オルト-ベンゾキノン(左)とパラ-ベンゾキノン(右)
ベンゾキノン (benzoquinone) とは、分子式 C6 H4 O2 で表される有機化合物 であり、炭素のみで構成された1つの6員環からなるキノン である。2種類の構造異性体 が存在し、1,4-ベンゾキノン(パラ-ベンゾキノン、p -ベンゾキノン、パラ-キノン、just quinone)が一般的であり、1,2-ベンゾキノン(オルト-ベンゾキノン、o -ベンゾキノン、オルト-キノン)は一般的ではない。
1,4-ベンゾキノン
純粋な1,4-ベンゾキノンは塩素 に似た特徴的な刺激臭 のする黄色結晶を形成する。純粋でないものは、1,4-ベンゾキノンとヒドロキノン の1:1の混合物であるキンヒドロン が不純物として含まれるため、しばし暗色を呈する。この6員環化合物は、1,4-ヒドロキノンの酸化誘導体として得られる[ 1] 。1,4-ベンゾキノンの分子は多数の性質を有している。ケトン の性質としてオキシム を形成し、酸化剤 の性質として(酸化剤として反応した際に自身は還元されるため)ジヒドロキシ誘導体(1,4-ヒドロキノン)を形成し、アルケン の性質として付加反応 を経てα ,β -不飽和ケトンを形成する。1,4-ベンゾキノンは強い鉱酸 およびアルカリ の両方に対して敏感であり、化合物の縮合 と分解の原因となる。
合成
1,4-ベンゾキノンはアニリン やp -フェニレンジアミン を酸化させることによって得られる[ 2] 。また、フェノール をアセトニトリル 溶媒中において過酸化水素 で酸化させることによって、カテコール 、ヒドロキノンとの混合物として得られる[ 3] 。
有機合成への利用
1,4-ベンゾキノンは有機合成 において水素アクセプターおよび酸化剤として用いられる[ 4] 。また、脱水素剤としても利用できる。ディールス・アルダー反応 における親ジエン体としても用いられる[ 5] 。
ベンゾキノンは無水酢酸 および硫酸 と反応してヒドロキシキノール の3酢酸塩を与え、この反応は1898年にこれを初めて記述したJohannes ThieleにちなんでThiele reactionと呼ばれる[ 6] 。これは全合成において発見された[ 7] 。
ベンゾキノンはオレフィン・メタセシス反応 中の二重結合の組み換えを抑制するためにも用いられる。
ヨウ化カリウム の酸性溶液は1,4-ベンゾキノンを1,4-ヒドロキノンに還元させる。また、硝酸銀 水溶液は1,4-ヒドロキノンを1,4-ベンゾキノンに酸化させる。
重合禁止剤
ポリエステル樹脂 の原料は反応性が高くゲル 化しやすいため、重合禁止剤 としてベンゾキノンが用いられる[ 8] 。アクリル樹脂 の原料に対しては重合禁止剤としては十分に作用しない[ 2] 。反応機構は明らかになっていないが、活性種が1,4-ベンゾキノン上の酸素 に直接付加することで重合禁止剤として働くと考えられている[ 2] 。
関連物質
1,4-ベンゾキノンの誘導体および類似体の例を以下に挙げる。
1,2-ベンゾキノン
1,2-ベンゾキノンは、カテコール 水溶液を空気酸化させることによって得られる[ 12] [ 13] 。もしくは、フェノール のオルト酸化によっても得られる[ 12] 。亜硫酸 などの還元剤と反応させることでカテコールに還元される[ 2] 。メラニン の前駆体である[ 14] 。水溶性の赤色の物質であり、ジエチルエーテル には不溶である。不安定な物質であり合成後1日ほどで分解する[ 2] 。昇華性のある1,4-ベンゾキノンとは異なり不揮発性である[ 2] 。
バクテリア であるPseudomonas mendocina (en )の菌株は安息香酸 の代謝 によってカテコール を介して最終生成物として1,2-ベンゾキノンを得ている[ 13] 。
出典
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関連項目
ミイデラゴミムシ - 体内に過酸化水素 とヒドロキノン を貯めておき、これらを反応させ蒸気とベンゾキノンから成る高温の気体を噴射する。