不随意運動
不随意運動(ふずいいうんどう、involuntary movement)とは、意志に基づかない運動のこと。対となる用語は随意運動である。 不随意運動の診察不随意運動に関して分析を行う場合は以下の点に関して注目する。
上記の分析を行うためにビデオ撮影を行うことが多い。また不随意運動を正確に判断するには表面筋電図が用いられる。筋電図の解析によって、筋放電の出現部位、律動性、周波数、持続時間、相反性、同期性などが客観的な数字によってとらえることができる。不随意運動は最初に律動性(周期性)の是非を判定する。一定のリズムで反復していれば律動性の不随意運動と判定し振戦かミオクローヌスを考える。一方、不随意運動の方向や周期、振幅が不規則ならば舞踏運動、バリスム、アテトーゼ、ジスキネジアを考える。非律動性の不随意運動である舞踏病、バリスム、アテトーゼ、ジスキネジアの責任病巣は大脳基底核(尾状核、被殻-淡蒼球-視床下核)である。 運動制御の生理学大脳皮質、大脳基底核、小脳が運動制御では重要視される。特にAlexander and Crutcherによる運動ループモデルは多くの不随意運動の解析で有効である。 大脳皮質典型的な大脳皮質は組織学的は6層に識別できる。Ⅰ層は分子層、Ⅱ層は外顆粒層、Ⅲ層は外錐体細胞層、Ⅳ層は内顆粒層、Ⅴ層は内錐体細胞層、Ⅵ層は多形細胞層と言われている。一次運動野ではⅣ層の内顆粒層が薄いがⅤ層の内錐体細胞層は厚く、ここにBez巨細胞が認められる。大脳皮質の入出力に関してまとめる。大脳皮質は末梢からの求心性線維の大部分を、視床を介した視床皮質路として受け取る。皮質への入力はそれぞれの皮質領野に対応した視床からⅣ層とⅥ層に終止するがⅣ層が主要なものである。皮質間のやり取りに関与するのは交連線維と連合線維である。交連線維は脳梁を介して左右の半球間を結合し、連合線維は同一半球内の皮質領野間を結合する。大脳皮質から遠心路は原則として第Ⅴ層の錐体細胞に起始する。例外は2つあり一つは皮質から視床への遠心性線維の大部分は第Ⅳ層に起始する。皮質から線条体への投射の一部に第Ⅲ層に起始するものがある。連合線維と交連線維は、主として第Ⅲ層の錐体細胞に始まる。 大脳基底核大脳基底核は一般的に尾状核、被殻、淡蒼球、視床下核、黒質が含まれる。小脳と異なる点としては大脳基底核には直接感覚入力が入らない点、脊髄に直接投射線維を送っていない点があげられる。淡蒼球は系統発生としては古い。内側髄板で淡蒼球外節(GPe)と淡蒼球内節(GPi)に分かれ、それぞれ脳の全く異なった部分と線維連絡をする。尾状核と被殻は系統発生として比較的新しく一括して線条体といわれる。視床下核(STN)と黒質は中脳にある。中脳の黒質は背側の緻密層(SNc)と腹側の網様層(SNr)にわかれ淡蒼球と同様に脳の全く異なった部分と連絡している。淡蒼球内節(GPi)と黒質網様層(SNr)は大脳基底核の主たる出力線維を出している点で類似している。 線条体や淡蒼球の腹側にある側坐核(NAS)や嗅球(OT)も基底核に含まれることがある。 Alexander and Crutcherによる運動ループモデル大脳皮質は直接感覚入力を受けないが大脳皮質感覚野から線条体に感覚入力があり、視床へ投射することによって、視床に入ってきたい感覚運動連関のニューロン発火を調節している。また脊髄に直接投射していないが、皮質脊髄路や赤核脊髄路、網様体脊髄路の活動に影響を与えることができる。大脳基底核は広範囲の大脳皮質からの被殻で入力を受け、視床を通じて同じ領域に線維を送り返している。入力は主として運動野、体性感覚野、前頭前野、大脳辺縁系からである。大脳基底核の中では多くのループが並走しておりparallel loopとなっている。