HSPA5 PDBに登録されている構造 PDB オルソログ検索: RCSB PDBe PDBj PDBのIDコード一覧 3IUC , 3LDL , 3LDN , 3LDO , 3LDP , 5E84 , 5E86 , 5E85 , 5F1X , 5EX5 , 5EVZ , 5F2R , 5F0X , 5EY4 , 5EXW
識別子 記号 HSPA5 , BIP, GRP78, HEL-S-89n, MIF2, Binding immunoglobulin protein, heat shock protein family A (Hsp70) member 5, GRP78/Bip外部ID OMIM: 138120 MGI: 95835 HomoloGene: 3908 GeneCards: HSPA5 オルソログ 種 ヒト マウス Entrez Ensembl UniProt RefSeq (mRNA) RefSeq (タンパク質) 場所 (UCSC) Chr 9: 125.23 – 125.24 Mb Chr 9: 34.66 – 34.67 Mb PubMed 検索[ 3] [ 4] ウィキデータ
BiP (binding immunoglobulin protein)は、ヒトでは HSPA5 遺伝子 によってコードされるタンパク質 である。GRP-78、HSPA5(heat shock 70 kDa protein 5)、Byun1としても知られる[ 5] [ 6] 。
BiPは、小胞体 の内腔に位置するHsp70 ファミリーの分子シャペロン である。小胞体へ移行してきた新生タンパク質に結合し、それらをその後のフォールティング やオリゴマー化 が可能な状態に維持する。また、BiPは小胞体の移行装置の必須の構成要素でもあり、異常タンパク質のプロテアソーム 分解へ向けた小胞体への逆行性輸送に役割を果たす。BiPはすべての生育条件で豊富にみられるタンパク質であるが、フォールディングしていないポリペプチド が小胞体に蓄積する条件下では合成が顕著に誘導される。
構造
BiPは、ヌクレオチド結合ドメイン(NBD)と基質結合ドメイン(SBD)という2つの機能的ドメインを含んでいる。NBDはATP を結合して加水分解 し、SBDはポリペプチドを結合する[ 7] 。
NBDは2つの大きな球状サブドメイン(I、II)から構成され、さらにそのそれぞれが2つの小さなサブドメイン(A、B)へと分割される。サブドメイン間には溝があり、そこへヌクレオチド 、1つのMg2+ イオン、2つのK+ イオンが結合して4つのドメイン(IA、IB、IIA、IIB)すべてが連結される[ 8] [ 9] [ 10] 。SBDは、SBDβとSBDαという2つのサブドメインへと分割される。SBDβは基質タンパク質またはペプチドの結合ポケットとして機能し、SBDαは結合ポケットを覆うαヘリックスからなる蓋として機能する[ 11] [ 12] [ 13] 。ドメイン間リンカーはNBDとSBDを連結し、NBD-SBD相互作用面の形成を促進する[ 7] 。
機構
BiPの活性は、アロステリック なATPアーゼ サイクルによって調節されている。ATPがNBDに結合するとSBDαの蓋が開き、SBDは基質との親和性が低いコンフォメーションとなる。ATPの加水分解に伴ってADPがNBDに結合し、蓋が結合した基質の上に閉じる。これによって基質は解離速度が低下し高い親和性での結合を行い、基質の尚早なフォールディングや凝集が防がれる。ADPがATPへの交換されるとSBDαの蓋が開いて基質が放出され、基質は自由にフォールディングを行うようになる[ 14] [ 15] [ 16] 。ATPアーゼサイクルは、プロテインジスルフィドイソメラーゼ [ 17] やコシャペロン [ 18] によって相乗的に加速される。
機能
細胞がグルコース 飢餓にさらされると、グルコース調節タンパク質 (英語版 ) (glucose-regulated protein、GRP)と呼ばれるいくつかのタンパク質の合成が顕著に上昇する。GRP78(HSPA5)はBiPとも呼ばれ、Hsp70ファミリーのメンバーであり小胞体でのタンパク質のフォールディングや組み立てに関与する[ 6] 。BiPのレベルは、小胞体内の分泌タンパク質(IgG など)の量と強く相関している[ 19] 。
