ホール XPTBH
飛行中のXPTBH-2
ホール XPTBH (Hall XPTBH )は、1934年 の新型爆撃/偵察機を求めた要求仕様に応じてホール・アルミニウム・エアクラフト(Hall Aluminum Aircraft Corporation)社からアメリカ海軍 へ提示された双発の水上機 である。広範囲にアルミニウム を使用した革新的な構造のXPTBHは試験飛行では成功をおさめたが、海軍には受け入れられなかった。量産契約は受注できず、1機のみ製作された機体が1938年 のハリケーン で破壊されるまで実験機として使用された。
設計と開発
1934年遅くにアメリカ海軍の海軍航空局(Bureau of Aeronautics :BuAer)は、新しい偵察爆撃機と雷撃機 の要求仕様を発行した[ 2] 。これに応じて8社合計10機種の応募があったが、この中で単葉機 の複葉機 の割合は半々であった[ 3] [ N 1] 。ホール社が応募した機体が唯一の水上機であり[ 3] 、試作機1機が1934年6月30日に評価用に海軍から発注された。XPTBH-1の名称が与えられた[ 5] この機体は、1922年 から1962年 まで適用されたアメリカ海軍機の命名規則 下で3種類の任務を表す符号を与えられた唯一の航空機であった[ 6] [ 7] [ 8] 。
ホール社が選択した双フロート を持つ水上機という形式は、新しい雷撃機には駆逐艦 で運用される海軍標準型の魚雷 を搭載すべしという海軍側の要求に従ったものであった[ 9] 。指示に従ってXPTBH-1はライト R-1820 "サイクロン" 星形エンジン を搭載する予定であった[ 5] が、ホール社の生産工場移転による設計作業の遅れにより契約履行が危うくなったことと想定される性能に疑問が出てきたために、機体は幾分小型で2基のプラット・アンド・ホイットニー R-1830 "ツインワスプ" 星形エンジンを搭載するように再設計されることとなった[ 1] 。この再設計により変更された機体は、XPTBH-2という名称を与えられた[ 9] 。
ホール社定番のアルミニウム製鋼管桁 を使用し[ 9] 、胴体と主翼前縁はアルミニウムで覆われた一方で主翼のその他の部分と動翼 は羽布張りであった[ 9] 。.30口径機関銃 を搭載したホール社設計の動力銃座を機首に備えており、1930年代 の標準としては本機の武装は充実したものであった[ 9] 。連装機関銃を装備した可動銃座が機体後方の背面と下面に設けられ[ 9] 、爆撃手が使用するように銃座の下の機首部は平面ガラス張りとなっていた[ 9] 。本機の装備する攻撃用兵器としては、Mk13航空魚雷 か最大2,000ポンド (910 kg)までの爆弾があり[ 9] 、これらは機内の爆弾倉に収納された。双フロート式という降着装置の形式は、これらの兵器を投下することを可能としていた[ 5] 。
運用の歴史
水上を滑走するXPTBH-2。
1937年 1月30日に海軍に納入された[ 5] [ 10] [ N 2] が、本機は同年の4月にホール社のブリストル 工場で公式に披露された[ 9] 。初期の飛行試験は2月に始まり[ 1] 、テストパイロット のビル・マッカヴォイ(Bill McAvoy)により実施された[ 5] [ 9] この試験ではXPTBHはほとんど欠点が見つからず、唯一の顕著な問題はフロートの表面積の影響により引き起こされた横転力の不足(機体を横転させるエルロン の能力不足)であった[ 9] が、この問題は方向舵 の面積を増加させるという改良により解決された[ 9] 。水面上での機体の挙動特性は素晴らしいものであった[ 12] が、試験期間中に表面化した唯一の不満点はXPTBH-2の上陸用降着装置 で、これは最上の穏やかな波の状態以外では非常に使いづらいものあった[ 12] 。
XPTBH-2はほとんどの設計要求仕様に合致しており、飛行試験においては全般的に高評価であった[ 5] [ 12] が、最高速度と攻撃速度の点で契約条件要求には達しなかった[ 1] 。これに加えて米海軍は遠洋雷撃機を運用要件がある航空機としては考えておらず[ 9] 、水上からの運用に限定された水上機という形式が否定的要素とも考えられた[ 4] 。「三位一体」("three-in-one")任務をこなせるという本機に対して器用貧乏(jack of all trades )という見方がされて、各種任務専用に設計された機体の方が優れていると考えられた[ 13] 。量産の発注が出されなかったことでホール社は海軍の方針を非難した[ 12] 。
試験プログラムの終了後にXPTBH-2は、ニューポート (ロードアイランド州) にある海軍魚雷ステーション での実験任務に使用され、航空魚雷 の試験に参加した[ 1] が、1938年 9月21日のニューイングランド・ハリケーン によりXPTBH-2が破壊されるとニューポートでのこの試験は終了した[ 12] 。ホール社が設計した機体としてはXPTBH-2が最後となった[ 9] が、同社は1940年 にコンソリデーテッド・エアクラフト 社に買収されるまで事業を継続した[ 14] [ N 3] 。
要目 (XPTBH-2)
出典: Wegg 1990,[ 5] Trimble 2005,[ 1] Boyne 2001[ 12]
諸元
乗員: 4(操縦士、副操縦士/航法士/爆撃手、航空機関士/銃手、通信士/銃手)
全長: 17.04 m (55 ft 11 in)
全高: 7.34 m (24 ft 1 in)
翼幅 : 24.18 m(79 ft 4 in)
翼面積: 76.9 m2 (828 ft2 )
翼型 : Clark YM[ 16]
空虚重量 : 5,439 kg (11,992 lb)
運用時重量: 8,157 kg (17,983 lb)
動力: プラット・アンド・ホイットニー XR-1830-60 空冷 星型エンジン 、600 kW (800 hp) × 2Propellers: 3-bladed Curtiss constant-speed
性能
最大速度: 293 km/h (158 kn) 182 mph
巡航速度: 274 km/h (148 kn) 170 mph
航続距離: 1,369 km (739 nmi) 850 mi (魚雷搭載時)
実用上昇限度: 6,218 m (20,400 ft 8,157 kg(17,983 lb)の戦闘運用重量で)
上昇率: 5.3分 5,000 feet (1,500 m)まで
翼面荷重 : 126 kg/m (25.8 lb/sq ft)
武装
固定武装: 2 × .30口径機関銃 (機首銃塔、背面銃座)、1 × .30口径又は.50口径機関銃(機体下面銃座)
爆弾 : 1 × Mk13航空魚雷 か最大2,000ポンド (910 kg)までの爆弾
関連項目
参照
脚注
出典
^ a b c d e f Trimble 2005, p.14.
^ Dann 1996, p.20.
^ a b c Doll 1992, p.4.
^ a b Windrow 1970, pp.28–29.
^ a b c d e f g Wegg 1990, p.115.
^ Swanborough and Bowers 1990, p.8.
^ Kelly and Riley 1997, p.35.
^ Boyne 2001, p.59.
^ a b c d e f g h i j k l m n Boyne 2001, p.60.
^ Wagner 1960, p.335.
^ Van Fleet et al. 1985, p.90.
^ a b c d e f Boyne 2001, p.61.
^ Trimble 1982, p.207.
^ Pattillo 2000, p.105.
^ Wegg 1990, p.113.
^ Lednicer 2010
参考文献
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外部リンク