それぞれ入出力関係のある大脳皮質によって運動ループ、眼球運動ループ、背外側前頭前野ループ、前帯状回ループの4つに分かれる。運動制御に関係するループは運動ループと眼球運動ループである。運動ループと関係する皮質は主として補足運動野や運動前野であり眼球運動ループと関係する皮質は主として補足眼野や前頭眼野である。1990年代Alexander and Crutcherによる運動ループモデルが提唱され、2012年現在でも基底核疾患を理解する上で有用である。 ドーパミンD1受容体およびD2受容体は線条体ニューロンに存在する。ドーパミンD1受容体は興奮性であり、D2受容体は抑制性である。それぞれの線条体ニューロンはGABA作動性である。D1受容体をもつ線条体ニューロンは黒質網様層(SNr)や淡蒼球内節(GPi)に軸索を送っており線条体黒質路といわれる。D2受容体のニューロンは淡蒼球外節(GPe)に軸索を線条体淡蒼球路へ送っている。黒質緻密層(SNc)から黒質線条体路を通じて放出されたドーパミンは、D1受容体を通じて線条体黒質路興奮させ、D2受容体がいかに通じて線条体淡蒼球路を抑制する。D1受容体、D2受容体がいかに活性化されたかの評価でしばしばニューロペプチドを調べることがある。D1受容体ではサブスタンスPやジノルフィンである。D2受容体ではエンケファリンである。これらはGABAとともに産出される。 D1受容体が刺激されると黒質網様層(SNr)や淡蒼球内節(GPi)がGABAによって抑制される。黒質網様層(SNr)と淡蒼球内節(GPi)は視床にGABA作動性ニューロンを送っているため抑制の抑制となり視床は興奮する。視床は大脳皮質に興奮性ニューロンを送っている。ドーパミンD1受容体を介した皮質-線条体-黒質網様層/淡蒼球内節-視床-皮質のループを直接路という。直接路のドーパミン放出によりD1受容体が刺激されると皮質には興奮性の神経伝達物質が増加する。D2受容体が刺激されると線条体淡蒼球路は抑制され、淡蒼球外節(GPe)が抑制される。淡蒼球外節(GPe)は視床下核(STN)にGABA作動性の抑制性のニューロンを黒質網様層(SNr)と淡蒼球内節(GPi)に送っている。ドーパミンD2受容体を介した皮質-線条体-淡蒼球外節-視床下核-黒質網様層/淡蒼球内節-視床-皮質ループを間接路という。間接路は 黒質緻密層(SNc)興奮によるドーパミン放出によりD2受容体が刺激を受けると視床は興奮する。間接路に大脳皮質から線条体へ興奮性の刺激が入力されると視床は抑制され、その結果、大脳皮質も抑制される。 大脳皮質からのグルタミン酸を介した興奮性入力では直接路では抑制性シナプスが2つあるため結局大脳皮質へは興奮性の出力として帰る。間接路としては抑制性シナプスが3つあるので大脳皮質への出力としては抑制となる。運動ループとしては直接路は興奮性、間接路は抑制性である。しかしドーパミン刺激は直接路を賦活化し、間接路を抑制するため全体的として運動を賦活化する。 運動ループモデルの意義Alexander and Crutcherによる運動ループモデルはMinkにより解剖学的見解から周辺抑制(surround inhibition)という概念に発展した。随意運動で皮質が興奮した場合、直接と間接路ともに刺激される。直接路は黒質網様層/淡蒼球内節の狭い部分を抑制する。最終的に焦点性に皮質を興奮させるがこれは信号と雑音の比を高める作用があると考えられている。間接路は視床下核広範を興奮させ黒質網様層/淡蒼球内節の広い部分を興奮させる。これは皮質の意図した運動以外を抑制させる意味がある。この抑制を周辺抑制という。運動野の興奮によってまずは直接路によって目的の運動が行われ、遅れて間接路によって周辺抑制がかけられると考えられている。また一次運動野から直接視床下核(STN)へいく経路もありこれをハイパー直接路という。ハイパー直接路は広範な抑制をかける作用がある。 運動ループモデルによる不随意運動の解析Alexander and Crutcherによる運動ループモデルはヒトの基底核疾患による不随意運動をよく説明できる。
