ターミナル (映画)
『ターミナル』(The Terminal)は、2004年公開のアメリカ合衆国映画。スティーヴン・スピルバーグ監督、トム・ハンクス出演。 パスポートが無効になり空港ターミナルに閉じ込められてしまった男と、ターミナル内の従業員との交流と恋模様を描いた作品で、ロマンティック・コメディの要素を持つ[3]。 ストーリープロローグアメリカ・ニューヨーク、ジョン・F・ケネディ国際空港の国際線ロビー、入国手続きゲートで奇怪な缶詰を手にしたクラコウジア人のビクター・ナボルスキーは足止めされていた。彼の母国のクラコウジアで、彼が乗った飛行機が出発した直後にクーデターが起こり事実上クラコウジア政府が消滅。そのため、彼のパスポートは無効状態となり、入国ビザは取り消されていたのだった。 アメリカに入国するために亡命・難民申請をすることもできず、かといって母国に引き返すこともできず、行き場を失ったビクターはJFK空港の国際線乗り継ぎロビー(乗客以外入れない制限区域)の中に留め置かれることになった。15分だけ通話できるテレホンカードと、職員がビクターを呼び出すのに使用するポケベル、空港内の通行承認証(職員のオフィスに入るときなどに使用する[4])、食事のクーポン券などを渡されたビクターは、テレビ放送を見てようやく母国のクーデターを知り、自身に降りかかった事態について理解するようになる。 序盤乗り継ぎロビーはドア1枚を抜ければ空港外(アメリカ国内)へと出ることができるうえ、監視の目もそれほど厳しくないため、空港から脱走(不法入国)しようと思えば可能であった。しかし、真面目なビクターは頑なに空港内で待つことを選び、そのことで、自分の昇進のために空港からビクターを追い払いたい国境警備局のディクソンと対立するようになる。 空港で生活するうちにビクターは空港で働くことを決心する。はじめは空港内に放置された旅客用のカート返却のデポジット金を稼ぐなどしていたが、ディクソンが専用の職員を割り当てる嫌がらせをしたため、仕事を失ってしまう、やがて工事現場で無断で行った大工仕事の腕を買われターミナルの内装業として雇われる。空港職員とも打ち解けていき、清掃員のグプタや機内食を供給する業者のエンリケなどと親しくなる。ビクターは空港にあったパンフレットや旅行案内本を読んで英語も少しずつ学んでゆく。 ある日、空港入国管理官の視察が行われている最中、視察団に同行していたディクソンの元に、ミロドラゴヴィッチ(ヴァレリー・ニコラエフ)という男が入国審査の取調室で暴れているという連絡が入る。重病の父親のために持ち込もうとした処方薬が、書類不備で没収されそうになったためであったが、英語が通じないため、ディクソンはビクターを呼び出し通訳させる。ビクターの機転で、薬は山羊のためのものという嘘で通関出来るようになり、ミロドラゴヴィッチからは感謝される。 だが、その嘘を見抜いたディクソンは、上司サルチャックもいる視察団の目の前でビクターに暴言を浴びせ、後日ディクソンはビクターを自分のオフィスに呼び出し、ニューヨークにその爪先すら一歩も踏ませない、と告げる。しかしこの出来事をグプタが空港の他の職員達に喧伝したことで、空港職員達のビクターへの対応が好意的になる。 中盤空港の生活のなかで、客室乗務員のアメリア・ウォーレンと出会う。恋人とうまくいっていなかったアメリアはビクターと親しくなる。ある日、ビクターは働いて得た賃金でアメリアを食事に誘う。空港の仲間たちのサポートもあって、空港内の展望デッキでディナーをともにすることができ、ふたりは意気投合する。 その後、フライトから帰ってきたアメリアにビクターは工事中の水飲み場を改造した噴水を披露する(アメリアのお気に入りのナポレオンがジョゼフィーヌに噴水を贈ったことにちなむ)。噴水は未完に終わったが、ビクターはアメリアに大切に持っていた缶詰を見せ、なぜ自分が空港でずっと待っているのかを明かす。 1958年、熱狂的なジャズファンだったビクターの父ディミタル・ナボルスキーは、ハンガリーの新聞でA Great Day in Harlemの写真を見た。それはニューヨークのジャズミュージシャンたちの集合写真であった。