レーティッシュ鉄道路線図
沿線の名所のひとつラントヴァッサー橋 を渡る列車 もう一つの沿線の名所であるベルニナ線、ブルージオのオープンループ線
レーティッシュ鉄道 (レーティッシュてつどう、ドイツ語 : RhB: Rhätische Bahn [ 注釈 1] 、イタリア語 : Ferrovia retica 、ロマンシュ語 : Viafier retica )は、スイス 東部のグラウビュンデン州 を中心に約400kmの路線網を持つスイス最大級の私鉄 である。沿線にサンモリッツ やダヴォス などの世界的なリゾート 地を持ち、氷河急行 やベルニナ急行 といった看板列車を走らせている観光路線であるほか、地域の生活路線としても旅客・貨物輸送共に多数の列車を運行してグラウビュンデン州の鉄道輸送をほぼ一手に担い、州の経済において重要な役割を果たしている。アルブラ線 の一部とベルニナ線 は「レーティッシュ鉄道アルブラ線・ベルニナ線と周辺の景観 」として世界遺産 リストへの登録もされている。日本語では、レーテッシュ鉄道、レーティッシェ鉄道、レーティシュ鉄道(鉄道はバーンとも)などとも表記される。
概要
レーティッシュ鉄道はグラウビュンデン州の州都クール に本社を置くスイス最大級の私鉄で、以下の各言語で表記され、所属する車両にもいずれかの表記でロゴが入れられている。
ドイツ語 表記:Rhätische Bahn
フランス語 表記:Chemins de fer rhétiques
イタリア語 表記:Ferrovia retica
ロマンシュ語 表記:Viafier retica
いずれも「ラエティアの鉄道」の意味である。ラエティア は紀元前3000年 頃からこの地に住んでいたとされるスイス東部の先住民族 の名前[ 注釈 2] またはそれに由来するこの地方の古い地名(ラエティア/レーティエン[ 注釈 3] )である。
グラウビュンデン州にはスイス連邦鉄道 (スイス国鉄)はほとんど路線を持たず、レーティッシュ鉄道がほぼすべての鉄道輸送を担っている。このため、私鉄でありながら、株式の51%をグラウビュンデン州が、43%をスイス連邦が所有し、民間の所有は6%となっており、多くの機関車 や電車 の前面にはグラウビュンデン州の紋章が設置されているほか、2004年 以降順次採用されている客車 の新塗装では車体側面にもグラウビュンデン州のロゴ が入っている。
また、レーティッシュ鉄道は、スイスアルプス の山岳地帯に路線網を持つにもかかわらず、ループ線 やトンネル を多用することでラック式 には頼らずに勾配 を本線系統では45パーミル 、ベルニナ線やクール - アローザ線でも72パーミルや60パーミルに抑え、すべて粘着式鉄道 としているのが特徴であり、結果として長大編成 の列車を運行可能としており、現在では主要路線の各駅は約260 - 300mの線路有効長 が確保されている。
レーティッシュ鉄道はラントクアルトからダヴォスまでの路線を建設したラントクアルト-ダヴォス鉄道[ 注釈 4] を前身としている。同社が最初にダヴォスまでの路線を計画した際にはラック式やスイッチバック によることも検討された。しかし、結果的には通常の粘着式鉄道とし、スイッチバックも1箇所(Klosters Platz railway station 後に解消される)のみとし、費用的な面から標準軌 ではなくメーターゲージ (狭軌)で建設することとなり、このときの決定がその後のレーティッシュ鉄道の各路線建設における基本方針となっている。ラントクアルト-ダヴォス鉄道は1890年 にはダヴォスまでの路線を開業させたが、グラウビュンデン州の他の地域へ路線を拡大するために1895年 には社名をレーティッシュ鉄道に変更し、その後1897年 には住民投票により州営となって急速に路線を拡大していくこととなった。また、第一次世界大戦 による石炭価格の高騰により、交流 11kV16.7Hzでの電化 が検討され、エンガディン線開業時にサメダン - シュクオール・タラスプ間が電化されたのを皮切りに1913年 から1922年 にかけて本線系統はすべて電化されている。なお、スイス国鉄などでは交流15kVを採用しているが、レーティッシュ鉄道ではトンネル断面が小さいため、絶縁上の問題から11kVと低い電圧を採用している。その後、1942年 には同じクールとリゾート地のアローザ を結ぶクール-アローザ鉄道[ 注釈 5] とティチーノ州 のベリンツォーナ -メソッコ電気鉄道[ 注釈 6] を、1943年 にはサンモリッツとイタリア のティラーノ を結ぶベルニナ鉄道[ 注釈 7] を合併し、グラウビュンデン州の鉄道をレーティッシュ鉄道に統合した。
第二次世界大戦 後1970年代 までは財政的には厳しかったものの、助成金 によって路線や駅を廃止せずに乗切ることができたが、スイス国鉄によるレーティッシュ鉄道の統合も議論されることがあった。1970年代以降1980年代 にかけての助成金の減少に伴い、レーティッシュ鉄道は観光鉄道としての利用喚起に本腰を入れるようになり、美しい沿線風景を旅行者にアピールした結果、氷河急行 、 ベルニナ急行 などの看板列車は1年を通じて多数の旅行者を輸送することとなった。また、利用の少ない駅の廃止や停留所の格下げもこの時期に実施されているが、その後も続く財政問題の解決のため、現在も合理化プログラムが進行しつつ、輸送力増強や近代化のための設備増強も実施されている。また、運行面ではスイス全国に及ぶ交通網改良計画であるBahn+Bus 2000計画によって、レーティッシュ鉄道でも2004年 12月より旅客列車の運行系統の整理がなされて昼間時間帯を中心に1時間ごとのパターンダイヤ化され、ダイヤ上必要ないくつかの区間についてはそれぞれ短区間ながら積極的に複線 化が進められて運行の効率化を図っている。
レーティッシュ鉄道とスイス、イタリアおよび各沿線自治体ではアルブラ線とベルニナ線とその沿線の景観 について、世界遺産 登録を目指してGe4/4III 形 650号機およびABe4/4 51-56形 51号機をラントヴァッサー橋 をデザインした広告塗装機とするなどの活動を行ってきた。その結果、2008年の第32回世界遺産委員会 で「レーティッシュ鉄道アルブラ線・ベルニナ線と周辺の景観 」として正式に世界遺産リストに登録されている。なお、世界遺産登録名に「鉄道」と明記されている世界遺産はオーストリア の「ゼメリング鉄道 」、インド の「インドの山岳鉄道群 」[ 注釈 8] に続き3例目である。
沿革
