ユニバーサル・モンスターズ
ユニバーサル・モンスターズ(Universal Monsters)またはユニバーサル・ホラー(Universal Horror)は、主に1920年代から50年代にかけてユニバーサル・スタジオが製作していたホラー映画・スリラー映画・SF映画の通称。1923年に公開された『ノートルダムのせむし男』に始まり、『オペラの怪人』『魔人ドラキュラ』『フランケンシュタイン』『ミイラ再生』『透明人間』『狼男』『大アマゾンの半魚人』などの名作を生んだ。また、ベラ・ルゴシ、ボリス・カーロフ、ロン・チェイニー・ジュニアなどが怪奇スターとして知られている。1970年以降は、同社によるリメイクやスピンオフが数多く製作され、それらを含めた場合、作品数は100作を越える[2]。 作品一覧1920年代1923年、ユニバーサル映画はロン・チェイニー主演の『ノートルダムのせむし男』を製作した。製作の際には、ノートルダム大聖堂を含む15世紀のフランスを再現した撮影セットが用意された。チェイニーは1925年の『オペラの怪人』でも主演のファントム役を務め、オペラ座のセットは1943年のリメイク版に流用された。 チェイニーは『ノートルダムのせむし男』のカジモド、『オペラの怪人』のファントムという映画史上に残る最も奇形なキャラクターを演じたと評されている[3][4]。一方で、演技については観客からの同情を誘うキャラクターになるように努めていた。チェイニーは1925年のインタビューで、「私は最も低い人間の中に、最高の自己犠牲の精神が宿っている可能性があることを人々に思い出して欲しい。小人症の乞食が高貴な理想を抱いているかも知れません。『オペラの怪人』『殴られる彼奴』『三人』などで演じた役の大半は、自己犠牲や放棄のテーマを秘めていました。これは、私が演じたい物語です」と語っている。 チェイニーは怪奇映画ブームが本格化する直前の1930年に死去した。彼の死後、息子クレイトンは父の名を受け継ぎ「ロン・チェイニー・ジュニア」と名乗り俳優となり[5]、1940年代の怪奇映画ブームを牽引することになる。
1930年代1931年、『魔人ドラキュラ』『フランケンシュタイン』が公開された。ドワイト・フライ、エドワード・ヴァン・スローンの二人は高い評価を受け、以後の10年間で多くの映画に出演した。また、1930年代のユニバーサル・モンスターズに登場する怪物のメイクアップの多くは、メイクアップアーティストのジャック・ピアースが手掛けている。 1932年には『ミイラ再生』が公開され、ボリス・カーロフが怪物イムホテップを演じ、その後はエドガー・アラン・ポー原作の『モルグ街の殺人』『黒猫』『大鴉』が製作された。『モルグ街の殺人』ではルゴシが主演を務め、『黒猫』『大鴉』ではルゴシとカーロフが共演している。 ユニバーサルは1933年に『透明人間』を製作し、1935年と1936年にはシリーズの続編『フランケンシュタインの花嫁』『女ドラキュラ』を相次いで製作した。1935年にはヘンリー・ハル主演の『倫敦の人狼』を公開した。この映画は映像が現存する作品としては最も古い狼男映画であり、ハルの狼男の演技も好評で現在では高く評価されているが、公開当時は興行的には振るわなかった。 ホラー映画の製作は、1937年に一度終わることになった。ユニバーサルは製作スケジュールからホラー映画を取り下げ、その後1939年まで製作されなかった。その間、劇場のオーナーは『魔人ドラキュラ』と『フランケンシュタイン』の再上映を行い人気を復活させ、新シリーズを製作するようにユニバーサルに求めた。劇場側の要求に押されたユニバーサルは、1939年にベイジル・ラスボーン、ルゴシ、カーロフ主演の『フランケンシュタインの復活』を製作している。 1940年代1941年、チェイニーの息子ロン・チェイニー・ジュニア主演の『狼男』が公開された。チェイニー・ジュニアは四大モンスターの狼男、ドラキュラ伯爵、ミイラ男、フランケンシュタインの怪物全てを演じ、カーロフ、ルゴシに代わりモンスター映画の花形スターとなった。しかし、チェイニー・ジュニアは身体的には父親に似ていたが、演技力では劣っていたとされている。ユニバーサルはクレジットから「ジュニア」の表記を意図的に外したため、観客の中にはチェイニー・ジュニアを父親と混同する者が出た。 1943年には『オペラの怪人』のリメイク作品を製作し、クロード・レインズがファントム役を演じ、スザンナ・フォスター、ネルソン・エディが共演した。 フランケンシュタインと狼男のシリーズが続き、『フランケンシュタインの幽霊』ではチェイニー・ジュニアが怪物役、ルゴシがイゴール役で共演し、『フランケンシュタインと狼男』ではチェイニー・ジュニアが狼男役、ルゴシが怪物役を務めた。また、『夜の悪魔』では、かつてルゴシが演じたドラキュラ役としてチェイニー・ジュニアが出演している。ザ マミーシリーズは『ミイラの復活』『ミイラの墓場』『執念のミイラ』『ミイラの呪い』が相次いで公開され、『ミイラの復活』以外の作品でチェイニー・ジュニアがミイラ男を演じている。『フランケンシュタインの館』『ドラキュラとせむし女』ではドラキュラ、フランケンシュタイン、狼男の三大モンスターが共演し、コメディー・ホラーの『凸凹フランケンシュタインの巻』では、ルゴシが再びドラキュラを演じている。
