視床 (ししょう、英 : thalamus )は、脳 の構造のうち、間脳 の一部を占める部位。また、広義の脳幹 の最吻側部に当たる。
嗅覚 を除き、視覚 、聴覚 、体性感覚 などの感覚入力を大脳新皮質 へ中継する重要な役割を担う。
解剖学的区分
広義の視床は背側視床 (dorsal thalamus) 、腹側視床 (ventral thalamus) に区分されるが、通常「視床」と言った場合にはこのうち背側視床を指していることがほとんどであり、狭義の視床はほぼ背側視床に等しい。例外として、Nieuwenhuysらの定義では、外側膝状核および内側膝状核は厳密には背側視床ではなく視床後部 (metathalamus ) に含められる[ 1] が、一般には狭義の視床に加えられることが多い。また腹側視床のうち視床網様核は、背側視床との関係が密であるため、便宜的に狭義の視床に加えられることもしばしばである。これだけでも明らかなように、研究者によって視床核群の分類法は異なっていることもあり注意を要するが、一般的な用法における(狭義の)視床は、「背側視床」「視床後部」(ときに「視床網様核」も)を合わせたものを指す。
視床は、分類にもよるが 20 あまりの視床亜核 (thalamic subnuclei) へと解剖学的に分類され、入出力が異なっており、それぞれ異なった機能を担っていると考えられている。 これらの核はアルファベットの略称で呼ばれることも多い。
外側の核
ヒトの右の視床に含まれる核 (外側の核)
Ventral posterior (VP) complex
以下の VPL, VPM, VPI の 3 つの核からなり、体性感覚 情報を大脳皮質 の体性感覚野へと中継している。
後外側腹側核 (VPL)
後内側腹側核 (VPM)
Ventral posterior inferior (VPI) nucleus
外側腹側核 (VL)
小脳 核からのグルタミン酸入力 (および淡蒼球 、黒質 からのGABA入力)を受け、主に運動性の大脳皮質へと投射している。 大脳皮質とは内側から外側にかけて順に前運動皮質から運動皮質へつらなる対応がある。
前腹側核 (VA)
大脳基底核 の出力部である黒質 網様部や淡蒼球内節 からのGABA 性入力を強く受ける。主に運動性の大脳皮質へと投射している。
内側腹側核 (VM)
細胞はまばらであり、ミエリン鞘 をもつ神経束が多く見られる[要出典 ] 。
VL, VA, VMは小脳と大脳基底核から多くの入力を受け、また大脳皮質の運動関連領野と結合をもつことから、「運動性視床核 motor thalamus/motor thalamic nuclei」と総称されることが多い。VL, VA, VMに関する上記の区分は、きわめて大雑把であり正確とは言えない。ヒト以外の霊長類においては、VApc、VAmc, VLmは黒質網様部から、VLoは淡蒼球からのGABA作動性入力を受け、Area X, VLc, VLps、VPLoが深部小脳核からのグルタミン酸作動性入力を受けるとされることが多い[ 2] 。ところが歴史的経緯から、ヒトでは、サルとは別の解剖学的区分および名称[ 3] が用いられることが多く、命名法に混乱が見られるので、特に注意を要する[ 4] 。
内側の核
ヒトの右の視床に含まれる核 (内側の核)
視床髄板内核群 (intralaminar nuclei , IL )
軸索繊維の集まった白質 である髄板 の中に、島のように浮かんでいる視床亜核群である。
内側中心核 (central medial nucleus , CM )
正中中心核とは別の核である。
束傍核 (parafascicular nucleus , Pf )
反屈束 (fasciculus retroflexus, 手綱脚間核路)を囲むように存在するためにこの名がある。正中中心核とともに視床線条体 投射の主たる起源のひとつとされる(CM-Pf 複合体)。
外側中心核 (central lateral nucleus , CL )
以下の MD を取り囲むようにして存在する。
中心傍核(paracentral nucleus , PC )
正中中心核 (centromedian nucleus , CeM あるいはCM )
「サントロメディアン」とフランス語式で読む。内側中心核と混同されやすいが別の核である。げっ歯類 には存在しない。束傍核と共に、視床線条体 投射の主たる起源のひとつとされる(CM-Pf 複合体)。
背内側核 (mediodorsal nucleus , MD )
主として前頭葉 の皮質に投射している。 おそらく痛みの刺激を伝達している。 内側から外側に向かって、前頭前野 前端から後部への投射をもつことがサルで確認されている。
正中核群 (midline nculei )
正中線上に位置する視床亜核群である。
室傍核(しつぼうかく、paraventricular nucleus , Pv )
視床下部にも室傍核 が存在するが別物である。
結合核(けつごうかく、Reuniens nucleus = Medioventral (MV) nucleus )
菱形核(りょうけいかく、Rhomboid nucleus )
