木馬館(もくばかん)は、東京市台東区浅草に存在する大衆演劇の劇場である。木馬館の1階部分が後に「木馬亭」と呼ばれ、浪曲の定席となる。
来歴
昆虫館
1907年(明治40年)、昆虫学者名和靖は日露戦争の勝利記念に昆虫館を建設したいと考え、東京市に「昆虫知識普及館」を設立[1]、浅草寺脇の土地を貸与される(浅草公園第4区)。こうして、4月21日に「通俗教育昆虫館(つうぞくきょういくこんちゅうかん)」の名で開館した。
川端康成の筆になる『浅草紅団』の中にも「花屋敷と昆蟲館――この二つの小屋が、浅草の家庭的な遊び場として、諸君に知れ渡つてゐるのは、もちろん虎夫婦の寝相のためではない。メリイ・ゴオ・ラウンドの木馬があるからだ」[2][3]という一節から、施設内での出来事が描かれた。
開館当初こそ人気があったもののすぐに経営は行き詰まり、1918年(大正7年)、根岸吉之助率いる根岸興行部に経営が移った[4][5][3]。
安来節定席「木馬館」
- 1922年(大正11年)、1階に木馬が設置され、名称も「昆虫木馬館」となった[6]。はじめは楽団が、後にレコードを伴奏に使っていたという。
- 1931年(昭和6年)、2階の昆虫展示が無くなり昆虫館は消滅した[6]。
- 1938年(昭和13年)浅草オペラの流行のあとを受け、関西での流行をいち早く浅草(当初、常盤座)に持ってきていた安来節を興行の中心にした常打ち小屋とする(2階部分)[7]。以降39年続く[8][9]。(当時、浅草六区だけでも最大で玉木座、遊楽館、松竹座、大東京、十二階劇場、日本館、など8館ほどが安来節の興行を打ったが、木馬館のみ残る。)
出雲出身の春子、八千代、清子らの大和家三姉妹等が専属として所属。他に浪曲、講談、漫才などを色物として入れる。
- 1943年(昭和18年)に戦争激化のためにいったん木馬を外し、営業を止める。
- 1945年(昭和20年)3月10日 東京大空襲が浅草も襲い、六区興行街も大打撃を受けるが、(前年暮に焼夷弾が落ちたものの)木馬館は建物は幸いにも焼け残る。しかし、木馬を外していた廻り舞台には何組もの戦災者が住み着いていたという[10]。
- 戦後間もなくから木馬の復活に親子で取り組む[10]。
- 1946年秋 - 木馬が復活。2階も再び安来節を興行する[11]。
- 1956年(昭和31年)12月、建物としての木馬館が現在の鉄筋コンクリート2階建てになった[12]。木馬設置はここまで[10]。1階部分は映画館[13]。
- 1963年(昭和38年)ごろ、安来節の苦境続く[14]。
木馬館大衆劇場
木馬設置時代を偲べるものとして、現在は1F入口脇に木馬(レプリカ)のモニュメントがある。
関連事項
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参考文献
出典
- ^ 『明治時代史大辞典 第2巻』p.990
- ^ 『川端康成全集第4巻』新潮社1981年 p.69
- ^ a b 『東京人』380号p.30
- ^ 時代の証言者 浪曲の聖地を守る 根岸京子.18 読売新聞2014年8月2日
- ^ “木馬館今昔”. 奥山おまいりまち商店街. 2016年10月8日閲覧。
- ^ a b 横田順彌『明治時代は謎だらけ』平凡社、2002年、73頁
- ^ にっぽん芸能史p.155
- ^ 根岸吉之助本人談。台東区教育委員会『浅草六区』p.41
- ^ 時代の証言者 浪曲の聖地を守る 根岸京子.7 読売新聞2014年7月17日
- ^ a b c 朝日新聞 1984年(昭和59年)7月3日付 20世紀の軌跡1182「木馬館復興」
- ^ エーピーピーカンパニー『江戸東京芸能地図大鑑』(マルチメディアCD-ROM)
- ^ 朝日新聞 1956年(昭和31年)6月22日付 東京面 建もの漫歩「浅草の木馬館 来月には取壊す」、唯二郎『実録 浪曲史』p.370
- ^ a b 根本圭助 (2007年3月25日). “私の昭和史(第2部)「木馬館と安来節、そして浪曲の輝き」(下)”. 松戸よみうり (松戸よみうり新聞社). http://www.matsuyomi.co.jp/showashi/showashi_BN_008.html 2016年10月8日閲覧。
- ^ 朝日新聞 1963年10月8日 「浅草・木馬館の昨今 カゲのうすい安来節」
- ^ 朝日新聞 1967年8月24日 夕刊最終面「木馬館が漫才定席に」
- ^ 朝日新聞 夕刊1970年(昭和45年)6月1日付 浅草に浪曲の寄席・・
- ^ 朝日新聞 1984年(昭和59年)5月29日付 20世紀の軌跡1159「あらエッサッサ」
- ^ 読売新聞 ヨミダス文書館 1996年6月18日「出番ですよ!」(1)篠原演芸場 大衆演劇の歴史そのもの(連載)
- ^ 美濃瓢吾『浅草木馬館日記』p.9
- ^ 大衆演劇ファンのための情報サイト「演劇ネット」浅草木馬館の説明ページ
- ^ 桂米團治監修『米朝置土産 一芸一談』淡交社、2016年3月。p.177
外部リンク