小脳→詳細は「小脳」を参照
小脳の分類はいくつか知られているが小脳虫部(小脳内側部)、小脳中間部、小脳外側部という分類がよく用いられる。これは小脳皮質からの出力系、すなわち小脳核とよく対応する。小脳虫部(内側部)は室頂核に、小脳中間部は中位核に小脳外側部は歯状核に線維を送る。虫部は前庭核、赤核など脳幹下行路の一部から室頂核に入力線維を送り、再び脳幹の核である前庭核や網様核に投射し、近位筋の姿勢保持の筋の制御に関与する。小脳中間部は中位核から脳幹の神経核に(特に赤核)に出力される経路で遠位筋の運動制御に関与している。小脳外側部は歯状核から視床を介して運動皮質(運動野、一部の運動前野、前頭前野、頭頂葉)に投射している。大脳皮質から橋核(皮質橋路や錐体路とは別の線維)を通して小脳皮質に投射された線維が再び歯状核や視床を通じて大脳皮質にフィードバックする系がある。この系、皮質-小脳-皮質ループまたは小脳ループは、運動学習や運動技能獲得など随意運動の際、瞬時、瞬時に形成される運動プログラムの形成に関与し、スピードの調節に不可欠と考えられている(フィードフォワードコントロール)。 小脳への入力小脳への入力は主としては大脳皮質、脊髄、前庭系からであり二箇所の中継核がある。これは橋核と延髄の下オリーブ核である。
小脳への出力小脳皮質からの主要な出力はプルキンエ細胞であり、これはGABA作動性の抑制性ニューロンである。プルキンエ細胞への登上線維と顆粒細胞がグルタミン酸性の興奮性入力をしており、ゴルジ細胞、籠細胞、星状細胞がGABAによる抑制性入力をしている。プルキンエ細胞からの軸索は小脳深部の核群、室頂核、中位核、歯状核にシナプスさ出力線維が出される。小脳の大きな出力線維である上小脳脚は主として歯状核と中位核のからの線維で形成される。脳幹で上行線維と下行線維に分かれる。
不随意運動の種類振戦(tremor)→詳細は「振戦」を参照
振戦とは反復性のあるリズミカルな運動であり、身体の全体またはその一部がある平面をめぐって描く不随意な規則的なリズムの運動と定義されている。臨床所見による分類であり原因や機序に関しては問われていない。律動性の不随意運動として振戦とミオクローヌスは区別が難しいこともあるが運動の方向が一定していれば振戦、一定していなければミオクローヌスである。 movement disorder societyの分類movement disorder societyの分類では安静時振戦、動作時振戦に分類され、動作時振戦は姿勢時振戦、運動時振戦、等尺運動時振戦に分類される。
機序も含めた振戦の分類振戦の機序に関してはDeushlらは4つの機序をまとめた。末梢性の原因として、末梢の物理的な振動、脊髄の反射経路のでの振戦の2つが知られている。末梢の物理的な振動とは物質の重さ、硬さ、粘度などに規定された固有の振動である。振り子のようなものであり、短い振り子ほど早く揺れるため指では20Hz程、肘では3Hz程、肩では1~2Hzほどである。脊髄の反射経路で起こる振戦は二通り知られている。甲状腺機能亢進症や心因性振戦は正常な反射経路が亢進することによって振戦が出現する。また末梢神経障害特にCIDPなどでは反射リズムが障害されることで振戦が出現する。中枢性の原因としてDeushlらはペースメーカーが想定されるもの、小脳性振戦のようにfeedback and feedforward loop malfunctionの2つをあげた。中枢性の機序では中枢で作られたリズムが脊髄に伝えられて筋肉のリズムが規定される。