民具民具(みんぐ)とは、民衆(柳田國男のことばでは常民)の日常生活における諸要求にもとづいてつくられ、長いあいだ使用されてきた道具や器物の総称。渋沢敬三によって提唱された学術用語である。 定義と分類「民具」の用語は、さまざまな立場からの定義がなされているが、だいたいは冒頭のように、人びとが生活の必要から製作し、使用してきた古風な器具や造形物の総称とみなすことができる。いわば日用品とほぼ同義の言葉であるが、一般的には、機械によって大量生産された製品を除外する。 日本常民文化研究所の前身であったアチック・ミューゼアム[1]では、「民具」を、きわめて広い対象をあらわす概念としている。その分類案は以下のとおりである[2]。
なお、これらのうち、信仰に直接かかわる用具や玩具を除外して「民具」と呼ぶ場合もある。 かつて存在していたが、現存しないものを潜在民具と呼ぶ[3][4]。 研究民具は実物資料であり、それぞれの民具の名称や材質、形態や大きさ、製作法、使用法などを調べ、データ化していくこと、また、それをもとに地域的差異や分布の濃密を分析したり、編年を検討したりすることは民具研究における基本的な作業となる。 しかし、民具研究はモノ自体の分析に終始するのではない。そのモノを通じて浮かび上がってくる伝承的側面をとらえることこそが骨子となる。すなわち、民具研究においては、それを製作し、使用した人びとの生活のあり方やその変遷、生活感情や信仰的側面、人とモノとの付き合い方などをとらえていくことが重要なのである。たとえば、臼、杵、箕、桝、杓子、囲炉裏のかぎ、箒、あるいは枕、櫛など、古来用いられてきた民具には各種の信仰や呪術的要素が結びついているのであり、そうした点を追究していくことは民俗学の大きな眼目のひとつとなっている。 民具の価値古来、人びとは漁撈、狩猟、山樵、農耕などの生業に従事して生計を立ててきたが、苦しいことも多かったであろうその生活のなかで、生きるための知恵を具体的に示しているのが民具である。民具には「生きるのがやっと」という最低生活のなかで工夫され、機能性を追求してきたものが多く、それが、長い年月をかけて繰り返され、伝承されてきたものである。そこには堅牢な合理性が集約されている。 もちろん、なかには現代人からみて芸術的なものがないとは言えない。しかし、それは民具にとって必ずしも必要なのではなく、あくまでも使い勝手が主であり、芸術性や装飾性は副次的なものである。民具のなかに、たまたま素朴な美しさが見いだされたとしても、それは「実用の美」[5]というべきものであり、確固とした実用性の上に芸術性が付け加えられたものである。 たとえば、布を補修し、補強するための刺し子の模様は、そのまま装飾ともなり得るものである。また、蓑や背中当てなどにみられる細かい縄の編み目は、背中の保護とともに通気性や保温性を高めるためのものであるが、一方では多分に飾りとしての意味も持っている。しかし、そうした装飾性も、追い求めた結果というよりは、期せずしてにじみでたものである。民具の価値は稀少性や美しさ、おもしろさにあるのではなく、あくまでも実用性にある。系統だった研究と収集が求められるゆえんである。 収蔵と展示千葉県佐倉市の国立歴史民俗博物館と大阪府吹田市の国立民族学博物館には膨大な民具が収蔵、展示され、また研究対象ともなっている。民具を収蔵、展示する施設は全国的に数多くある。地方公共団体による民俗資料館、歴史民俗資料館といった施設が圧倒的に多いが、私営の展示館も少なくない。また、民家や近世城郭、武家屋敷などのなかに展示コーナーを設けている場合も多い。
脚注
参考文献
関連項目
外部リンク |