山菜山菜(さんさい)とは、山野に自生し、食用にする植物の総称。ハマボウフウやオカヒジキのように海浜に自生する食用植物も「山菜」に含む。 ノビルやヨモギなど、平地の土手やあぜ道に自生している植物で食用になる場合もあるが、これらは普通山菜とは区別して野草と呼ばれる。 自家用に採集されるほか、商業的に採集あるいは栽培されて流通販売されるものも多く、林野庁の2018年の「特用林産物生産統計調査」では山菜に分類される生産物として「わらび」「乾ぜんまい」「たらのめ」「ふき」「ふきのとう」「つわぶき」「うわばみそう(みず)」「くさそてつ(こごみ)」「こしあぶら」「もみじがさ(しどけ)」の10品目を挙げている。 特徴食用にされている植物(草本植物・木本植物・シダ植物)のうち、野草などから食味や栄養、収量、育てやすさが長い年月をかけて品種改良して栽培されるようになったものは「野菜」となったが、味や栽培法などに何らかの不都合があって「野菜」までには至らず山野に自生して残ったものが「山菜」だといわれている[1]。 栄養的には、一般に野菜よりも栄養価が高いことが多く、ビタミン類やミネラル類、食物繊維などを高度に含んでいる[1]。一般に山菜は灰汁の強いものが多く、クセがあるため大量には食べられないが、灰汁の元になっている物質は抗酸化作用があるポリフェノール類である[1]。適量食べれば、野菜類には見られない栄養的機能性が期待されるが、野菜よりもアクが強いため、食べ過ぎると口や胃の粘膜を痛める欠点も出てくると考えられている[1]。 山菜の食用採取自体は古来各地の山村で行われてきたものであるが、食料を得る手段としては生産性が高いものではなく、貧しい山村の備荒食品程度の経済的意義しか持っていなかったが、高度成長期以後の生活の向上により嗜好品として俄然注目されるに至った[2]。品種改良され味もよく食べやすい野菜とは異なり、野生植物である山菜は、灰汁による独特の苦味・えぐ味がある場合も多いが、野菜にはない風味が逆に珍重された。また促成栽培の普及により野菜が季節をあまり問わず入手できるようになったことで、「旬」を感じることができる山菜が逆に注目を浴びることとなった。 地域の植生によって採取できる植物も違うため、観光の普及により郷土料理としても注目され、山菜料理を名物にしている店も増加した。一方で近年では山菜の知名度向上によりも商品作物としての栽培も普及しており、特にゼンマイ・ワラビなどマス化・アイコン化して認知されている山菜は産地や時期に関係なく流通・販売されているのが実情である。そのため、郷土の伝統料理であるはずの山菜料理がどこで食べても似通っている。 山菜料理と保存法山菜は鮮度が重要で、山から採取してから時間が経つとともに灰汁がまわり、味もかなり落ちる[3]。アクが少ない山菜でも時間が経つと灰汁がまわるため、灰汁抜きはできるだけ早く下茹でしておくと、アク止めになる[3]。下茹では、色や歯ごたえが残るように、軽く茹でる程度に下ごしらえされる[3]。下茹でしたあとは冷水にさらして素早く冷まし、水切りして冷蔵すれば数日間は保存できる。アクが特に強いワラビの場合では、わら灰や木灰を振りかけて湯を注ぎ一晩おくことでアクがほどよく抜けて、色鮮やかな緑色と弾むような独特の歯ごたえになる[3]。 山菜を食べるときは、色、香り、歯ごたえが楽しまれて、灰汁抜きしたものをお浸しや和え物にして食べられている[3]。天ぷらや炒め物にして食べられることも多く、生の山菜を使うことで独特の香りや風味が活かされている[3]。アクが少ない山菜であれば、生を鍋物の具材にして使われる[3]。 乾物山林に自生する山菜は採取に危険が伴う貴重品であり、灰汁抜きしてから天日乾燥させて乾物として保存される[1]。古来から灰汁で茹でて天日干しにしてから利用するゼンマイが知られるが、ほかにワラビ、カタクリなども干してから保存する[1]。食べるときは、干しゼンマイは水に入れてから弱火にかけて温めて、手で揉みほぐすのをやわらかくなるまで繰り返して戻す[1]。ワラビやカタクリでは、ぬるま湯に漬けて一晩おき、軽く茹でて戻す[1]。 塩漬けアクの少ない山菜は塩漬けにして保存されることも多い[1]。かつては冬季の重要な食料の一つであった。軽く茹でてから多めに塩を振り、重石をして冷暗所に保管すれば、1年ほどの長期保存が可能になる[1]。 