路線
ラントクアルト - ダヴォス(プレティガウ線)
プレティガウ線の線路高低図
路線長:49.9km
開通年
電気方式:交流11kV 16.7Hz
最急勾配:45パーミル
最小曲線半径:100m
標高:523.4-1652.2m
隧道:7箇所
橋梁:16箇所
複線区間
ラントクアルト-ダヴォス鉄道により開通したレーティッシュ鉄道で最も古い路線であり、スイス国鉄と連絡するラントクアルトから同じくラントクアルトでライン川から分かれる支流のラントクアルト川を遡り、ダヴォスの手前で分水嶺を越えてダヴォス湖およびそこから流れるランドヴァッサー川沿いのダヴォス・プラッツへ至る路線であり、一部の氷河急行もダヴォス発着となっている。
ラントクアルトはライン川 沿いのザンクト・ガレン州 との境界に近い位置にあるグラウビュンデン州の玄関口となっている都市であり、スイス国鉄もここからグラウビュンデン州に入る。同地は現在でもレーティッシュ鉄道の0km地点となっているほか、レーティッシュ鉄道最大の車両工場 であるラントクアルト工場の所在地でもあり、所属車両の検査および修繕を行っているほか、機関車の運転台交換や機器更新などの大規模改造も行われている。工場はトラバーサー の両側に3棟計21線の主工場や2棟計4線の検修庫、11線の留置線や倉庫と引込線が並ぶほか、転車台 と19線の扇形庫 、3線の列車検修庫などで構成されている。また、ラントクアルト工場はスイス国内の車両メーカーで製造された車両の各種試験のベースとなったり、シュタッドラー・レール 社が製造する車両の一部はラントクアルト工場で最終組立が行われたりしたほか、他鉄道の車両の改造や修繕工事も実施されている。
開業当初、クロスタース駅はレーティッシュ鉄道唯一のスイッチバック駅であったが、1928年から30年にかけて駅の側方にループトンネルを設けて駅の後方へ回り込む線路を設けてスイッチバックを解消している。
ダヴォスはランドヴァッサー川沿いにある19世紀からのリゾート地で、高地療養のためのサナトリウムとして造られたほか、スキーリゾートとしても有名であり、街の北東にダヴォス・プラッツ駅が、南西にダヴォス・ドルフ駅がある。また、クロスタースもダヴォスからつながるスキーリゾート地であり、冬季にはスキー客輸送用のシャトルトレインがクロスタース-ダヴォス・プラッツ間に多数運行される。
クロスタース - スーシュ(フェライナ線)
標高2383mのフュルエラ峠をくぐる全長19kmのフェライナトンネル を主とする新しい路線で、エンガディン地方への速達ルートとなっており、開業時には「NEVA Retica」[ 注釈 9] もしくは「NEVA Pendel」と呼ばれるプッシュプル式 の旅客列車がクールやラントクアルトからシュクオール・タラスプへ運行されていた。また、フェライナトンネルを抜けてセルフランからサヤインスまで標準18両編成、編成長320mの列車フェリー が運行されており、2006年には50万台以上の自動車を輸送している。なお、フェライナ線は車両限界が拡大されており、列車フェリーの車両積載車のうち、屋根つきの車両には全長18.5m、全幅2.5m、全高3.3m、総重量18t以下の、屋根無しの車両ではホイールベース12.5m、全幅2.5m、全高4.0m、総重量28tまでの自動車を積載できるため、比較的大型のトラックやバスの輸送も可能となっており、最高速度も100km/hとされている。なお、このトンネルの開通によってフュルエラ峠を通過する道路は冬季は通行止めとなるようになった。
ラントクアルト - クール
路線長:13.7km
開通年:1896年 8月29日
電気方式:交流11kV 16.7Hz
最急勾配:19パーミル
標高:523.4-584.3m
隧道:0箇所
橋梁:1箇所
複線区間
ラントクアルトからライン川に沿ってグラウビュンデン州の州都であるクールへ至る路線であり、建設はラントクアルト-クール-テュシス間の路線として行われている。比較的開けた土地を走行するため最急勾配も19パーミルと平坦であり、標高差も61mと小さくなっている。また、この区間はスイス国鉄と並行した路線となっている。
ラントクアルト駅からは食品工場、運送会社などへの、ウンテルファッツ駅からはリサイクルセンターやセメント工場への引込線が設けられており、いずれも並行するスイス国鉄との共用使用のため1435mm軌間と1000mm軌間の三線軌条 となっている。なお、ウンテルファッツ駅の貨物取扱量ははレーティッシュ鉄道で最大となっている。
クールはスイス国鉄との共同使用駅であり、再開発により2003年 12月6日 からバス乗り場も統合した新駅となっている。駅の北西側がレーティッシュ鉄道、南東側がスイス国鉄となっており、駅の北西側および西側には両鉄道の留置線や機関区などが設けられている。また、クール - アローザ線はクール駅の南東側の駅前広場 から発着するが、スイス国鉄駅の脇に貨物ホームがあり、スイス国鉄線を横断する連絡線によって本線系統と接続している。
クールはスイス最古の街とも呼ばれ、5000年以上の歴史を持ち、古代ローマ時代[ 注釈 10] などではアルプスを南北に結ぶ交通の要所であり、現在でもエンガディン地方への玄関口となっている。
ラントクアルト市街、中央下寄りに駅と工場が広がる
クール市街
クール駅
クール駅の2階はバスターミナルとなっている
クール市内にあるレーティッシュ鉄道の社屋
クール - サンモリッツ(アルブラ線)
アルブラ線の線路高低図
アルブラトンネルの断面図
路線長:89.0km
開通年
クール - テュシス(27.3km):1896年7月1日
テュシス - ツェレリーナ(59.1km):1903年 7月1日
ツェレリーナ - サンモリッツ(2.6km):1904年 7月9日
電気方式:交流11kV 16.7Hz
最急勾配:35パーミル
標高:569.2-1820m
隧道:41箇所
橋梁:50箇所
複線区間
クール - ライヒェナウ・タミンス間(9.7km)
トゥシス - シルス(ドムレシュク)間(1.8km)
ランドヴァッサートンネル南口 - フィリズール間(1.0km)
プレダ駅付近(2.1km)
