一般的なナッツ類(殻の付いた状態の)クルミ、アーモンド、ペカン、ヘーゼルナッツ、ブラジルナッツ
種実類 (しゅじつるい)とは、かたい皮 や殻 に包まれた食用 の果実 ・種子 の総称。種実類のうち、木の実は一般にはナッツ と呼ばれる。
定義
日本食品標準成分表 2020年版(八訂)では、食用とする種子 のうち、穀類 あるいは豆類 以外の食品群を種実類 としている[ 1] 。ただし豆類であるラッカセイ (ピーナッツ)は脂質 含量が高いため、便宜的に種実類に分類される[ 1] 。一方で豆類を種実とよんでいる例もある[ 2] 。
一方、ナッツ は、食用部が堅い殻に包まれた果実 や果実の一部、または種子 のことである[ 3] 。ナッツは木 に実るものに限ることもあるが[ 4] 、より広義にはラッカセイ やヒマワリ など草に実るものも含む[ 3] 。この意味でのナッツは種実類の範囲とほぼ重なるが、種実類のうちゴマ やエゴマ 、チアシード など小粒のものはナッツには含まれない[ 1] [ 3] 。さらに広義のナッツは、ダイズ やヒヨコマメ などの豆類 や、デーツ (ナツメヤシ)などの乾燥果実を含むことがある[ 3] [ 5] 。
英語の nut は、植物学においては堅果 (1種子を含み、果皮 全体が堅く木化し、裂開しない果実 )のみを意味するが[ 6] [ 7] [ 8] [ 9] 、一般用語としては剥がすことができる堅い殻で包まれた果実または種子を意味しており[ 7] [ 注 1] 、日本語のナッツとほぼ同様である。
種実類やナッツの食用部は、ふつう種子内の胚 や胚乳 である。それを包む殻の由来はさまざまであり、果皮全体である場合や、種子を含む内側の果皮のみ、さらに種子自身の皮(種皮)である場合がある[ 11] [ 12] 。
クリ やシイ 、ヘーゼルナッツ 、ヒシ 、ハス 、ヒマワリ 、ラッカセイなどは果実 の皮(果皮 )全体が硬化しており、ふつう果実全体の形で流通している。植物学的な区分では、堅果 とよばれるものが多いが、ヒマワリは痩果 、ラッカセイは豆果 である[ 11] 。クリなどでは、鬼皮(堅い皮)が果皮 に、渋皮が種皮 に相当する[ 13] 。
一部の果実 では、果皮 の内層である内果皮のみが硬化して種子を包んでいる。このような果実は核果 とよばれ、硬化した内果皮が種子を包んだ構造は核とよばれる。例として、アーモンド やピスタチオ 、マカダミア 、ココヤシ 、クルミ [ 注 2] などがある[ 11] 。
ブラジルナッツ やトチノキ 、マツ 、カボチャ 、ゴマ の硬い殻は種皮である[ 11] 。銀杏 はイチョウ の種子であるが、その全体ではなく、多肉質の種皮外層を除いたものである。
種実類やナッツは一般的に栄養価が高い。アーモンド や亜麻仁 、エゴマ 、カシューナッツ 、カボチャ (種子)などは脂質が多く、ギンナン 、クリ 、シイ 、ハス 、ヒシ は炭水化物が多い[ 1] [ 15] 。
種実類やナッツのいろいろ
日本食品標準成分表2020年版(八訂)では、以下のものが種実類として扱われている[ 1] [ 16] 。
上記の多くはナッツとしても扱われるが、アサ 、アマ 、エゴマ 、ケシ 、ゴマ 、チアシード はふつうナッツには含まれない[ 3] 。一方、広義のナッツは、以下のものを含むことがある[ 3] [ 4] 。
利用
食用
さまざまなナッツ
栗を用いたケーキ
ナッツを用いたチョコレート
ピーナッツバター
ヒマワリの花と果実、ヒマワリ油
ナッツの利用として最も大きなものは、種をそのまま食用とすることである。ただしまったく加工をせずにそのまま食されることは多くなく、多くは種皮・殻を取り除いて乾燥 させたものが食用とされる。その後、塩 や砂糖 、油脂 などを用いて調味 加工 されたものもある。
加工されたナッツは、菓子 として、また酒 とともに肴 として食べるほか、砕いてサラダ などのトッピング として食べられることも多い。アーモンドやココナッツは、スライスしてフライ の衣としても使用される。
ナッツは製菓材料 としてもきわめて重要であり、チョコレート やクッキー などに混ぜて、あるいはそのままのナッツにチョコレートをかけるなどして使用される[ 57] 。アーモンドをペースト状にしたプラリネ は、洋菓子 の重要な材料の一つである。ヘーゼルナッツのペーストとチョコレートを合わせたジャンドゥーヤ など、ナッツペーストとチョコレートの組み合わせは相性がよく多用される。製菓材料としては、アーモンド粉と砂糖を混ぜ合わせたマジパン なども重要である。
