おおよそ同じの粗筋をたどる類話にルノー・ド・ボージュー作の古フランス語詩『名無しの美丈夫またはガングラン』(古フランス語: Li biaus descouneüs、フランス語: Le Bel Inconnu、12世紀末-13世紀初、6,266 行)があり、その別バージョン[4]あるいは翻案とされるが[7]、同作と比較してより短い。
いずれの作品にも、自らの素性も名も知らぬ青年がアーサー王の宮廷にあらわれ、その騎士に加わろうと願い出て「名無しの美丈夫」(現代フランス語: Le Bel Inconnu; 現代英語: Fair Unknown)という綽名を得るが、そのじつガウェイン卿と妖精のあいだに生まれた息子で、ガングランという名であった。宮廷では「スノードンの婦人/女王」[注 2]の救出依頼を引き受けて出立するが、旅路では他の冒険にかかわり黄金島ではまたは「アモール婦人」を援ける[注 3][注 4]。ついには王都スノードンに向かい、その君主である淑女を囚えているマボン兄弟ら黒魔術師を倒し、竜蛇の姿に変えられた彼女の接吻を受けて人間の女性の姿に戻す。そしてリボー・デコニュはその女王と結婚する。
古フランス語『ル・ベル・アンコニュ(名無しの美丈夫)』以外にも、おおよその粗筋を同じくする類話(同源話)は、中期高地ドイツ語にも、中世イタリア語にも存在する。すなわちヴィルント・フォン・グラフェンベルク(英語版)作の『ヴィーガーロイス』(1204–1210年ごろ)と、イタリア語の叙事詩『カルドゥイノ』(1375年ごろ)である。[86][7][87]。 これ以外にもクロード・プラタン(Claude Platin)による早期現代フランス語の再話『L'Hystoire de Giglan』(1530年)も存在する[88]。
これは先のチェスターの利用した原材料の問題にも関連するが、これら諸作品や仮定的な祖本・逸失稿本らのあいだの成立順序関係(系譜/stemma)は、諸説あって複雑化している[89][90] and one cannot simply assume a lost twelfth-century work from which they all originate.[90] 。
また、採録されたのは現代であるが、アイルランド語やスコットランド語の古謡(レー)にも対比が見られる。色とりどりの猟犬のエピソード(中英語の『名無しの美童』にもフランス語版にもみえる)は、『大いなる愚者の古謡』(仮訳題名。アイルランド語: Amadán Mór、英訳名 Lay of the Great Fool)にもみつかると指摘される[114]。これはで古謡単独か、謡を収めた散文物語のかたちで広く分布するが[115]、スコーフィールドが挙げたのはオデイリー編訳アイルランド語歌謡『アマダン・モア(大いなる愚者)の冒険』や[116]、キャンベル編スコットランド昔話集の一篇の挿入歌である。[117] as his counterpart examples.[114]。
^ abcL本 "Mi lady of Synadowne"(v. 160)、欄外に Snowdon と注記 (脚注も参照)。また「女王/王妃」の肩書ももつ: "Of Synadowne the qwene"(v. 1484 )。v. 160脚注には、Snowdon の詳しい説明が記載されるが、ローマ支配時代のセゴンティウム(Segontium)のことであり、ウェールズの呼称は"Cair Segeint"であるとする。カーナーヴォン近郊に在する。
^ abcL本:TEAMS編版では Il de Ore (v. 1290)だが、Mills編版では Jl de Ore と記載する。TEAMS編版欄外中に "Isle of Gold" と意訳。校訂版は Ile d'or (v. 1318)。
^ abcL本は TEAMS編本 "calleth la Dame Amoure" (v. 1462); 校訂版 "that hiȝte la dame d'amour" (v. 1490)。校訂版では小文字のままの普通名詞なので、あえて意訳するならば「愛の婦人」あたりであろうが、異本にはは大文字(固有名詞)になっている読みも混ざっているので(dame la d. damore C; la dame Amoure L; Madam de Armoroure P; Diamour Denamower A)、TEAMS編本の解説(v. 1462注、"Dame Amoure/Diamour")と固有名称「アモール婦人」とする。
^ ab「ラ・コー ト・マル・タイユ」のカナ表記は、マロリー作品のウィンチェスター写本に関する清水阿やの論文で確認できるが[97]、中島論文ではフランス語原作の『散文トリスタン』を"La Cotte Mal Tailée"とするが、カナ表記は「マル・タイユ」ではなくおそらく「マルタイェ」とすべきである。なぜなら『散文トリスタン』の編本ではじっさいには"Vallet a la Cote Mautailliee"[98]または"Maltailliee"[99]と結合綴りになっていることが確認済みだからである[99]。邦文(花田論文)にも"マルタイェ(Maltaillé)"は確認できるが、作品は『散文ランスロ』なので借用になる[100](細かい点だが、写本では Mataliz 等の綴りが編本の活字で校訂されている[101]。)
^ ab和訳については、厨川の古い解説では「名無しの坊や」[16]とあるが、それだと Li beaus ("the fair") すなわち「かの美しき-」の部分が欠落してしまう。「名無しの美しき坊や」では収まりがわるいので、「名無しの美[童]」 という暫定訳を充てた。意図的にフランス語作品の「名無しの美丈夫」とは表現を変えている。
