ブルネイ帝国 (ブルネイていこく、マレー語 : Negara Brunei )、またはブルネイ・スルターン国 (ブルネイ・スルターンこく)は、かつてボルネオ島 北部のブルネイ 一帯を支配したマレー人 によるスルターン国家 であった。隣国のマラッカ王国 がポルトガルに陥落 (英語版 ) したこともあり、15世紀 頃イスラーム に改宗した。最盛期にはボルネオ島沿岸部やフィリピン の一部までもを支配下に置いたが、17世紀 以降次第に衰退していった。1888年 、イギリス の保護国 となり滅亡した。
概要
ブルネイ帝国に関する歴史は、当時の史料でもほぼ言及されていないために史実の裏付けが乏しく、帝国史を理解することは非常に難しいのが現状である。現地や土着の史料にも帝国に関する証拠を示すものは存在しない。従って、ブルネイ初期の歴史については、同時期の中国王朝 が残した史料に長年依存してきた。中国の歴史書には「渤泥(ぼつでい)」という言葉が出てくるが、これがボルネオ島全体を指すと考えられている。また、「婆利(ばり)」をブルネイと考える研究者も存在するが、こちらについてはバリ島 を指すとの指摘もあり定かではない。
政治体制
ブルネイ帝国は本質的に独裁体制 であった。帝国は皇帝直轄領(Kerajaan )、公領(Kuripan )、世襲私領(Tulin )の3種の伝統的な土地制度によって成り立っていた[ 10] 。
歴史
初期
渤泥と中国との初期の外交については、10世紀 後半に北宋 で編纂された『太平寰宇記 』に記録されている。1225年 、南宋 の官僚である趙汝适 により、渤泥が自国の貿易を守るために100隻の軍艦を保有し、多くの富を築いていることが報告された。14世紀 には、ブルネイはジャワ の勢力の支配下となった。1365年 にムプ・プラパンカ (英語版 ) によって編纂された『ナーガラクルターガマ (英語版 ) 』では、バルネがマジャパヒト王国 の属国 とされる記述が見られ、年間40斤 の樟脳 を朝貢 していたことが分かっている。1369年 、スールー王国 が婆利を襲撃し、財宝や金を略奪した。マジャパヒト王国の艦隊はスールー王国の軍勢を追い払ったが、この襲撃により婆利は弱体化した。中国の歴史書における1371年 の記述に拠れば、婆利は衰退の一途を辿り、マジャパヒト王国の完全な支配下に置かれていた。
拡大
1818年 に清 で製作された『大清弌統天下全図』。ブルネイを始めとして、海南 、台湾 、ジャワ 、ジョホール 、大南 、カンボジア (英語版 ) の諸地域が清朝の支配下にある。
ブルネイ帝国の領土の変遷(1400年 ~1890年 )。
1389年 にマジャパヒト王国の国王ハヤム・ウルク (英語版 ) が崩御すると、王国は衰退期に入り、海外の財産を管理することが出来なくなった。これはブルネイにとって勢力拡大の絶好の機会であった。1403年 、明 で永楽帝 が即位したが、彼は直ちに各地に使者を派遣して宮廷に敬意を表するよう要請した。これを受け、ブルネイは直ちに朝貢体制を取った。
15世紀 までにブルネイの王はイスラーム へ改宗し、帝国もイスラーム国家へと変貌した。これには、海上交易によりブルネイにやってきたインド人 のムスリム やアラブ商人の影響が反映されている。交易はボルネオ北部を中心に行われたため、後にボルネオ北部は東西の交易における要所となっていった。なお、海洋力に頼っていた帝国の支配は沿岸や港湾、河口などの地域にしか及んでおらず、最後まで島の中心部に至ることはなかった。現地の歴史家はブルネイ帝国を「制海権帝国」と見なしている。ブルネイの王はオラン・ラウト (英語版 ) やバジャウ族 (英語版 ) などの水上生活者 と友好関係にあったとみられ、帝国の艦隊も彼らが構成していた。しかし、前述の通り帝国の支配域は島内部まで及ばなかったため、ボルネオの内陸民族であるダヤク族 を支配下に置くことは出来なかった[ 18] 。
隣国のマラッカ王国を崩壊させたポルトガル の商人は、1530年 頃からブルネイ帝国と定期的に交易を行うようになった。商人によると、当時のブルネイの首都は石垣 に覆われていたという。
第5代スルターンのボルキア (英語版 ) 治世下で、ボルネオ北西部の沿岸地域(現在のブルネイ、サラワク 、サバ )やセルドン(現在のマニラ )、ミンダナオ島 の一部を含むスールー諸島 を支配した。16世紀 にはさらに帝国の支配域は拡大し、カリマンタン 西部のカプアス川 デルタ地帯に到達している。カリマンタン西部のサンバス・スルターン国 (英語版 ) やフィリピン 南部のスールー王国 は特に、ブルネイ帝室との王朝関係を発展させていた。その他、ポンティアナック・スルターン国 (英語版 ) やクタイ王国 、バンジャール・スルターン国 (英語版 ) なども、ブルネイのスルターンを彼らの代表者 (英語版 ) として捉えていた。とはいえ、ボルネオ島やスールー諸島に点在していたマレー人のスルターン国とブルネイ帝国との関係は現在でも研究の対象である。他国の政治体制がその他のスルターン国に影響を与えている例はほかにも見られ、バンジャール・スルターン国はブルネイ帝国以外にもジャワ島のドゥマク王国 から影響を受けていた。
滅亡
17世紀 末までに、ブルネイ帝国は継承を巡る内戦 (英語版 ) やヨーロッパ の植民地拡大、海賊 行為などに巻き込まれ、次第に衰退していった。フィリピンにはスペイン が侵入し、ボルネオ南部にはオランダ が、ラブアン 、サラワク、ボルネオ北部にはイギリス が忍び寄り、西洋列強によって帝国の領地は次々と失われていった。1888年 、スルターンのハーシム・ジャリルル・アラム・アクァマッディーン (英語版 ) はイギリスにこれ以上の侵攻を止めるよう訴えた。同年、イギリスは「保護条約」に調印し、ブルネイはイギリスの保護国となった。これにより、約500年間に亘りブルネイを支配した帝国は崩壊し、以降1984年 の独立までイギリスの支配下に置かれることになる。
脚注
^ M.S.H. McArthur, Report on Brunei in 1904, p. 102
^ missing
参考文献
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外部リンク