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自閉症の僕が跳びはねる理由

自閉症の僕が跳びはねる理由: 会話のできない中学生がつづる内なる心
著者 東田直樹
発行日 日本の旗 日本 2007年2月1日
発行元 日本の旗 日本 エスコアール
ジャンル

自伝

自閉症
日本の旗 日本
言語 日本語
形態 文学作品
ページ数 176
次作 続・自閉症の僕が跳びはねる理由: 会話のできない高校生がたどる心の軌跡
コード ISBN 978-4-900851-38-2
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自閉症の僕が跳びはねる理由』(じへいしょうのぼくがとびはねるりゆう)は、カナー型重度自閉症の13歳の少年である東田直樹を著者とする伝記エッセイノンフィクション作品である。2007年に日本で出版され、その後、自閉症の息子を持つヨシダ・ケイコとその夫で作家のデイヴィッド・ミッチェルによる英訳版『The Reason I Jump2013年に刊行された[1]。以後、世界30カ国以上で出版され、2022年までに累計120万部を超える世界的ベストセラーとなっている[2]ニューヨークタイムズのベストセラー[3]に選ばれたほか、英国の『サンデータイムズ』のハードカバーノンフィクション部門でベストセラーにランクインしている[4]。また、ジェリー・ロスウェルJerry Rothwell)が監督を務めたドキュメンタリー映画『僕が跳びはねる理由』が公開されている[5]

著者の東田は、4歳の頃から科学的に否定されているファシリテイテッド・コミュニケーション(Facilitated Communication: FC)を用いたトレーニングを受け、文字を書いて意思を伝える力を身につけたとされているが[6][7][8][9]、そのオーサーシップについては疑問が提起されている[10][11][12][13]

学術的評価

デボラ, D. & 神尾, Y.(2014)

小児神経心理学者のファインと児童精神科医の神尾は、学術ジャーナル『Journal of Developmental & Behavioral Pediatrics』に『僕が跳びはねる理由』へのコメンタリーを発表した[10]。ファインと神尾は、この本を読んだ自閉症児の保護者が、13歳の自閉症児が独力でこの本を執筆したと信じ、自身の子供も同様の言語表出が可能になると期待してしまう危険性を指摘し、東田のオーサーシップに対して詳細にわたる疑義を呈した。

オーサーシップについて

東田のオーサーシップには疑問を抱く十分な理由がある。著者の声は13歳の少年のものとは思えず、ましてや言語能力に乏しい重度自閉症の少年のものとは考えにくい。たとえば、もしみんなが自閉症だったら…といった想像力や、人類以前の原始時代への回帰願望といった抽象的な概念の展開。さらに、なぜまともな会話ができないのかという問いに対して、皆と同じことを思っているのに、言いたいことが喋れず、表現する方法が見つからず、かわりに関係のない言葉が口から溢れ出てくるのだと説明する。2009年5月に東京大学で行われた講演においても、東田は皆と同じように心の中には言葉が湧き上がっているのに、壊れたロボットのような身体から誰かが救い出してくれれば…と同様の主張を行った。このような高度な思考や知識が、13歳の子供、特に東田のような重度自閉症の子供によって独自に生み出されたとする主張には、疑問を投げかける必要がある。

書き言葉と話し言葉の乖離

本書や講演では、自閉症者の内面は定型発達者と同様であり、感覚過敏や発話の困難さがコミュニケーションを阻害しているという前提に立っている。そのような障害は、閉じ込め症候群アフェミア英語版に見られる。しかし、東田の発話には、内容は限定的であるものの発音や流暢さにほとんど障害が見られず、言語-運動の乖離が生じている可能性は低い。

FCの一形態では?