レーティッシュ鉄道のメインラインであり、クールを出た後ライン川に沿って進み、ライヒェナウ・タミンス駅でオーバーランド線と分岐してからは同じくフォルダー・ライン川と分かれたヒンター・ライン川を、その後トュシスからはその支流であるユリア川のシュン渓谷を、ティーフェンカステルからはさらに分かれたアルブラ川に沿ってアルブラ渓谷を登り、アルブラ川とドナウ川 の主要な支流の一つであるイン川 の支流との分水嶺 であるアルブラ峠をアルブラトンネル で越えてエンガディン地方へ入り、ベーベルからはサンモリッツに向けてイン川を上る路線で、氷河急行、ベルニナ急行の運行区間の一つである。なお、レーティッシュ鉄道の路線区分においてはクール - サンモリッツ間を1つの路線として[ 1] いるほか、運行系統上でもこの区間が1路線(路線番号940)となっており[ 2] 、この区間を「アルブラ線」とする場合[ 3] や文献[ 4] がある一方で、世界遺産「レーティッシュ鉄道アルブラ線・ベルニナ線と周辺の景観」に指定されているトゥシス駅を過ぎた地点からサンモリッツ間を「アルブラ線」とする場合[ 5] の双方があり、アルブラ線という通称の使用法は一定ではない。
クールからライヒェナウ・タミンスまでの間9.7kmは複線で、そのうちクールからドマート/エムスまでの間はうち1線がスイス国鉄から乗り入れる貨物列車用の1435mm軌間と1000mm軌間の三線軌条となっており、1435mm軌間の軌道を使用する際には単線並列 的に使用される。また、この区間の架線電圧はレーティッシュ鉄道の列車用の交流11kV 16.7Hzであるが、架線電圧交流15kV 16.7Hz対応のスイス国鉄の電気機関車が牽引する貨物列車もそのまま入線する。途中のフェルスベルク駅からはカランダ・ビール[ 注釈 11] のビール工場への三線軌条の引込線が、ドマート/エムス駅からは化学製品メーカーのエムスケミー の工場への1435mmの引込線がそれぞれ設置されている。
トゥシス-ティーフェンカステル間でユリア川を越えるソリス橋はレーティッシュ鉄道で一番高い橋であり、全長164m、高さ89mの石造橋である。
ダヴォス方面の路線と分岐するフィリズールの手前でアルブラ川は同じくダヴォス湖から流れるランドヴァッサー川と分かれるが、アルブラ線がこの分かれたランドヴァッサー川を渡る橋がレーティッシュ鉄道随一の名所であるラントヴァッサー橋 である。この橋は全長141.7m、最大高さ65m、勾配20パーミルの6連アーチの石造橋であり、橋のティーフェンカステル側は急な斜面となっているが、フィリズール側はほぼ垂直の崖となっており、橋がランドヴァッサートンネルへ直接つながっており、橋が半径400mのカーブとなっていることと合わせて絶好の景観を生み出している。
フィリズールから先はアルブラ川に沿ってさらに上るが、この区間はループ線等を多用して高度を稼いでいる。フィリズール駅近くでループ線1箇所、ベルギュン-ブレダ間ではオメガループ線2箇所とループ線とダブルループ線1箇所ずつが連続し、この区間は直線距離では約5kmであるが、線路長12.6kmで高度416mを登っている。なお、冬季にはこのループ線区間で列車をリフト 代わりに利用するそり遊び 客用にベルギューン-プレダ間にシャトルトレインが多数運行される。
ブレダ駅を過ぎるとすぐにアルブラ峠をくぐり北海 と黒海 の分水嶺であるアルブラトンネルに入る。このトンネルは開通時、狭軌世界最長のトンネルであり、現在でもアルプスを越える最も標高の高いトンネルであり、全長5866mでブレダ側約3000mが上り10パーミル、その先が下り2パーミルとなっている。2010年 まではアルブラトンネルを通過するテュシス-サメダン間で自動車積載貨車が運転されており、両駅に自動車積載用の設備が設けられているが、この線の車両限界が通常の大きさであるため、高さ2.5m、幅2.2mまでの自動車までしか積載することができなかった。なお、アルブラトンネルは老朽化が進行しているため、並行して新トンネルを建設し、現アルブラトンネルを非常用の避難路とする計画が実施され、2024年6月12日から新トンネルに置き換えられた[ 6] 。
アルブラトンネルを越えてエンガディン地方に入ると、ロマンシュ語圏となって家屋の様式なども変わるが、アルブラ線はベーベル駅でエンガディン線と分岐してイン川を上り、サメダンでポントレジーナ方面へ分岐したあと終点でありベルニナ線との接続駅で両線が並ぶ行き止まり式の駅であるサンモリッツへ至る。サンモリッツはイン川の途中にあるサンモリッツ湖の畔にある高級リゾート地で、1928年 と1948年 の2回の冬季オリンピック が開催されるなど世界的にも有名であり、シャンパン気候と呼ばれる爽やかな気候が特徴である。
ダヴォス - フィリズール
路線長:19.3km
開通年:1909年 7月1日
電気方式:交流11kV 16.7Hz
最急勾配:35パーミル
標高:1080.2-1540.2m
隧道:14箇所
橋梁:11箇所
プレティガウ線のダヴォス・プラッツからアルブラ線のフィリズールの間をランドヴァッサー川に沿って下る山岳路線 である。比較的距離は短いが、トンネルが14箇所と多く、うち2本は900mを越える。また橋梁は7箇所であるが、このうちウィーセナー橋は長さ204m、高さ87mの石造橋で、この線名所のひとつとなっている。なお、レーティッシュ鉄道の路線区分においては通称プレティガウ線と合わせたラントクアルト - ダヴォス - フィリズール間が1つの路線となっている[ 7] 一方で、運行系統上では路線番号910(プレティガウ線とフェライナ線経由シュクオール・タラスプまで)と915(ダヴォス - フィリズール)に区分されており[ 2] 、プレティガウ線と本区間を別路線として扱う文献もある[ 4] 。
ライヒェナウ - ディセンティス/ミュンスター(オーバーランド線)
路線長:49.3km
開通年
ライヒェナウ - イランツ(19.3km):1903年6月1日
イランツ - ディセンティス/ミュンスター(30.0km):1912年 8月1日
電気方式:交流11kV 16.7Hz
最急勾配:27パーミル
標高:604.3-1129.7m
隧道:5箇所
橋梁:24箇所
ライン川 沿いに遡り、ライヒェナウ・タミンス駅付近でヒンター・ライン川と別れたフォルダー・ライン川に沿ってライン峡谷の川面近くを抜け、フォルダー・ライン川を5回渡りながら遡り、ディセンティス/ミュンスターでマッターホルン・ゴッタルド鉄道 [ 注釈 12] に接続する路線で、氷河急行 の運行区間の一つである。
レーティッシュ鉄道とマッターホルン・ゴッタルド鉄道では軌間、架線電圧等は共通であるが機関車の直通は行われず、客車についても氷河急行のみ直通となり、その他は運行が分かれている。
