コーサラ国
コーサラ国
未詳 (紀元前1100年頃) - 未詳 (紀元前500年頃)
→
後期ヴェーダ時代のコーサラ国およびその他の国々
コーサラ国 (もしくはコーサラ王国、英 : Kosala 、サンスクリット : कोसल )は、古代インド の王国で、その版図はおおむねアワド 地方、つまり現在のインド のウッタル・プラデーシュ州 に相当する。後期ヴェーダ時代にジャナパダ (英語版 ) (Janapada)と呼ばれる小国(領域)群のひとつとして勃興し、近隣のヴィデーハ (英語版 ) 国と交流があった[ 2] [ 3] 。仏教 経典の『増支部 』(漢訳仏典における『阿含経 』の1つ『増一阿含経 』に相当)や、ジャイナ教 の教典の『バガヴァティー・スートラ (英語版 ) 』によれば、コーサラ国は紀元前6世紀から5世紀における十六大国 のひとつに数えられ、文化的・政治的に大国の地位を得ていた。しかし、マガダ国 との一連の戦争により弱体化し、紀元前4世紀には最終的に併合されてしまった。
コーサラ国には、アヨーディヤー 、サケット (英語版 ) (Saket)、シュラーヴァスティー (漢訳:舎衛城)の3大都市をはじめ、セータヴィヤ(Setavya)、ウカッタ(Ukattha)、ダンダカッパ(Dandakappa)、ナラカパナ(Nalakapana)、パンカダ(Pankadha)などの町があった。(ヒンドゥー教 の聖典)プラーナ文献 や、叙事詩 『ラーマーヤナ 』によれば、コーサラ国の首都は、イクシュヴァーク 王の治世下においてはアヨーディヤー 、十六大国 時代(紀元前6~5世紀)においてはシュラーヴァスティー であった。マウリヤ朝 滅亡後の時代(紀元前2~1世紀)には、コーサラ王は(再び)アヨーディヤーにおいて硬貨を発行していた。
プラーナ文献の時代
コーサラ国の首都シュラーヴァスティー の市壁跡
コーサラは、初期のヴェーダ 文献には言及されていないが、『シャタパタ・ブラーフマナ 』や『カルパ・スートラ (英語版 ) 』など後期の文献においては、ひとつの地域として言及されている[ 9] 。
十六大国 時代のコーサラ国
『ラーマーヤナ』、『マハーバーラタ 』、プラーナ文献などによれば、コーサラ国の王家はイクシュヴァーク 王に遡るとされている。プラーナ文献にはイクシュヴァーク王からプラセーナジット 王までの王の名が記されている[ 10] 。『ラーマーヤナ』によれば、ラーマ が首都アヨーディヤーからコーサラ国を支配したとされる。
仏教経典の『マッジマ・ニカーヤ 』(中阿含経 )には、ゴータマ・ブッダ がコーサラ国の者であること(コーサラ国が、ゴータマ・ブッダ の出身と信じられている釈迦族 を属国としていたこと)[ 12] 、ジャイナ教 において24番目(にして最後)のティールタンカラ (祖師)であるマハーヴィーラ がコーサラで説法をしたことが述べられている。マハーコーサラ王の時代に、近隣のカーシー国 を征服・併合した[ 13] 。マハーコーサラ王の後を継いだのがプラセーナジット 王であり、ゴータマ・ブッダ を信奉していた。プラセーナジット王が不在の間、大臣のディーガ・チャラヤナ(Digha Charayana)が息子のヴィドゥーダバ を王位につけた[ 14] 。それから遠からず、コーサラ王国は隣国のマガダ国 に併合された。
マウリヤ朝以前
イクシュヴァーク王朝 (英語版 ) がアワド 地方のコーサラの民を治めていた。マガダ国 のハリヤナ王朝 (英語版 ) のアジャータシャトル 王との戦いに敗れた。
マウリヤ朝期
マウリヤ朝 の時代、コーサラはコーサンビー 総督の支配下にあったと考えられている[ 16] 。 マウリヤ朝 の王チャンドラグプタ が発行したと考えられている、ソガウラ(Sohgaura:インド のウッタル・プラデーシュ州 の地名)の銅板の銘には、シュラーヴァスティー において飢饉があり、これについての官僚の対策が描かれている[ 17] 。サンスクリット文献『ガルガ・サンヒター (英語版 ) 』の「ユガ・プラーナ (英語版 ) 」の章では、マウリヤ朝最後の王ブリハドラタ (英語版 ) の治世に、(コーサラの)サケット (英語版 ) が、ヤヴァナ(Yavana:インド・グリーク朝 (アレクサンダー大王 以後もインドにとどまったギリシャ人の国))に侵攻・占領されたことが記されている[ 18] 。
マウリヤ朝以後
マウリヤ朝以後の時代におけるコーサラの支配者の名は、彼らによって発行された四角形の銅貨によって知ることができる。その大部分はアヨーディヤー で発見された[ 19] 。ムラデーヴァ(Muladeva)、ヴァユデーヴァ(Vayudeva)、ヴィシャカデーヴァ(Vishakhadeva)、ダナデーヴァ(Dhanadeva )、ナラダッタ(Naradatta)、ジェシュタダッタ(Jyesthadatta)、シヴァダッタ(Shivadatta)の名が挙げられる。銅貨にあるムラデーヴァがシュンガ朝 のヴァスミトラ (英語版 ) を殺害したムラデーヴァかどうかは解明されていない(歴史学者のジャガナート(Jagannath)が解明を試みた)[ 20] 。ダナデーヴァ王は、アヨーディヤー の碑文におけるダナデーヴァ王(紀元前1世紀)であると同定されている。このサンスクリット語の碑文において、カウシキプトラ・ダナデーヴァ王(King Kaushikiputra Dhanadeva)は父ファルグデーヴァ(Phalgudeva)の記念のため「ケタナ(ketana)」(旗手)の役職を設けたこと、彼自身がシュンガ朝 のプシャミトラ 王から数えて6代目にあたることが記されている[ 21] [ 22] 。
