タルゴIII RD (Talgo III RD、Talgo Series 3 RD)は、スペイン の鉄道車両メーカーであるタルゴ社 が開発した連接式 客車 の1つ。軌間 が異なる区間を直通する事が可能な軌間可変車両 として開発された。名称の「RD」はスペイン語 の「軌間可変(R odadura D esplazable)」の略称である[ 1] [ 2] 。
開発までの経緯
歴史的な事情により、スペイン の大半の鉄道の軌間 は1,668 mm(イベリア軌間 )と呼ばれる、隣国のフランス を始めとする他国で標準的に採用されている1,435 mm(標準軌 )よりも広い幅を有している。これはスペイン国外への国際列車を運行する際に大きな支障となり、スペインとフランスを直通する列車は特定の駅で台車 を交換する必要があった。
この状況を改善するべく、1966年 に当時のスペイン国鉄 (RENFE)は国際鉄道連合(UIC)の後援の元、世界各地の鉄道車両メーカーに対して異なる軌間を直通する事ができる軌間可変システム に関する入札を実施した。そして、スペイン国内外の企業による複数のシステムから選ばれたのはスペインのタルゴ社が提案した軌間可変(Rodadura Desplazable、RD)システムであった。これを基に製造が実施された車両がタルゴIII RDである。
概要
タルゴIII RDを含めたタルゴ社が生産する客車は、車軸 を持たず各車輪が独立して設置されている1軸台車 を有している。タルゴIII RDはこの構造を活用し、1次ばね[ 注釈 1] やディスクブレーキ 等に加え、各軌間に対応した位置に車輪を固定する事が可能なロックが各台車に設置されている。このロックは、国境付近の駅に設置された軌間可変装置を低速で通過する際に自動的に外され、車輪を横方向に動かした後で再度掛けられる構造となっており、台車を交換する事無く異なる軌間の路線を直通する事が可能となっている[ 1] 。
車体構造についてはタルゴIII を踏襲しており、モノコック構造 を採用したアルミニウム合金 製の構体 やコルゲート加工 が施された外板を有していた。一方で国際列車に使用されたことから車体幅はタルゴIIIよりも狭い2,828 mmに改められた。また、機関車 から補助電源を供給する構造であったタルゴIIIとは異なり、タルゴIII RDは発電機を搭載した電源車 を両端に連結する編成が採用された他、連結器もねじ式連結器 に改めた事で、専用の機関車以外による牽引が可能となった[ 注釈 2] [ 1] 。
主要諸元
タルゴIII RD 主要諸元[ 1] [ 9] [ 10]
形式
車種
定員
全長
重量
備考
TA2 201
一等 座席車
17人
11,100mm
8.8t
[ 11]
TB2 202
二等 座席車
25人
11,100mm
9.0t
1981年 にTA2 201の一部車両を改造[ 12]
TC2 206
カフェ車
0人
11,100mm
9.7t
バーカウンター、供食設備を設置[ 13]
TR2 210
食堂車
0人
11,100mm
9.7t
24人分の座席を設置 供食設備なし[ 14]
TG2z 211
電源車
0人
12,120mm
16.6t
[ 15]
TG2 212
電源車
0人
12,120mm
14.3t
[ 16]
TWL3g 307
一等寝台車
10人
11,100mm
?
2人用個室を設置
TWL3u 308
二等寝台車
16人
11,100mm
?
4人用個室を設置
運用
最初の試作車(一等座席車2両、電源車2両)は1967年 10月 に完成し、スペイン国内での試運転を経て翌1968年 11月12日 にマドリード - パリ間で軌間可変機構のテストを兼ねた最初の試運転が実施された。その後数ヶ月間実施された各種の試験の結果が良好であった事を受け、レンフェはタルゴ社へ向けて量産車の発注を実施し、1969年 6月1日 からスペインとフランス、スイスを結ぶ国際列車(TEE )のカタラン・タルゴ (スペイン語版 ) (Catalán Talgo)で営業運転を開始した。更に1974年 からはタルゴ製客車を用いた初の夜行列車 であるバルセロナ・タルゴ (Barcelona Talgo)にも投入され、それに合わせて寝台車の製造も実施された。
その後、バルセロナ・タルゴ用車両は1991年 に後継車のタルゴVI (Talgo 6)に置き換えられ、以降はスペイン国内で使用されたが2000年 に全車とも廃車・解体された。一方、カタラン・タルゴ用車両については種別変更による一等車の二等車への格下げ、運行区間の縮小はあったもののそれ以降も運行を続けたが、フランス - スペイン 間の高速鉄道であるLGVペルピニャン-フィゲラス線 の開通に伴い、2010年 12月18日 のカタラン・タルゴの最終運転と共に営業運転を終了した[ 23] 。
このカタラン・タルゴに使用されていた車両のうち、電源車2両を含む10両については2013年 に登場当時の外見・内装への復元工事が行わた上で動態保存されており、2021年 現在もバルセロナ を中心に観光・団体列車に用いられている[ 24] [ 25] 。
フランス国内を走行するタルゴIII RD(
1979年 撮影)
スペイン国内を走行するタルゴIII RD(
2009年 撮影)
専用機関車
353形(2000年 撮影)
タルゴIII RDの製造に合わせ、1968年 から1969年 にかけて専用のディーゼル機関車 である353形 (登場時の形式名は「3000T形」)が5両製造されている。
脚注
注釈
^ 製造当初の1次ばねはコイルばね であったが、1970年代初頭に乗り心地向上のため空気ばね に改められた[ 1] 。
^ ただし、前方の車輪をガイドする特殊な固定緩衝器が電源車に設置されている関係上、牽引可能な機関車には制限が存在した。
出典
参考資料