ディセンティス/ミュンスター駅のミュンスターはロマンシュ語で修道院 を意味しており、駅近くにはスイス最古のベネディクト派 の修道院がある。
カストリッシュ駅とその付近
オーバーランド線の列車、カストリッシュ駅付近
イランツ駅とその付近
イランツ駅付近のセメントおよび木材主体の貨物列車
ライン峡谷を行く列車
ライン峡谷を行く氷河急行
ライン峡谷内のフェアサム・サフィン駅
フェアサム・サフィン駅構内
ライン川沿いの氷河急行
トゥルン駅付近
ディセンティス/ミュンスター駅
ディセンティス/ミュンスター駅構内
ベーベル - シュクオール・タラスプ(エンガディン線)
エンガディン線(サンモリッツ - ベーベル間はアルブラ線)の線路高低図
路線長:49.4km
開通年:1908年 7月1日
電気方式:交流11kV 16.7Hz
最急勾配:25パーミル
標高:1286.7-1710.2m
隧道:17箇所
橋梁:30箇所
エンガディン地方のアルブラ線のベーベルから、ドナウ川の支流であるイン川に沿ってオーバーエンガディンの下流部からウンターエンガディンの古くからの保養地であるシュクオール までの区間を下っていく路線である。「エンガディン」は“イン川の”谷を意味しており、本路線は大きな勾配はなく、最大勾配である25パーミルの区間も一部であり、多くは平坦から20パーミルの間となっている。当初から電化で開業しており、本線系統では初の電化路線となっている。
途中にはスイス唯一の国立公園の玄関口であるツェルネッツ駅、スイスの文化財保護地域に指定されたグアルダの入口であるグアルダ駅などがあり、終点のシュクオール・タラスプ駅はローマ時代から知られる天然温泉の沸く保養地であり、ウンターエンガディンの中心地である。また、タラスプの名はシュクオール郊外にある11世紀の古城タラスプ城に由来する。
サメダン - ポントレジーナ
路線長:5.9km
開通年:1908年7月1日
電気方式:交流11kV 16.7Hz
最急勾配:25パーミル
標高:1705.4-1773.7m
隧道:6箇所
橋梁:2箇所
アルブラ線のサメダンとベルニナ線のポントレジーナ間を短絡する路線で、サンモリッツを通らないベルニナ急行などが通過するほか、ポントレジーナ発のエンガディン線の列車が主に運転されている。
サメダン駅はアルブラ線のベーベル方面からの路線がサンモリッツ方面とベルニナ線方面に分岐する駅であるほか、サメダン機関区が置かれており、留置線や工場が設置されている。また、ポントレジーナ駅は架線電圧交流11kVの本線系統と直流1000Vのベルニナ線の接続駅であり、駅構内の4本の線路(うち3本がホーム付)のうち3番線1本が交流11kVと直流1000Vの切換式、2本が交流11kV、1本が直流1000V用となっており、ベルニナ線の留置線が併設されている。
サメダン駅とその付近
サメダン駅
ポントレジーナ駅付近
ポントレジーナ駅
サンモリッツ - ティラーノ(ベルニナ線)
ベルニナ線の線路高低図
路線長:60.7km
開通年:1908年 7月1日(一部、夏季のみ)/ 1910年 7月5日 全線開通
レーティッシュ鉄道へ合併:1943年 1月1日
電気方式
最急勾配:70パーミル[ 8] [ 9]
最小曲線半径:45m
標高:429.3-2253.2m
隧道:11箇所
橋梁:11箇所
サンモリッツからベルニナ峠を越えイタリア のティラーノまで下る路線。1908年 ベルニナ鉄道として部分開業し、1910年 全線開通。
観光列車として知名度の高いベルニナ急行 の運行区間の一つであり、終点のティラーノ駅 ではトレニタリア と接続する。ティラーノ駅は当鉄道で唯一イタリア領にあるが、2022年現在イミグレーション は不要[ 注釈 13] 。税関検査や申告が必要な場合のみ同駅で行われる[ 11] 。
最高標高2253 mは粘着式鉄道 としてはヨーロッパ で最大であり、高度差1824mを最急勾配70パーミル、最急曲線半径45mで越える山岳路線で、途中区間は森林限界 を超え、途中の車窓からは3箇所の氷河 が見られる。また、一部区間では併用軌道 を走行する。
日本の神奈川県 を運行する小田急箱根 の鉄道線(箱根登山電車) は、海外視察者からの情報や、建設当時の同鉄道の技師長がベルニナ線を視察、調査した結果などを基に建設されており、このことが縁で1979年にレーティッシュ鉄道と箱根登山鉄道(当時)は姉妹鉄道となっている。ベルニナ線の主要3駅には箱根登山鉄道から寄贈された駅名板が設置されている[ 注釈 14] ほか、1990年 製造のABe4/4 54号機 が「Hakone」と命名された。2010年 、Ge4/4 II 622号機が「箱根登山電車」広告車両となった。2014年 には箱根登山鉄道の3000形 がABe8/12_3501-3515形 の愛称にならって、「アレグラ号」と命名された。
ベルニナ峠を下るベルニナ急行
森林限界上を行く列車
冬のオスピッツォ・ベルニナ付近のベルニナ急行
冬のオスピッツォ・ベルニナ付近の混合列車
ラーゴ・ビアンコ付近
モルテラッチュ氷河
アルプ・グリュム駅とパリュー氷河
アルプ・グリュム駅とヘアピンカーブ
アルプ・グリュム付近、左側のスノーシェッドに覆われたつづら折りの線路がベルニナ線
ポスキアーヴォ湖
ポスキアーヴォ駅
ブルージオのオープンループ
ブルージオのオープンループ
ブルージオ駅とその周辺
ティラーノ市内の併用軌道
ティラーノのシンボルであるマドンナ・ディ・ティラーノ巡礼教会
併用軌道を走るABe8/12形通称"Allegra(アレグラ)"
ABe4/4 54号機 "Hakone(箱根)"
ベリンツォーナ-メソッコ(ベリンツォーナ - メソッコ線)
路線長:31.3km
開通年:
ベリンツォーナ-メソッコ電気鉄道ベリンツォーナ - ロスタッロ間(21.4km):1907年 5月6日
ベリンツォーナ-メソッコ電気鉄道ロスタッロ - メソッコ間(9.9km):1907年7月31日
レーティッシュ鉄道へ合併:1942年 1月1日
ベリンツォーナ - カスティオーネ間廃止、全線の旅客列車廃止:1972年 5月28日
カーマ - メソッコ間廃止:1978年 8月
メソルチーナ鉄道[ 注釈 15] へ譲渡:2003年 12月31日
カスティオーネ - ローベレド間の線路撤去開始 : 2014年 6月
電気方式:直流1500V
最急勾配:60パーミル
最小曲線半径:80m
標高:244-769m
隧道:3箇所
橋梁:28箇所