東田は2009年、東京大学での講演で自身の現在のコミュニケーション方法をファシリテイテッド・フィンガー・ライティング(2009年の東京大学での講演の翻訳において)と呼び、ファシリテーターの身体的を手の支えから肘、肩、背中の支えへと減少させ、自立したタイピングを獲得したと述べた。FCは徹底的に研究されており、ファシリテーターが答えを知らない場合、正確な回答が得られないことが実証されている。この本の執筆と時期を同じくする動画では、東田の横に母親が座っており、母親が東田の身体に触れている様子が確認できる。したがって独立して行っているかに見える東田のタイピングは、母親からのキューイングによるものか、前もって暗記した文章を入力している可能性がある。

2014年に東田が公の場に出て質問に答えた際、彼は「なぜ私に聞くのですか、誰にでも答えがあるでしょう、あなたはお子さんにその質問をすべきですね」などと回答し、いかなる質問にも汎用性のある答えを暗記していたようだった。また、東田はしばしばノンバーバルであると報道されているが、それは事実と異なり、公の場に出た際や動画で明らかなように、東田は口頭で話すことができる。東田は、自閉症に特徴的な繰り返しのエコラリアを伴って話すことが多い。

DVDの一場面では、東田がきれいに花を描いたり、きれいに英単語を綴ったりしている場面があり、彼の運動制御能力が優れていることが明らかであり、主張されているような内面と身体の動きの乖離は見られない。また、優れた微細運動制御能力があり、お気に入りの絵や言葉や何度も書くのは、自閉症の子供たちに典型的な特徴である。

なぜオーサーシップに異議を唱える必要があるのか

この本は「典型的な」自閉症児として他の自閉症者を代弁する立場を取っているため、自閉症児の保護者が非現実的な期待を抱いたり、罪悪感を感じたりする恐れがある。エビデンスに基づく教育法を拒否する事態も懸念される。

仮にこの本が実際に東田の単独執筆によるものであったとすれば、中度から重度の自閉症における言語、認知機能、コミュニケーションに関する40年にわたって慎重に蓄積されてきた知見のほぼ全てが間違いであったことを意味する。カール・セーガンが述べたように、並外れた主張には並外れた証拠が必要だ。本件の場合、その証明は容易であり、東田本人のみが知り得る情報、かつファシリテーターが知り得ない情報を使ってオーサーシップの検証を行うことで判定できるはずである。

保護者へ伝えたいこと

子供の真の機能レベルに向き合うことが、支援計画の基礎となる。重度の自閉症は単なる運動障害や表出性言語障害ではない。

リリエンフェルド, S. O., マーシャル, J., トッド, J. T., & シェイン, H. C. (2014)

リリエンフェルド、トッド & シェインは学術ジャーナル『Evidence-Based Communication Assessment and Intervention』に発表した論考において、東田のコミュニケーション方法はFCであり、自立したコミュニケーションができるようになったかの検証はされていないと指摘している[11]

シモンズ, W. P., ボイントン, J., & ランドマン, T. (2021)

シモンズ、ボイントン & ランドマンは、学術ジャーナル『Human Rights Quarterly』に発表した論考において、東田のコミュニケーション方法はFCであろうとし、以下のように述べた[14]

東田が出演するビデオでは、コミュニケーションを取る際に、常に身体に触れられたり、音声を出している時にファシリテーターがそれを解釈している場面が多く見られる。コミュニケーション機器を独立して使いこなしている様子は見受けられず、コミュニケーションにおいてどれほど自立しているのか疑問が生じる。13歳にして非常に複雑な思考や感情を表現しているとされた東田は、実際には『ニューヨーク・タイムズ』のベストセラーや、20歳までに著したとされる他の14冊の本のいずれも執筆していなかった可能性が高い。『僕が跳びはねる理由』は、自閉症の少年の内面を明かすものではなく、自閉症の少年の内面が「こうであろう」とする彼の親の見解に過ぎないだろう。このような種の著作物における主張やオーサーシップの真偽は、FCの使用、人権、エビデンスに基づく介入といった件との関連において、重大な問題を孕んでいる。

アイクスティ, I.-M., ファイン, D., & ラーソン, C. (2023)

