|
この項目では、2011年の映画について説明しています。同じ原作による他の映画については「影が行く#映画化作品」をご覧ください。 |
『遊星からの物体X ファーストコンタクト』(ゆうせいからのぶったいエックス ファーストコンタクト、原題:The Thing)は、2011年のアメリカ合衆国のSFホラー映画。
1982年の映画『遊星からの物体X』の前日談を描く。当初の邦題は『遊星からの物体X ビギニング』であったが[3]、後に上記のものへ改称された。
ストーリー
1982年、南極大陸でノルウェー観測隊が氷の下にある巨大な構造物を発見する。古生物学者のケイト・ロイドは、アメリカ人とノルウェー人で構成された国際探査チームに招集され、南極を訪れる。その目的は発見された巨大宇宙船と地球外生命体の調査だった。
氷漬けの地球外生命体は基地に搬入され、生態を調査されることになる。基地の隊員たちは歴史的大発見に喜んでいたが、その夜に生命体(=「物体」)は氷を破砕して蘇生し、基地外に逃走する。「物体」はノルウェー隊が飼っていた犬を殺害したうえ、隊員の1人を襲って倉庫に逃げ込もうとするも、隊員が放った燃料に放火したことで倉庫ごと焼却された。
隊員たちは焼却された「物体」の死骸を解剖し、その細胞がまだ生きていることや、襲った隊員を体内で取り込んでその姿に擬態するという生態を知る。さらには、隊員の骨折した骨に埋められていた金属プレートが、「物体」の体内から発見される。「物体」は、有機細胞ではない金属製のプレートについては同化・複製できなかったのである。
隊員たちの数名は他の基地へ移動しようとヘリコプターで離陸するが、ケイトはシャワールームで大量の血痕と共に歯の詰物の破片を発見する。ケイトがヘリに基地への帰還をうながすも、すでに搭乗した隊員の1人に擬態していた「物体」により墜落してしまう。
観測隊の多数の隊員たちは基地から避難することに意見の一致を見るが、ケイトは「もうすでに隊員の誰かに『物体』が同化し擬態している」という意見を主張し、立ち向かうことを促す。しかし、それは誰が本物の人間で、誰が「物体」なのか不明なまま、恐るべき力を秘めた不死身の怪物と対決する事を意味していた。次々と襲われ、その体細胞を侵食されることで同化していく隊員達。1人、また1人と怪物化していく仲間の姿を前に隊員たちは疑心暗鬼と恐怖に襲われていく。
キャスト
括弧内は日本語吹き替え。翻訳は平田百合子が担当。
概要
脚本のロナルド・D・ムーアの降板や、ユニヴァーサルがラヴクラフト作『狂気の山脈にて』をギレルモ・デル・トロ監督で映画化する方針に一時転換[注 2]するといった経緯で、数度の頓挫と公開延期を経て、2011年秋に公開された[注 3]。
本作は1951年版や1982年版のリメイクではなく、後者の冒頭で触れられたノルウェー調査隊の「物体」と円盤の発見、調査隊の全滅、生き残ったノルウェー隊員2名がイヌに姿を変えて逃げ出した「物体」をヘリコプターで追跡するまでが語られる前日譚である。そういったことから本作オリジナルの要素を加えつつも、「建物の構造や位置関係」、「2つの顔が融合した『物体』の焼死体」、「氷の下の円盤が映った記録映像」、「爆破された小屋の跡」、「内側をくり抜かれた巨大な氷塊」、「壁に刺さった斧」、「無線機の前に座る死体」など、1982年版との緻密な整合性が図られている。また、そのままオマージュしたシーンやアイテムも多く登場している。ただし、本作の宇宙船(UFO)のデザインは1982年版とは大きく異なる。
無線室では八重洲無線の70年代のアマチュア無線用のトランシーバーFT-101EやトランスバーターのFTVシリーズが使われている。
