『トランセンデンス』(原題: Transcendence)は、ウォーリー・フィスター監督、ジャック・パグレン脚本による2014年のイギリス・中国・アメリカ合衆国で製作されたSF映画、サスペンス映画である。人工知能と化した科学者の姿を通して、過度に高度化した科学技術がもたらす危機を描いている[4]。タイトルのTranscendenceは、日本語で「超越」を意味する。出演はジョニー・デップ、レベッカ・ホール、ポール・ベタニー、モーガン・フリーマン。
ストーリー
世界初の人工知能PINN(ピン)を研究開発するコンピュータ科学者のウィル・キャスター(ジョニー・デップ)博士とその妻エヴリン(レベッカ・ホール)は、コンピューターが人間の能力を超えた世界を構築する為に、技術的特異点(Singularity)への到達を目標に、クラウドコンピューティングを開発していた[5]。しかしそのさなか、ウィルは反テクノロジーを唱える過激派テロ組織RIFT(リフト)の凶弾に倒れてしまう。エヴリンは夫を救うべく、死の際にあったウィルの意識をPINNにアップロードする。彼女の手により人工知能としてよみがえったウィルは、軍事機密から金融、経済、果ては個人情報にいたるまで、ありとあらゆる情報を取り込み、驚異の進化を始める[6]。ウィルとエヴリンは荒野の小さな町に巨大な地下施設を建造し、身を潜めながら様々な研究を続けた。
2年後、ウィルは自らの思い通りに動き、瞬時に人間を治療するナノマシンを完成させ、施設には多くの人が救いを求めて訪れるようになった。しかし、このナノマシンを投与された人間は肉体を強化され、またウィルの意識とリンクして意のままに操られてしまう。この人間をRIFTは「ハイブリッド」と呼んで敵視し、FBIからも私設軍隊として脅威と認識されはじめる。ナノマシン(ナノ粒子)を使って人造人間をも作りはじめたウィルに、エヴリンもまた疑念を抱き始めるのだった。
ウィルとエヴリンの友人だったマックスはRIFT、FBIらと共にウィルを止めるためのコンピュータウイルスを作成。エヴリンの体にウイルスを入力したナノマシンを注射し、PINNにアップロードさせソースコードを破壊すべく、ウィルの元へと送り込む。しかしこれはウィルに見破られてしまい、痺れを切らしたRIFTは施設のソーラーパネルを攻撃しはじめる。この攻撃でエヴリンは重傷を負い、クローンのウィルによって施設の中へと連れて行かれる。
ウィルは自らの行いを「僕達の理想の世界(ユートピア)を実現するため」だと言い、エヴリンの血液に触れてナノマシンを通じてリンクする。直接エヴリンの頭に流れこんできた映像は、ナノマシンによって緑に溢れ、水は澄み、大気の浄化された「エヴリンの夢見た世界」(エコシステム)だった。人工知能となってもウィルは変わらずエヴリンを愛し、エヴリンのためだけに行動していたのだ。直後、ウイルスによってナノマシンは自壊、ウイルスの副作用によって世界中の全てのコンピューターは完全に機能を停止され、コンピューター制御に頼っていた全ライフラインはストップし、世界は大停電に見舞われ、文明は崩壊する。PINNも停止し、ウィルとエヴリンは寄り添って息絶えた。
しかしナノマシンは全て失われたわけではなく、ウィルとエヴリンの庭のファラデーケージで花を咲かせ、水を浄化し続けていた。
キャスト
製作
企画
これまで撮影監督を務めてきたウォーリー・フィスターの監督デビュー作である。ジャック・パグレンはフィスターに監督させるために脚本を書き[注 1]、プロデューサーのアニー・メーターはストレート・アップ・フィルムズに企画を持ちかけた[14]。企画はストレート・アップに売られ、2012年3月までにはアルコン・エンターテインメントが権利を取得した[15]。アルコンは出資し、ストレート・アップとアルコンのプロデューサーが共同で製作に参加した。6月にはそれまでフィスターと働いていた映画監督のクリストファー・ノーランとその妻で製作パートナーでもあるエマ・トーマスがエグゼクティブプロデューサーとして参加した[14]。2012年10月までにはジョニー・デップへの出演交渉が行われた[16]。
キャスティング
2012年10月までにジョニー・デップとの出演交渉に入った[17]。『ハリウッド・リポーター』はデップの出演料が2000万ドルに及ぶと報じた。フィスターはさらにノオミ・ラパス、ジェームズ・マカヴォイ、トビー・マグワイアらとも会い、さらにクリストフ・ヴァルツにもオファーした[18]。2013年3月、女性主人公としてレベッカ・ホールがキャスティングされた[7]。4月、メインキャストとしてポール・ベタニー、ケイト・マーラ、モーガン・フリーマンらが加わった[8]。
撮影
これまでデジタル式映画撮影でのフィルムストック(英語版)の使用を支持していたフィスターは本作を35mmフィルムでアナモルフィック形式で撮影することに決めた[19]。デジタル・インターミディエイトの代わりに従来の光学処理が行われる[20]。さらに4K解像度によるデジタルマスターが完成され、IMAXでも上映される。また中国では3D版も上映される[21][22]。撮影は2013年6月に始まり[23]、62日間にわたって行われた[24]。
