月食[1](げっしょく、英語: lunar eclipse[1])とは、地球が太陽と月の間に入り、地球の影が月にかかることによって月が欠けて見える現象のことである。月蝕と表記する場合がある(「食 (天文)#表記」参照)。
望(満月)の時に起こる。日食と違い、月が見える場所であれば地球上のどこからでも同時に観測・観察できる。
種類
地球から見える月面が本影(地球によって太陽が完全に隠された部分)に入る場合を皆既月食(total eclipse)[2]、一部分だけが本影に入る場合を部分月食(partial eclipse)という。
月が半影(地球が太陽の一部を隠している部分)に入った状態は半影食(もしくは半影月食、penumbral eclipse)と呼ばれるが、半影に入った月面部分の減光の度合いは注意深く観察しなければ分からない程度であるため、事前の予告なしに肉眼で見ても気がつかない場合も多い。
月が地球の影によって隠される度合いを食分といい、「(本影の半径+月の視半径-本影の中心と月の中心の距離)÷(月の視直径)」という式で計算される。皆既月食の場合は1以上、部分月食は0 - 1、半影食ならマイナスの値となる。
太陽光のうち、波長の長い赤系の光が地球の大気によって屈折・散乱されて本影の中に入るため、皆既月食でも通常、月は真っ暗にはならず暗い赤色(赤銅色)に見える[3]。しかし火山爆発等で大気中に特に多量の微粒子が浮遊している場合には、月が非常に暗くなり灰色かほとんど見えなくなる。月食時の明るさは後述の「ダンジョンの尺度」(後述)などで表される。
なお、月食の途中の欠け月が昇ってくることを月出帯食といい、その逆に欠けたままの月が沈むことを月没帯食(もしくは月入帯食)という。
月食の経過
- 第1接触
- 月が地球の本影に入り始めた瞬間。
- 第2接触
- 月が地球の本影に完全に入った瞬間。この瞬間が中心食の始まりとなる。
- 食の最大・食甚
- 月の中心と本影錐の中心との角距離が最小となった時点。
- 第3接触
- 月が地球の本影から出始めた瞬間。この瞬間が中心食の終わりとなる。
- 第4接触
- 月が地球の本影から完全に出た瞬間。
頻度
月食が起こるのは太陽・月が黄道・白道の交わる点(月の昇交点・降交点)付近にいる時に限られる。
月食は多くの場合1年間に2回起こるか起こらない年、3回起こる年もあり21世紀の100年間では合計142回(皆既月食85回、部分月食57回)起こる。一方、日食は最低でも年に2回、最多で5回起こる年もあり21世紀の100年間では合計224回(皆既日食68回、金環食72回、金環皆既食7回、部分日食77回)である。したがって月食の発生頻度は日食より低い[注 1]。にもかかわらず普通、日食よりも月食の方が目にする機会は多い。これは月が見えてさえいれば月食は地球上のどこからでも観測が可能なのに対し、日食は月の影が地球表面を横切る帯状の限られた地域でしか見ることができないためである[注 2]。
月食と日食の頻度に違いが生じる理由は次のように説明できる。地球と太陽がともに内接する巨大な円錐を想定する。月がこの円錐の太陽と反対の部(地球の本影)に入れば月食が生じ、太陽と同方向の部分に入れば日食が生じることになる[注 3]。この円錐の月軌道付近における半径は月食側が約4460 - 4750km[注 4]、日食側が約7990 - 8280km[注 5]と異なるため月食の発生頻度は日食のそれよりも低くなる。
- 1年に月食が3回見られた(見られる)年
日本の陸上(島嶼部を含む)でも見られた(見られる)日付を部分月食は斜体字、皆既月食は太文字にて記述している。
- 1833年(天保3年閏)
- 1月6日(天保2年閏11月16日) - 7月2日(天保3年5月15日。日本時間:7月3日(5月16日)) - 12月26日(11月16日。日本時間:12月27日(11月17日))
- 1852年(嘉永4年)
- 1月7日(嘉永4年12月16日) - 7月1日(嘉永5年5月14日) - 12月26日(11月16日)
- 1898年(明治31年)
- 1月8日(日本時間:1月9日) - 7月3日(日本時間:7月4日) - 12月27日(日本時間:12月28日)
- 1917年(大正6年)
- 1月8日 - 7月4日(日本時間:7月5日) - 12月28日
- 1982年(昭和57年)
- 1月9日(日本時間:1月10日) - 7月6日 - 12月30日
- 2028年
- 1月12日 - 7月6日(日本時間:7月7日) - 12月31日(日本時間:2029年1月1日)
- 2094年
- 1月1日(日本時間:1月2日) - 6月28日 - 12月21日(日本時間:12月22日)
- 日本では他にも2010年(平成22年)(1月1日、6月26日、12月21日)があった。
- 月食がない年
- 1966年 - 1969年 - 1980年 - 1984年 - 1998年 - 2002年 - 2016年 - 2020年
