
3,807 (v1.0)
5,885 (v1.1)
6,804 (FT)
17,000
離陸重量 (トン )
27.67
318 (v1.0)
506 (v1.1)
549 (FT)
1,400
フェアリング直径 (内径; m )
1.5
5.2
5.2
ペイロード (LEO ; kg )
450
8,500–9,000 (v1.0)
13,150 kg (v1.1)
22,800 (FT)
63,800
ペイロード (GTO ; kg )
—
3,400 (v1.0)
4,850 (v1.1)
8,300 (FT)
26,700
値段 (百万. USD )
7
62 (再使用) 95 (使い捨て)[ 34]
90 (再使用) 150 (使い捨て)[ 34]
1kg毎の最低の値段 (LEO ; USD )
15,555
4,167
2,351
1kg毎の最低の値段 (GTO ; USD )
—
11,446
5,618
成功率 (成功/総計)
2/5
4/5 (v1.0)
14/15 (v1.1)
28/29 (FT)
1/1
[ 35]
[ 36]
[ 37]
[ 38]
[ 39]
宇宙船
ロケットエンジン
マーリン1D
サービス
発射場
ファルコン1は全てオメレク島にて打ち上げられている。ファルコン9はSLC-40、SLC-4E、LC-39Aの三つの射場から打ち上げ[ 40] 、ファルコンヘビーはLC-39Aから打上げられている。
備考
スペースXは成功したベンチャー企業 にも拘わらず、2024年現在いまだに株式公開 (IPO) を行っていない。同社の評価額は2024年 12月時点で3500億ドルと見積もられており、これは全世界の株式未公開のスタートアップ企業(ユニコーン企業 )の中で最大である[ 41] 。イーロン・マスク は2013年 に「IPOは火星移民船が定期的に飛ぶようになってから」と、また2014年 には「どこかのPEファンド に経営を支配され、短期的な利益を得ることに使われるのだけは勘弁してほしい」と語っており、スペースXが創業時からの目標である火星移住構想から離れないよう株式を公開しない考えを示している[ 42] 。
その他
Netflix で配信されるドラマ『ハウス・オブ・カード 野望の階段 』のシーズン2第7話において、副大統領のスタッフとして働く野心的な若者コナー・エリスが副大統領夫人に辞意を伝える際に、報酬が良く自身の成長も期待できるとする転職先を「スペースX社」と明かす場面がある。
関連項目
出典
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