妊娠検査薬妊娠検査薬(にんしんけんさやく)とは、妊娠の有無を判定する目的で、尿中のhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)に対する反応を調べる試薬である。 原理受精卵が子宮に着床すると、そのまま子宮内膜を保って着床状態を維持するために、卵巣内にある黄体の分解を防いで黄体ホルモンの分泌を継続させるhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)が胎盤から分泌される。このhCGは体外へ排出される尿中にも含まれており、妊娠検査薬はそれを検出して陽性の変色反応を示す。 hCGは受精卵の着床が成立してからはじめて分泌され始めるので、胎児が存在しない想像妊娠では、つわり等、あたかも妊娠しているかのような身体症状を呈していたとしても、妊娠検査薬が陽性になることはない。 精度妊娠検査薬のhCG検出感度は閾値20 - 100mIU/mLほどであり、日本で主に市販されている製品は50mIU/mL、早期検査薬として提供されている物は25mIU/mLを検出基準値としている。適切な時期に正しい操作方法で検査すれば判定結果は99%以上の正確性を有するが、後述のとおり種々の原因での誤判定も起こり得るため、妊娠の有無の確定には他の方法も含めた総合的な検査を要する。 病院で妊娠判定のために行われる尿検査も、形状は異なるが、市販品としくみは同様である。病院によって、早い時期に検出できることを重視して感度25mIU/mLのものを使用している場合と、他物質の誤反応による擬陽性を避けて確実に妊娠を見極めるために50mIU/mLレベルのものを使用している場合とがある。 妊娠検査薬での陽性反応は、エコーで子宮内の胎嚢が見えるようになるよりも先駆けて観察され、現代において科学的な方法で妊娠を検知する最も早い手段として用いられている。なお、hCGの検査には血中濃度を定量する方法もあり、尿中よりもさらに少ない量から検出できるため、稽留流産などが疑われる場合の経過の推移を見守るのに役立つが、一方で、非常に敏感で妊娠判定が微妙な時点でも陽性と出る場合があることから、妊娠の有無を診断する際にはまずは尿検査の方から行うのが通常である。 使い方時期早期検査薬hCGへの反応下限値が25mIU/mLに設定されており、順調に増加していけば、着床(=排卵の約9±2日後)から3日程度でこの水準に達する。よって、排卵の12±2日後あたりから陽性反応が検出できるようになると考えられるが、個人差を考慮し、遅い方に合わせて以下の時期を使用の目安としている。
早期検査は、「可能であればなるべく早く陽性を拾い上げて妊娠を知る」ことを目的としているため、受精卵の発育が遅れていてhCGの増加速度が鈍いようなケースでは、まだ検査時期が早く、妊娠していても陰性と出ることもある。また、性交日を基準にした検査では、体内で何日か生き延びていた精子が数日後の排卵で受精したような場合、そのぶん着床の成立やhCGの分泌も後日へずれ込むことになる。したがって、早期検査薬を「陰性によって早く妊娠を否定する」目的で使うべきではない。早期検査で陰性であり、そのまま生理も来なかった場合は、通常の時期に再検査するのが望ましい。 通常検査薬hCGへの反応下限値が50mIU/mLに設定されており、順調に増加していけば、着床から5日程度でこの水準に達する。よって、排卵の14±2日後あたりから陽性反応が検出できるようになると考えられるが、個人差を考慮し、またhCGの増加速度が標準より遅い人も拾い漏れないよう余裕を見て、以下の時期を使用の目安としている。
使用手順日本で市販されている一般的な妊娠検査薬は、蓋のついたスティック状の形をしている。スティックには丸や四角の穴(=「窓」)が開いており、そこに検査時間の終了を示すラインや陽性反応のラインが浮かび上がるようになっている。
判定終了ラインや判定ラインの色・形は製品ごとに異なり、終了窓と判定窓にそれぞれ縦線が表れるものや、判定窓に陽性なら「+」陰性なら「-」が表れるものなど様々なので、説明書の指示に従って読み取る。説明書にある通りの色なら、多少淡めのラインでも陽性と判断してよいが、説明書とは異なる色調だったり、「よく目を凝らしてじっくり見ていると線があるような気もする」といったようなラインは、陰性として扱う。判断に迷うような微妙な濃さなら、無理に一度で見極めようとせず結果を保留し、hCGの増加を待って2~3日後に再検査してみるとよい。また、所定の判定時間以外で見えた線は、正しい結果でない場合がある。
なお妊娠の確定診断は、医師が触診や超音波検査から総合的に行うものであり、妊娠検査薬の結果だけで自己判断してはならない。下記のとおり、さまざまな原因で擬陽性・擬陰性が表れる可能性もある。また、妊娠していて陽性が出たとしても、それが正常妊娠かどうかまでは判らないので、市販の妊娠検査薬で陽性を確かめた後は、速やかに産婦人科を受診すること。 擬陽性が出るケース
擬陰性が出るケース
化学的流産(Chemical abortion)妊娠検査薬が一般に広く普及してくると、ごく初期のうちに妊娠を察知できるようになった。そして、超音波診断で胎嚢の存在が確認できるなど臨床上の妊娠の所見がはっきりしてくるよりも前に、生化学的な手法のみから妊娠が判明していた段階で流産が起こる事例も散見されるようになった。このような流産を化学的流産(Chemical abortion)という。流産と名は付くが、妊娠を意識して早い時期にhCGの検査をしていなければ、通常の月経としてしか認識されないまま日常的に起こっているケースも多く、妊娠回数や流産回数には含めない(習慣性流産の対象とならない)。ヒトでは他の動物よりも妊娠成功率が低く、受精卵の不着床(=妊娠不成立)とともに、着床(=妊娠成立)直後~妊娠に気付く前後の超早期流産も自然淘汰としてかなりの割合で発生している。 歴史3500年前(紀元前1500-1300年ごろ)の古代エジプトで書かれたパピルスには、オオムギとコムギを使った妊娠検査方法が書かれており、オオムギをつめた袋とコムギをつめた袋に尿をかけて、それぞれの発芽の速度から小麦なら女子・オオムギなら男子が生まれ、発芽しなければ妊娠していないとした[1][2]。 脚注
関連項目外部リンク
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