A型肝炎
A型肝炎(Aがたかんえん、Hepatitis A, HA)とは、A型肝炎ウイルス(HAV)が原因のウイルス性肝炎の一種である。多くは一過性の急性肝炎症状で終わり、治癒後は強い免疫を獲得する。症状消失後、1か月から2か月間はウイルスの排出が続く[1]。 世界保健機関(WHO)では高レベル感染地域、中レベル感染地域、低レベル感染地域の三つに分類している[2]。日本では感染症法上の4類感染症である[3]。 疫学古くはヒポクラテスが「流行性の黄疸」として記したとされている[2]。 A型肝炎ウイルス(HAV)は全世界に分布する。感染力は比較的強く、患者の発生数と居住環境の衛生状態には関連性がある。上下水道が整備されている先進国での発生は少ないが、衛生環境の劣悪な地域では蔓延している。衛生環境が劣悪な地域の感染は、乳幼児期に感染する事が多いが流行はない。衛生環境が改善する過程では規模の大きな流行が見られ、1988年に中華人民共和国上海市で30万人規模の流行があった。 衛生環境の整った先進国や都市部での感染は、抗体保有率が低いことから集団発生が見られる。また患者の発生報告には季節性があり、日本では例年春先になると感染者数が増加するが、その理由は明らかではない。第二次世界大戦後生まれの世代では、A型肝炎に対する抗体(HA抗体)を持っておらず、これらの人々がA型肝炎の流行地である南アジアやアフリカへ海外旅行することで、感染するパターンが多い。汚染された輸入食材経由の感染が懸念されている。 潜伏期間が約1ヶ月と長いことから、未発症の感染者を感染源として食品を汚染し集団発生することがあるが、原因食材の特定には至らない場合も多い。 病原体A型肝炎ウイルスはピコルナウイルス科ヘパトウイルス属に属するRNAウイルスである。発見当初、ピコルナウイルス科のエンテロウイルス属に分類されていたが、後にヘパトウイルス属として分類された。形状は、直径約27nmの裸の正20面体で、遺伝子型は7種類に分類されているが、血清型は1種類。 界面活性剤、エーテル、pH3 程度の酸、温度、乾燥に対して抵抗性が強いが、高圧滅菌、UV照射、 ホルマリン処理、塩素剤処理で失活する。 感染源
糞便を介した経口感染で、糞便に汚染された器具、手指等を経て感染する。また、ウイルスに汚染された水や野菜、魚介類などを生や加熱不十分なまま食べることによっても感染する。 世界的には、カキなどの二枚貝、レタスや青ネギなどの野菜類、冷凍ラズベリーや冷凍イチゴなどの冷凍果実類による集団感染が報告されている[4][5]。日本でA型肝炎ウイルスによる食中毒として原因食品が特定された例はウチムラサキ貝(大アサリ)の事例と握り寿司の事例のみと少ない[4]。感染症発生動向調査による報告による推定される感染源は、国内感染事例ではカキなどの海産物や寿司、肉類などが感染源として推定され、国外感染事例では海産物のほか野菜・フルーツ、水などが感染源として推定されている[4]。
男性間の性行為による感染者の増加が報告されている[1]。また、2018年は36週(9月9日)までに、例年の感染者数を大きく越える724人の感染が、国立感染症研究所によって報告された[1][6]。 臨床所見感染口から侵入したA型肝炎ウイルスは、消化管で吸収されて血流に乗り、肝臓へと到達する。感染後最初のウイルス増殖が何処で起こるのかは未解明であるが、肝臓でウイルスは増殖し胆汁中や血液中に放出されるが、肝細胞が破壊されることはない。ウイルスを含んだ胆汁は十二指腸へ排出されるが一部は腸管で再吸収され、残りは便中に排泄される。 潜伏期間は2週間から7週間(平均4週間)で[7]、やがて増殖したウイルスに対する免疫が働き始めHA抗体が作られるようになると免疫機構により肝細胞が攻撃され、A型肝炎の症状が出現する。肝炎の発症以前でも、感染者の糞便中にはA型肝炎ウイルスが排出されており、他人に感染させる原因となり得る。 A型肝炎の経過は慢性化することはほとんどなく急性肝炎の形をとり、ある時期を過ぎると治癒へ向かうことが多いが、稀に劇症肝炎(1%)や腎不全へと移行し重症化することがある。 症状一般に小児では、不顕性感染か発症しても軽い症状で終わることが多い。一方、成人では明瞭な黄疸症状を呈する事が多く、灰白色便、発熱、下痢、腹痛、吐き気・嘔吐、全身倦怠感、CRP上昇、プロトロンビン時間短縮などの症状[8]があり、初期には風邪と類似の症状がみられる場合がある。高齢者ほど症状が重くなりやすい。4週間から8週間で回復し、B型肝炎やC型肝炎と異なり慢性症状に移行することはないとされている。肝機能の回復には、1ヶ月から2ヶ月が必要とされ、肝機能が完全に回復するまでは禁酒が必要。黄疸が消えれば、肝機能検査の結果が完全に正常で無くとも、安全に職場復帰が可能。 診断血清中のIgM型HA抗体により確定診断するが、感染初期には約5%が陰性と診断される[1]。 IgG型HA抗体は治癒の指標となる。
治療
予防一般的な感染予防法として、十分な手洗い(調理前、食事前、トイレ、オムツ替えの後など)や十分に加熱された飲食物の摂取が挙げられる[2][4]。 ワクチン接種A型肝炎ワクチン→詳細は「A型肝炎ワクチン」を参照
WHOの対応世界保健機関(WHO)は、A型肝炎について高レベル感染地域、中レベル感染地域、低レベル感染地域の三つの地域に分類しており、予防接種に対して異なる対応をとっている[2]。
食品出典脚注
関連項目外部リンク
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