卒業後まもなく第一次世界大戦が始まるが、この時期は会社の統計係やパブリックスクールの教職などをしながら、遺伝学と統計学の研究を続けた。この時期に彼は論文『The Correlation to be Expected Between Relatives on the Supposition of Mendalian Inheritance(メンデル遺伝を仮定した場合に血縁者間に期待される相関)』を書いたが、この論文は連続変数的遺伝がメンデルの法則と両立することを示すものであるとともに、当時すでにカール・ピアソンらによって用いられていた相関分析の方法に、分散分析という非常に重要な方法を導入するものでもあった。1917年にはアイリーン・ギネスと結婚し、その後8人もの子をもうけた(自らの家庭生活に関しても優生学的な考察を行ったといわれている)。
ここでは大量のデータに関する研究を行い、結果は『Studies in Crop Variation(穀物量の変動に関する研究)』という一連の報告となった。その後の数年間がフィッシャーの全盛期であり、実験計画法・分散分析・小標本の統計理論といった革新的な業績を生み出す。実際的なデータの研究から始まって新しい統計学理論へと進むのが彼の仕事の特徴であった。この仕事は1925年に最初の成書『Statistical Methods for Research Workers(研究者のための統計学的方法)』として実を結ぶ。これはその後の長きにわたり様々な分野の研究者のスタンダードとなった。1935年には『The Design of Experiments(実験計画法)』を出版しこれもスタンダードとなる。
フィッシャーは分散分析や最尤法の手法を編み出し、統計学的十分性、フィッシャーの線形判別関数、フィッシャー情報行列などの概念を産んだ。彼の1924年の論文『On a distribution yielding the error functions of several well known statistics(よく知られた統計集団の誤差関数を与える分布について)』では、統計学全体の枠組みの中に、ピアソンのカイ二乗分布や、スチューデントのt分布を、正規分布や、彼自身の成果である分散分析やZ分布とともに位置付けた。これで20世紀の統計学の大家と呼ばれるに十分であった。
1943年に母校ケンブリッジに招かれた。戦争が終わったら遺伝学科を再建するとの約束だったが、約束はあまり果たされなかった(かろうじて1948年にイタリアの遺伝学者カヴァッリ=スフォルツァが招かれ1人だけで細菌遺伝学部門を作った)。彼は細々とマウス染色体のマッピングなどの仕事を続け、1949年にThe Theory of Inbreeding(近親交配の理論)として完成を見た。
“Frequency distribution of the values of the correlation coefficient in samples from an indefinitely large population”. Biometrika10: 507-521. (1915).
“The correlation between relatives on the supposition of Mendelian inheritance”. Trans. Roy. Soc. Edinb.52: 399-433. (1918).
“On the mathematical foundations of theoretical statistics”. Philosophical Transactions of the Royal Society, A222: 309-368. (1922).
“On the dominance ratio”. Proc. Roy. Soc. Edinb.42: 321-341. (1922).
“On a distribution yielding the error functions of several well known statistics”. Proc. Int. Cong. Math. Toronto2: 805-813. (1924).
“Theory of statistical estimation”. Proceedings of the Cambridge Philosophical Society22: 700-725. (1925).
“Applications of Student's distribution”. Metron5: 90-104. (1925).
“The arrangement of field experiments”. J. Min. Agric. G. Br.33: 503-513. (1926).
“The general sampling distribution of the multiple correlation coefficient”. Proceedings of Royal Society, A121: 654-673. (1928).
“Two new properties of mathematical likelihood”. Proceedings of Royal Society, A144: 285-307. (1934).
FISHER, R. A. (September 1936). “The use of multiple measurements in taxonomic problems”. Annals of Eugenics7 (2): 179–188. doi:10.1111/j.1469-1809.1936.tb02137.x.
R. A. Fisher; Frank Yates (1938). Statistical tables for biological, agricultural and medical research. 13. p. 285. doi:10.1002/bimj.19710130413.