イヴァン・ヴィノグラードフ
ヴィノグラードフの定理 (英 : Vinogradov's theorem )とは、「十分大きな任意の奇数 が3 つの素数 の和として表すことができる」ことを含意 する加法的整数論 における結果である。これは「5 より大きな任意の奇数が3 つの素数の和として表すことができる」という弱いゴールドバッハ予想 の弱い形である。定理の名前は、1930年代にこれを証明したイヴァン・ヴィノグラードフ (ロシア語版 ) (Ivan Matveyevich Vinogradov, Иван Матвеевич Виноградов)にちなむ。ヴィノグラードフの定理の完全な主張は、奇数の3つの素数の和による表し方の数の漸近境界 (英語版 ) (asymptotic bounds)を与える。
定理の主張
A を正の実数とすると、
r
(
N
)
=
1
2
G
(
N
)
N
2
+
O
(
N
2
log
−
A
N
)
,
{\displaystyle r(N)={1 \over 2}G(N)N^{2}+O\left(N^{2}\log ^{-A}N\right),}
が成り立つ。ここで、
Λ
{\displaystyle \Lambda }
をフォン・マンゴルト関数 とすると
r
(
N
)
=
∑
k
1
+
k
2
+
k
3
=
N
Λ
(
k
1
)
Λ
(
k
2
)
Λ
(
k
3
)
{\displaystyle r(N)=\sum _{k_{1}+k_{2}+k_{3}=N}\Lambda (k_{1})\Lambda (k_{2})\Lambda (k_{3})}
であり、
G
(
N
)
=
(
∏
p
∣
N
(
1
−
1
(
p
−
1
)
2
)
)
(
∏
p
∤
N
(
1
+
1
(
p
−
1
)
3
)
)
{\displaystyle G(N)=\left(\prod _{p\mid N}\left(1-{1 \over {\left(p-1\right)}^{2}}\right)\right)\left(\prod _{p\nmid N}\left(1+{1 \over {\left(p-1\right)}^{3}}\right)\right)}
である。
帰結
N が奇数であれば、G (N ) はおよそ 1 であり、したがって十分大きな N に対して
N
2
≪
r
(
N
)
{\displaystyle N^{2}\ll r(N)}
である。ある特定の素数による r (N ) への寄与は
O
(
N
3
2
log
2
N
)
{\displaystyle O\left(N^{3 \over 2}\log ^{2}N\right)}
であることを示すことにより、
N
2
log
−
3
N
≪
{\displaystyle N^{2}\log ^{-3}N\ll }
( N の3つの素数の和による表し方の数)
であることが分かる。特にこれは十分大きな任意の奇数は3 つの素数の和により表されることを意味し、有限個の例外を除いて弱いゴルドバッハ予想 が成立することを意味している。
証明の戦略
定理の証明は、ハーディ -リトルウッド の円周法 (英語版 ) (Hardy–Littlewood circle method)を使う。指数和 (英語版 ) を
S
(
α
)
=
∑
n
=
1
N
Λ
(
n
)
e
(
α
n
)
{\displaystyle S(\alpha )=\sum _{n=1}^{N}\Lambda (n)e(\alpha n)}
とすると、
S
(
α
)
3
=
∑
n
1
,
n
2
,
n
3
≤
N
Λ
(
n
1
)
Λ
(
n
2
)
Λ
(
n
3
)
e
(
α
(
n
1
+
n
2
+
n
3
)
)
=
∑
n
≤
3
N
r
~
(
n
)
e
(
α
n
)
{\displaystyle S(\alpha )^{3}=\sum _{n_{1},n_{2},n_{3}\leq N}\Lambda (n_{1})\Lambda (n_{2})\Lambda (n_{3})e(\alpha (n_{1}+n_{2}+n_{3}))=\sum _{n\leq 3N}{\tilde {r}}(n)e(\alpha n)}
を得る。ここで
r
~
{\displaystyle {\tilde {r}}}
は
N
{\displaystyle N}
以下である素数のべきに限定した表現の数を表す。すると、
r
(
N
)
=
∫
0
1
S
(
α
)
3
e
(
−
α
N
)
d
α
{\displaystyle r(N)=\int _{0}^{1}S(\alpha )^{3}e(-\alpha N)\;d\alpha }
となる。
α
{\displaystyle \alpha }
が有理数
p
q
{\displaystyle {\tfrac {p}{q}}}
であれば、
S
(
α
)
{\displaystyle S(\alpha )}
は
q
{\displaystyle q}
を法とした剰余類の中の素数の分布によって与えられる。従って、ジーゲル・ウォルフィッツの定理 を使うと、小さな分母の有理数の近傍で、上記の整数の分布を計算することができる。そのような有理数に近い実数の集合は、通常、優弧 (major arcs)と呼ばれる複数の区間を形成し、その補集合は劣弧 (minor arcs)と呼ばれる。優弧区間は整数を支配することがわかるので、定理を証明するためには、劣弧に含まれる
α
{\displaystyle \alpha }
に対する
S
(
α
)
{\displaystyle S(\alpha )}
の上限を求める必要がある。この見積もりが証明の最も難しいところである。
一般化されたリーマン予想 を前提とすると、優弧で使った議論を劣弧へ拡張することができる。これは1923年にハーディとリトルウッドによってなされた。1937年、ヴィノグラードフは、
|
S
(
α
)
|
{\displaystyle |S(\alpha )|}
の無条件での上限を与えた。彼の主張は、結果の項が複雑な方法で簡約整理されて得られる、単純なふるい法から始まる。1977年、ボブ・ヴォーン (英語版 ) (R. C. Vaughan)は、後日、ヴォーンの恒等式 (英語版 ) (Vaughan's identity)として知られる恒等式に基づく、非常に簡素化された結果を発見した。彼は、
|
α
−
a
q
|
<
1
q
2
{\displaystyle \left|\alpha -{\frac {a}{q}}\right|<{\frac {1}{q^{2}}}}
であれば、
|
S
(
α
)
|
≪
(
N
q
+
N
4
/
5
+
N
q
)
log
4
N
{\displaystyle |S(\alpha )|\ll \left({\frac {N}{\sqrt {q}}}+N^{4/5}+{\sqrt {Nq}}\right)\log ^{4}N}
となることを証明した。ジーゲル・ウォルフィッツの定理を使うと、
log
N
{\displaystyle \log N}
のべきの違いを区別せず
q
{\displaystyle q}
を扱うことができ、ディリクレの近似定理 を使うと、劣弧上で
|
S
(
α
)
|
≪
N
log
A
N
{\displaystyle |S(\alpha )|\ll {\frac {N}{\log ^{A}N}}}
を得ることができる。したがって、劣弧の区間の境界は、
C
N
log
A
N
∫
0
1
|
S
(
α
)
|
2
d
α
≪
N
2
log
A
−
1
N
{\displaystyle {\frac {CN}{\log ^{A}N}}\int _{0}^{1}|S(\alpha )|^{2}\;d\alpha \ll {\frac {N^{2}}{\log ^{A-1}N}}}
,
により制限され、これが定理の誤差項(補助項)を与える。
参考文献
I.M. Vinogradov (1954). The Method of Trigonometrical Sums in the Theory of Numbers . Translated by Anne Davenport, K.F. Roth . New York: Interscience
Melvyn B. Nathanson (1996). Additive Number Theory: the Classical Bases . Graduate Texts in Mathematics. 164 . Springer-Verlag. ISBN 0-387-94656-X Chapter 8.
脚注
外部リンク