ベリンツォーナ-メソッコ電気鉄道がティチーノ州の古都で、現在では世界遺産となっている「ベッリンツォーナ旧市街の3つの城と防壁・城壁群 」があるベリンツォーナ からメソッコまでを開業させた山岳路線で、メソッコから先レーティッシュ鉄道のフィリズール近辺への延長を計画していたが実現しなかった。
1960年代に路線に並行して国道A13号線が開通して、冬季でも安定した自動車輸送が可能になったことから旅客輸送量が減少したため、1966年 頃から廃止の検討がなされ、1972年5月28日にはベリンツォーナ - カスティオーネ間3.5kmが廃止となると共に全線の旅客輸送が廃止され、PTTバスに転換された。さらに、1978年8月7 、8日 の暴風雨 により大きな被害を受けたカーマ - メソッコ間15.1kmはそのまま休止となり、1979年 12月9日 に廃止となった。
カスティオーネ駅はスイス国鉄との連絡駅であり、スイス国鉄の1435mm軌間の貨車を標準軌貨車積載車に積載する設備が設けられていた。グロノ駅やサン・ビトーレ駅手前にも同様の設備があり、そこから1435mm軌間の引込線が工場等へ設けられていた。
1995年 以降にはメソルチーナ鉄道の手でファントレインが運行され、ベリンツォーナ- メソッコ線の車両のほか、レーティッシュ鉄道、ベルニナ鉄道その他スイス私鉄の旧型客車や電車が使用されているほか、1997年にはレーティッシュ鉄道のG3/4形1号(ハイジ)蒸気機関車によるスイス鉄道150周年記念列車も運行されている。
2003年12月31日には残ったカスティオーネ - カーマ間と所属車両がメソルチーナ鉄道に譲渡され、譲渡された車両の中の旧ベリンツォーナ-メソッコ電気鉄道の電車の復元も計画されていたが、2013年には旅客輸送免許が失効した。2014年6月には ローヴェレド駅付近[ 12] での道路整備事業に伴い、線路が撤去され、カスティオーネ - ルミーノ間[ 13] でも線路が撤去されている。
同年8月4日には、カスティオーネ~カランアシャ橋[ 14] における占有許可も取り消されており、残ったグロノ - カーマ間の占有許可も2020年には失効するとみられる。
クール - アローザ(クール - アローザ線)
クール - アローザ線の線路高低図
路線長:25.7km
全線開通年:1914年 12月14日 (クール-アローザ鉄道)
レーティッシュ鉄道へ合併:1942年1月1日
電気方式
直流2400V(1997年 まで)
交流11kV 16.7Hz(1997年以降)
最急勾配:60パーミル
標高:584.3-1738.7m
隧道:19箇所
橋梁:20箇所
クール-アローザ鉄道により開業した、クールからプレスール川に沿って登り、本路線開業前からの古いリゾート地であるアローザ間へ至る山岳路線である。
クール - アローザ線のクール駅はスイス国鉄およびレーティッシュ鉄道のクール駅の駅前広場にあり、クール駅から約1.5km程度の区間は併用軌道上もしくは道路脇を走行する。なお、1990年代にはクール駅の再開発に伴い、クール市内のクール - アローザ線を地下化してレーティッシュ鉄道本線系統のクール駅に乗入れる構想があったが実現はしていない。
ラングヴィース駅の先にプレスール川を右岸から左岸に渡るラングヴィース橋があるが、この橋は全長287m、高さ62mのコンクリート製で、中央部はスパン92mのアーチ橋 となっている。
終点のアローザはオーバーゼーの湖畔にあり、ハイカー、高地療養者、スキーヤーなどが訪れるリゾート地となっている。
駅前広場にあるクール - アローザ線のクール駅
クール市内の併用軌道
ペイスト駅
ラングィース橋
ラングィース橋を渡る列車
ラングィース駅とアローザ急行
アローザ線のシャトルトレイン、アローザ付近
アローザ駅
運行
本線系統
本線系統は機関車牽引の列車が主となっており、電車列車は区間運転用に一部区間で走行するのみである。レーティッシュ鉄道では貨物輸送も重要なウエイトを占めており、貨物用、事業用合わせて約750両の貨車が生活物資、木材、セメントなどを輸送するほか、フェライナトンネルやアルブラトンネルでは列車フェリーが運行され、自動車の輸送が行われている。
ベルニナ線
ベルニナ線は輸送量が比較的少ないため、開業以来旅客、貨物列車とも主に電車牽引で運転されている。72パーミルの急勾配の路線であるが電車が最大8両程度の客車を牽引しており、近年では編成中間にも電車を連結して十数両の長大列車を走行させる試験も行われている。
ベリンツォーナ - メソッコ線
ベリンツォーナ - メソッコ線は輸送量が少ないため、開業以来旅客、貨物列車とも電車牽引で運転されていた。旅客列車は1972年に廃止され、標準軌貨車輸送車の電車牽引による沿線の工場への列車を主とした貨物列車がわずかに運転されていた。
クール - アローザ線
開業以来電車牽引の列車が主に運転されてきたが、1997年の交流への電気方式変更後は主としてGe4/4II 形電気機関車などが客車を牽引している。アローザ急行は専用の青いイラスト入りの専用客車による列車で、クール - アローザ線の新しい看板列車として1997年から運転されていた。
現在の運行
スイス国内の列車がパターンダイヤ 化されたBahn+Bus 2000計画によってレーティッシュ鉄道でも旅客列車の運行系統の整理や一部区間の複線化による運行の効率化によって、昼間時間帯を中心に1時間ごとのパターンダイヤ化され、快速列車に相当するレギオエクスプレス (RE)[ 注釈 16] 、各駅停車 であるレギオ(R)[ 注釈 17] 、都市近郊列車のSバーン (S)[ 注釈 18] および氷河急行 、ベルニナ急行 が運行されているが、その他にも季節によってさまざまな季節列車が設定されている。また、早朝、深夜時間帯や区間列車の一部は各駅を経由するバスによる運行となっている。
主要路線ではレギオは途中駅までの区間列車であり、レギオエクスプレスはレギオの運行区間では主要駅停車、その先の区間は各駅停車となっている。
主要駅以外の多く駅はリクエストストップとなっており、乗降客が無い場合は通過となる。
フェライナトンネルでは30分ヘッドで列車フェリーが運行されて自動車およびその運転者等を輸送しているほか、その他の区間でも多くの貨物列車が運行され、ローカル区間の早朝の列車などを中心に混合列車も設定され、通常の旅客列車にも必要に応じて随時貨車が併結される。
2009年時点での主な運行系統は以下の通り。
主要運行系統一覧(1時間毎の運行)
運行系統
運行区間
停車駅
主な使用車両
運行概要
RE1
クール - サンモリッツ
