パスカルの三角形パスカルの三角形(パスカルのさんかくけい、英: Pascal's triangle)は、二項展開における係数を三角形状に並べたものである。ブレーズ・パスカル(1623年 - 1662年)の名前がついているが、実際にはパスカルより何世紀も前の数学者たちも研究していた。 この三角形の作り方は単純なルールに基づいている。まず最上段に 1 を配置する[1]。それより下の段は両端には 1 を、それ以外の位置には右上の数と左上の数の和を配置する。例えば、5段目の左から2番目には、左上の 1 と右上の 3 の合計である 4 が入る。このようにして数を並べると、上から n 段目、左から k 番目の数は、二項係数
に等しい。これは、パスカルによって示された以下の式に基づいている。 負でない整数 n ≥ k に対して
が成り立つ。 三角形パスカルの三角形の最初の11段は以下のようになる。 これ以降の数字列はオンライン整数列大辞典の数列 A003590を参照。 パスカルの三角形の使用パスカルの三角形は、二項展開でよく使用される。例えば
のそれぞれの係数は三角形の3段目の数 1 2 1 と一致する。一般に
とおくと、ai たちは、パスカルの三角形の n + 1 段目に並んでいる数である。このことは数学的帰納法により示すことができる。まず、n = 0 の場合は明らかである。次に、
とすると、
となる。 この三角形の奇数の部分を塗りつぶすとシェルピンスキーのギャスケットになる。これは2で割った余りによると考えることができるが、一般に2以外の数でも、割った余りによって塗りわけると同様な別のフラクタル模様になる。 二項係数は組合せの数でもあるので、組合せ数学においてもパスカルの三角形は有用である。n 個のものから異なる k 個選ぶ選び方 nCk の値は、パスカルの三角形の (n + 1) 段目の端から (k + 1) 番目の数に等しい。1 ≤ k ≤ n − 1 の場合、これは n − 1 次元単体の k − 1 次元面の数でもある。例えば5段目の端から2番目の4は四面体(3次元単体)の頂点(0次元面)の数、3番目の6は辺(1次元面)の数、4番目の4は面(2次元面)の数である。これは四面体の場合、二つの頂点を結ぶ線分の集合は辺の集合に等しく、三つの頂点を結ぶ三角形の集合は面の集合に等しいためである[2]。両端の1は空集合(-1次元面)と全体集合(3次元面)の数とも解釈できる。最上段では空集合=全体集合となる。 パスカルの三角形の性質パスカルの三角形の最も単純な性質として、以下のようなものがある。
三角形の各数字が最上段の位置を頂点とした斜めの格子の上にあると仮定したとき、各数字は最上段の1から格子の線を通って最短距離でその場所に着く経路の数となる。 更に単純な性質は1段目が11の0乗 (= 1)、2段目が11の1乗 (= 11)、3段目が11の2乗 (= 121)…… というように、n 段目の数字の列を一つの数字と見なすと 11 の n − 1 乗になる (ただし6段目以降の2桁以上の数は繰り上がりさせる)。これは、11n−1 = (10 + 1)n−1 を二項展開することで容易に示すことができる。 他の性質としては、フィボナッチ数に関するものがある。左側2列の任意の数字から桂馬跳びの様に斜めに数字を拾い、その合計を取るとフィボナッチ数になる。例えば5段目の4から始め 4, 10, 6, 1 の4つの数字(右の図で四角で囲まれているもの)を拾うと、その合計は 21 となり、これはフィボナッチ数である。同様に、5段目の1から始めて 1, 10, 15, 7, 1 の5つの数字(右の図の網がかかったもの)の合計は 34 となる。 また、m 段目のそれぞれの数字の合計は、2m−1 となる。例えば、5段目に出現する数字の合計は 1 + 4 + 6 + 4 + 1 = 16 であり、この値は 25−1 に等しい。これは、2m−1 = (1 + 1)m−1 を二項展開することで容易に示すことができる。1段目から m 段目までの数字の総計は 2m − 1 となる。 2段目以降の数字の交代和はすべて 0 となる。例えば、5段目の数字の交代和は 1 - 4 + 6 - 4 + 1 = 0 である。これは、0m−1 = {1 + (-1)}m−1 を二項展開することで容易に示すことができ、オイラーの多面体定理やシュレーフリの多胞体公式に関連する。1段目が合わない理由は0の0乗になるためである。 m 段目にあるそれぞれの数を2乗して足すと、2m − 1 段目の中央の数になる。例えば、5段目では 12 + 42 + 62 + 42 + 12 = 70 となり、9段目の中央の数に一致する。これは、以下の式に基づいている。
