家政論
『家政論』(かせいろん、希: Οἰκονομικός, オイコノミコス、英: Oeconomicus)とは、クセノポンによるソクラテス関連著作の1つ。 原題は、「家政(家庭の管理・運営)」を意味する「オイコノモス(m. οἰκονόμος)/オイコノミア(f. οἰκονομία)」(オイコス(家; οἶκος) + ノモス(法; νόμος) (←ネモー(分配する; νέμω)に由来))に、形容詞化接尾辞の「イコス(-ικός)」を付けた男性形の形容詞であり、「家政に関する(言論・対話)」の意[1]。 概要ソクラテスが登場する著作ではあるが、本作ではソクラテスは基本的に話の進行役・回想者として登場しているだけであり、『ソクラテスの思い出』『ソクラテスの弁明』といった実際のソクラテスの言行録とは異なり、プラトンの中期・後期の作品のように、著者自身の思想を述べた作品となっている。 作中における主たる「家政論」の語り部であるイスコマコスも、他の同時代の記録には一切登場せず、内容的にも(ペルシャや軍事にも造詣が深く、晩年には荘園領主にもなった)クセノポン自身の人生経験と符合するため、実在の人物ではなく、クセノポン自身を反映させた架空の人物だと考えられる[2]。 一説には、本作は哲人王思想を掲げた理想主義的で頭でっかちなプラトンの『国家(ポリテイア)』に対抗して、国家の構成単位である「家(オイコス)」の運営、特に健全な家計や農業を基礎とした、地に足のついた社会運営の重要性を説くために書かれたとされる[3]。(儒教(『大学』)風に表現すれば、修身→斉家→治国→平天下における「斉家」の重要性を説く格好になっている[4]。) そしてアリストテレスは、『政治学(ポリティカ)』冒頭の第1巻において、国家の構成単位としての「家(オイコス)」と、その運営について多くの記述を割いて言及しており、またペリパトス派の後輩の作品と考えられるアリストテレス名義の『経済学/家政論(オイコノミカ)』第1巻は、その題名・内容ともに本作の影響が顕著であるなど、本作はアリストテレス・ペリパトス派に多大な影響を与えた。 またさらに、「経済(economy)」の語源が「オイコノミア(οἰκονομία)」であり[5]、「経済学(economics)」の語源が「オイコノミコス(οἰκονομικός)」である[6]ことからも分かるように、本作および上記したアリストテレス・ペリパトス派の作品は、後世において「家政学」のみならず「経済学」の概念を基礎付けた古代における古典的作品となるなど、後世に多大な影響を与えることになった。 構成登場人物
場面設定ソクラテスとクリトブロスが、「家政」の技術についての議論を始める。ソクラテスは、貧しく大した財産も無い自分はそれをうまく述べることができないと、消極的な姿勢を見せながらも、クリトブロスに請われて議論を進行し、可能な範囲で内容を整えていく。 全体の3分の1程度まで議論が行われたところで、ソクラテスは「家政」について語らせるのにうってつけの人物としてイスコマコスを挙げ、彼とのかつての対話の回想を述べていく。そして最後までイスコマコスの家政論が展開される。 章別全21章から成る。第1章から第6章までが、ソクラテスとクリトブロスの対話で、第6章の終盤にソクラテスがイスコマコスの話題を出し、第7章から最後の第21章までは、ソクラテスとイスコマコスの対話の回想となり、イスコマコスの「家政論」が述べられていく。
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日本語訳脚注関連項目 |