『行政官フィリップ・ドゥルー 』(ぎょうせいかんフィリップ・ドゥルー、Philip Dru: Administrator: A Story of Tomorrow, 1920-1935 (行政官フィリップ・ドゥルー:明日の物語、1920年-1935年))は、1912年 にエドワード・マンデル・ハウス が発表した政治小説 である。当初は匿名で出版されたため作者不明であったが、共和党 のローレンス・シャーマン上院 議員の議会での演説により、作者がハウスであることが明らかにされた[ 1] 。歴史家によれば、ハウスは最も親しい政友であるウッドロウ・ウィルソン にこの本を渡し、バミューダ旅行中に読んでもらったという[ 2] [ 3] [ 4] 。
Senator Sherman Discovers the Basis of Political Morality (シャーマン上院議員、政治的道徳の基礎を発見) - 『フォーラム』誌に掲載された風刺漫画(1919年)
あらすじ
この小説は、発行の時点では未来である1920年 から1935年 までを舞台とする[ 5] 。主人公フィリップ・ドゥルーは、民主主義 の州であるアメリカ西部 を率いて、金権政治 にまみれたアメリカ東部 との内戦 (英語版 ) に挑む。この戦いに勝利したハウスはアメリカの独裁者となり、様々な改革を実施して正義と民主主義を取り戻した後に退陣する。
ハウスは、この小説の中で次のような多くの政治的信念を概説した[ 6] 。
書評
この本は、当時の人気の高さもあって、歴史的にも重要な評価やコメントの対象となっている[ 1] 。
ジョン・M・クーパー (英語版 ) は、ウッドロウ・ウィルソンの伝記の中で、この政治小説はほとんどがゴーストライターによって執筆されたものだと書いている[ 11] 。ハウスの伝記を書いたチャールズ・E・ノイはこれを否定し、「ハウス文書」の中にハウス自身が書いたオリジナルの原稿があり、さらに、タイプされた草稿に訂正のメモがあることを指摘している[ 12] 。
歴史家のポール・ジョンソン は、「奇しくも1911年に彼(ハウス)は政治小説『行政官フィリップ・ドゥルー』を出版していた。慈悲深い独裁者が企業所得税を課し、保護関税を廃止し、信用信託を解体するという内容で、ウッドロウ・ウィルソン と彼の1期目を顕著に連想させるものであった」と書いた[ 13] 。
カンザス大学 の歴史学者ビリー・ジェンセンは、「フィリップ・ドゥルーは、明らかにハウスの野心と政治的な夢の両方を表現したものであり、ウッドロウ・ウィルソンに多大な影響を与えた人物の思想を表現したものである。フィリップ・ドゥルーの改革ほどユートピアの要素がすぐに実行されたことはめったになく、ハウスほどユートピア的な改革者が影響力を持ったこともめったにない。これらの理由から、フィリップ・ドゥルーは重要な政治的文書である」と指摘した[ 14] 。
歴史家のアーサー・シュレジンジャー によれば、ウィルソン政権の内務長官 のフランクリン・ナイト・レーン (英語版 ) は、ウィルソンの統治スタイルが小説に書かれている内容に似ていると指摘している。「その本に書かれている『あるべき姿』は、女性の参政権も含めて、ゆっくりと実現していく。大統領は最後にはフィリップ・ドゥルーにたどり着くのだ[ 15] [ 16] 」
『ニューヨーク・タイムズ 』紙の書評でウォルター・リップマン は、この小説とその匿名の著者について、「もし著者が本当に事情通であれば、これは非常に興味深い本である」と書いている[ 17] 。
上院議員のローレンス・イエーツ・シャーマン (英語版 ) は、議会でこの本について次のように語り、その影響力の大きさを指摘した[ 18] 。
ここには、(ハウス)大佐の精神的な内臓の全てが示されています。1918年の伝記にトワイライトゾーンがあるとすれば、大佐の312ページの小説は1912年の監視塔から暗闇の中をサーチライトのように照らし出すので、道行く人は皆、全てを見ることができます。『フィリップ・ドゥルー』は大佐自身の自叙伝であることと、「憲法をどうやってなくすか」という難問を解決していることを知っていれば十分です
[ 19] 。
歴史家のウォルター・A・マクドゥーガル (英語版 ) は、フィリップ・ドゥルーを1933年のディストピア映画『獨裁大統領 (英語版 ) 』(Gabriel Over the White House ) になぞらえている[ 20] 。
脚注
^ a b The Publishers' Weekly , Volume 95
^ Colonel House: A Biography of Woodrow Wilson's Silent Partner
^ Woodrow Wilson's Right Hand: The Life of Colonel Edward M. House
^ See also: Link, The Papers of Woodrow Wilson - Volume 25
^ English Mechanics and the World of Science, Volume 92
^ a b c d e f g h i j k l m n What Colonel House Thinks Book review by William Marion Reedy, Reedy's Mirror, April 6th, 1917
^ a b Chapter XXXII
^ a b Chapter XXXIII
^ Chapter XLI
^ a b c d e f g h Chapter XXXIX
^ Woodrow Wilson: A Biography , p. 193
^ Colonel House: A Biography of Woodrow Wilson's Silent Partner , footnotes, p. 533
^ Johnson, Paul (1999). A History of the American People . New York: HarperPerennial. pp. 635–636. ISBN 0060930349
^ Philip Dru, The Blueprint of a Presidential Adviser
^ The Crisis of the Old Order: 1919-1933 , p. 49
^ Lane, Franklin (1922). The Letters of Franklin K. Lane, Personal and Political . Houghton Mifflin Company. pp. 297. https://books.google.com/books?id=8mwoAAAAYAAJ&pg=PA297
^ AMERICA'S FUTURE; Pictured in a Decidedly Quaint Modern Novel , Walter Lippmann, December 8, 1912
^ Congressional Record: Proceedings and Debates of the Second Session of the Sixty Fifth Congress , September 3rd, 1918
^ The Publishers Weekly, Volume 95
^ The Tragedy of U.S. Foreign Policy , 2018
外部リンク