『尺には尺を』(しゃくにはしゃくを、Measure for Measure)は、ウィリアム・シェイクスピア作の戯曲。1603年か1604年に書かれたと信じられている。最初の出版は1623年の「ファースト・フォリオ」で、記録に残っているもので最古の上演は1604年である。『尺には尺を』で扱っているものは、慈悲、正義、真実の問題、プライドと屈辱の関係である。「罪によって出世する者があれば、善によって転落する者もある」(第2幕第1場)。
もうひとつの材源はジョージ・ウェットストン(George Whetstone)の1578年の2部構成の非常に長いクローゼット・ドラマ『Promos and Cassandra(プロモスとカサンドラ)』である。ウェットストンはチンティオからストーリーを採っているが、喜劇的な要素とベッドトリックを加えている[3]:20。
王政復古期、『尺には尺を』は新しい観客の嗜好に合ったシェイクスピア劇のひとつだった。ウィリアム・ダヴェナント(William Davenant)が『尺には尺を』を翻案した『The Law Against Lovers(恋人に厳しき掟)』には、『空騒ぎ』のベネディックとベアトリスのエピソードが挿入されていた。サミュエル・ピープスは1662年2月18日にこの劇を見て、日記に「良い劇、それに良い演技」と書いている。ピープスはとくにベアトリスの姉妹ヴィオラ(ダヴェナントの創作)を演じる若い女優の歌と踊りに感銘を受けたのだった。ダヴェナントは現状イザベラの純潔を試すだけのアンジェロを復権させ、三つの結婚で劇を締めくくった。王政復古期の脚色の初期のものの中でも、この劇はあまり成功しなかったようである。
チャールズ・ギルドン(Charles Gildon)が1699年にリンカンズ・イン・フィールド(Lincoln's Inn Fields)で上演した『Beauty the Best Advocate(美貌こそ最良の弁士)』では下品で滑稽な登場人物たちが取り除かれ、アンジェロとマリアナ、クローディオとジュリエットはこっそり結婚していたという設定にして、シェイクスピアの劇の核であった「不義の性」をほぼ全部排除し、ヘンリー・パーセルのオペラ『ディドとエネアス(Dido and Æneas)』(1689年)のシーンを、アンジェロが劇を通して時折見ているものとして、劇と一体化させた。しかもギルドンはシェイクスピアの幽霊をエピローグに登場させ、いつも作品が改訂されることへの不満を言わせた。ダヴェナントの改訂版同様に、ギルドンの改訂版も一般に普及せず、リバイバルもされなかった。
ベルトルト・ブレヒトの芝居『まる頭ととんがり頭』(Round Heads and Pointed Heads)は当初、『尺には尺を』の翻案となる予定で書かれていた。
トマス・ピンチョンの初期の短編小説「殺すも生かすもウィーンでは」("Mortality and Mercy in Vienna")のタイトルは芝居の中の韻文の台詞からとられており、内容的にも『尺には尺を』から触発されたものである。この短編の日本語訳は志村正雄訳『競売ナンバー49の叫び』(ちくま文庫、2010年)などに収録されている。
^ abN. W. Bawcutt (ed.), Measure for Measure (Oxford, 1991), p. 17
^Gary Taylor and John Jowett, Shakespeare Reshaped, 1606-1623 (Oxford University Press, 1993). See also "Shakespeare's Mediterranean Measure for Measure", in Shakespeare and the Mediterranean: The Selected Proceedings of the International Shakespeare Association World Congress, Valencia, 2001, ed. Tom Clayton, Susan Brock, and Vicente Forés (Newark: University of Delaware Press, 2004), 243-69. See also "Shakespeare's Mediterranean Measure for Measure", in Shakespeare and the Mediterranean: The Selected Proceedings of the International Shakespeare Association World Congress, Valencia, 2001, ed. Tom Clayton, Susan Brock, and Vicente Forés (Newark: University of Delaware Press, 2004), 243–69.
^ abShakespeare, William (1997). David Bevington. ed. The Complete Works (Updated Fourth ed.). New York: Addison-Wesley Longman. p. A-7. ISBN0-673-99996-3
^F. E. Halliday, A Shakespeare Companion 1564-1964, Baltimore, Penguin, 1964; pp. 273 and 309-10.