末梢の重量負荷で動きの大きさは小さくなるが周波数には影響はしない。中枢のペースメーカーには2種類が知られている。一つはペースメーカー細胞が想定されるものであり、古典的な本態性振戦や口蓋帆振戦が代表疾患であり、下オリーブ核がペースメーカー細胞となる。下オリーブ核の細胞は振戦の発現前に仮性肥大がおこり、その後から振戦が出現する。肥大する過程で下オリーブ核内の細胞同士がgap junctionを作り、束になって多くの細胞が同期して発火できるようになり、この同期発火が網様体脊髄路を介して脊髄を刺激して振戦をが発生していると考えられている。もうひとつの機序が大脳基底核ループである大脳皮質-被殻-淡蒼球-視床-大脳皮質、小脳ループである大脳皮質-橋核-小脳皮質-小脳核-視床-大脳皮質が中枢神経内ループとなり大脳基底核疾患や小脳疾患の不随意運動に関与するというものである。もう一つのfeedback and feedforward loop malfunctionは小脳失調で測定過大があるときに認められる。測定過大を補正するための動きがまた測定過大となりというプロセスを繰り返して振動するようにみえるという機序である。もうひとつ第三の中枢性の機序として脳全体のシステムのゆらぎとして起こるという意見もある。 以上の機序を踏まえると振戦は以下のように分類できる。周期のおおよその目安としては遅い振戦とは概ね4Hz以下であり、中等度ならば4~7Hz、早い振戦は7Hz以上が目安となる。
ミオクローヌス (myoclonus)→詳細は「ミオクローヌス」を参照
ミオクローヌスの定義は突然起こり、素早い、電気的な中枢神経由来の不随意運動である。てんかんの痙攣を除外するために意識障害を伴わないという条件が加えられることもある。意識障害を伴わない持続性部分てんかんは定義上はミオクローヌスとなる。律動性の不随意運動として振戦との区別が難しいことがあるが、振戦は運動の方向が一定であるのに対してミオクローヌスは一定していないことが多い。またミオクローヌスの最も多いものはしゃっくりであり、これは横隔膜のミオクローヌスと考えられている。筋電図の記録はミオクローヌスの診断においては非常に重要である。ミオクローヌスの一部は100ms以下の持続の筋放電や筋電図の途切れがみられ、これだけ短い動きは随意的には作ることが出来ないため随意運動の鑑別にも重要である。他の付随運動でもここまで短いものはない。但し例外的に持続の長いミオクローヌスも存在する。原因疾患としてはアルツハイマー型認知症、CJD、低酸素脳症でよく認められる。鑑別で重要なものとしては線維束性攣縮とチックがあげられる。線維束性攣縮と末梢神経由来の病態であり筋肉の一部が収縮するが、ミオクローヌスは全体が収縮する。また線維束性攣縮は出現する筋肉が一定であるがミオクローヌスはランダムとなる。ミオクローヌスと診断したらそれが陽性ミオクローヌスか陰性ミオクローヌスかを検討する。その後部位は全身か一部の筋肉か、同期しているのかバラバラなのかを検討する。またミオクローヌスを誘発する原因に関しても検討する。 症候学的ミオクローヌスの分類
機序も含めたミオクローヌスの分類
ジストニア (dystonia)→詳細は「ジストニア」を参照