ディミタルはその写真の57人のジャズプレイヤーに40年間何百通というファンレターを送り続け、一人ひとりからの返信でもらったサインをピーナッツの缶に大切に保管していた。しかし、メンバーのひとりベニー・ゴルソンからだけは返事が来ず、やがてディミタルは他界してしまった。ディミタルが亡くなる前、ビクターは父に「必ずニューヨークへ行って、ベニー・ゴルソンのサインをこの缶に入れる」と約束した。父との約束を果たすためにビクターはJFK空港でずっと外に出る機会を待っていたのだった。 終盤その翌日、クラコウジアの内戦は終結する。喜ぶビクターのもとにアメリアが訪れ、コネで手に入れた『アメリカに24時間だけ入国できる特別ビザ』を渡した。ニューヨークへ行けることになったビクターの最後の障害となったのは、事あるごとに彼と対立してきたディクソンであった。ディクソンは特別ビザに必要な自身の署名を拒み、それどころか、ビクターが帰国しない場合は友人である空港職員たちを解雇することを仄めかし、ビクターに即刻クラコウジア行きの便に乗るように迫った。 ニューヨーク行きを諦めてクラコウジアに帰ろうとしたビクターだったが、グプタが誘導路に侵入、折り返しクラコウジア行きとなるはずの飛行機をゲート寸前で止めたため、クラコウジア行きの便は遅延となり、エンリケら空港の仲間たちに背中を押され、不法入国ではあるが、ニューヨークへ行く決心をする。 ディクソンが入国審査官にビクターを逮捕するよう命じるが、レイは自身の制服上着を着せビクターの入国を黙認、空港中の職員たちに見送られて、長らく住んだターミナルを後にし、ビクターはニューヨーク市街へと向かった。 エピローグニューヨーク市街のラマダ・インを訪れたビクターは、ラウンジで演奏するベニー・ゴルソンと対面した。ついに、ベニー・ゴルソンのサインを手に入れたビクターは、ホテルを後にしてタクシーに乗り込んだ。ビクターは車内で最後のサインを缶に入れると、「どちらへ?」と尋ねた運転手に「家に帰るんだ」と応えたのであった[5]。 主な登場人物
スタッフ
キャスト
「クラコウジア」について正式名称クラコウジア共和国(クラコウジアきょうわこく)とは、本作品に登場する、架空の国である。英語表記はThe Republic of Krakozhia。キリル文字表記は Кракожия である。 映画の中で、ビクターの祖国であるクラコウジアは2004年1月16日、国内で軍事クーデターが起こるという設定になっている。 小さな国で、おおよその位置は東ヨーロッパ、旧ソ連・ロシア付近である。過去にクーデターが勃発していた中央アジア諸国、もしくはコーカサス地方のロシア語圏の国家がモチーフ。また、主人公のパスポートはベラルーシのものと酷似している。 トム・ハンクスが喋っていたクラコウジア語は全てアドリブで、ロシア語などのいくつかの言語の発音からヒントを得ている。しかし、英語の字幕でのトム・ハンクスのクラコウジア語がブルガリア語となっていたため、ブルガリア語にも近い発音だということが分かる。 作中のロシア人ミロドラゴビッチとの会話シーンではクラコウジア語で行われたが、意思疎通が可能であったためクラコウジア語はロシア語に近い言語である。劇中では通訳を呼ぼうにも到着まで1時間かかってしまうことから、ロイの発案で通訳として呼ばれた経緯がある。ディクソンにも「隣国に住んでる、言葉に多少の違いはあっても通訳としてぜひ助けてほしい」とお願いされている。 主人公のモデル主人公のモデルは、1988年から2006年まで18年もパリのシャルル・ド・ゴール空港で生活していたイラン人のマーハン・カリミ・ナセリと言われている。プロデューサーのアンドリュー・ニコルは、このナセリが書き続けた日記「ターミナルマン」の映画化権を30万ドルで買った[6]。 ナセリは入院生活をしており、また、近くに住むホームレス達のための居住施設を借り入れるために「映画化権で得た30万ドル」を使い切ったらしく、亡くなる数週間ほど前に同空港へと戻って生活しており、2022年11月12日に空港の第2ターミナルで心臓発作を起こして死去した[7]。 映画とは異なり、空港での生活はビニール袋に包まれた私物やゴミに囲まれており、一般的なホームレスと変わらない暮らしであった[7]。 関連
関連映画
脚注出典
外部リンク |