山菜水煮1960年代の日本においてレトルトパウチ食品の普及が始まると、ワラビ、ゼンマイ、ナメコ、キクラゲ、タケノコといった数種の山菜をカットして水煮し、パック詰めした「山菜水煮」、「山菜ミックス」などと呼ばれる加工食品が出現した。これらは調理の手間がかからず野菜の風味を加えることができる上、季節を問わず入手できるため、外食産業に急速に普及した。 蕎麦やうどん店においては、山菜水煮を振りかけるだけで作れる「山菜そば」「山菜うどん」がまたたく間にメニューの定番となり、特に簡素な立ち食いそば・うどん店で大いに重宝された。 また、喫茶店やデパート大食堂のような大衆向け外食においても、山菜水煮を用いた「山菜ピラフ」「山菜スパゲッティ」といった和洋混淆の珍奇な料理が次々と開発され、人気を博した。 家庭向けにおいても、山菜水煮を用いた「おこわの素」「炊き込みご飯の素」が販売され、急速に普及しつつあった炊飯器に混ぜて炊くだけという簡便さが人気を博した。 平成期以後は、生鮮野菜が流通して風味野菜としての価値が薄れた上、肉食文化の普及により山菜類が一般的に好まれなくなったことから、山菜水煮の需要は減退の一途をたどることとなった。 山菜採り→詳細は「en:Wildcrafting」を参照
高度成長期以後、従来は山村の生産活動として行われていた山菜・キノコの採取や渓流釣りなどがアウトドアでの趣味の一種として行われるようになった。山菜の採取も「山菜採り」という通称により都市の住民も含め盛んに行われるようになった。キノコの採取は「キノコ狩り」と称され山菜採りと区別された。 山菜採りの形態は、当代の世相である核家族化・自家用自動車の普及と親和性を持っている。
といった特徴がある。 また、山菜採りの流行は以下に挙げるようなさまざまな問題を生み出した。 山岳遭難山菜採りを行っていた者が山岳遭難する事例が毎年報告されている。例えば警察庁が集計した2018年の山岳遭難のうち、「山菜・茸採り」は385件であり山岳遭難全体の12.3%を占める。[4]沢地に生える山菜も多いことから転倒・滑落も多い。また特に慣れない場所に分け入った場合、道迷いによる遭難も多い。また、季節によってはクマやイノシシ、毒蛇、毒蜂との遭遇による遭難も発生する。熊については熊鈴やラジオ等の携帯が推奨されている。 ビバーク装備を携帯しないことがほとんどであるため、ひとたび遭難し通報・捜索が遅れた場合は死亡率が大きく高まる。行先と帰宅予定時刻を家人に告げておくことが推奨されている。 リトアニアでは、キノコ狩り中に迷子になることを nugrybauti と呼ぶ[5]。 食中毒山菜には、有毒植物と似た外見の植物があり、誤って採取し喫食して食中毒を起こす事例も絶えない。例えば厚生労働省が集計した2018年の食中毒の死亡例は全て山菜採り・キノコ狩りによるものである[6]。市場流通する食品の衛生管理が徹底される中で、専門知識がない一般人が食用採取する山菜の危険は相対的に高まっている。十分な知識なく山菜を採ることは推奨されない。
森林窃盗私有・公有問わず所有者のいない山林は存在しないため、所有者の許可なく山菜を採取する行為は森林窃盗罪にあたる。また、国立公園などは自然公園法の規定により植物の採取が禁止されている場合がある。 慣例的にある程度の採取が黙認されていることもあるが、『関係者以外入山禁止』や『動植物・鉱物採取禁止』との明示がある山林に侵入し山菜の採取を行うことは明らかに違法である。例えば2009年5月中旬、中部山岳国立公園の燕岳山麓の国有林内で『動植物の採取全面禁止』を無視か軽視してギョウジャニンニクを採取していた会社員ら4人が森林法違反(森林窃盗罪)容疑で取り調べを受け、後に書類送検されるなど摘発例は少数ながらも存在する。 また山村において入会地のような場所として地元住民の山菜採りが認められてきた山林に、外来者が踏み込んで山菜を採取していくことにより地元住民との軋轢が発生する場合もある。この場合においても、いかなる事情であれ山林の所有者が許可しない山菜採りを合法化することはできない。 資源の枯渇山菜の自生地は限られており、繁殖するより多くの量を採取してしまえば、当然自生地は消滅してしまう。 このため、山菜の植物群落の中でも食用に適さない大きさのものは採取しない、誰かが採取した痕跡がある場所で残りを根こそぎ採取しないなどのマナーが求められる。ただし、不特定多数が訪れ、かつ相互監視が不可能な山菜採りにおいて、規律の順守は容易ではなく、山菜の自生地が年々減っていくことも珍しくない。 主な山菜
注釈・出典
参考文献
関連項目外部リンク
|