電磁式カタパルト電磁式カタパルト(でんじしきカタパルト、Electromagnetic catapult、電磁カタパルトとも)は、リニアモーターによって航空母艦から固定翼機を発射するシステムである。 アメリカ海軍とイギリス海軍が共同開発したものはEMALS(イーマルス、Electromagnetic Aircraft Launch System 電磁力航空機発射システム)と呼ばれる。 概要電磁力を使用して航空機を加速する。原理は1912年にEmile Bacheletによって考案された。アメリカ合衆国特許第 1,088,511号 従来用いられてきた蒸気カタパルトを更新するものとしてアメリカを始め、イギリス(単独開発から後にアメリカとの共同開発へ)、ロシア、中国、インドで開発が進められており、2022年時点でアメリカと中国が実機を製造、陸上基地でのテストを経て、それぞれの空母に搭載している[1]。 アメリカ海軍とフランス海軍で使用される蒸気カタパルトは、非常に高い信頼性が証明されている。4条の蒸気カタパルトを搭載している空母は、少なくとも99.5%で1条が稼働できた。しかし、欠点もあり、射出エネルギー変換効率は4~6%。出力制御が困難で軽い無人機などの発艦に適さない問題もあった。 電磁カタパルトは設計上90%の変換効率(EMALSの場合)を達成可能であり、正確な制御により、重戦闘機から軽無人機まで、多種多様な艦載機を発射することができるとされている[2]。 利点と欠点利点
欠点
各国での状況2022年時点で、実際に空母で運用可能な状態なのはアメリカのEMALSのみであり、中国は空母へ艤装中、他は開発中またはアメリカより購入となっている。 アメリカ新たに設計されたアメリカ海軍のジェラルド・R・フォード級航空母艦で採用、少なくとも4番艦まで契約が行われている。電力設計の古く、発電能力の重きが低いニミッツ級では蒸気カタパルトからの改装は不可能とされており[6]、最終艦(10番艦、CVN-77)の建造中に仕様を変更して搭載する案もあったが、開発が間に合わなかったため実際には行われなかった。 EMALSゼネラル・アトミックスの開発した、世界で初めて運用可能となった電磁カタパルト。 2010年にレークハースト海軍基地に陸上試験機が設置、2015年に最初の船上試験を実施。2017年1月の時点で試験は99.5%を完了[7]。7月にジェラルド・R・フォード甲板から第23航空試験評価飛行隊のF/A-18Fの発艦が行われた。2022年6月に艦上での10,000回目のカタパルト発艦を達成。10月にジェラルド・R・フォードの実戦配備が行われた。 リニアモーター、エネルギー貯蔵システム、電力変換システム、コントロールコンソールの4つの要素で構成でされる。
批判2013年の故障間隔は、最も寛大な値としては240であった[8]。 2014年1月のレポートによると、「信頼性向上の結果、最新の報告では失敗率の平均致命的故障間隔 Mean Cycles Between Critical Failureは、要求値より5倍高くなっている」とされる。2014年8月、海軍はレイクハースト試験場での3,017回目の試験実施を発表したが、この欠陥の更新については触れられなかった。海軍は、2014年12月までの改修完了を期待している。[9] 試験環境下で、電磁式カタパルトでは、増槽を装備した戦闘機を射出できないことが判った。「海軍はこれらの問題に対する改修を行っているが、有人機でのテストは2017年に延期される」とされた[10]。 2017年5月28日、ドナルド・トランプ大統領がタイム誌のインタビューで、1億ドルを超える経費を問題視した[11][12][13][14]。 トランプ大統領のこの批判は、2018年国防白書で重く受けられ、実用化の高い要望と併せて、致命的失敗率が 海軍の要求値に対して9倍以上であるとされた[15]。 2017年7月に、空母「ジェラルド・R・フォード」で洋上試験が無事に終了した[16] 2019年5月28日、訪日中のトランプ大統領が「以降の空母に採用しない」旨を表明した[17]。 イギリスクイーン・エリザベス級航空母艦の搭載機をF-35Cとし、CATOBAR空母とする際の電磁カタパルトを独自に開発していたが[18]、後にアメリカとEMALSを共同開発することになった。さらに搭載予定機だったF-35Cの開発が大幅に遅れ、導入コストが当初の見積もりより倍に増加したことから、2012年5月に搭載機をF-35Bに再度変更[19]、カタパルトの搭載自体が見送られることとなった。 2隻のクイーン・エリザベス級就役以降は無人機発艦用として、小規模の電磁カタパルト(最大24,948キロ = 55,000ポンドを射出)開発を模索している[20]。 EMCAT"E"lectro "M"agnetic "Cat"apultの略。イギリス独自に開発を進めていた電磁カタパルト。試作品のMV ALIMは、時速186マイルまで加速、最大32トン、230kNを超える推力を発生させたとされる。 