BiPによる基質の解離と結合は、新生タンパク質のフォールディングや組み立て、誤ってフォールディングしたタンパク質の凝集 の防止、分泌タンパク質の移行、小胞体ストレス応答 (unfolded protein response、UPR)の開始など、小胞体での多様な機能を促進する。
タンパク質のフォールディングと保持
BiPは能動的に基質をフォールディングする(フォールダーゼ (英語版 ) )、または単に結合して基質がフォールディングや凝集するのを防ぐ(ホルダーゼ (英語版 ) )。フォールダーゼとして機能するには、完全なATPアーゼ活性とペプチド結合活性が必要である。ATPアーゼ活性に欠陥のある温度感受性変異体 (英語版 ) (クラスI変異と呼ばれる)とペプチド結合活性に欠陥のある変異体(クラスII変異と呼ばれる)は、どちらも非許容温度下ではカルボキシペプチダーゼY(CPY)を正しくフォールディングすることができない[ 20] 。
小胞体への移行
BiPは小胞体の分子シャペロンとして機能し、小胞体内腔や小胞体膜へのATP依存的なポリペプチドの取り込みに必要である。ATPアーゼ活性変異体は、多数のタンパク質(インベルターゼ 、カルボキシペプチダーゼY、α-接合因子)の小胞体内腔への移行の妨げとなることが判明している[ 21] [ 22] [ 23] 。
小胞体関連分解
BiPは小胞体関連分解 (ERAD)にも役割を果たす。最もよく研究されているERADの基質は、常に誤ったフォールディングを行い、完全に小胞体へ移行しグリコシル化 修飾を受けるCPY(CPY*)である。BiPはCPY*と接触する最初のシャペロンで、CPY*の分解に必要とされる[ 24] 。BiPのATPアーゼ活性変異(アロステリック 変異も含む)によって、CPY*の分解速度が大きく低下することが示されている[ 25] [ 26] 。
小胞体ストレス応答経路
BiPはUPRの標的であるとともに、UPR経路に必須の調節因子でもある[ 27] [ 28] 。小胞体ストレス下では、BiPは3つのシグナル伝達因子(IRE1 、PERK (英語版 ) 、ATF6 )から解離し、効率的にそれぞれのUPR経路を活性化する[ 29] 。BiPはUPRの標的遺伝子の産物であり、UPR転写因子 がBiPの遺伝子DNAのプロモーター 領域のUPRエレメントに結合することでアップレギュレーションされる[ 30] 。
相互作用
BiPのATPaseサイクルは、ADPの解離の際にATPの結合を促進するヌクレオチド交換因子 (英語版 ) と、ATPの加水分解を促進するJタンパク質 の双方のコシャペロンによって促進される[ 18] 。
BiPのシステインの保存性
BiPは真核生物 の間で高度に保存されており、それには哺乳類 も含まれる(表1)。また、ヒトではBiPはすべての組織で広く発現している[ 31] 。ヒトのBiPには2つの高度に保存されたシステイン 残基が存在する。これらのシステイン残基は酵母 と哺乳類細胞の双方で翻訳後修飾 を受けることが示されている[ 32] [ 33] [ 34] 。酵母細胞では、N末端 側のメチオニンは酸化ストレスによってスルフェニル化 とグルタチオン化 されることが示されている。どちらの修飾も、BiPのタンパク質凝集を防ぐ能力を向上させる[ 32] [ 33] 。マウスの細胞では、保存されたシステインのペアはGPX7 (英語版 ) (NPGPx)の活性化に伴ってジスルフィド結合 を形成する。ジスルフィド結合はBiPの変性タンパク質への結合を向上させる[ 35] 。
表1.哺乳類細胞におけるBiPの保存性
一般名
学名
BiPの保存性
BiPのシステインの保存性
システイン数
霊長類
ヒト
Homo sapiens
Yes
Yes
2
ニホンザル
Macaca fuscata
Yes
Yes
2
ミドリザル
Chlorocebus sabaeus
Predicted*
Yes
2
マーモセット
Callithrix jacchus
Yes
Yes
2
齧歯類
マウス
Mus musculus
Yes
Yes
2
ラット
Rattus norvegicus
Yes
Yes
3
モルモット
Cavia porcellus
Predicted
Yes
3
ハダカデバネズミ
Heterocephalus glaber
Yes
Yes
3
ウサギ
Oryctolagus cuniculus
Predicted
Yes
2
ツパイ
Tupaia chinensis
Yes
Yes
2
有蹄類
ウシ
