『リチャード・ジュエル』(Richard Jewell)は、2019年のアメリカ合衆国の伝記ドラマ映画。監督はクリント・イーストウッド、主演はポール・ウォルター・ハウザーとサム・ロックウェルが務めた。マリー・ブレナー(英語版)が1997年に雑誌『ヴァニティ・フェア』に寄稿した記事『American Nightmare: The Ballad of Richard Jewell(アメリカの悪夢:リチャード・ジュエルのバラード)』を原作とし、1996年のアトランタオリンピックで爆発物を発見して多くの人命を救った英雄であるにもかかわらず、FBIやメディアに容疑者と見なされた実在の警備員リチャード・ジュエルを描いている。
2019年11月に開催されたAFI映画祭においてワールドプレミアが行われた[5]。
ストーリー
1996年7月27日、警備員のリチャード・ジュエルはアトランタ五輪の会場近くの公園で爆発物を発見した。リチャードの通報のお陰で、多くの人たちが爆発前に避難できたが、それでも2人の死者と100人以上の負傷者を出す大惨事となった(避難の最中に心臓発作で亡くなった人間も出た)。マスメディアは爆発物の第一発見者であるリチャードを英雄として持ち上げたが、数日後、地元紙が「FBIはリチャードが爆弾を仕掛けた可能性を疑っている」と報じた。それをきっかけに、マスメディアはリチャードを極悪人として糾弾するようになった。また、FBIはリチャードの自宅に2回も家宅捜索に入り、彼の知人たちにも執拗な聞き込みをするなど常軌を逸した捜査を行った。ジュエルはかつての職場で知り合った弁護士ワトソン・ブライアントを呼び出し、彼と共にこの理不尽な状況と対峙していくことになる。
キャスト
※括弧内は日本語吹替[6]
製作
2014年2月4日、リチャード・ジュエルの伝記映画が製作されることになり、レオナルド・ディカプリオとジョナ・ヒルが主演と製作を兼任することになったと報じられた[8]。9月10日、ポール・グリーングラスに監督のオファーが出ているとの報道があったが[9]、交渉はまとまらなかった。2015年4月1日、クリント・イーストウッドが本作の監督を務める意欲を見せていると報じられた[10]。2016年11月15日、エズラ・エデルマン(英語版)が監督に起用される見込みだとの報道があった[11]。
2019年4月、ディカプリオとヒルが降板し、製作サイドがイーストウッドに本作の監督のオファーを出していると報じられた[12]。5月24日、ワーナー・ブラザース映画が本作の配給権をディズニー(元々、20世紀フォックスが本作の配給権を持っていたが、ディズニーに買収されたため、配給権はディズニーの手に移った)から購入したとの報道があった[13]。6月、ポール・ウォルター・ハウザー、サム・ロックウェル、キャシー・ベイツ、オリヴィア・ワイルド、ジョン・ハム、イアン・ゴメスの出演が決まった[14][15][16][17][18]。同月24日、本作の主要撮影がジョージア州アトランタで始まった[19]。7月、ニナ・アリアンダがキャスト入りした[20]。
公開
本作は2019年12月13日に全米公開される予定だが、これは第92回アカデミー賞をはじめとする賞レースへのノミネート資格を得るためでもある[21]。
2019年11月20日、AFI映画祭で本作のプレミア上映が行われた[22]。その際、ジュエルの母バーバラ(ボビー)本人が会場に姿を見せた[23]。
興行収入
本作は『ジュマンジ/ネクスト・レベル』及び『ブラック・クリスマス』と同じ週に封切られ[24]、公開初週末に1100万ドル前後を稼ぎ出すと予想されていたが、実際の数字はそれを大きく下回るものとなった。2019年12月13日、本作は全米2502館で公開され、公開初週末に468万ドルを稼ぎ出し、週末興行収入ランキング初登場4位となった[25]。この数字はクリント・イーストウッド監督作品としては異例の低さであった[26]。
評価
映画批評家によるレビュー
本作は批評家から好意的に評価されている。映画批評集積サイトのRotten Tomatoesには278件のレビューがあり、批評家支持率は76%、平均点は10点満点で6.8点となっている。サイト側による批評家の見解の要約は「『リチャード・ジュエル』は実際に起きた出来事を単純化している。しかし、同作によって、クリント・イーストウッドが熟練の映画監督としてまだまだ手腕を発揮できることが証明された。」となっている[27]。また、Metacriticには45件のレビューがあり、加重平均値は68/100となっている[28]。なお、本作のCinemaScoreはAとなっている[2]。
受賞歴
論争