^ ab Eleneは、カルーザ編校訂版の綴り"maide was cleped Elene"(v. 121)であり、カルーザの解説、スコフィールドの分析、ウェストン訳、ひいては近年でもTEAMS編本の解説でも統一表記として用いられている。ただ、、これは初出は"The may hight Ellene" (v. 118)であるが、Mills編L本版では削除上書きがあるとして初出を"Ellyne"と読み替えている(TEAMS編本118行脚注)。もっとも L本では他にも"Ellyne, Elyne"の表記箇所は多い。他の稿本をみると異綴りの種類が多いが、Hellen Pも見られる。「エレイン」というのは「ヘレン/ヘレナ」という女性名の変形なのである。
^ ab。L本では"Theodeley"という名だが、校訂版では"Teodelain"。仮カナ表記:セオデレイ[英語発音](Theodeley);テオドラン[フランス式発音](Teodelain)。L本では"Theodeley was his name", v. 142; Kaluza ed. (1890)(校訂版)では "Teodelain was his name", v. 145 とあり、多くの評論では後者のスペルが用いられる。フランス語版では"Tidogolain[s]"(BI, v. 260)という名。
^ abウェストン女史の再話では「危険の谷」の上の「冒険の城」だが、これは異読みに拠る(castell au C; vale C)。また「危険の橋」(bridge P)の読みもあるが、フランス語の「点/拠点」 "point" と「橋」"pont"はなるほど言葉が近い。スコフィールドの比較要約では"III. The Adventure at the Ford Gué Périlleus(危険の渡瀬の冒険)"の節をもうけているが、これはフランス版の地名が Gué Périlleus であることに拠る。
^ abL本 Syr William Delaraunche, v. 288; 校訂版はウィリアム・サレブローンシュ卿(仮カナ表記) William Salebraunche, vv. 289, 367 。異読みは (var. Celebronche, Selebraunche C; Celabronche, Celabronche N; de la ravnche, Sellabraunche L; de la brawunche, de la braunche I; de la Braunche , do la braunche P; Dolebraunche, Dolebraunce A). フランス版は Willaume de Salebrant が登場するが、これは実際の敵ブリオブリーエリス(仮表記) Blioblïeris/Bliobliéris のわき役として、のちにけしかけられてくる3人の仲間(3人の報復者)のひとりにすぎない[17]。
^ abウェストン訳では"盾も鎧もピッチのように黒く、そこには黄金に輝く三人の悪魔[の紋]があしらわれている His shield and armour were black as pitch; there on he bare three devils in shining gold"としているが、「悪魔」は仮訳で、原文には「マメット Mammettes」とあり、予言者マホメットをもじった異教の偶像のことである、と解説される [18][19]。しかし校訂版(C本を含む)では、ここに"trappure(馬具)"もその「漆黒」か「悪魔紋」のこしらえであるとされ、P本でも "paytrill(poitrel、馬の胸甲)"や"crouper(尻甲)"の記載がある[20][21]。
^ abTEAMS編 L本 "That hight Syr Lanwarde" (v. 1549), "That hight Sir Lancharde" (v. 1642) と通常は初出のみの「-と呼ばれる」形式が二回ある。後者には欄外注に"called Sir Lambert"とあるので、"Lambert"を正表記とすることがうかがえる。L本内にも"Lambert" (v. 1749)はみつかる; 校訂版 "clepeþ sir Lambard"(v. 1577), "Þat hiȝte sir Lambard" (v. 1670)だが、NA本の異読み "Lambert"は、わかりずらくも本文の前ページ(Kaluza ed. (1890), p. 87)に脚注された異本詩節132の中にみえる。
^Salisbury & Weldon edd. (2013) v. 20. "And gladly wold do outerage"が、L本では"do"に取り消し線がつき、上に"not"と訂正されているが、編者らはこれを元の文に差し戻している。
^vv. 366–368 および 368ff脚注。文中はファルシオン型の剣の応酬とされているが、「名無し」もウィリアムから盾に突きを(launche)を受ける、とL本にある。この攻撃で盾の一片(cantel)が欠けたとC本やウェストン訳にはあり、また"四分の一が地に落ちたA quarter fille to ground"とN本にみえる。
^"“Mercy,” she con hym crye,/ For she had spoken hym vylonye;" vv. 459–460。なぜかスコフィールドはフランス語版のみにHélieが美丈夫をみなおしたやりとりがあるとしている(p.14, III.8)。また、ウェストン女史の再話でもエレインの謝罪が割愛される。