Bos taurus
Yes
Yes
2
ミンククジラ
Balaenoptera acutorostrata scammoni
Yes
Yes
2
ブタ
Sus scrofa
Predicted
Yes
2
食肉類
イヌ
Canis familiaris
Predicted
Yes
2
ネコ
Felis silvestris
Yes
Yes
3
フェレット
Mustela putorius furo
Predicted
Yes
2
有袋類
オポッサム
Monodelphis domestica
Predicted
Yes
2
タスマニアデビル
Sarcophilus harrisii
Predicted
Yes
2
*Predicted: NCBI Proteinによる配列予測
臨床的重要性
自己免疫疾患
ストレスタンパク質や熱ショックタンパク質の多くと同様、BiPは細胞内部環境から細胞外空間へ放出された際に強力な免疫学的活性を有している[ 36] 。特に、BiPは免疫ネットワークへ抗炎症 シグナルと解除促進シグナルを送り、炎症の解消を助ける[ 37] 。BiPの免疫活性における機構は完全には理解されていない。しかしながら、単球 表面の受容体に結合して抗炎症サイトカイン の分泌を誘導し、T細胞 の活性化に関わる重要な分子をダウンレギュレーションするとともに、単球の樹状細胞 への分化経路を調節することが示されている[ 38] [ 39] 。
BiP/GRP78の強力な免疫調節活性は、ヒトの関節リウマチ に似たマウス疾患であるコラーゲン誘導関節炎 (英語版 ) などの自己免疫疾患 の動物モデルで示されている[ 40] 。BiPの予防的・治療的な非経口デリバリーは、炎症性関節炎の臨床的・組織学的徴候を緩和することが示されている[ 41] 。
心血管疾患
BiPのアップレギュレーションは、小胞体ストレスによって誘導される心機能不全や拡張型心筋症 と関係している[ 42] [ 43] 。またBiPは、ホモシステイン 誘導性の小胞体ストレスの緩和、血管内皮細胞 のアポトーシス の防止、コレステロール /トリグリセリド の生合成を担う遺伝子の活性化の阻害、そして組織因子 の凝血促進活性の抑制によって、アテローム性動脈硬化 の発症を抑えると提唱されている。これらはすべてアテローム斑の蓄積に寄与する過程である[ 44] 。
プロテアソーム 阻害剤など一部の抗がん剤 は、心不全の合併症と関係している。新生ラットの心筋細胞では、BiPの過剰発現はプロテアソームの阻害によって誘導される心筋細胞の細胞死を減少させる[ 45] 。
神経変性疾患
BiPは小胞体のシャペロンタンパク質であり、誤ってフォールディングしたタンパク質を修正することで小胞体ストレスによる神経細胞 の細胞死を防止する[ 46] [ 47] 。さらに、BIXと名付けられたBiPを誘導する化学物質は脳虚血 モデルマウスで脳梗塞 を減少させる[ 48] [ 49] 。逆に、BiPのシャペロン機能の向上はアルツハイマー病 と強く関係している[ 44] [ 49] 。
代謝性疾患
BiPのヘテロ接合性 は、小胞体ストレス経路をアップレギュレーションし、高脂肪食による肥満 、2型糖尿病 、膵炎 から保護すると提唱されている。また、BiPは脂肪組織 における脂肪生成 (英語版 ) とグルコース の恒常性に必要である[ 50] 。
感染症
原核生物 のBiPのオルソログ は、細菌 のDNA複製 に必須なRecA などのタンパク質と相互作用することが判明している。したがって、これらの細菌のHsp70型シャペロンは抗生物質 開発の有望な標的となる。特にBiPを抑制する抗がん剤OSU-03012によって、淋菌 Neisseria gonorrhoeae のスーパー耐性菌(superbug)株はいくつかの標準的治療で用いられる抗生物質に対し再感受性となる[ 49] 。一方志賀毒素産生性大腸菌 の病原性株は、宿主のBiPを阻害するためにAB5型トキシン を産生し、宿主細胞の生存を弱体化させる[ 44] 。対照的にウイルス は、細胞表面のBiPを介して細胞に感染し、ウイルスタンパク質へのシャペロン活性のためにBiPの発現を促進し、小胞体ストレスによる細胞死応答を抑制するなど、複製の大部分を宿主のBiPに依存している[ 49] [ 51] 。
出典
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外部リンク