クール - トュシス:主要駅停車 トュシス - サンモリッツ:各駅停車
Ge4/4II 形、Ge4/4III 形機関車+客車
クール毎時58分発、所要2時間0分 サンモリッツ毎時04分発、所要1時間59分
RE2
ラントクアルト - ダヴォス・プラッツ
ラントクアルト - クロスタース:主要駅停車 クロスタース - ダヴォス・プラッツ:各駅停車
Ge4/4II 形、Ge4/4III 形機関車+客車+BDt 1751-1758形制御客車
ラントクアルト毎時47分発、所要1時間8分 ダヴォス・プラッツ毎時02分発、所要1時間11分
RE3
ディセンティス/ミュンスター - クール - ラントクアルト - (フェライナトンネル) - シュクオール・タラスプ
ライヒェナウ - クール ラントクアルト - シエールス:主要駅停車 ディセンティス/ミュンスター - ライヒェナウ クール - ラントクアルト シエールス - シュクオール・タラスプ:各駅停車
Ge4/4II 形機関車+客車
ディセンティス/ミュンスター毎時45分発、所要3時間32分 シュクオール・タラスプ毎時42分発、所要3時間29分
R4
クール - アローザ
全区間各駅停車
Ge4/4I 形、Ge4/4II 形機関車+客車(+制御客車)
クール毎時08分発、所要1時間1分 アローザ毎時48分発、所要1時間4分
R5
サンモリッツ - ティラーノ
全区間各駅停車 (一部区間列車あり)
ABe4/4 41-49形、ABe4/4 51-56形電車+客車
サンモリッツ毎時45分発、所要2時間27分 ティラーノ毎時40/50分発、所要2時間27/22分
R6
ダヴォス・プラッツ - フィリズール
全区間各駅停車
Ge4/4II 形、Ge4/4III 形機関車+客車+BDt 1751-1758形制御客車
ダヴォス・プラッツ毎時31分発、所要25分 フィリズール毎時04分発、所要25分
R7
ポントレジーナ - シュクオール・タラスプ
全区間各駅停車
Ge4/4II 形機関車+客車+BDt 1751-1758形制御客車 Ge4/4I 形機関車+客車+BDt 1721-1723形制御客車
ポントレジーナ毎時02分発、所要1時間23分 フィリズール毎時34分発、所要1時間22分
S8
シエールス - ラントクアルト - クール - レッツゥーンス
全区間各駅停車
Be4/4形電車+客車+ABDt 1711-1716形制御客車
シエールス毎時32分発、所要55分 レッツゥーンス毎時31分発、所要54分
S9
クール - レッツゥーンス - トゥシス
全区間各駅停車
Be4/4形電車+客車+ABDt 1711-1716形制御客車
クール毎時48分発、所要35分 トゥシス毎時36分発、所要35分
その他の運行系統一覧(昼間時間帯以外)
運行系統
運行区間
停車駅
主な使用機材
運行概要
R11
クール - サンモリッツ
全区間各駅停車 (区間列車あり)
機関車+客車
所要2時間20分程度
R12
ラントクアルト - ダヴォス・プラッツ
全区間各駅停車
機関車+客車
所要1時間10分程度
RE3
ディセンティス/ミュンスター - クール
全区間各駅停車
機関車+客車
所要1時間20分程度
車両
レーティッシュ鉄道保有車両数一覧
年
動力車
客車
貨車
総計
蒸気機関車
電気機関車
電車
入換用 /事業用車
計
客車
制御客車
荷物 /郵便車
計
二軸車
四軸車
事業用車
計
1889年[ 表注 1]
5
0
0
0
5
23
0
6[ 表注 2]
29
61
0
0
61
95
1910年[ 表注 3]
45
0
0
0
45
154
0
40
194
405
0
5
410
649
1930年[ 表注 4]
9
30
0
3
42
192[ 表注 5]
0
62
254
613
23
55
691
987
1950年
6
38
35[ 表注 6]
11
90
255
0
82
337
736
35
80
851
1278
1970年
4
51
30
29
114
271
3
85
359
852
151
123
1126
1599
1989年
3
50
39
45
137
304
12
68
384
642
279
121
1042
1563
2009年
3
59
27
58
147
326
23
33
382
464
280
(約180)[ 表注 7]
744
1273
^ ラントクアルト-ダヴォス鉄道分
^ 当時は荷物車は貨車に分類
^ レーティッシュ鉄道分のみ、ベルニナ鉄道、ベリンツォーナ-メソッコ電気鉄道分は除外
^ レーティッシュ鉄道分のみ、ベルニナ鉄道、ベリンツォーナ-メソッコ電気鉄道、クール-アローザ鉄道分は除外
^ このほか、中央ヨーロッパ寝台・食堂車株式会社 が保有・運営する食堂車が3両
^ うち1両は気動車
^ 左側二軸車、四軸車の欄の車両数はそれぞれ事業用車を含む
本線系統
電気機関車
スイスの狭軌私鉄では電車による列車の牽引が一般的であるが、レーティッシュ鉄道の本線系統では1912年 の電化開始以来、スイス国鉄やベルン・レッチュベルク・シンプロン鉄道 [ 注釈 19] の標準軌の機関車をベースとした中型の機関車が牽引する列車が主力となっており、独自の機関車を多数保有している。現在では、通常の列車の牽引には、最新のVVVFインバータ制御 、操舵台車 で100km/h走行が可能なGe4/4III 形をはじめ、サイリスタ位相制御 のGe4/4II 形などが単機または重連で使用されている。
レーティッシュ鉄道を代表する車両として特に有名なのはミニ・クロコダイルもしくはレーティッシュ・クロコダイルと呼ばれる凸型、ロッド式のGe6/6I 形 であり、現在でも特別列車用として旧型客車などを牽引する姿が見られる。また、他にも旧型のGe2/4形 とGe4/6形 が各1両ずつ残されており、こちらも様々なイベント等で特別列車を牽引しているほか、Ge6/6II 形 も1両が歴史的車両として保存されている。
電車
レーティッシュ鉄道では古くから機関車牽引の列車が主力となっていたが、2000年代以降電車化が進み、現在では本線系統とクール・アローザ線、ベルニナ線共用の複電圧、機関車兼用機ABe8/12 3501-3515形(通称「アレグラ」)が旅客列車と一部貨物列車の牽引に使用されているほか、クール近郊区間の列車には同じく通称「アレグラ」のABe4/16 3501-3505形電車がそれぞれ使用されており、2018年からは区間列車用としてABe4/16 3111-3166形電車56編成の導入が進められている。また、区間列車用に使用されていたABe4/4 501-504形は1両が特別列車用として残されている。