^L本 v. 467 "Rydynge from Carboun"だが脚注によれば "probably Caerleon"とあり、N本の "Come ridyng fro Karlioun"を拠り所としている。
^スコフィールドの分析では英仏ともに「三人の復讐者 Three Avengers」の段があるとしている。仏版では、とくに親戚とはされない「仲間」で、それぞれが領地をなのる貴族たちである(いずれも仮訳名): 「グレーの白領主エラン」 (Elin li Blans, sire[s] de Graie、"Elin the Fair"、v. 527);セーの騎士(chevalier[s] de Saie 、v. 528); 「ウィョーム・ド・サルブラン」 Willaume de Salebrant (v. 529)。
^L本は"Geffrounes backe to-brake"(v. 990)とある。一方、校訂版は「背中」の古語であるregge"(v. 1018)を用いており[50]とあるが、これを"legge"と読み替えたジョゼフ・リットソン(英語版)の翻刻があることをカルーザが指摘しており[51]、ウェストンの再話で "Griffroun's leg brake", p. 43となっていることに説明がつく。
^ abcdefPrice, Jocelyn (on Libeaus); Noble, James (on Sir Launval, etc.) (1996). "Chestre, Thomas". In Lacy, Norris J.[in 英語]; Ashe, Geoffrey[in 英語]; Ihle, Sandra Ness; Kalinke, Marianne E.; Thompson, Raymond H.[in 英語] (eds.). The Arthurian Encyclopedia. New York: Peter Bedrick. pp. 100–102. ISBN9781136606335。; New edition 2013, pp. 84–85
^ abBusby, Keith (1996). "Renaut de Beaujeu". In Lacy, Norris J.[in 英語]; et al. (eds.). The Arthurian Encyclopedia. New York: Peter Bedrick. pp. 448–449. ISBN9781136606335。; New edition 2013, p. 380
^ abSchofield (1895), "§Renaud's Use of the Perceval", pp. 139–144; "§Comparison with Peredur", p. 147–153, et passim.
^ abc中島 (1967), p. 250: "「ガレス物語」は..「リボ[ー]・デコニュ」やフランスの『美貌の無名騎士』,更に(五)でふれた『散文トリスタン』の中の『ぼろ衣の騎士』(La Cotte Mal Tailée )に相似し"
^校訂版の詩節62(Kaluza ed. (1890), p. 42)、ほとんどの本では欠落("fehlt in LINAP")と注記されており、すなわち"Only C preserves a stanza in which the earl offers Lybeaus his daughter in marriage"とTEAMS編本、v. 690注にみえる。
^L本は"In Cordile cité with sight" (v. 817)だが、脚注に "probably Cardiff as is the case with Cardyle in L"とある。校訂版では Cardevile, v. 845 とあるが、 Kaluza による地名釈義はみえない。更には Cardigan P の異読みも存在する。異綴りは、この町が後段で言及される v. 858 v. 1047 にも発生するが、TEAMS編本では合せて列挙している。
^Schofield (1895), pp. 10–11。例の箇所は校訂版の "so seiþ þe frensche tale",( v. 246)で、L本の"Thus telleth the Frensshe tale" (v. 245)に相当する。
^TEAMS版 L本の 別の箇所で "In Frensshe as it is ifounde" (v. 673)について脚注で"a convention of romance.. to acknowledge a French source, whether or not it is the actual source"としている。
^The Romance of Tristan. Translated by Renée L. Curtis. Oxford: Oxford University Press. (1994). Index: "Vallet a la Cote Mautailliee", p. 314 and "fourth note to p. 191". ISBN0-19-282792-8(「マルタイェ」は主人公トリスタンと関連しないので訳出は割愛されたとある)
Thomas Chestre (1969), Mills, Maldwyn, ed., Libeaus Desconus: die mittelenglische Romanze vom Schönen unbekannten, Early English Text Society: Original series 261, Early English Text Society, ISBN9780197222645