局地風局地風(きょくちふう、英語: local wind)とは、特定の地域に限って吹く風で[1][2]、大抵は地形の影響を受けている[2]。地方風(ちほうふう)[注釈 1]、局所風という場合もある。 局地風の多くは、ある季節に吹きやすく、風向や風の強さに特徴がある。気温や湿度の急な変化、降水(雨・雪)や乾燥地からの砂塵を伴う風も多い[1][2]。そして、それぞれの地域で名前が付けられているものが多い[2]。別の言い方をすれば、特定の地域に吹く強い風、暖かい、冷たい、乾いた風などには名前が付けられ注意が払われてきた[6]。 局地風の発生機構と類型局地風の主な成因は、場所による温度分布の違い(熱的な強制)と、山脈のような起伏による気流の制限(力学的な強制)の2つである[1][2][7]。被害が出るような強い局地風は多くが力学的な強制によるもの[2]。力学的な強制によるものはさらに、山を越えるおろし風と、谷を吹き抜ける地峡風(だし風)に二分される[1][2]。 地形は大きな因子となる。気象要因としては特定の気圧配置、強い気圧傾度や前線の通過、大気安定度、冷気の移動も挙げられる[1][8]。 またおろし風の多くには、少し移動しただけで風向や風速が急変したり[注釈 2]、それが時刻と共に変化する特徴がみられる。これは山越え気流における跳ね水(跳水、ハイドロリックジャンプ)に伴うものと考えられる[9]。 日本の局地風では、やまじ風、広戸風、清川だしの3つが「日本三大悪風」や「日本三大局地風」と呼ばれている。広戸風はおろし風、清川だしは地峡風の代表的な例である[8]。やまじ風はおろし風とされるが地峡風の性質ももつ[2][8]。これら3つは風速の大きい強風だが、同じくらいの強さがある風としてほかに井波風なども挙げられる[8]。 局地風のほとんどはおよそ10km以上の広がりをもって分布する地域的な風。ただし、もっと局地的な風もある[2]。例えば井波風は数kmほどの規模しかない[9]。 おろし風おろし風[2][8] (fall wind[10][11], 特に強いものはdownslope wind storms[10])[注釈 3]は、山を越えて麓に吹き下ろし風速を増す風。上空に強風または安定層があるなどの条件下で起こる[8][10][11]。 研究の進展に伴い、山越え気流における跳ね水(跳水)の発生や山岳波の砕波などが、風下の強風の形成に重要な役割を果たしていることが明らかになってきている[9][12]。 日下 (2018)[8]によれば、1,000m以上の山脈、特に鞍部をもつか風下に急斜面をもつ山脈において、次のいずれかの条件を満たしたときにおろし風が発生しやすい。
山脈の上の大気に逆転層[13]や安定成層があるとき、その下で山を越える際に気流は加速されるとともに気圧を減じ(ベンチュリ効果)、風下を加速して降りる気流は山裾に押し付けられるように流れる[10][11]。基本的に、山のすぐ風下には逆向きの風があり、その風下に吹き下ろす強風がある[13]。また、山の傾斜が急でかつ風の乱れが小さいとき、剥離流の性質をもつ流れが生じる[13]。 山越えのおろし風が臨界層や逆転層の下を通ると風の層は薄くなり、平地に出てから地表で跳ね上がり、もとの気流の高さに戻る跳水(跳ね水)が発生することがある[8]。跳水が起こると、しばしば山の斜面または風下の山麓に近い平野の付近に強風域が現れる[8]。 おろし風、さらに地峡風にも関係するが、山越えの風をモデル化して l2 = N2/U2 と置くことができる。ここでlはスカラー数のパラメータ、Nはブラント・ヴァイサラ振動数、Uは風速である[2][14]。Nが大きいと風は山を迂回し谷を通る傾向があり、Uが大きいと山を超えやすくなる傾向がある。また、hN/U(hは山の高さ)の値が小さいと山を超えやすく、大きいと山を迂回しやすい傾向がある。降水がないフェーン風はlの値が大きい傾向がある[14]。 フェーン型とボラ型山から吹き下ろすおろし風は、風の吹き出しに伴う気温変化の違いによって、高温になるフェーン型と低温になるボラ型に分けられる[15]。 フェーン型は単にフェーン[8] (foehn[10])とも呼ばれるが、山越えの熱力学的・力学的効果により高温・乾燥となった風[10][8]。