個別の形式
蒸気機関車
レーティッシュ鉄道が開業以来使用してきた蒸気機関車のうち、事業用として残されていたG4/5形2両と保存されていたG3/4形1両が特別列車用として現在でも2軸車を含む旧型客車の牽引に使用されている。また、レーティッシュ鉄道の車両の保存団体であるClub1889がG3/4形2両を保有している。
個別の形式
客車
本線系統の客車は開業後は2軸客車が使用されていたが、1910年代より2軸ボギー 客車の導入が始まり、その後1930年代より軽量構造の鋼製客車が製造されるようになり、1960年代からはアルミ 製の軽量構造の客車が導入されて現在に至っている。レーティッシュ鉄道の客車にはさまざまなバリエーションがあり、古くからサロン車、食堂車 、オープン客車 を多数保有し、近年では大形の側面窓を持つパノラマ客車が氷河急行、ベルニナ急行を中心に使用されている。また、アルブラ線のインターレギオには新型の固定編成客車であるABi 5701-5706形(通称「アルブラ」)が導入されている。
個別の形式
ベルニナ線
電車
ベルニナ線では、旅客、貨物列車の牽引は主に電車によるものとなっているほか、冬季のロータリー除雪車の推進などの除雪列車や工事列車の牽引にも電車が使用されており、現在ではスイス初の実用VVVFインバータ制御電車であるABe4/4 51-56形と本線・ベルニナ線兼用のABe8/12 3501-3515形が主力となっている。
個別の形式
電気機関車
過去には2両の電気機関車が使用されていた。このうちGe4/4 182形は現在Club1889が保有しており、本線走行を目指して修復作業が行われ、ベルニナ線100周年イベントに合わせ2010年から動態保存されている。
ディーゼル / 電気機関車
交流区間への直通用および事業列車用として用意された機関車で、ベルニナ線では通常は電気機関車として走行し、本線系統や架線停電をしての工事列車などではディーゼルエンジンによる電気式ディーゼル機関車 として使用される。
ベリンツォーナ - メソッコ線
電車
ベリンツォーナ - メソッコ鉄道は開業時より機関車を持たず、旅客列車・貨物列車とも電車および荷物電車での牽引となっており、1972年に貨物列車のみの運転となった後の1972年 と1987年 には自社の車両のほか、アッペンツェル鉄道 [ 注釈 22] から電車をそれぞれ1両ずつ借用して使用(1両は後に購入)していた。
個別の形式
客車
ベリンツォーナ-メソッコ電気鉄道では開業時以降、2等車1両、2・3等車11両、3等車1両、郵便荷物車2両(1-3等区分時代)の2軸客車を保有していたが、1977年 までに全廃されている。
貨車
ベリンツォーナ-メソッコ電気鉄道時代に有蓋車8両、無蓋車12両、運材車3組を保有していたほか、1960年代頃以降は、スイス国鉄からの標準軌の貨車の直通輸送が主となり、標準軌貨車積載車が8両使用されていた。
クール - アローザ線
電車
クール-アローザ鉄道では開業後しばらくは蒸気機関車を運用していたが、旅客列車・貨物列車とも基本的には電車での牽引となっていた。
レーティッシュ鉄道と合併後には電車の運用効率化のために、同じ直流電化で輸送ピークの季節の異なるベルニナ線からDC1000VとDC2000Vの複電圧改造をしたABe4/4 31-37形の31-34号機およびABe4/4 30形電車が主に冬季に転用されて使用されていた。
個別の形式は以下のとおり
蒸気機関車
電気機関車
1997年の電気方式変更後、2010年のABe8/12 3501-3515形導入までの間は主にGe4/4II 形が使用されているが、それ以前の電車とは異なり電磁吸着ブレーキを装備せずに使用されている。
客車
クール-アローザ鉄道では開業時以降、2・3等車4両、3等車3両、荷物車1両、患者搬送車1両(1-3等区分時代)の2軸客車と2・3等車3両、3等車5両のボギー客車を保有していた。
レーティッシュ鉄道への合併後は本線系統との同形車や本線系統からの転属車が使用されている。
貨車
クール-アローザ鉄道時代に有蓋車17両、無蓋車25両、運材車1両を保有していたほか、レーティッシュ鉄道合併以降は本線系統と共通の貨車が使用されている。
入換用/事業用車
入換用として電気機関車とディーゼル機関車を保有しており、一部本線での貨物列車の運用が設定されているほか、電気機関車のうち1両は架線のない区間でも走行できるようディーゼル発電機もしくは蓄電池を搭載していた。また、フェライナトンネルの救援列車用にもディーゼル機関車が配置されているほか、高所作業車、橋梁点検車など多数の事業用車を保有している。
ベルニナ線では開業当初の頃からの車齢100年を越える古い電動貨車や電気機関車が使用されているほか、特にXrotd 9213-9214形蒸気ロータリー除雪機関車が現役として残っていることが特筆される。
事業用車のうち、架線電圧に拠らないものについては全線で使用されている。
本線系統の主力機Ge4/4III 形電気機関車
本線系統の最大勢力のGe4/4II 形電気機関車
姉妹鉄道となっている箱根登山鉄道にちなみ「箱根登山電車」と大きく描かれているGe4/4II 形電気機関車
全線で主に旅客列車を牽引しているABe8/12 3501-3515形電車
今後の主力車両として導入が進められているABe4/16 3111-3166形電車
レーティッシュ・クロコダイル、Ge6/6I 形電気機関車
動態保存されている蒸気機関車、G4/5形
ベルニナ線の強力機、ABe4/4 51-56形電車
1909年製のベルニナ線の旧型入換機、De2/2形荷物電車
1911年製のベルニナ線の旧型入換機、Ge2/2形電気機関車
氷河急行用のパノラマ客車、GEX2006
[ 注釈 24]
ベルニナ急行用のパノラマ車、Bp 2501-2507形客車
アルブラ線用の固定編成客車であるABi 5701-5706形
1929年製の旧型食堂車、WR 3810-3812形客車
普通列車の主力であるEWIIシリーズの2等車、B 2374-2383形客車
ローカル列車用の部分低床式制御客車であるABt 1751-1758形客車
ビールの広告塗装の26t積有蓋車、Haik-qy 5161-5170形貨車
フェライナトンネルの救援・入換・工事用機、Gmf4/4 242-243形ディーゼル機関車
Gem4/4形ディーゼル/電気兼用機関車とXrotd 9213-9214形蒸気ロータリー機関車