持続的な筋緊張により、しばしば捻転性または反復性の運動や姿勢異常をきたす病態である。日本神経学会における正式用語はジストニーである。ジストニア研究班ではジストニアを以下のように定義している。「ジストニアとは中枢神経系の障害によって起因し、骨格筋の持続のやや長い収縮で生じる症候で、ジストニア姿勢とジストニア運動からなる、前者は異常収縮の結果としての異常姿勢、異常肢位であり、後者は異常収縮によるゆっくりとした運動であり、これらはその症例にとって定型的である。ジストニア姿勢は一時的であっても必ずみられる。ジストニアにより随意運動の遂行が様々な程度妨げられる。ジストニアは特定の随意運動時に出現し、あるいは著しく増強する場合があり、これを動作性ジストニアという。」とされている。責任部位としては大脳基底核、視床、視床下核などとされている。多くの中枢神経疾患のほか、薬剤性(L-DOPA、ドパミンアゴニスト、抗てんかん薬)、中毒、代謝性疾患などでも起こる。全身性ジストニアは遺伝性が多く遺伝歴も重要である。遺伝性ジストニアではDYT5は日本ではじめて報告され、瀬川病ともいわれる。ジストニアの治療として原因薬物の中止のほか、L-DOPAや抗コリン薬、筋弛緩薬が用いられることもある。 特徴定義だけではジストニアの特徴はわかりづらいため、いくつかの特徴を示す。
局所性ジストニア
全身性ジストニア遺伝性ジストニアは数多くの原因遺伝子が報告されている。小脳、脳幹でカルシウムチャネルIP3が機能しなくなると発症する[1]。
ジストニアの治療
ジスキネジア (dyskinesia)→詳細は「ジスキネジア」を参照
不随意運動の要素としては舞踏運動、ジストニア、ミオクローヌスなどの色々なものを含んでいてそれらが混ざっている時にジスキネジアとよぶことが多い。異常運動を全般をジスキネジアと呼ぶこともあるし、薬剤性の不随意運動特に遅発性ジスキネジア(tardive dyskinesia)または遅発性症候群を指す場合もある。薬剤性の場合は神経弛緩薬で起こることが多いがパーキンソン病治療薬によるジスキネジアも存在する。また高齢者の口唇ジスキネジアはひとつの疾患として扱われる。薬剤性の場合は原因薬物の減量、その他の場合は舞踏病と同様に治療することが多い。レボドパ誘発性ジスキネジアにはアマンタジンが有効なことがある。 神経弛緩薬によるジスキネジア抗精神病薬は精神のみならず神経機能にも強い影響をもち、薬剤誘発性パーキンソニズムを起こすことから神経弛緩薬(neuroleptics)と呼ばれるようになった。全ての神経弛緩薬はドーパミン受容体をブロックする薬物(dopaminne receptor blocking agents DRBA)であることが後に判明した。PETやSPECTによる検討ではハロペリドールやフルフェナジンといった錐体外路症状が強い薬物では80%以上のD2受容体遮断作用があるとされている。クロザピンやクエチアピン、オランザピンはD2受容体よりもむしろD4受容体に親和性が高いため非典型神経弛緩薬に分類される。薬物誘発性パーキンソン症候群や遅発性症候群をおこす頻度が低いのはD2親和性が低いこと、セロトニン系の遮断が錐体外路症状発現に有効との説もあるが詳細は不明である。神経弛緩薬によりD2受容体が遮断されると、視床のニューロンは抑制を受け、皮質の興奮性が低下しパーキンソン症候群が生じると考えられている。神経弛緩薬を投与し続けることでD2受容体の数が増加し、ドーパミンに対して過敏になる。メカニズムは不明だが神経弛緩薬の投与が続くとD1受容体も過敏になる。D1受容体、D2受容体ともに過敏になることが遅発性ジスキネジアの発生に関与していると考えられている。 以下にDRBAとしてよく知られた薬物と代表的なDRBAの副作用をまとめる。
