アセトアルデヒド
別称
Acetic Aldehyde
Ethyl Aldehyde
[ 1]
識別情報
CAS登録番号
75-07-0
PubChem
177
ChemSpider
172
UNII
GO1N1ZPR3B
EC番号
200-836-8
KEGG
C00084
ChEBI
ChEMBL
CHEMBL170365
RTECS 番号
AB1925000
InChI=1S/C2H4O/c1-2-3/h2H,1H3
Key: IKHGUXGNUITLKF-UHFFFAOYSA-N
InChI=1/C2H4O/c1-2-3/h2H,1H3
Key: IKHGUXGNUITLKF-UHFFFAOYAB
特性
化学式
C2 H4 O
モル質量
44.05 g mol−1
示性式
CH3 CHO
外観
無色透明の液体 強烈な果実臭
密度
0.788 g cm−3
融点
−123.5 °C , 150 K, -190 °F
沸点
20.2 °C , 293 K, 68 °F
粘度
~0.215 at 20 °C
構造
分子の形
平面三角形構造(sp2 ) at C1 四面体構造(sp3 ) at C2
双極子モーメント
2.7 D
危険性
安全データシート (外部リンク)
ICSC 0009
GHSピクトグラム
[ 2]
Hフレーズ
H224 , H319 , H335 , H351 [ 2]
Pフレーズ
P210 , P261 , P281 , P305+351+338 [ 2]
EU分類
非常に強い可燃性 (F+ ) 有害(Xn ) Carc. Cat. 3
NFPA 704
Rフレーズ
R12 R36/37 R40
Sフレーズ
(S2) S16 S33 S36/37
引火点
234,15 K (-39 °C )
発火点
458,15 K (185 °C )
関連する物質
関連するアルデヒド
ホルムアルデヒド プロピオンアルデヒド
関連物質
エチレンオキシド
特記なき場合、データは常温 (25 °C )・常圧 (100 kPa) におけるものである。
アセトアルデヒド (acetaldehyde) は、アルデヒド の一種。IUPAC命名法 では エタナール (ethanal) ともいい、他に酢酸アルデヒド、エチルアルデヒドなどの別名がある。自然界では植物 の正常な代謝 過程で産生され、特に果実 などに多く含まれている。また、人体においてはアルコール の代謝 によって生成されて、一般に二日酔い の原因と見なされているほか、たばこ の依存性を高めるともいわれ、発がん性 がある。
日本国内の消防法 においては、危険物 第4類の引火性液体に分類され、その中でも特に引火する危険性が高い特殊引火物とされている。
産業用として大規模に製造され、その多くが酢酸エチル の製造原料として使われている。独特の臭気と刺激性を持ち、自動車の排気やたばこ の煙、合板 の接着剤などに由来する大気汚染物質でもあることから、シックハウス症候群 などの原因となる。
化学的性質
低温では無色透明の液体で、水 、ベンゼン 、ジエチルエーテル 、エタノール などと任意に混じり合う。沸点 は 21 ℃と低い。容易に揮発 し、特徴的な青臭い刺激臭があるが、充分希薄にすると果実臭と感じられる。燃焼範囲 がきわめて広く、引火点 は - 39 ℃ と非常に引火 しやすい。
アセトアルデヒドにはケト-エノール互変異性 があり、ビニルアルコール と平衡 状態にあるが、常温における平衡定数は 6 × 10−5 であり、ほとんどがケト(アルデヒド)型となっている[ 3] 。
アセトアルデヒドの互変異性
製造
アセトアルデヒドはエチレン からワッカー酸化 によって製造される。
2
CH
2
=
CH
2
+
O
2
→
PdCl
2
,
CuCl
2
2
CH
3
CHO
{\displaystyle {\ce {2CH2=CH2 + O2 ->[{\ce {PdCl2, CuCl2}}] 2CH3CHO}}}
ワッカー法以前には、水銀 触媒を用いてアセチレン を水和し、ビニルアルコール経由で合成する方法が用いられていた[ 4] 。日本ではかつてこの過程で生成されたメチル水銀 が無処理で排出され、水俣病 の原因になった。
CH
≡
CH
+
H
2
O
→
Hg
2
+
CH
2
=
CHOH
↽
−
−
⇀
CH
3
CHO
{\displaystyle {\ce {CH#CH + H2O ->[{\ce {Hg^{2+}}}] CH2=CHOH <=> CH3CHO}}}
エタノールを酸化して製造する方法もあり、規模は小さいながらも実施されている。
2
CH
3
CH
2
OH
+
O
2
⟶
2
CH
3
CHO
+
2
H
2
O
{\displaystyle {\ce {2CH3CH2OH + O2 -> 2CH3CHO + 2H2O}}}
アセトアルデヒドの2016年度日本国内生産量は 87,066 t、工業消費量は 37,313 t である[ 5] 。世界における年間製造量は 100 万 トン (2003年)である[ 6] 。