アイクスティ、ファイン & ラーソンは、『Journal of Child Psychology and Psychiatry』誌において自閉症がコミュニケーションの困難さ以外に障害はないとする誤った説を流付する情報源のひとつとして『僕が跳びはねる理由』を挙げ、非現実的な期待や効果のない介入法により自閉症児が教育機会を失する危険性について論じている[15]

評価

  • 映画にも出演しているアイルランド在住の作家、デイヴィッド・ミッチェルはこの本を初めて読んだとき、自身の自閉症の息子が「語りかけているように感じた」とのべている[16]
  • 自身も自閉症児の親である心理学者のイェンス・ヘルマンは、「この本は自閉症の子をもつ親の夢想と私がみなすところのものとほぼ一致している」と述べた[17][18]

あらすじ

口頭での会話が困難だったために内的世界を表現できなかった東田が、「筆談」というコミュニケーション方法を習得したことをきっかけに、自閉症の本質や自閉症者の内的世界について質問形式で解説する。

第一章 言葉について:口から出てくる不思議な音

東田は自閉症者への理解を深めることを目的に本書を執筆。自閉症者の一部がコミュニケーションに困難を抱えるのは、思考や感情を言葉として表現する際に時間的なずれが生じるためだと説明する。それまで自分の内的世界を表現する術を持たなかった東田だが、「筆談援助」という手法との出会いによって言語表現ができるようになった。

第二章 対人関係について:コミュニケーションとりたいけれど……

自閉症者の身体的コントロールや感覚の特徴について解説。特に身体のコントロールが困難であることから生じる様々な行動の背景を説明する。

第三章 感覚の違いについて:ちょっと不思議な感じ方。なにが違うの?

東田は自分が身体の中に閉じ込められている感覚をもつと語る。多くの困難を抱えながらも、自閉症は自分のアイデンティティと密接に結びついているため、自閉症のままでいたいと感じるようになったと述べている。跳びはねる行動には、硬直した身体をほぐす機能があり、飛び跳ねていると気持ちがよくて鳥に変身して空を飛んでいきたくなるのだと説明する。

第四章 興味・関心について:好き嫌いってあるのかな?

自閉症者に見られる一見独特な行動について、予測不可能な世界をコントロールしたいという願望から生じていると説明する。

第五章 活動について:どうしてそんなことするの?

自閉症者に外出衝動や道に迷う傾向がある理由として、目に入った物事や現象を追いかけたくなる非合理的な衝動があると指摘する。逃げ出す行為には、世界に対する違和感とそこから解放されたいという気持ちがあるとも説明する。自閉症者もそうでない人々と同様の感情があるが、身体に閉じ込められ表現できないため絶望しパニックに至ると説明する。

映画

2021年4月2日公開。サンダンス映画祭で観客賞などを受賞している[19]。興行収入は3000万円[20]

受賞歴

  • 文部科学省特別選定(生年、成人、家庭向き)
  • 厚生労働省厚生労働省社会保障審議会特別推薦推薦
  • 2021年度 児童福祉文化賞推薦
  • 東京都推奨