遅発性症候群(tardive syndrome)遅発性症候群はDRBAを長期に投与された場合に副作用で起こる症候群である。代表例は遅発性ジスキネジア (tardive dyskinesia)である。遅発性症候群の診断基準としては以下の3点が重要とされている。第一に不随意運動を伴う、第二に少なくとも1つ以上のDRBAの投与歴が6ヶ月~1年以内である。第三に薬剤を中止しても少なくとも1ヶ月は症状が残存するという三点である。遅発性症候群とDRBAの関係としては遅発性症候群はDRBAを中止するとしばしば悪化が見られる。特に急に投与を中止して生じる舞踏運動様の不随意運動はwithdrawal emergent syndromeといわれる。DRBAを増量すると遅発性症候群が抑えられることがある。ドーパ作動薬で悪化することもある。これらの特徴から遅発性症候群はドーパミン受容体の過敏性に起因すると考えられている。 遅発性ジスキネジアをはじめとする遅発性症候群の治療のポイントは以下のようにまとめられる。もし臨床的に可能ならば原因となっているDRBAをゆっくり減量し、中止する。可能ならば新たな投薬は避け、自然寛解をまつ。とくにジスキネジアが軽度であり、アカシジアやジストニアがない場合は待てることが多い。治療が必要な場合は最初にドーパミン枯渇作用のあるレセルピン(5~8mg/day)やテトラペナジン(TBZ)、αメチルpチロシン(AMPT)を使用する。副作用のうつ症状やパーキンソン症候群には抗うつ薬やパーキンソン病治療薬を用いる。次にDRBAを非定型抗精神病薬であるクロザピンやクエチアピンを試みる。もし無効ならば少量のドーパミンアゴニストを使用する。その目的はシナプス前のドーパミン受容体を賦活しドーパミン産出を減らすためである.ジストニアには抗コリン薬を使用する。アカシジアにはECTを考慮する。以上の治療が全て無効ならば視床破壊術や淡蒼球破壊術がジスキネジアやジストニアでは検討される。DBSなども検討される。
パーキンソン病治療薬によるジスキネジア
口唇ジスキネジア口唇ジスキネジアまたは口舌ジスキネジアは口周囲の顔面筋、咀嚼筋および舌筋に出現する比較的早いなめらかな不随意運動であり口腔内に大きなサイズの食べ物を含みもぐもぐさせるような運動や、舌を出して引っ込める、舌で口唇をなめる、顔をしかめるといった動きである。舞踏病の範疇とかんがえられる。血管障害や遅発性ジスキネジアの機序で出現することが多い。 発作性ジスキネジア発作性ジスキネジアは舞踏運動、アテトーゼ、バリズム、ジストニアなど様々な運動の組み合わせで起こる発作性の運動異常症である。かつてはてんかんの一種とも考えられていた。しかし発作中に脳波異常もみられず、意識も保たれ運動がジストニア、舞踏運動、アテトーゼといった錐体外路症状を示すことてんかんの範疇には含めない。染色体異常部位がてんかんや片頭痛など発作性疾患の異常部位の近傍にあるため、発作性疾患との関連が指摘されている。以下の4種類の発作型が知られる。
舞踏運動 (chorea)→詳細は「舞踏運動」を参照
リズム、出現部位、パターンとも不規則で、顔、体幹、上枝、下肢いずれにも症状が出現する。動きそのものは正常人が真似できる随意運動と同等の性質のものである。ハンチントン舞踏病にみられる動きが典型的な舞踏病である。運動の特徴としては早さはミオクローヌスほど早くなく、アテトーゼほど遅くない。筋電図では50~200ms持続する筋放電が認められる。これはミオクローヌスとアテトーゼ、ジストニアの間の値である。発生機序は大脳基底核回路の間接路が障害される。直接路を介しての動きが出すぎてしまうためと考えられている。具体的には尾状核、被殻またはその繊維結合、視床下核またはその繊維結合、中脳被蓋の3箇所の他、内側毛帯発症の報告がある。非常に多くの疾患でこの症状が出現する。ハンチントン舞踏病、歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA)など遺伝性疾患、糖尿病、SLEなどで起こりえる。ジスキネジアが似た動きをするため薬剤投与歴の確認も必要である。 バリスム (ballism)、バリスムス (ballismus)→詳細は「バリスムス」を参照