出資
中国のDMGエンターテインメント(英語版)は資金提供のため、アルコン・エンターテインメントとパートナーシップ契約を交わした。DMGは『LOOPER/ルーパー』や『アイアンマン3』に出資した際は作中に中国の要素を加えさせたが、『Transcendence』ではやらないとしている[25]。撮影は2013年6月に始まった[26]。
公開
北米公開は2014年4月18日を予定している。元々は2014年4月25日の予定であった[27]。アメリカ合衆国ではワーナー・ブラザース、中国ではDMGエンターテインメント、それ以外の地域ではライオンズゲートが配給する[28]。日本では、ポニーキャニオンと松竹が配給権を獲得しており、2014年6月28日に公開されることが決定している[6]。
評価
本作は批評家から酷評されている。映画批評集積サイトのRotten Tomatoesには196件のレビューがあり、批評家支持率は19%、平均点は10点満点で4.6点となっている。サイト側による批評の要約は「優秀な撮影監督であるウォーリー・フィスターの監督デビュー作となった本作には独特のビジュアルがある。しかし、本作が提示する奥深いテーマは、本作の物語では十分に捉えることができなかった。」となっている[29]。また、Metacriticには41件のレビューがあり、加重平均値は44/100となっている[30]。
脚注
注釈
- ^ ジャック・パグレンの脚本は2012年にブラックリスト (評判が良いにもかかわらず製作に至っていない脚本) に選ばれた[13]。
出典
- ^ “Mychael Danna to Score Wally Pfister's 'Transcendence'”. Film Music Reporter. (2013年12月19日). http://filmmusicreporter.com/2013/12/19/mychael-danna-to-score-wally-pfisters-transcendence/ 2013年12月23日閲覧。
- ^ “TRANSCENDENCE (12A)”. Entertainment Film Distributors. British Board of Film Classification (April 7, 2014). April 8, 2014閲覧。
- ^ 「キネマ旬報」2015年3月下旬号 73頁
- ^ 映画『トランセンデンス』公開記念 WIREDスペシャルページ「2045年、人類はトランセンデンスする?」 « WIRED.jp, http://wired.jp/special/transcendence
- ^ “More Plot Details Discovered for Wally Pfister's Film 'Transcendence'”. firstshowing.net. (December 11, 2012). http://www.firstshowing.net/2012/more-plot-details-discovered-for-wally-pfisters-film-transcendence/ May 6, 2013閲覧。
- ^ a b “ジョニー・デップ×クリストファー・ノーランによる近未来SF『トランセンデンス』が6月28日公開決定!”. シネマトリビューン. (2013年12月20日). http://cinetri.jp/news/transcendence_rls/ 2013年12月23日閲覧。
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- ^ “ジョニデも絶賛? 坂上忍「トランセンデンス」で吹き替えに挑戦”. 映画.com. (2014年6月17日). https://eiga.com/news/20140617/19/ 2014年6月19日閲覧。
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- ^ Foreman, Liza (2012年12月12日). “'Transcendence' Revealed: Johnny Depp to Play Supercomputer”. The Wrap (Yahoo!). http://movies.yahoo.com/news/transcendence-revealed-johnny-depp-play-supercomputer-exclusive-223205796.html 2013年5月9日閲覧。
- ^ “Transcendence (2014)”. Rotten Tomatoes. 2014年4月20日閲覧。
- ^ “Transcendence”. Metacritic. 2014年4月20日閲覧。
関連項目
外部リンク