紐傍核(ちゅうぼうかく、Paratenial nucleus )
後部の核
Limitans (Li) nucleus
Suprageniculate (Sg) nucleus
Posterior (Po) nucleus
後外側核 (LP)
主として皮質間の中継を行う。 VA, VL が投射した先の皮質から逆向きの投射を受けている。
視床枕 (Pul)
LP と同様に VA, VL の投射先から逆向きの投射を受け、皮質間の中継を行っている。 前部 (PuA)、後部 (PuI)、外側 (PuL)、内側 (PuM) の 4 つに細分されることがある。げっ歯類 には存在しない。
外側膝状体 (lateral geniculate nucleus , lateral geniculate body , LG, LGN, LGB )
網膜 からの視覚 情報を受け取り後頭葉 の一次視覚野 (V1) へ中継を行っている。 6 つの層がはっきり認められる。分類法によっては厳密には視床後部に属する[ 1] が、視床の一部として通常扱われる。
内側膝状体 (medial geniculate nucleus , medial geniculate body , MG, MGN, MGB )
聴覚 情報を側頭葉 の聴覚野へ送る。分類法によっては厳密には視床後部に属する[ 1] が、視床の一部として通常扱われる。
前部の核
AV, AM, AD は両側の乳頭体 と海馬 から主要な投射を受け、帯状回 からも投射を受けている。 主たる出力は大脳辺縁系 へ向かう。
Anteroventral (AV) nucleus
Anteromedial (AM) nucleus
Anterodorsal (AD) nucleus
背外側核 (LD)
腹側視床
腹側視床 (subthalamus en ) は狭義の視床(背側視床)の腹側に隣接し、視床下部の背側に隣接する領域である。
視床網様核 (R, TRN , thalamic reticular nucleus )
視床を覆うように存在する。厳密には背側視床(狭義の視床)ではなく腹側視床に属するので注意を要する。網様核のニューロンはそのほぼすべてがGABA 作動性ニューロンであり、(背側)視床のニューロンが大多数のグルタミン酸 作動性投射ニューロン と少数のGABA作動性インターニューロン とで構成されているのと大きく異なる。視床の投射ニューロンの軸索はほとんど例外なく、視床の中ではほとんど軸索側枝 を持たないが、視床を出る際に網様核に軸索側枝を出す。また大脳皮質から視床へのグルタミン酸作動性入力繊維も、視床へ入る時にほぼ例外なく網様核に軸索側枝を出す。網様核のGABAニューロンはその軸索を視床の中へ伸ばし、視床の投射ニューロンを抑制している。このように網様核は概念上は視床の一部ではないが非常に密接な連絡関係にあるために、背側視床と一緒に取り扱われることが多い。
不確帯 (zone incerta)
通常、狭義の「視床」には含まれない。
視床下核 (subthalamic nucleus)
通常、狭義の「視床」には含まれない。大脳基底核 の間接路 の構成要素であり、グルタミン酸 作動性の興奮性ニューロンを含み、近年では脳深部刺激療法 によるパーキンソン病 の治療における電気刺激部位として臨床的な重要度が高い。
外側膝状体腹側部
背側視床ではなく、腹側視床に含まれることがある。外側膝状体背側部とは異なり大脳皮質へ投射しない。
その他の核の分類
特殊核と非特殊核
視床亜核を、特殊核(specific nuclei)と非特殊核 (non-specific nuclei)の2群に分類する考え方がある。 [要出典 ]
画像
脚注
^ a b c Rudolf Nieuwenhuys, Jan Voogd, Christiaan Van Huijzen 著、水野 昇, 岩堀 修明, 中村 泰尚 訳『図説中枢神経系 The Human Central Nervous System』医学書院、1991年。ISBN 426011753X 。
^ Olszewski, J (1952). The thalamus of the Macaca mulatta: anatlas for use with the stereotaxic instrument . Karger. ISBN 978-3-8055-0958-9
^ Hassler, R (1959). “Anatomy of the thalamus”. In Schaltenbrand G, Bailey P. Introduction to streotaxis with an atlas of the human brain . Thieme
^ Jones EG (2007). The thalamus 2nd edition . Cambridge: Cambridge University Press. ISBN 978-0521858816
関連文献
日本語のオープンアクセス文献
関連項目
外部リンク
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