関連項目
出典
^ Samuel, Geoffrey (2010), The Origins of Yoga and Tantra: Indic Religions to the Thirteenth Century , Cambridge University Press, pp. 61–63 .
^ Michael Witzel (1989), Tracing the Vedic dialects in Dialectes dans les litteratures Indo-Aryennes ed. Caillat, Paris, 97–265.
^ Law 1926 , pp. 34–85
^ Raychaudhuri 1972 , pp. 89–90
^ Raychaudhuri 1972 , pp. 88–9
^ Raychaudhuri 1972 , p. 138
^ Raychaudhuri 1972 , p. 186
^ Mahajan 1960 , p. 318
^ Thapar 2001 , pp. 7–8
^ Lahiri 1974 , pp. 21–4
^ Bhandare (2006)
^ Lahiri 1974 , p. 141n
^ Bhandare 2006 , pp. 77–8, 87–8
^ Falk 2006 , p. 149
参考文献
Bhandare, S. (2006), Numismatic Overview of the Maurya-Gupta Interlude in P. Olivelle, ed., Between the Empires: Society in India 200 BCE to 400 CE , New York: Oxford University Press, ISBN 0-19-568935-6 .
Falk, H. (2006), The Tidal Waves of Indian History in P. Olivelle, ed., Between the Empires: Society in India 200 BCE to 400 CE , New York: Oxford University Press, ISBN 0-19-568935-6 .
Lahiri, B. (1974), Indigenous States of Northern India (Circa 300 B.C. to 200 A.D.) , Calcutta: University of Calcutta .
Law, B. C. (1973), Tribes in Ancient India , Poona: Bhandarkar Oriental Research Institute
Pargiter, F.E. (1972), Ancient Indian Historical Tradition , Delhi: Motilal Banarsidass .
Raychaudhuri, H.C. (1972), Political History of Ancient India , Calcutta: University of Calcutta .
Thapar, R. (2001), Aśoka and the Decline of the Mauryas , New Delhi: Oxford University Press, ISBN 0-19-564445-X
Sastri, K. A. Nilakanta, ed. (1988) [1967], Age of the Nandas and Mauryas (Second ed.), Delhi: Motilal Banarsidass, ISBN 81-208-0465-1 , https://books.google.co.in/books?id=YoAwor58utYC
Mahajan, V.D. (1960), Ancient India , New Delhi: S. Chand, ISBN 81-219-0887-6
Law, B.C. (1926), Ancient Indian Tribes , Lahore: Motilal Banarsidass, https://books.google.co.in/books?id=eFy-K56RKU0C&pg=PA34
Oldenburg, Hermann (1882). Buddha: His Life, His Doctrine and His Order . Williams and Norgate