ジェーンがConverteam UK海軍ディレクターのMark Dannattに行ったインタビューによると、2007年にリニアモーター、エネルギー貯蔵・制御システムの動作実証用の小規模のEMCATシステムが完成。システムの広範な試験は完了し、国防省の要請により、クイーン・エリザベス級でフルサイズの飛行機を発艦できるように開発が進められた。2009年7月20日に締結した高出力電気システムの設計・開発、デモンストレーションに関する650,000ポンドの契約に基づいた開発は、2010年7月26日の時点でほぼ完了[21]。同年の10月にイギリス政府は、クイーン・エリザベス級の1隻にカタパルトを搭載してF-35Cを購入すると発表した[22]。 しかし、2011年にイギリス政府がEMALSと先進型アレスティング・ギア(AAG)開発の技術サポートを受けるためゼネラル・アトミクスと契約したことが、11月26日にDSCAにより公式に発表され[23]、EMCAT開発が放棄されたことが示された。
中国艤装中の3隻目の空母福建に3条の電磁カタパルトが搭載されている[24]。通常動力空母であり、統合電気推進による最初の電磁カタパルト採用例となった。空母の他に、075型強襲揚陸艦の後継である076型強襲揚陸艦でも電磁カタパルト搭載。 アメリカのEMALSとは技術的アプローチが異なっており、交流電力の代わりに、中電圧の直流(DC)電力システムを採用[25]。エネルギー貯蔵システムもフライホイール・バッテリーからスーパー・キャパシターに変更されている[26]。 開発史中国は1990年代初めには蒸気カタパルトと電磁カタパルトの開発作業を行っていることをいくつかのメディアが指摘している[27]。 2014年1月、中国は電磁カタパルトの試験設備を建設していると発表した[28]。衛星写真で上海市閔行区に試験施設が建設されているのが確認された。 2015年9月上旬、艦載機訓練基地である黄村基地に新設された滑走路に電磁カタパルトと蒸気カタパルトと推測される施設の設置が開始された[29][30]。11月に開催された中国国際工業博覧会では中国工程院による電磁式カタパルトの模型が公開された[31]。 2016年6月20日、黄村基地の試験設備で大きな進展が見られたこと報告されている。10月17日の衛星写真で2つのカタパルトの背後にJ-15(おそらくJ-15A)があり、中国フォーラムでカタパルト上のJ-15の画像が確認されたことから射出試験が行われたことが示唆されている[29][30]。また、無人機(「雲影」の可能性が高いと推測される)がカタパルトの上に鎮座しているのも確認されている[32]。 2022年6月17日、中国初の電磁カタパルト搭載した空母福建が進水。2024年12月27日、電磁カタパルト搭載した強襲揚陸艦四川が進水。 ロシアロシア海軍は、「アドミラル・クズネツォフ」の後継となる将来空母で電磁カタパルトの装備を予定されており、2014年4月にネフスキー設計局総取締役セルゲイ・ウラソフ氏により開発が実施されていることが明かされている[33]。 2022年9月、サキとエイスクのどちらかのニートカ(艦上機訓練施設)に電磁カタパルトの陸上試験機を建設、テストを行うことを発表した[34]。 フランスフランス海軍は、計画中の新世代原子力空母で電磁カタパルトの装備を予定しており、アメリカよりEMALSの導入を決定。2021年12月にフランスへの販売が認証された[35]。 インドインド海軍は、計画中の2隻目の国産空母「ヴィシャル」への電磁カタパルト搭載を予定しており、アメリカに販売を要請。2017年10月にインドにEMALSを提供することが決まった[36]。ヴィシャルでの原子力採用は見送られたため[37]、中国の福建同様に統合電気推進での電磁カタパルト運用となる。 インドではEMALSの国内製造に関心を示しているほか、独自の電磁カタパルト開発も並行して行われている[38]。 韓国大韓民国海軍が計画しているCVXのプランとして、F-35Bの代わりに国産戦闘機KF-21の艦載機仕様KF-21Nを採用した際に、アメリカよりEMALSを導入してCATOBAR空母とする1案が出されている[39]。また、ハンファオーシャンが発表した6,000トンのドローン空母でも使用が提案されている。 日本日本では、川崎重工業が2023年3月15日〜17日の「DSEI Japan 2023」において、大容量ニッケル水素二次電池「ギガセル」を電磁式カタパルトに転用することができると展示した[40]。 ただし、アメリカがフライホイール、中国がスーパーキャパシターを電力貯蔵に使用しているように、電磁カタパルトでは容量より瞬間的な放電能力がネックとなるため、化学反応のため素早い放電の苦手な電池が本当に利用できるかは不明である。また、参考画像でも電磁カタパルトであるにもかかわらず軌条から蒸気が出ていたり、発艦するF-35がカタパルトに対応したC型ではなくB型等お座なりな部分がある。 脚注注釈
出典
参考文献
関連項目外部リンク
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