リアノジン受容体 は、筋細胞 や神経細胞 といった興奮性の動物組織 中で、細胞間カルシウムチャネル の働きを担っている。3つの主要アイソフォーム が知られており、それぞれ異なる組織中で、細胞内小器官からのカルシウム放出を伴うそれぞれ異なるシグナル伝達経路に関与している。RyR2受容体アイソフォームは動物細胞 中のカルシウム誘発性カルシウム放出 (CICR)において、主な調節機構として機能する。
語源
Ryanodine この受容体は、高い親和性を示す植物 アルカロイド であるリアノジン にちなんで名付けられた[ 1] 。
アイソフォーム
リアノジン受容体 には以下のアイソフォームが存在する。
RyR1 (英語版 ) は、基本的に骨格筋 に発現する。
RyR2 (英語版 ) は、基本的に心筋 に発現する。
RyR3 (英語版 ) は、より広範囲に発現するが、特に多いのは脳 である[ 2] 。
哺乳動物を除く脊椎動物は一般に、RyRαとRyRβと呼ばれる2種類のRyRアイソフォームを発現する。
モデル動物であるキイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster )や線虫(Caenorhabditis elegans )等の多くの無脊椎動物は単一のRyRアイソフォームを持つ。非後生動物種からはRyRに対する配列相同性を有するカルシウム放出チャネルが見出されたが、それは哺乳類のものよりも短く、IP3 受容体 に近い配列であった。
生理学
RyR1機能の概略図
リアノジン受容体(RyR)は、筋収縮 にとって不可欠なステップである、筋小胞体 ・小胞体 からのカルシウム イオンの放出を調節する。心筋 では、筋小胞体 からのカルシウム誘発性カルシウム放出 が主な機構であるが、骨格筋 ではジヒドロピリジン受容体 (電位差駆動型L型カルシウムチャネル )と物理的に結合することで活性化を引き起こすと考えられている[ 3] 。
多くのリアノジン受容体が集合してクラスターを形成し、そのクラスターからカルシウム が放出されると、細胞質基質カルシウムが限定された空間に限定された時間だけ上昇し、カルシウムスパーク (英語版 ) として観測される[ 4] 。リアノジン受容体はミトコンドリアの極近くにあり、RyRからのカルシウム放出は心細胞や膵細胞でのATP産生を制御している様に見られる[ 5] [ 6] [ 7] 。
リアノジン受容体は、イノシトールトリスリン酸 (IP3 ) 受容体に類似しており、その細胞質基質 側のCa2+ に刺激されて、Ca2+ を細胞質基質中に輸送する。そのためポジティブフィードバック 機構として働き、受容体付近の細胞質基質中にある少量のCa2+ が、より多くのCa2+ 放出を引き起こす(カルシウム誘発性カルシウム放出 、CICR)[ 2] 。
リアノジン受容体は、神経細胞 および筋線維 で特に重要である。心筋 細胞および膵島 細胞では、カルシウムイオンと並ぶもう一つのセカンドメッセンジャー であるサイクリックADP リボース (cyclic ADP-ribose )が受容体を活性化する。
細胞質基質中のCa2+ の局所的で短時間の活動は、波のように空間を伝わるのでカルシウム波 とも呼ばれ、以下の要素により波が形作られる。
関連蛋白質
リアノジン受容体は多数の蛋白質や低分子化合物をリガンドとする受容体の基盤となっている。心筋に多いアイソフォームであるRyR2は、管腔のカルセケストリン (英語版 ) 、ジャンクチン (英語版 ) 、トリアヂン (英語版 ) と四元複合体を形成する[ 9] 。カルセケストリンは複数のCa2+ 結合部位を持つが、Ca2+ との親和性が低いので容易にイオンを放出する。
薬理
同種の他の分子もリアノジン受容体と相互作用し制御に関与している。例として、二量化Homer (英語版 ) 蛋白質による物理的架橋により、細胞内カルシウム貯蔵庫上のイノシトールトリスリン酸受容体(IP3R)やリアノジン受容体と、細胞表面の代謝型グルタミン酸受容体1 (英語版 ) やα1Dアドレナリン受容体 (英語版 ) とが結合される[ 13] 。
殺虫剤 のフルベンジアミド (英語版 ) は昆虫 のリアノジン受容体を選択的に活性化することが知られている[ 14] 。
リアノジン
植物アルカロイドであるリアノジンは、この受容体の命名の元となったものであり、非常に貴重な研究ツールとなった。リアノジンは過渡的なカルシウム放出を阻止できるが、低用量では持続的累積性のカルシウム放出を阻止しない。リアノジンとリアノジン受容体(RyR)との結合は使用依存性 であり、それはチャネルが活性化された状態で固定されることを意味する。低濃度(<10µM 、nMレベルでも作用する)では、リアノジンはRyRを長時間半透過性(半開き)状態にロックしてその内貯蔵していたカルシウムを使い果たす。 しかし高濃度(〜100µM)では、不可逆的にチャネル開口を阻止する。
カフェイン
RyRはmM レベルのカフェイン で活性化される。高濃度(5mM以上)カフェインの存在下では、Ca2+ への感受性がµMレベルからpMレベルへと亢進し、基底(低濃度)状態のCa2+ 濃度でも反応する様になる。 一方低濃度(とは言えmMレベル)では、受容体は量子的に開口するが、カフェインを繰り返し投与する事や細胞質基質または管腔のカルシウム濃度に依存的に振る舞いが変わるので動作は複雑である。
病態での役割
RyR1の突然変異 は悪性高熱症 やセントラルコア病 に関係している。RyR2の変異はストレス誘発性多形性 心室性頻拍 (不整脈 の一種)とARVD (英語版 ) に関係がある[ 2] 。プレセニリン1 過剰発現変異型ヒトPC12細胞系 (英語版 ) や変異プレセニリン1通常量発現ノックイン型マウスの脳組織中でRyR3の発現量が大きく増加している事も知られており[要出典 ] 、アルツハイマー型認知症 等の神経変性疾患 の病理にも関連している可能性がある[要出典 ] 。
血中 抗リアノジン受容体抗体の存在は重症筋無力症 と関連する可能性がある[要出典 ] 。
構造
低温電子顕微鏡下で観察されたRyR1の構造は、孔の主要制御ドメインへと繋がる拡張α-ソレノイド 骨格上に築かれた大規模な細胞質基質 構造を明らかにした。RyR1孔構造は6回膜貫通型イオンチャネルスーパーファミリーに属している。第2・第3貫通螺旋構造の間には特異なアミノ酸配列が挿入されて、α-ソレノイド骨格上の1対のEFハンド と密接に相互作用しており、チャネルのCa2+ 透過機構の鍵となっていると思われる[ 15] 。
関連項目
出典・脚注
外部リンク