最も激しい動きの不随意運動であり自分では止めることはできない。動きの激しさのため心不全や骨折など外傷を起こすことがある。手や足などを投げ出すような動きと表現する。改善過程では症状が軽減すると舞踏運動様の動きを示すことが多い。多くの場合は片側の上下肢に出現し、ヘミバリスムといわれる。この時の責任病巣は対側の視床下核である。視床下核の病変によって大脳基底核の間接路が障害され、直接路優位になり視床、運動野系に促通効果が出現し、過剰に運動が生じるという機序が想定される。この機序は舞踏運動の機序と同様であり症状が軽減すると舞踏運動になるという臨床経過と一致する。原因疾患は視床下核の出血のほか、糖尿病性昏睡などでもおこる。 アテトーゼ (athetosis)→詳細は「アテトーゼ」を参照
アテトーゼの語源は位置を保てない、肢位を保てないということである。したがって、位置に一定の位置に身体を保つことができず、常にゆっくりと手足や身体が動いている状態である。動きは遅い動きで不規則であり、タコ足のように動いている。筋電図では1~3秒という長い時間持続する筋電図が出ている。脳性麻痺の患者でしばしば認められる。偽性アテトーゼが鑑別として重要である。偽性アテトーゼは深部感覚障害によって同様の動きが生じることであり閉眼で症状が悪化するのが特徴である。アテトーゼをみたら薬剤内服の確認、閉眼での症状の変化、深部感覚障害の有無の確認が重要となる。 顔面痙攣 (facial spasm)→詳細は「顔面痙攣」を参照
トゥレット障害、チック (tic)
アカシジア(akathisia、静座不能)→詳細は「アカシジア」を参照
攣縮 (spasm)→詳細は「攣縮」を参照
攣縮とは持続時間をもった断続的に起こる異常な筋収縮状態である。
筋痙攣 (cramp)制御できない筋の短縮と筋の硬直を伴う激しい痛みである。攣縮との大きな違いは痛みを伴うかという点が一番大きい。筋攣縮はこむら返りとして日常的に経験できる。筋攣縮を起こしやすい全身性疾患や神経疾患も知られている。
ミオキミア (myokymia)筋の小部分の自発的収縮が反復し、あたかも隣接する部分が次々と収縮することによって波立つように見えたり、皮下を虫が這いまわっているようにみえたりするものである。アイザックス症候群またはニューロミオトニアは四肢の筋硬直、筋収縮後の弛緩困難などの症状が知られ、抗VGKC抗体が原因として知られる。 心因性不随意運動心因性不随意運動にはいくつかの特徴が知られている。まずは突然発症し突然止まることがあげられる。特に分単位で消失する時は心因性である可能性が高い。また他の異常神経所見がなく非進行性の経過であることも心因性では多い。不随意運動のパターンが奇妙であり変動しやすい。他の心因性の神経症状とも同様であるが、人が見ていないときには症状が出ていない、他のストレスで運動のパターンが変わりやすく、心因性の要因が思い当たるなども特徴的である。症状の変化を誘発する手技で症状が変化するdistractionという現象もよく知られている。これは症状が出ている手と反対の手を他の動きをさせると、正常側の動きにつられて不随意運動のパターンも正常側の動きに近づいてしまう現象である。心因性振戦で重量負荷をかけた時にかえって振戦が増強するのも同様の機序と考えられる。 表面筋電図
→詳細は「筋電図」を参照
不随意運動では動きの速さ、頻度、大きさ、律動性あるいは規則性の有無、出現部位、分布、出現状態(安静時、姿勢時、動作時)、影響因子(睡眠、精神的緊張、意思による抑制効果)などで分類される。筋電図としては多数のMUPグループから構成されるため群化放電をおこす。ひとつひとつのMUPを評価する場合は針筋電図で検査を行う。不随意運動に伴う群化放電の評価項目としては以下の5つが知られている。
脚注
参考文献
関連項目 |