レーティアン (英語 : Rhaetian 、レート期[ 1] )は、2億850万年前から2億130万年前(誤差20万年)にあたる後期三畳紀 の地質時代 名の一つ[ 2] 。
模式地はオーストリア [ 3] 。末には顕生代 で四度目となる大量絶滅が起き、コノドント など数多くの生物が絶滅した。詳細は後述。
なお、「レート階 」という名称があるが、時代を示すものではない。「階」は地層に対して当てられる単位(層序 名)であり、層序名「レート階 」と時代名「レート期 」は対を成す関係である。詳しくは「累代 」を参照のこと。
出来事
隕石衝突
フランス の中央高地 の西縁に位置するロシュショール・クレーター (英語版 ) がレーティアンの間に形成されており、2010年以降に行われた4つの年代測定結果では2億700万年前 - 2億100万年前の範囲とされている[ 4] [ 5] [ 6] 。この衝突クレーターは衝突堆積物の領域が直径15キロメートル、クレーター自体の直径が20 - 25キロメートルであるが、現在の姿は侵食を受けた後の状態であるため、元々の直径は最大で50キロメートル程度であった[ 4] 。マニクアガン湖 など三畳紀に形成された他のクレーターはその位置関係からロシュショール・クレーターを形成したものと同じ地球外天体(の破片)が衝突して形成されたとする意見も浮上した[ 7] が、磁気年代[ 8] や放射年代[ 9] の研究により否定されている。
火成活動
日本の岐阜県 犬山地域には三畳系 - ジュラ系チャートが分布しており、このチャートから得られたオスミウム 同位体比(187 Os/188 OS)は187 Osに富む大陸地殻由来のオスミウムと187 Osに乏しい地球外起源のオスミウムの流出入バランスを示す。レーティアンを通して同位体比は0.6から低下する傾向を示すが、これは中央大西洋マグマ分布域 (英語版 ) (CAMP)の火成活動がレーティアンの初期から始まっていたことを意味する。また、同位体比の低下速度がオントンジャワ海台 など他の洪水玄武岩 の十分の一以下であることから、CAMPの形成が緩やかに進行したことも示唆されている。同位体比は最低値0.2に達した後にT-J境界直前で0.4まで急激に増大しており、これはT-J境界とほぼ同時期に大陸の風化が加速したことを意味する[ 10] 。
生物
カーニアン からヘッタンギアン にかけては二枚貝 の科数が急激に増大した時期にあたる[ 11] 。
タイ王国 のコラート層群 (英語版 ) のナム・ポン累層はノーリアン - レーティアン階に相当し、プー・クラドゥエン (英語版 ) 地域に分布する同層の石灰質泥岩からは1個体の恐竜 による6個の足跡化石が発見されている。足跡の長さは41.5センチメートル、歩長260センチメートルで、腰高240センチメートルの大型獣脚類 が時速約5キロメートルで歩行していたと考えられている。同層から獣脚類の体化石は産出していないものの、この足跡化石の発見により、後期三畳紀のタイ王国北東部に大型獣脚類が生息していたことが示された[ 12] [ 13] 。
大量絶滅
ただし三畳紀 とジュラ紀の境界でもあるレーティアン/ヘッタンギアン境界で顕生代四度目となる大量絶滅が発生しており、事実上テチス海 から消滅したサンゴ はヘッタンギアンの間に以前の水準まで回復することはなかった。コノドント も三畳紀末の大量絶滅で絶滅を迎えたほか、三畳紀で最も繁栄していたアンモナイト であるセラタイト目 (英語版 ) もレーティアンの末に絶滅した[ 9] 。
両生類 分椎目 は大部分がT-J境界までに絶滅した。現在知られている中で最後のメトポサウルス科 (英語版 ) であるコスキノノドン (英語版 ) は後期ノーリアン あるいは前期レーティアンに相当すると考えられるレオドンタ累層 (英語版 ) から産出しており、最後のプラギオサウルス科 (英語版 ) であるゲロトラックス もおそらくレーティアン階から産出している。2018年にはカピトサウルス類 (英語版 ) の上腕骨 もレーティアンの堆積層から報告されている。プラギオサウルス科とカピトサウルス類はT-J境界にごく近い時代で絶滅した可能性が高く、他の分椎目の大半は既に絶滅していたと考えられている[ 14] 。
レーティアンとそれに続くヘッタンギアン では陸上動物の化石は限られている。陸上爬虫類 ではワニに近いフィトサウルス目 (英語版 ) 、プロコロフォン科 (英語版 ) 、偽鰐類 のパラクロコダイリモーファ (英語版 ) がT-J境界の直前に相当する地層から化石が産出しており、これらはT-J境界に近い時代で絶滅したとされる[ 15] 。海生爬虫類では板歯目 の最後の科であるプラコケリス科 (英語版 ) が絶滅した。また、魚竜 のうちシャスタサウルス科 (英語版 ) とショニサウルス科 (英語版 ) といった大型のグループが絶滅し、その形態的な多様性が取り戻されることはなかった[ 16] 。
日本において
山口県 の秋吉帯を構成する陸棚堆積物は大嶺地域・厚保地域・厚狭地域に分布し、このうち山陽小野田市 の特徴的な6種の植物化石が産出するユニット、および美祢市 周辺の大嶺地域の一部がレーティアン階とされた。1939年に大嶺地域の三畳系は平原層・桃ノ木層・麻生層に区分けされ、うち麻生層はカーニアン - ノーリアン あるいはレーティアン階とされた[ 17] 。新潟県 加茂地域に分布する足尾帯の珪質泥岩からは Fontinella primitiva (後期ノーリアン - レーティアン)などレーティアンを示す放散虫 化石が得られており、シネムーリアン - 前期トアルシアン の放散虫化石も産出しているため議論の余地があるものの、レーティアン階に相当する可能性が高い[ 18] 。
前述の岐阜県犬山地域の他に愛媛県 秩父累帯[ 13] 、栃木県 足尾帯葛生地域[ 13] 、熊本県 五木村 北部の黒瀬川帯ではT-J境界 が確認できる[ 19] 。特に黒瀬川帯のものは地層の不整合 を示している[ 19] 。
出典
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