もともとオーストリア、ドイツ、スイスでアルプス山脈を吹き下ろす局地風の名前だが、局地風の類型としても使われるようになった[10]。 フェーンの昇温の機構は、山に沿い流れることによる加熱(降水を伴わない)のパターンと、風上で潜熱による湿潤断熱的冷却と降水、風下で乾燥断熱的加熱を受けるパターンの2つが主に知られ、ほかに乱流による逆転層上の暖気層の混合なども挙げられる[10]。 ボラ型は単にボラ[8] (bora[10])、ボーラ、またボラ型おろし風[8][15]とも呼ばれるが、山の背後に控える寒気団から吹き出す冷涼・寒冷な風[2][10][8]。もともとクロアチアやボスニアのアドリア海沿岸で吹く局地風の名前だが、局地風の類型としても使われるようになった[10]。 ボラ型は気圧勾配に駆動され上空にも強風が吹くもので、同じ下方への冷涼な風でも、地域的な熱構造に駆動され総観スケールの気圧勾配は緩い滑降風とは異なる[10]。 地峡風地峡風[8]は、海峡風[8]、だし風[2]、ギャップ風[8] (gap wind[16])ともいい、山地の隙間となっている谷間や海峡に気流が集まり、谷の中や出口などに吹く風。冷気層の効果や、谷の向きと気圧傾度、風速、大気安定度などの条件により起こる[8][2][16]。 谷や海峡において風上側に冷気層(逆転層)があることで生じる局地的な気圧勾配、また天気図に現れるようなスケールが大きな気圧勾配が生じていて[8]、気圧勾配の向きが谷筋・海峡軸に平行するときに、風が集まり加速される。谷間や海峡の片側に高気圧や寒冷前線が迫るときに強風を生じやすい[16]。 日下 (2018)[8]によれば、冷気層による局地的な気圧勾配の場合、谷の幅、風速、安定度の3つがある条件を満たすとき、特に谷の出口で強く地峡風が吹く。平地へ吹き出した冷気層は次第に厚みが減少し、風下へ行くほど風速も低下してくる。 一方スケールが大きな気圧勾配の場合、谷から平地へ出た風が水平方向に発散する(拡がる)ことによって、上空から大きな運動量が下りてきて地上も強風となるしくみ。この作用により、山の高さ、風速、安定度の3つがある条件を満たす場合は、谷の中で風があまり強くなくとも谷の出口で風が強まる[8]。 アルプス山脈のブレンナー峠の出口、北アメリカ大陸西海岸のファンデフカ海峡は、地峡風(海峡風)の吹く場所の代表的な例[8]。 その他の類型
影響と対策・恩恵局地風の影響する地域では、家屋には次のような工夫がみられる。屋根は補強をしたり重しを乗せたりし、屋根の高さを低くしたり、軒先を延ばし例えば地上1mまで覆うなどすることがある。風上側の窓は小さかったり少なかったりする。家の周囲に石垣や土塁、防風林を設けることもある。家屋の外観は、石垣や防風林に隠れていたり、屋根が風上と風下で非対称だったりする。また新しく建てる家は、構造を改めレンガ造やコンクリート造などにすることもある[19]。 農地でも、風に強い作物を栽培したり、防風林を設けたりする。フェーン風のある地域では、暖かさが耕作に有利に働く例もある[19]。 濃尾平野では伊吹颪を利用した切り干し大根の生産が盛んで、風が弱いと3日必要な乾燥期間が、風が強いときは1日で済むという[20]。茨城県で生産が盛んな干し芋も空っ風・那須颪を利用している[21]。 吉野正敏によれば、強風がいつも吹くような地域と時折局地風が吹く地域は、居住形態はあまり変わらない。しかし、前者は広い面積に及ぶものが多いこともあって、経済的発展が遅れたり土地利用の高度化が進まなかったりする一方、局地風の影響地域は狭く、常に強風が吹くわけではないこと、周辺地域との経済的繋がりがみられることもあって、多少無理をしてでも対策を取りながら居住が行われる傾向があるという[19]。 局地風が発生する範囲や気象条件は研究され、その地域では比較的知られて対策が取られていることが多い[22]。そして、しばしば新しい住民や地域住民以外の者が思いがけず被害を受ける点も注意が必要[22]。 代表的な局地風日本
アジアヨーロッパ
アフリカオセアニア南北アメリカ
脚注注釈出典
参考文献
関連項目外部リンク
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