ナッツを使用した菓子は、ナッツと蜂蜜 と砂糖 を主体としたやわらかいヌガー や、ナッツパイに蜂蜜をしみこませた中東で非常によく食べられるバクラヴァ 、そのままのアーモンドを糖衣でくるんだドラジェ 、クリを砂糖漬けにしたマロングラッセ など、それこそ無数に存在する。いずれも、ナッツの香ばしさや歯触りと甘味とを組み合わせた菓子である。和菓子 においても、栗粉餅はすでに室町時代 の文献にその名がみられ、江戸時代 には栗羊羹 も出現するなど、古くから製菓材料として用いられてきた[ 58] 。クリをペースト 状にした栗餡はよく使用される材料であり、饅頭 などに使用される。クリのほか、クルミも歯触りや香ばしさからアクセントとして使用される。
アーモンドやココナッツは、すりつぶしてミルク状にし、ミルク と同様の使用法で使用することができる。アーモンドミルク は飲料 としての役割が大きく、豆乳 と同じような扱いを受ける。特に動物性の食品を一切食さないベジタリアン にとっては、アーモンドミルクはまさしくミルクの代わりとして利用される。これに対し、ココナッツミルク は飲料として使用することもあるが、どちらかといえば食材としての役割のほうが大きい。ココナッツミルクは東南アジア 諸国など多くの熱帯 諸国において基本的な食材の一つとなっており、ココナッツミルクを使用した料理が非常に多く存在する[ 59] 。利用法としてはミルクと基本的には同じで、料理にコクとまろやかさを与えるために使用される。
油糧
ピーナッツもすりつぶして多用されるが、この場合はミルクではなくそのまま固体のバター 状にして、ピーナッツバター として使用される。ピーナッツバターが最も多用されるのはアメリカ であり、そのままパンに塗るスプレッド として使用されるのが一般的である[ 60] 。ピーナッツバターは日本では砂糖 を入れて甘く味付けしたものが主流であるが、日本以外では無糖のものが一般的である。また、ピーナッツバターは中華料理 やアフリカ料理 において調味料 としてよく使用される。脂肪 を多く含んでいるものは植物油 の原料 ともなる。種実類およびその関連のものからとれる油の中で最も数量が多いのは、大豆油 を除けばヒマワリ油 、そしてピーナッツオイル である。ピーナッツオイルは19世紀 には主要な油糧作物として盛んに栽培され、西アフリカ のセネガル などでは主要作物の一つに成長した。
ココナッツオイル もやや重要である。ココナッツ(ココヤシ の胚乳)はそのままナッツとするほか、乾燥させてコプラ とし、食用油や工業原料とする[ 59] 。産業の少なく育つ作物も少ない南太平洋 諸国、とくに環礁 からなる島々においては、このコプラ生産は貴重な現金収入となってきた。
世界の油脂生産の上で大きな役割を果たすナッツは上記の4種で、工業用や食用油を目的として広く栽培され、特にヒマワリ やピーナッツは油糧作物としての役割が大きい。1997年から1998年の世界の植物油生産において、大豆油は1位、ヒマワリ油は4位、ピーナッツオイルは5位を占めている[ 61] 。2003年においては、大豆油が3101万トンで1位、ヒマワリ油が860万トンで4位、ピーナッツオイルが444万トンで5位、ココナッツオイルが320万トンで8位となっていた[ 62] 。このほかに、ペカン油 、マカダミア油 などといったナッツ由来の油の種類は多く、多方面に使用される。
その他
このほか、ナッツのうちクリ やトチ のようにデンプン を主成分とするものは、穀物 を安定的に入手することのできない非農耕社会や山村においては主食 として大きな役割を果たしてきた[ 63] 。
利用の歴史
そのまま、あるいは炒るなどの簡単な加工で食べられるものが多く、油脂などの多量の栄養分を含み、また穀物 などと違い採集が容易であったため、狩猟採集社会 においてナッツは食生活の根幹をなしていたところが多かった。ただし、特に中緯度・高緯度地方においてナッツの収穫は秋 に集中し、また長期保存が可能であることから、ナッツは主に秋に大量に収穫して冬 を越すための保存食 としての性格を持っていた。縄文時代 の遺跡である福井県 の鳥浜貝塚 においては、クリやヒシ などのナッツ類が予想消費量をはるかに越えて出土しており、この推測を裏付けている[ 64] 。また、クリやハシバミ のように明るい場所を好むナッツ類は、人類が伐採 や火入れなどで極相林 を消滅させた場所に進出して繁茂する性質を持っており、それを人類がある程度理解してナッツの実る木が育ちやすいように周囲の環境に手入れを行う、すなわちごく初期の栽培化 も新石器時代 には行われていたと考えられている[ 65] 。なかでも青森県 の三内丸山遺跡 においては、縄文時代中期にクリの純林が誕生しており、当時この地域でクリを栽培し主食としていた証拠と考えられている[ 66] 。やがて人類が穀物 を改良し栽培を開始すると食料としての重要性は低下したが、以後も嗜好品 としての性格を強めながら主要食糧の一角をなしてきた。採集だけでなく、農業 の開始とともにいくつかのナッツは完全な栽培植物 として育てられた。