脚注
注釈
^ なお、同じスイスのロールシャッハ-ハイデン登山鉄道(Rorschach-Heiden-Bergbahn、2006年にアッペンツェル鉄道 と統合)も略称はRHBとなっている
^ 後にローマ帝国 の属州 となるが、その第一ラエティアの首都がクールであった
^ Rhaetia/Rätien
^ Landquart-Davos-Bahn(LD)
^ Chur-Arosa-Bahn(ChA)
^ Società Ferrovia elettrica Bellinzona-Mesocco(BM)
^ Bernina-Bahngesellschaft(BB)
^ ダージリン・ヒマラヤ鉄道 、ニルギリ山岳鉄道 、カールカー=シムラー鉄道 の三鉄道が登録されている
^ Neues Eisenbahn-Verkehrs-Angebot
^ 紀元前15年にはローマ人が支配し、クレア・レートリウムという現在のクールという名称の語源となる名前が付けられた
^ Calanda Bräu、現在はハイネケン のブランドとなっている
^ Matterhorn-Gotthard-Bahn (MGB)
^ イタリアはEU加盟国、スイスは非加盟国であるため、EU加盟国間で認められている移動の自由はこの区間の越境で適用外であったが、2008年にスイスがシェンゲン協定 に批准したことにより、同年12月12日の発効以降は旅行者の国籍を問わず、自由に移動できるようになっている[ 10] 。
^ 『すばらしい箱根 グラフ100』(箱根登山鉄道株式会社総務部総務課・1988年8月13日発行)p75の記載によると、サンモリッツ、アルプ・グリュム、ティラーノの3駅。なお、同書によれば、駅名標の日本語表記はそれぞれ「サン・モリッツ」「アルプ・グリュム」「ティラノ」となっている。
^ Ferrovia Mesolcinese(FM)
^ RegioExpress、ドイツ ではレギオナルエクスプレス
^ Regio
^ S-Bahn
^ BLS Lötschbergbahn(BLS)
^ 603・605・610号機のみ
^ 628号機は廃車
^ Appenzeller Bahn(AB)
^ Berner Oberland Bahn(BOB)
^ 写真はMGB所有の同形車
出典
参考文献
Rhätische Bahn (1988) (ドイツ語). Rhätische BahnHeute - Morgen - Gestern . Disentis: Deseritna Verlag. ISBN 3907036085
Belloncle, Patrick; Brünger, Gian; Grossenbacher, Rolf; Christian, Müller (2002) (ドイツ語). Das grosse Buch der Rhätischen Bahn 1889 - 2001 . Kerzers: viafer. ISBN 3952249408
Hans-Bernhard Schönborn 「Die Rhätischen Bahn Geschichte und Gegenwart 」 (GeraMond) ISBN 978-3-7654-7162-9
Jeanmaire, Claude (1973) (ドイツ語). Die elektrischen und Dieseltriebfahrzeuge Schweizerischer Eisenbahn Die Rhätischen Bahn stammnetz . Villigen: Verlag Eisenbahn. ISBN 3856490191
Jeanmaire, Claude (1995) (ドイツ語). Die elektrischen und Dieseltriebfahrzeuge Schweizerischer Eisenbahn Rhätischen Bahn: Stammnetz - Triebfahrzeuge . Villigen: Verlag Eisenbahn. ISBN 3856492194
Jeanmaire, Claude (1974) (ドイツ語). Die elektrischen und Dieseltriebfahrzeuge Schweizerischer Eisenbahn Die Gleichstromlinen der Rhätischen Bahn . Villigen: Verlag Eisenbahn. ISBN 3856490205
Jeanmaire, Claude (1987) (ドイツ語). Die Berninabahn . Villigen: Verlag Eisenbahn. ISBN 3856490485
Woifgang Finke, Hans Schweers 「Die Fahrzeuge der Rhätischen Bahn 1889-1998 band 1: Reisezugwagen 」 (SCHWEERS + WALL) ISBN 3-89494-103-0
Woifgang Finke, Hans Schweers 「Die Fahrzeuge der Rhätischen Bahn 1889-1998 band 2: Güterwagen 」 (SCHWEERS + WALL) ISBN 3-89494-104-9
Woifgang Finke, Hans Schweers 「Die Fahrzeuge der Rhätischen Bahn 1889-1998 band 3: Triebfahrzeuge 」 (SCHWEERS + WALL) ISBN 3-89494-105-7
Woifgang Finke, Hans Schweers 「Die Fahrzeuge der Rhätischen Bahn 1889-2000 band 4: Dienstfahrzeuge・Schneeräumung・Aktualisierungen 」 (SCHWEERS + WALL) ISBN 3-89494-115-4
Woifgang Finke, Hans Schweers, Henning Wall 「Die Bahnhofsspurpläne der Rhätischen Bahn Stammnetz, Chur-Aroza, Bernina, Misox 」 (SCHWEERS + WALL) ISBN 3-89494-119-7
関連項目
外部リンク