作中で、実在の記者キャシー・スクラッグス(1958年9月26日 - 2001年9月2日)がFBIの捜査官を前にセックスと引き換えに情報を引き出そうとする描写があり、問題となった[36]。スクラッグスは2001年9月2日に薬物の過剰摂取により亡くなっており、反論できない状況にある人間に対するこのような描写への反発は強く、批評家や記者の一部は激しく作品を批判し、SNS上では「BoycottRichardJewell」というハッシュタグも作られてボイコット運動が起こった[36]。ハフポストのジェフリー・ヤングは、「女性は身体を使う」という男性によって作り出されたステレオタイプが作品に内在するとの見方が指摘された[36]。キャシーの所属していたアトランタ・ジャーナル=コンスティチューション(英語版)(以降AJCと略)は「記者の描写は衝撃的であり、真実ではない」と主張し、クリント・イーストウッド監督とワーナー・ブラザースに書簡を送り、中傷的な方法で誤って描かれているために、場面の一部が脚色されたものであることを正式発表するよう要求した。これに対してワーナー・ブラザースは、映画は情報源に基づいていると主張し、ジュエル氏が疑われていると真っ先に報じたメディアの一つであるAJCが映画を非難するのは残念で皮肉だと述べた[37]。
脚注
出典
- ^ “クリント・イーストウッド最新作『リチャード・ジュエル』1月17日公開決定、日本版予告編が到着 ─ 五輪会場の爆破テロ、第一発見者の警備員は英雄か犯人か”. THE RIVER. (2019年11月7日). https://theriver.jp/richard-jewell-jp-release/ 2019年11月7日閲覧。
- ^ a b D'Alessandro, Anthony (2019年12月15日). “How Sony Took ‘Jumanji’ To ‘The Next Level’ With A $60M+ Opening; ‘Richard Jewell’ & ‘Black Christmas’ Earn Lumps Of Coal – Sunday Final” (英語). Deadline.com. https://deadline.com/2019/12/jumanji-the-next-level-richard-jewell-black-christmas-opening-weekend-box-office-1202808689/ 2020年5月19日閲覧。
- ^ a b c “Richard Jewell” (英語). Box Office Mojo. 2020年12月27日閲覧。
- ^ 『キネマ旬報』2021年3月下旬特別号 p.36
- ^ “RICHARD JEWELL” (英語). AFI FEST. 2019年11月25日閲覧。
- ^ “クリント・イーストウッド監督最新作『リチャード・ジュエル』4月15日デジタル先行配信、5月20日ブルーレイ&DVDリリース決定!”. ワーナー ブラザース ジャパン. 2020年3月19日閲覧。
- ^ “Watson Bryant Attorney at Law | Lawyer for Richard Jewell” (英語). 2021年1月15日閲覧。
- ^ Fleming, Mike, Jr. (2014年2月4日). “‘Wolf Of Wall Street’s Leonardo DiCaprio & Jonah Hill Plan Re-Team In Story Of Richard Jewell; Labelled Hero, Then Falsely Vilified As Bomber At 1996 Atlanta Olympics” (英語). Deadline.com. https://deadline.com/2014/02/richard-jewell-movie-jonah-hill-leonardo-dicaprio-fox-676771/ 2019年9月28日閲覧。
- ^ Fleming, Mike, Jr. (2014年9月10日). “Paul Greengrass Circling Richard Jewell Pic With Leonardo DiCaprio, Jonah Hill” (英語). Deadline.com. https://deadline.com/2014/09/paul-greengrass-richard-jewell-leonardo-dicaprio-jonah-hill-832787/ 2019年9月28日閲覧。
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- ^ “実話に基づいたイーストウッド最新作、記者の枕営業シーンに抗議の声”. AFPBB News. (2019年12月13日). https://www.afpbb.com/articles/-/3259454 2019年12月14日閲覧。
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