オランダのCMディレクターとして活動し、本作で劇映画初監督となるマティス・ヴァン・ヘイニンゲン・ジュニアがメガホンを取り、ジョエル・エドガートンやウルリク・トムセンといった男性隊員役に加え、女性もメアリー・エリザベス・ウィンステッドとキム・バッブス(カナダの女優)の2名が出演した。1982年版で「イヌ」の効果を担当したスタン・ウィンストンのもと、『エイリアン2』などに携わったアレック・ギリスとトム・ウッドラフJr.率いるアマルガメイテッド・ダイナミクスが「物体」の造形・操演を担当した。
本作に登場する「物体」の表現には、アニマトロニクスや操演、着ぐるみをベースに、それらを補完する形でCGIによるVFXが利用されている。過去作よりも表現が多彩になり、より活動的で獰猛な「物体」を描くことが可能となった反面、過去作で多用されていた体液やストップモーションによる特撮が控えられていることが特徴となっている。人体が混ぜ合わされたデザインなどは1982年版を踏襲し、咆哮なども同作のそれを加工したものが多用されている。「防寒服を着て顔が誰なのか判別できない、両手を広げた人物」というポスターデザインも同様で、「物体」の細胞が寄生主の細胞を捕食して擬態するプロセスがCGIにより描写された点も、1982年版にならう結果となった。
「物体」の特質を決定付ける重要な場面が撮影されながら本編に採用されなかった、あるいは撮り直された点も1982年版と同様であり、「物体」に惨殺されながら増殖と同化により数分で蘇生した人物、宇宙船のパイロットなど精巧なアニマトロニクスや高度な特殊効果が準備されつつもカットされ、本編には残っていない[注 4]。
映画本編では暗示にとどまり具体的な描写は無いが、エリック・ハイセラーの脚本に基づく小説版では、続編の可能性をうかがわせるエピローグが存在する。小説のエピローグでは、事件の証拠である宇宙船は再び氷に閉ざされ、事件そのものはノルウェーとアメリカの両政府に隠蔽。生還したケイトは雪の大地の色である白と火炎放射器の火の色であるオレンジ色を嫌うようになり、空しくラジオを聴きながら研究に没頭していたが、ある日、歯医者に行くと医師に自身の歯がこれまで虫歯になった事が一切なく、治療の必要もない完璧な歯である事を教えられ、ケイト自身も「物体」である事を確信。以後、自分自身を研究するようになるというところでエピローグは終わる。
脚注
注釈
- ^ 公開時の公式表記。オランダ語の原発音に近い表記は「マタイシュ・ファン・ハイニヘン・ユニオル」。発音ガイド FORVO[1]で同国人男性の発音が参照できる。
- ^ 本作の元になった『影が行く』の異世界の変形生物や構築物が南極の氷の下から発見されるというプロットは、本作の2年前に発表された『狂気の山脈にて』ですでに見られる。1982年版のカーペンター監督もクトゥルフ神話の要素を鏤めた『マウス・オブ・マッドネス』を制作するなど、ラヴクラフトへの傾倒は顕著である。『狂気の山脈にて』が予算の超過から映画化中止になったため、デル・トロ監督は「Kaiju(怪獣)」が異世界より襲来する映画『パシフィック・リム』を企画・映画化したが、同作でも異世界からの侵略が有史以前に始まっていたことが明らかになるなど、クトゥルフ神話の影響がみられる。
- ^ 日本での公開は本国のDVD/BDの発売後となる2012年8月4日。
- ^ アマルガメイテッド・ダイナミクスが(時に命懸けだった)モンスターエフェクトを新人監督の処女作で没にされるのは、『エイリアン3』以来となる。落胆したアレック・ギリスは、CGIに頼らないアニマトロニクス主導のホラー映画『Harbinger Down』を企画し、監督と脚本を務める。製作費はkickstarterで調達し、舞台裏をYouTubeで紹介するプロモーション活動も展開。主演はランス・ヘンリクセンとマット・ウィンストン(スタン・ウィンストンの子息)。アメリカ国内では2015年8月に劇場公開されたが日本ではビデオスルーとなり、『X-コンタクト』のタイトルで2016年10月に発売された。
出典
外部リンク