脚注

  1. ^ Books: Book Reviews, Book News, and Author Interviews : NPR”. www.npr.org. 2021年4月6日閲覧。
  2. ^ Naoki Higashida” (英語). Forbes. 2024年9月27日閲覧。
  3. ^ Best Sellers - The New York Times”. The New York Times. 2016年1月26日閲覧。
  4. ^ Kinchen, Rosie (14 July 2013), “Japanese teenager unable to speak writes autism bestseller”, Sunday Times (UK), http://www.thesundaytimes.co.uk/sto/news/uk_news/Arts/article1287374.ece 
  5. ^ 映画『僕が跳びはねる理由』が自閉症の偏見を覆す力に溢れている理由(HARBOR BUSINESS Online)”. Yahoo!ニュース. 2021年4月6日閲覧。
  6. ^ 山登, 敬之 (2017). “喋れなくても言葉はある,わからなくても心はある”. 児童青年精神医学とその近接領域 58 (4): 507–513. doi:10.20615/jscap.58.4_507. https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscap/58/4/58_507/_article/-char/ja/. 
  7. ^ 「僕が跳びはねる理由」で知る発達障害の誤解 | 医療プレミア特集 | 西田佐保子”. 毎日新聞「医療プレミア」. 2024年9月27日閲覧。
  8. ^ ダグラス・ビクレン&東田直樹 ジョイント講演会/フォーラム”. escor.co.jp. 2024年9月27日閲覧。
  9. ^ ダグラス・ビクレン&東田直樹 ジョイント講演会/フォーラム アンケート結果”. escor.co.jp. 2024年9月27日閲覧。
  10. ^ a b Fein, Deborah; Kamio, Yoko (2014-10). “Commentary on The Reason I Jump by Naoki Higashida” (英語). Journal of Developmental & Behavioral Pediatrics 35 (8): 539–542. doi:10.1097/DBP.0000000000000098. ISSN 0196-206X. https://journals.lww.com/00004703-201410000-00007. 
  11. ^ a b Lilienfeld, Scott O.; Marshall, Julia; Todd, James T.; Shane, Howard C. (2014-04-03). “The persistence of fad interventions in the face of negative scientific evidence: Facilitated communication for autism as a case example” (英語). Evidence-Based Communication Assessment and Intervention 8 (2): 62–101. doi:10.1080/17489539.2014.976332. ISSN 1748-9539. http://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/17489539.2014.976332. 
  12. ^ Simmons, William Paul; Boynton, Janyce; Landman, Todd (2021). “Facilitated Communication, Neurodiversity, and Human Rights” (英語). Human Rights Quarterly 43 (1): 138–167. doi:10.1353/hrq.2021.0005. ISSN 1085-794X. https://muse.jhu.edu/article/783996. 
  13. ^ Travers, Jason C. (2023-04-30), Hupp, Stephen; Santa Maria, Cara L., eds., Autism Spectrum and Intellectual Disability (1 ed.), Cambridge University Press, pp. 282–296, doi:10.1017/9781009000611.018, ISBN 978-1-009-00061-1, https://www.cambridge.org/core/product/identifier/9781009000611%23CN-bp-17/type/book_part 2024年9月27日閲覧。 
  14. ^ Simmons, William Paul; Boynton, Janyce; Landman, Todd (2021). “Facilitated Communication, Neurodiversity, and Human Rights”. Human Rights Quarterly 43 (1): 138–167. doi:10.1353/hrq.2021.0005. ISSN 1085-794X. https://muse.jhu.edu/article/783996. 
  15. ^ Eigsti, Inge‐Marie; Fein, Deborah; Larson, Caroline (2023-02). “Editorial Perspective: Another look at ‘optimal outcome’ in autism spectrum disorder” (英語). Journal of Child Psychology and Psychiatry 64 (2): 332–334. doi:10.1111/jcpp.13658. ISSN 0021-9630. PMC PMC10600574. PMID 35772988. https://acamh.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jcpp.13658. 
  16. ^ 深澤友紀 (20210404T170000+0900). “日本発の世界的ベストセラーが映画化! 自閉症の荒々しい感覚の嵐描く 〈AERA〉”. AERA dot. (アエラドット). 2021年4月6日閲覧。
  17. ^ The reason I jump: The inner voice of a thirteen-year-old boy with autism by Naoki Higashida | book review | In-Mind”. www.in-mind.org. 2024年10月23日閲覧。
  18. ^ Block (3 April 2018). “What is the Writer’s Responsibility To Those Unable to Tell Their Own Stories?”. Literary Hub. 21 July 2019閲覧。
  19. ^ 僕が飛びはねる理由|トップ”. movies.kadokawa.co.jp. 2021年4月6日閲覧。
  20. ^ キネマ旬報』 2022年3月下旬特別号 p.32

外部リンク

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