1950年代1954年、ジャック・アーノルドが監督を務めた3D映画『大アマゾンの半魚人』が公開された。3D映画は1953年にピークを迎え、1954年には衰退し始めていたため、地方の劇場では2Dで上映されていた。同作は1975年にアナグリフ3Dで再上映され、1980年代に発売されたVHSでも同バージョンが収録された[7]。映画は、プロデューサーのウィリアム・アランドがメキシコの撮影監督ガブリエル・フィグエロアから聞いた、アマゾン川に伝わる半魚人の怪物の伝説を基に、アーノルドが『美女と野獣』からインスピレーションを得て製作した[8]。 半魚人ギルマンはウォルト・ディズニー・カンパニーのミリセント・パトリックがデザインしたが、彼女の功績はメイクアップアーティストとしてクレジットされたバド・ウェストモアの陰に隠れてしまい、半世紀の間正当な評価を得られなかった[9]。ギルマンのスーツは通気性が悪く、演者のベン・チャップマンは暑さを凌ぐために、湖のシーンでの撮影では常に湖に入ったまま一日を過ごしていた。また、視界も悪いため、洞窟のシーンではヒロインのジュリー・アダムスを何度も壁にぶつけている[8]。水中シーンでは、リコウ・ブラウニングがチャップマンに代わりギルマンを演じている[8]。 また、アボットとコステロが主演を務めた『凸凹フランケンシュタインの巻』のヒットを受けて凸凹シリーズが製作された。同シリーズではドラキュラや透明人間が登場する作品も製作され、シリーズ最終作となった『凸凹ミイラ男』ではミイラ男が登場している。 1957年には『魔人ドラキュラ』『フランケンシュタイン』がショック・シアターの一環としてテレビ放送された[10]。1958年に創刊されたホラー映画雑誌「Famous Monsters of Filmland」には、ユニバーサル・モンスターズの怪物が度々表紙を飾った。1950年代は1940年代とは異なり、モンスター単体の映画が多く製作された。また、科学の浸透の影響を受け、放射能で巨大化した生物や宇宙人などのSF要素の強いモンスターが主流となった[11]。 リメイク・スピンオフ作品
リブート作品企画2014年7月、ユニバーサルは過去に製作したホラー映画をリブートしたダーク・ユニバースというシェアード・ユニバース作品を制作することを発表し、シリーズ第1作として『ザ・マミー/呪われた砂漠の王女』が2016年6月24日に公開されることも発表された。ユニバーサルはシリーズ製作の中心メンバーとしてアレックス・カーツマンとクリス・モーガンと契約を結んだ[12][13]。シリーズ製作が発表された時期、ユニバーサルが製作する『ドラキュラZERO』は撮影の大半が終了しており、カーツマンとモーガンは『ドラキュラZERO』をシリーズ第1作として公開することを検討したが、ユニバーサルの意向を受け『ザ・マミー/呪われた砂漠の王女』を第1作とする方針を再確認した[12][14]。主演を務めたルーク・エヴァンズは、『ドラキュラZERO』の新作をダーク・ユニバースに組み込んだうえで製作することを希望しているが、カーツマンは『ドラキュラZERO』がダーク・ユニバースに組み込まれる可能性は低いと述べている[15]。 2017年、ユニバーサルは公開が延期されていた『ザ・マミー/呪われた砂漠の王女』が公開される直前に、シリーズの名称が「ダーク・ユニバース」であることを正式に発表し、同時に『透明人間』『魔人ドラキュラ』『フランケンシュタインの花嫁』『大アマゾンの半魚人』をリブートすることを発表した。また、ダーク・ユニバースのモーション・ロゴも公開され、WETAデジタルが映像を製作し、ダニー・エルフマンがテーマ曲を作曲している[16]。公開後には『オペラの怪人』『ノートルダムのせむし男』をリブートすることが発表された[17]。さらに、ユニバーサル・モンスターズのように複数のモンスターを共演させた作品や、サブキャラクターを主人公にしたスピンオフ作品の製作も視野に入れている[18]。 しかし、『ザ・マミー/呪われた砂漠の王女』は興行成績が振るわず批評家からも酷評され、カーツマンとモーガンも企画を降板したため、ダーク・ユニバースの専用オフィスは活動停止状態となっている[19]。今後の方針として、シリーズとしての繋がりのない独立したリブート作品を製作していくことが有力視されている[20]。また、ジョニー・デップ主演でリブートが企画されていた『The Invisible Man』の脚本家エド・ソロモンも「ユニバーサル社と映画のアイデアに相違があったから」という理由で降板している[21]。 2019年1月、ユニバーサルは『透明人間』を単発作品としてリブートすると発表し、ジェイソン・ブラムをプロデューサーに、リー・ワネルを監督に、エリザベス・モスの主演で製作されることが発表された[22][23]。2020年2月にこの作品は封切られ、興行成績、批評ともに絶賛された。同作の大ヒットを受け、ユニバーサルとファーストルック契約を結ぶブラムハウスは、リメイク版『ドラキュラ』の準備をスタート。カリン・クサマが監督し、フィル・ヘイとニック・スパイサーが脚本を執筆しているという。 作品一覧
関連項目
出典
参考文献
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