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ゲシュタルト崩壊

ゲシュタルト崩壊(ゲシュタルトほうかい、: Gestaltzerfall)とは、知覚における現象のひとつ。全体性を持ったまとまりのある構造(Gestalt, 形態)から全体性が失われてしまい、個々の構成部分にバラバラに切り離して認識し直されてしまう現象をいう。近年、同じ語を長時間凝視し続けていたり、何度も繰り返したりしていると,次第にその意味が減じられる現象として扱われることがあるが、誤りである[1]。幾何学図形、文字、顔など、視覚的なものがよく知られているが、聴覚皮膚感覚味覚嗅覚においても生じうる。

概要

1947年、C・ファウスト(C. Faust)によって失認の一症候として報告されたが[2]、持続的注視に伴って健常者にも生じることが知られるようになった[3]認知心理学の視点から「文字のゲシュタルト崩壊」が研究されている。これは、例えば同じ漢字を長時間注視しているとその漢字の各部分がバラバラに見え、その漢字が何という文字であったかわからなくなる現象である[注釈 1][4][注釈 2]

事象関連電位(ERP)を用いた小数の検体による試験では当該現象の発生過程を継時的に把握が可能であるとする研究報告が有る[6]

原因

近年では、意味飽和[注釈 3][7]との関連も指摘されている[3]が、ゲシュタルト崩壊の発生要因については未解明な部分が多く、静止網膜像のように消失が起きないことなどから、感覚器疲労順応によるのではなく、「比較的高次な認知情報処理過程によって発生する」[3]ことがわかっている程度である。

脚注

注釈

  1. ^ 例えば、縦に「○×園」と書いてある看板が、「○×ハム園」としか見えなくなってしまう等。
  2. ^ 夏目漱石の『』の冒頭に、このことを描いた場面がある。
    「…いくらやさしい字でも、こりゃ変だと思って疑ぐり出すと分らなくなる。この間も今日の今の字で大変迷った。紙の上へちゃんと書いて見て、じっと眺めていると、何だか違ったような気がする。しまいには見れば見るほど今らしくなくなって来る。… 」[5]
  3. ^ 例えば平仮名の「あ」を長時間凝視したり、連続して大量に書き続けた場合、「あ」という文字はこんな字だったか?と思ってしまう現象である。

出典

  1. ^ 下木戸隆司「劣化した視覚刺激による意味的飽和効果の検討」『認知心理学研究』第4巻第1号、日本認知心理学会、2006年、25-32頁、doi:10.5265/jcogpsy.4.25  
  2. ^ Faust, C. (1947). “Über Gestaltzerfall als Symptom des parieto-occipitalen Übergangsgebiets bei doppelseitiger Verletzung nach Hirnschuß”. Nervenarzt (18): 103-115. 
  3. ^ a b c 二瀬由理, 行場次朗 (1996). “持続的注視による漢字認知の遅延 ゲシュタルト崩壊現象の分析 [Delays produced by prolonged viewing in the recognition of Kanji characters: analysis of the "Gestaltzerfall" phenomenon]”. 心理学研究 (日本心理学会) 67 (3): 227-231. doi:10.4992/jjpsy.67.227. ISSN 00215236. PMID 8981675. https://doi.org/10.4992/jjpsy.67.227. 
  4. ^ 漢字のゲシュタルト崩壊現象とは何でしょうか?”. 心理学Q&A. 日本心理学会. 2012年10月5日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年9月29日閲覧。
  5. ^ 夏目漱石『門』 - 青空文庫
  6. ^ 舩田眞里子, 橋本航「ゲシュタルト崩壊と事象関連電位に関する研究」『白鴎大学論集』第31巻第2号、白鴎大学経営学部、2017年3月、87-101頁、CRID 1050282812779509632ISSN 09137661 
  7. ^ 仁平義明、佐伯胖・佐々木正人編「からだと意図が乖離するとき」『アクティブ マインド』、東京大学出版会、1990年、CRID 1570291225745963904NAID 10024450253 

関連項目

外部リンク

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