生化学
肺や消化管などから吸収され、血液、肝臓、脾臓、心臓、筋肉に分布する。飲酒後の血中においては、赤血球に存在する濃度が血漿の濃度の約10倍で、ほとんどが赤血球に存在した[ 7] 。
肝臓 では、アルコール脱水素酵素 がエタノールを酸化してアセトアルデヒドを生じ、これがアセトアルデヒド脱水素酵素 によって、酢酸 へと代謝される。この2つの酸化反応は NAD+ の NADH への還元と共役している。
しかし脳 では、アルコール脱水素酵素の寄与は小さく、代わりにカタラーゼ がエタノールからアセトアルデヒドへの酸化を担っている[ 8] 。アセトアルデヒドは呼気や皮膚ガス として放散され、体臭 の原因となる。
この体内でのアセトアルデヒドの代謝は、人種・体質によって生まれつき差異がある。(ALDH2 の項参照)抗酒癖剤ジスルフィラム はアセトアルデヒド脱水素酵素を阻害し、ひどい二日酔い に似た症状を引き起こす。そこで慢性アルコール中毒 の患者に対して飲酒抑止をもたらす目的で処方されることがある。
細菌 、植物 、酵母 などでは、アルコール発酵 の最終段階としてピルビン酸脱炭酸酵素 によりピルビン酸 からアセトアルデヒドが合成され、それがエタノールへと変換される。この最後の反応にもアルコール脱水素酵素が逆反応の形で寄与している。
利用
工業的に合成したアセトアルデヒドの大半は、ティシチェンコ反応 による酢酸エチル の合成に用いられる。これはアルコキシド の触媒作用により、アセトアルデヒド2分子がカルボン酸とアルコールとに不均化 しながら脱水縮合して酢酸エチルを生じるものである。
かつては酢酸 の合成原料としても大量に利用されていたが、現在ではメタノール やアセチレン からの直接合成の方が効率的であるため下火となっている。
その他、ピリジン 誘導体、ペンタエリトリトール 、クロトンアルデヒド の合成前駆体として重要である。
毒性
ラットに対する急性毒性 (LD50 ) は、経口の場合で 1930 mg/kg、皮下注射の場合で 640 mg/kg。経口摂取の場合は、初回通過効果 により見かけ上、毒性が減少する。
飲酒により生成されるアセトアルデヒドは、DNA やタンパク質 に結合して付加体 となり、様々な疾病に関与しているとされる。
建築材から放出されるアセトアルデヒドはシックハウス症候群 の原因物質の一つとして問題視されている[ 9] 。
たばこ
アセトアルデヒドはたばこ の煙に含まれており、ニコチン と相乗作用を示して、タバコ への依存性を増加させる[ 10] 。アセトアルデヒド自体にも毒性 はあるが、燃焼 することによりメタン と一酸化炭素 に分解されてさらに毒性が増す。
アセトアルデヒドはたばこの添加物として、たばこ製造会社によって添加されている。その理由はアンモニア と同様、ニコチン の吸収・効果の増幅作用があり、より少量のニコチンで依存性を発揮させるため[ 11] や、燃焼を促進させるためなどである。L-システイン 除放剤によってアセトアルデヒドを排除することで禁煙の成功率は上昇する[ 12] 。
発がん性
アセトアルデヒドについてはヒトに対する発がん性 が疑われている[ 13] 。
動物実験では、ラット やハムスター に対してアセトアルデヒドを吸入させることによって、呼吸器 にがんが生じることが示されており、また細菌 や培養細胞 を用いた実験でアセトアルデヒドの変異原性 が認められている。
国際がん研究機関 は以上の分析に基づき、ヒトに対する発がん性については研究の計画や規模に難があり証拠不十分とし、実験動物に対する発がん性については充分な証拠があるとして、アセトアルデヒドをグループ2B(人に対して発がん性があるかもしれない)に分類している[ 14] 。
なおアルコール飲料は、膨大な研究の積み重ねにより十分な証拠があるとして、グループ1(ヒトに対する発がん性あり)に分類されている。エタノール以外の成分が発がん性に関わっている可能性は排除していないながらも、アルコール飲料中のエタノール、およびエタノールが代謝されて生じるアセトアルデヒドが、ヒトに対する発がん性を持つと結論している[ 15] 。
法規制
化管法:第一種指定化学物質(1-11)
化審法:優先評価化学物質(2-485)
消防法:危険物第四類特殊引火物
労働安全衛生法:危険物引火性の物、名称等を通知すべき有害物、変異原性が認められた既存化学物質
大気汚染防止法:有害大気汚染物質 (優先取り組み物質)
船舶安全法:引火性液体類
航空法:引火性液体
港則法:引火性液体類
悪臭防止法:特定悪臭物質
高圧ガス保安法:可燃性ガス、液化ガス
食品衛生法:食品添加物(香料)
化学物質の室内濃度の指針値:0.03 ppm (厚生労働省)
主な化学反応
出典
^ SciFinderScholar (accessed Nov 4, 2009). Acetaldehyde (75-07-0) Substance Detail.