奇数段目の中央の数字からその2つ隣の数を引くと、カタラン数になる。例えば、7段目の中央の20からその2つ横の 6 を引くと 20 − 6 = 14 であり、これは4番目のカタラン数に等しい。 ある段の端から2番目の数 p が素数のとき、その段の両端以外の数字は p の倍数となる。
歴史と名称この三角形について確認できる最古の文献は、インドの数学者ピンガラの著作に対して10世紀にハラーユダが書いた注釈『ムリタサンジーヴァニー』である。ピンガラの原文は断片的にしか現存していないが、ハラーユダはピンガラの Meru-prastaara『須弥山の階段』という言葉をパスカルの三角形のことだと解釈している。ハラーユダは、三角形とフィボナッチ数との関係についても理解していた。 中国では11世紀に数学者の賈憲、13世紀に数学者の楊輝がこの三角形を研究しており、同国内ではこの三角形は「賈憲三角形」または「楊輝三角形」と呼ばれている。 ペルシアでは、アル=カラジとウマル・ハイヤームが研究しており、イラン国内では「ハイヤームの三角形」と呼ばれる。ハイヤームは、二項定理を含むいくつかの定理がこの三角形に含まれることを知っており、n 次の二項展開の係数を求める方法を知っていたと考えられる。 イタリアでは、三次方程式の解法で知られるニコロ・フォンタナ・タルタリアに因み「タルタリアの三角形」と呼ばれる。なお、「タルタリアの三角形」には
と続くもの、
と続くものもある。 ブレーズ・パスカルは1655年に発表した『Traité du triangle arithmétique』の中でこの三角形について言及している。彼はこの中で今までに知られていた結果をまとめ、確率論の研究に利用している。 パスカルより後の数学者では、アブラーム・ド・モアブルらが「算術の三角形」と呼んでいる。 パスカルの三角形の拡張パスカルの三角形は二次元以外に拡張が可能であり、一般に「パスカルの単体」と呼ばれる。 0次のものは唯一の 1 であり、パスカルの三角形の最上段の 1 に該当する。 1次のものは無数の1が並ぶ。これはただ一つの項 x を何乗しても係数は1で変わらないことを示し、パスカルの三角形の最上段から下る2辺に該当する。 3次のものは三項展開における係数を三角錐状に並べたもので「パスカルのピラミッド」「パスカルの四面体」「パスカルの三角錐」と呼ばれる(ただし、エジプトのギザの大ピラミッドは五面体で四角錐である)。パスカルの三角錐の最上段は1[5]、2段目は三角形状に並ぶ3個の1、3段目以降は各辺に上方に位置する2個の数の和も、4段目以降は内部に3個の和も配置する。頂点から下る3本の辺にはそれぞれ無数の1が並ぶ。三つの側面はいずれもパスカルの三角形である。n 段目には x + y + z を n − 1 乗して展開した係数が三角形状に並ぶ。三角形の三つの頂点はいずれも1であり、3本の辺はいずれもパスカルの三角形の n 段目に等しい。三角錐の n 段目の数字の総和は 3n−1 であり、2段目以降の交代和[6]は 0 である。また n 段目の三角形の k 段目の数字の合計は n − 1 次元正軸体の k − 2 次元面の数に等しく、各数字は対蹠ファセット(n − 2 次元面)の中心同士を結ぶ線に沿って分割された数であり、3辺の数字は正軸体を取り囲むファセット正単体の各次元面の数である。双対の超立方体については下から数えて k − 1 次元面の数、対蹠点(頂点)同士を結ぶ線[7]、頂点の形状をなす正単体と読み替える。 4次のものは四項展開における係数を五胞体状に並べたもので3次元空間に描くことは不可能であるが、(最上段を除いて)各段は三角錐状であるので描くことができる。三角錐の四つの頂点はいずれも1であり、6本の辺はいずれもパスカルの三角形の同じ段に等しく、四つの面はいずれもパスカルの三角錐の同じ段の三角形に等しい。n 段目の三角錐の数字の総和は 4n−1 であり、一辺の数字の総和 2n−1 の2乗に等しい。 脚注
関連項目
外部リンク
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