現代においてナッツとして利用されている植物の原産・栽培化された土地はさまざまである。アーモンドやピスタチオは中東原産で、そこから旧大陸の広い地域に広まっていった。クリは日本、中国、ヨーロッパ、アメリカ東海岸にそれぞれ自生種があり、クリ、チュウゴクグリ 、ヨーロッパグリ 、アメリカグリ として各地域で栽培化された[ 67] 。クルミも旧大陸に広く分布し、各地で採集または栽培された。ココナッツの原料であるココヤシ は東南アジアが原産と考えられており、ここから旧大陸の熱帯地域へと広まっていった。とくにオセアニア の、南太平洋に広がる諸島群においてはココヤシは真水の少ない環礁 においても栽培できるために重要な役割を果たし、ポリネシア人 の南太平洋植民において重要な役割を果たした。
新大陸発祥のナッツで最も重要なものはピーナッツであり、南アメリカ大陸 で栽培化され、インカ帝国 では重要な栽培植物となっていた。コロンブス交換によって旧大陸に持ち込まれると、アフリカ大陸西部で盛んに栽培されるようになった。また、アメリカ南部 でも盛んに栽培され、南北戦争 後にはアメリカ北部 でも消費が急速に拡大した。新大陸原産でピーナッツに次ぎ重要なものはカシューナッツであるが、これは南アメリカ大陸でも北東部を原産としている。ブラジルナッツはアマゾン に分布し、ゴムの採集が盛んになる19世紀後半まではアマゾンで最も価値ある産物のひとつだった。21世紀においてもブラジルナッツは高く評価されるナッツであるが、これはほかのものと違って栽培が非常に難しく、採集に頼っているためアマゾンの開発とともに生産量が急激に落ち込んできている[ 68] 。
このほか、オーストラリア大陸 原産のものとしてマカダミアが存在する。マカダミアはアボリジニによって長く利用されてきたが、商業栽培は19世紀後半にヨーロッパ人によってはじめられた。1882年 にはハワイ に持ち込まれて栽培が成功し、21世紀においてはハワイがマカダミアの大産地となっている。なお、オーストラリア大陸原産の食用植物には他大陸で広く利用されているものはほかにはあまり存在せず、マカダミアが最も知られた存在となっている[ 69] 。
アレルギー
ナッツに対してアレルギー を持つ者は少なくない。また、しばしば重篤 な症状 を起こす。ナッツアレルギーを持つ者は、驚くほど少量のナッツ成分を摂取しただけで重篤なアナフィラキシーショック を発症することがある。ナッツを使用していない食品でも、製造 工場 でナッツを使用している機器 からの微量混入があっただけで発症した例がある。
ラッカセイ に対するアレルギーは特に有名である。乳幼児 期にラッカセイを含む食事 を与えるとラッカセイアレルギーを持つようになるとする説がある。これは、ラッカセイの成分を十分に消化 する能力がまだない小さな子供 の体は、ラッカセイを異物 として処理するためである。ラッカセイはマメ科 の植物であるが、ラッカセイアレルギーを持つ者が他の豆 類でもアレルギー症状をおこすとは限らない。また、他の種類のナッツのアレルギーを持つ者がラッカセイアレルギーを持つとも限らない。
ギャラリー
販売されているさまざまなナッツ
さまざまなナッツ
ナッツを用いたケーキ
アーモンドクッキー
脚注
注釈
^ 英語の nut は、他にねじのナット などを意味し、また俗語として頭や変わり者、狂人などの意味でも用いられる[ 10] 。
^ ただしクルミ類では、内果皮に加えて中果皮も硬化しているとされる[ 14] 。
^ a b ただしクルミ やペカン の果実の構造は典型的な核果とは異なる点があるため、狭義の核果とはされないこともある[ 11] 。
^ 同属の近縁種のものを含めてヒッコリーともよばれる[ 19] 。
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関連項目
外部リンク
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