^ a b c Online Sigma Catalogue , accessdate: March 17, 2022.[リンク切れ ]
^ March, J. “Organic Chemistry: Reactions, Mechanisms, and Structures” J. Wiley, New York: 1992. ISBN 0-471-58148-8 .
^ Dmitry A. Ponomarev and Sergey M. Shevchenko (2007). “Hydration of Acetylene: A 125th Anniversary” . J. Chem. Ed. 84 (10): 1725. doi :10.1021/ed084p1725 . http://jchemed.chem.wisc.edu/HS/Journal/Issues/2007/OctACS/ACSSub/p1725.pdf .
^ 経済産業省生産動態統計年報 化学工業統計編
^ Marc Eckert, Gerald Fleischmann, Reinhard Jira, Hermann M. Bolt, Klaus Golka “Acetaldehyde” in Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry, 2006, Wiley-VCH, Weinheim. doi :10.1002/14356007.a01_031.pub2 .
^ アセトアルデヒドに係る健康リスク評価について 著:中央環境審議会大気・騒音振動部会、有害大気汚染物質健康リスク評価等専門委員会 サイト:環境省
^ Hipolito, L.; Sanchez, M. J.; Polache, A.; Granero, L. Brain metabolism of ethanol and alcoholism: An update. Curr. Drug Metab. 2007, 8, 716-727.
^ 室内環境学会編・関根嘉香 監修「住まいの化学物質-リスクとベネフィット―」東京電機大学出版局(2015)シックハウス症候群
^ Nicotine's addictive hold increases when combined with other tobacco smoke chemicals, UCI study finds Archived 2011年2月9日, at the Wayback Machine .
^ フィリップ・J・ヒルツ 著、小林薫 訳「10章 宣誓の上で」『タバコ・ウォーズ: 米タバコ帝国の栄光と崩壊』早川書房、1998年。ISBN 978-4-15-208183-4 。 (元B&W社研究部長ウィガンド博士の証言)
^ Syrjänen K, Eronen K, Hendolin P, etal (2017). “Slow-release L-Cysteine (Acetium) Lozenge Is an Effective New Method in Smoking Cessation. A Randomized, Double-blind, Placebo-controlled Intervention” . Anticancer Res. 37 (7): 3639–3648. doi :10.21873/anticanres.11734 . PMID 28668855 . http://ar.iiarjournals.org/content/37/7/3639.long .
^ “アセトアルデヒド ”. e-ヘルスネット 情報提供 . 2022年8月20日 閲覧。
^ International Agency for Research on Cancer (1999). “Acetaldehyde” (PDF). Re-evaluation of Some Organic Chemicals, Hydrazine and Hydrogen Peroxide . IARC Monographs on the Evaluation of Carcinogenic Risks to Humans. 71 . http://monographs.iarc.fr/ENG/Monographs/vol71/mono71-11.pdf
^ International Agency for Research on Cancer (2010). “Consumption of Alcoholic Beverages” (PDF). Alcohol Consumption and Ethyl Carbamate . IARC Monographs on the Evaluation of Carcinogenic Risks to Humans. 96 . pp. 1278-1279. http://monographs.iarc.fr/ENG/Monographs/vol96/mono96-6F.pdf
外部リンク