二クロム酸ナトリウム (にクロムさんナトリウム、英 : sodium dichromate )もしくは、重クロム酸ナトリウム(じゅうクロムさんナトリウム)は、化学式 が Na2 Cr2 O7 と表されるナトリウム の二クロム酸塩 である。通常は2水和物 の Na2 Cr2 O7 ・2H2 O として扱われる。事実上、全てのクロム鉱石は二クロム酸ナトリウムを経て変化し、毎年数百万kgの二クロム酸ナトリウムが生産されている[ 1] 。反応性や応用の点からは、二クロム酸ナトリウムは二クロム酸カリウム と非常によく似ている。しかしナトリウム塩の方がカリウム塩よりも約20倍も水に良く溶け、当量が小さいため、望ましい場合が多い[ 2] 。
生産
二クロム酸ナトリウムは、酸化クロム(III) を含む鉱物の中で大量に生産される。鉱物は、酸素の存在下、1000 °C で塩基、特に炭酸カルシウム と融合する。
2
Cr
2
O
3
+
4
Na
2
CO
3
+
3
O
2
⟶
4
Na
2
CrO
4
+
4
CO
2
{\displaystyle {\ce {2 Cr2O3\ + 4 Na2CO3\ + 3O2 -> 4 Na2CrO4\ + 4 CO2}}}
この過程でクロム は溶解し、熱水に抽出される。この段階で、アルミニウムや鉄等、鉱物に含まれる他の成分はほとんど溶けない。得られた溶液を硫酸 や二酸化炭素 で酸性化することで二クロム酸 が得られ、結晶化によって2水和物として単離される。クロム(VI)は、特に塵状のときに毒性があるので、これらを扱う工場は厳しく規制されている。例えば、精製所の排水に対しては還元剤 を用いてクロム(VI)を環境毒性の少ないクロム(III)に還元する処理が行われる[ 1] 。この塩に対しては、19.5 °C 以下の10水和物 (CAS# 13517-17-4) から、6水和物、4水和物、2水和物等、様々な種類の水和物が知られている。62 °C 以上では、結合水を失い無水物 となる。
反応
二クロム酸塩やクロム酸 塩は酸化剤として働く。革なめしでは、二クロム酸ナトリウムはまず二酸化硫黄 で還元される。
有機合成においては[ 2] 、ベンジル基 やアリル基 のC-H結合 をカルボニル 誘導体に酸化する。例えば、2,4,6-トリニトロトルエン は酸化されてカルボン酸 になる[ 3] 。同様に、2,3-ジメチルナフタレン は2,3-ナフタレンジカルボン酸 に酸化される[ 4] 。
第二級アルコール はケトン に酸化される。例えば、メントール はメントン に[ 5] 、ジヒドロコレステロール はコレスタノン になる[ 6] 。
3
R
2
CHOH
+
Cr
2
O
7
2
−
+
2
H
+
⟶
3
R
2
C
=
O
+
Cr
2
O
3
+
4
H
2
O
{\displaystyle {\ce {3 R2CHOH\ + Cr2O7^{2-}\ + 2 H^+ -> 3 R2C=O\ + Cr2O3\ + 4 H2O}}}
カリウム塩と比べ、二クロム酸ナトリウムの主な利点は水や酢酸 等の極性溶媒 に対する溶解性の大きさである。
安全性
六価クロム を含む他の化合物と同様に、二クロム酸ナトリウムは有害であると考えられている。また、発がん性を持つことも知られている[ 7] 。
脚注
^ a b Gerd Anger, Jost Halstenberg, Klaus Hochgeschwender, Christoph Scherhag, Ulrich Korallus, Herbert Knopf, Peter Schmidt, Manfred Ohlinger, "Chromium Compounds" in Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry, Wiley-VCH, Weinheim, 2005.
^ a b Freeman, F. "Sodium Dichromate" in Encyclopedia of Reagents for Organic Synthesis (Ed: L. Paquette) 2004, J. Wiley & Sons, New York. DOI: 10.1002/047084289.
^ Clarke, H. T.; Hartman, W. W. (1941). "2,4,6-Trinitrobenzoic Acid" . Organic Syntheses (英語). ; Collective Volume , vol. 1, p. 543
^ Friedman, L. (1973). "2,3-Naphthalenedicarboxylic Acid" . Organic Syntheses (英語). ; Collective Volume , vol. 5, p. 810
^ L. T. Sandborn (1929). "l -Menthone" . Organic Syntheses (英語). 9 : 59. ; Collective Volume , vol. 1, p. 340
^ W. F. Bruce (1941). "Cholestanone" . Organic Syntheses (英語). ; Collective Volume , vol. 2, p. 139
^ ILO 1369 - Sodium Dichromate [1]