聴診三角[1](ちょうしんさんかく、英語: Triangle of auscultation)は、背部において比較的筋の厚みが薄くなっている三角形の部分である。
肩甲骨内側縁に沿うように位置し、肺付近の聴診に役立てることができる[2]。
境界
聴診三角は以下の境界により構成される[2]。
- 内側では僧帽筋下部により区切られる。
- 下方では広背筋により区切られる。
- 外側では肩甲骨の内側縁により区切られる。
聴診三角部分の浅層は大菱形筋、前鋸筋、脊柱起立筋の浅層からなる[2]。筋の深層になると第6・第7肋骨やその間隙にある外肋間筋・内肋間筋が存在している[1]。
臨床的な意義
聴診三角は肺の聴診や胸部における処置を行う際に用いられることがある[2]。聴診三角では他の背部の部分よりも筋が薄くなっているため、後胸壁と皮膚との感覚が比較的近く、聴診器による呼吸音(英語版)がより明瞭に聞こえやすくなる。X線が発見される以前は、この三角の深部に胃の噴門があるとされ、食道癌などによる食道狭窄の際、水を嚥下させて、聴診三角で嚥下の際の液体の音の聴診が行われていた[3]。聴診のしやすい第6肋間隙(第6・第7肋骨の間の隙間)の部分を広げるためには、胸の前で腕を組み、肩甲骨を外側に回旋させ、胎位のように体幹を前方へ屈曲させると良い[1][2]。
また、聴診三角は胸部の外科手術を行う際にも内部への進入路として用いられることがある[4][5]。そのほかにも、肋骨骨折や開胸後の痛みを和らげるために、 「菱形肋間神経ブロック」(rhomboid intercostal block) という神経ブロック法の目印に使われる。この神経ブロック法では肋間筋よりも表層、菱形筋よりも深層をめがけて麻酔注射が行われる[6][7]。
脚注
- ^ a b c Moore, Keith L.、Agur, Anne M. R. 著、坂井建雄 訳『ムーア臨床解剖学 第2版』メディカル・サイエンス。インターナショナル、2006年6月1日、396頁。
- ^ a b c d e Malik, Nazish; Tedder, Brandon L.; Zemaitis, Michael R. (2022-07-25), “Anatomy, Thorax, Triangle of Auscultation”, StatPearls (Treasure Island (FL): StatPearls Publishing), PMID 30969656, http://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK539834/ 2023年5月15日閲覧。
- ^ 伊藤隆『解剖学講義』南山堂、1983年10月1日、81頁。ISBN 978-4-525-10051-3。
- ^ Horowitz, Michael D.; Ancalmo, Nelson; Ochsner, John L. (May 1989). “Thoracotomy through the auscultatory triangle”. The Annals of Thoracic Surgery 47 (5): 782–783. doi:10.1016/0003-4975(89)90148-3. ISSN 0003-4975. PMID 2730202. https://doi.org/10.1016/0003-4975(89)90148-3.
- ^ Gandy, Kimberly L.; Hoffman, George M.; Vanderwal, Patrick; Tweddell, James S. (2010-01-01), Anderson, Robert H.; Baker, Edward J.; Penny, Daniel J. et al., eds., “CHAPTER 13 - Surgical Techniques” (英語), Paediatric Cardiology (Third Edition) (Philadelphia: Churchill Livingstone): pp. 219–237, doi:10.1016/b978-0-7020-3064-2.00013-8, ISBN 978-0-7020-3064-2, http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/B9780702030642000138 2020年11月2日閲覧。
- ^ Yayik, Ahmet Murat; Aydin, Muhammed Enes; Tekin, Erdal; Ulas, Ali Bilal; Ahiskalioglu, Ali (December 2012). “An alternative plane block for multiple rib fractures: Rhomboid Intercostal and Sub-Serratus block (RISS)”. The American Journal of Emergency Medicine 37 (12): 2263.e5–2263.e7. doi:10.1016/j.ajem.2019.158429. ISSN 0735-6757. PMID 31526541. https://doi.org/10.1016/j.ajem.2019.158429.
- ^ Ökmen, K (1 April 2019). “Efficacy of rhomboid intercostal block for analgesia after thoracotomy.”. The Korean Journal of Pain 32 (2): 129–132. doi:10.3344/kjp.2019.32.2.129. PMC 6549589. PMID 31091512. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6549589/.
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