日本での観測
最近見られた月食
今後見られる月食
ダンジョンの尺度
皆既月食の時の月面の様子は、地球の大気中の塵の量によって異なる。塵が少ないと、太陽の光が大気中を通過する際の散乱が少なくなり、月面は黄色っぽく明るく見える。逆に、塵が多いと、大気中の散乱が多くなり、月面は暗く見える(大規模な火山噴火があると、大気中の火山灰により、月面が暗くなることが知られている)。フランスの天文学者アンドレ・ダンジョンが20世紀初頃に、月食の明るさを分類するために独自に尺度を決めた。一般的に「ダンジョン・スケール」とも呼ばれる。
尺度 |
月面の様子
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0 |
非常に暗い月食。月面の中心は見えない。
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1 |
暗い月食。灰色か褐色で、月の細部はわかりづらい。
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2 |
暗い赤または赤錆色の月食。月の中心はとても暗く、周辺部はやや明るい。
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3 |
れんが色の月食。月の縁は明るいかまたは黄色。
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4 |
非常に明るい月食。月の縁は青みがかって非常に明るい。
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ターコイズフリンジ
成層圏まで到達した太陽光の中で、波長の長い赤い光はオゾンに吸収されやすいため、波長の短い青い光だけがオゾン層を通過する。 その青い光が月面に投影され、青い帯として見える現象が観測されることがある。 この青い帯は「ターコイズフリンジ」(turquoise fringe)とも呼ばれ、月食の本影と半影の境目に現れる。2007年5月4日にドイツで観測された皆既月食時に、月に映る青い光の帯が撮影された。2008年2月13日にアメリカ航空宇宙局(NASA)のサイエンスニュースで、その光は「ターコイズフリンジ」と提唱された。2014年10月4日の月食時にも「ターコイズフリンジ」が見られ、日本で大きな話題となった。
月食時に月から見た太陽
月食時に月から太陽を見ると、地球から見る日食のように、太陽が地球によって隠されるように見えるはずである。2009年2月19日、日本の月周回衛星「かぐや」が世界で初めてこの光景の撮影に成功した。半影からの撮影だったため太陽は完全に隠れなかったが、地球による「ダイヤモンドリング」が観察された[7]。
その他
脚注
注釈
- ^ ただし半影食の86回を含めれば今世紀中に起こる月食の回数は228回となり、日食とほぼ同等の頻度である。
- ^ 地球上の1定点で皆既日食が観測可能となるのは300 - 400年に1回といわれている。
- ^ 月の一部が円錐内に入れば部分月食あるいは部分日食となり、月全体が円錐内に入れば皆既月食あるいは皆既日食または金環日食となる。
- ^ 月食側円錐半径の視野角は0°37'38" - 0°45'45"、皆既月食の横緯差限界は±0°22'58" - ±0°29'1"、部分月食の横緯差限界は±0°52'18" - ±1°2'28"。望、すなわち満月の時に月の黄緯がこの範囲内である(月食が生じる)ための太陽の昇交点又は降交点から黄経差限界は皆既月食で±4°15'50" - ±5°23'24"、部分月食で±9°44'58" - ±11°40'10" である。一方、太陽の昇交点からの黄経は1朔望月(満月から次の満月まで)の間に平均で30°40'13"変化する。これは黄経差限界の2倍よりも大きく、1朔望月の間に太陽が昇交点付近の黄経差限界範囲を通り抜けてしまうということが生じ得る。この場合、食の季節であるにもかかわらず月食が起こらないということになる。
- ^ 日食側円錐半径の視野角は1°9'22" - 1°17'28"、皆既/金環日食の横緯差限界は±0°54'42" - ±1°0'44"、部分日食の横緯差限界は±1°24'2" - ±1°34'12"。朔、すなわち新月の時に月の黄緯がこの範囲内である(日食が生じる)ための太陽の昇交点又は降交点から黄経差限界は皆既/金環日食で±10°11'57" - ±11°20'29"、部分日食で±15°47'13" - ±17°45'26" である。部分日食の黄経差限界範囲は常に太陽の1朔望月間の移動量よりも大きいので食の季節には少なくとも部分日食が1回は生じ、また2回生じることも可能となる。
出典
関連項目
ウィキメディア・コモンズには、
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外部リンク