レジオネラ症 (legionnaires' disease)は、どの種類のレジオネラ 菌でも引き起こされる非定型肺炎 のひとつである[ 4] 。兆候や症状は咳、息切れ 、高熱 、筋肉の痛み 、頭痛である[ 3] 。吐き気、嘔吐、下痢にもなりえる[ 1] 。これらの症状は曝露2日から10日後に現れる[ 3] 。
解説
レジオネラ感染症は、1976年に初めて報告された新興感染症 であり、日本では感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律 によって四類感染症 に指定されている。これは日本でのレジオネラ発生の増加を踏まえて2003年 の改正の際に行われたものであり、従前の感染症法 では規定されていなかった、汚染施設の消毒などに対する行政措置が可能になるような改正が盛り込まれた。
疫学
レジオネラ菌は自然の淡水 に生息している[ 5] 。温水タンク、温水浴槽、冷却塔 、大型エアコン を汚染することがある[ 5] 。通常、菌を含んだ水の微粒子を呼吸し感染する[ 5] 。また、汚染された水を誤嚥 することによっても感染することがある[ 5] 。一般的にヒトからヒトへは感染せず菌に曝露しても必ずしも感染するとは限らない[ 5] 。感染のリスク要因は高年齢、喫煙歴、慢性閉塞性肺疾患 、低免疫機能があげられる[ 6] 。重度の肺炎または過去に旅行により肺炎にかかったことのある人は感染していないか検査をすることが勧められる[ 10] 。診断方法は尿の抗原検査と喀痰検査がある[ 7] 。
予防にはより良い水道 システムの維持である[ 8] 。レジオネラ症の治療は抗生物質 が用いられる[ 9] 。推奨薬剤はニューキノロン 、アジスロマイシン 、ドキシサイクリン である[ 11] 。発症すると入院が必要となる場合が多い[ 10] 。感染者の約10%が死に至る[ 9] 。
世界的な発症数に関しては明確ではない[ 1] 。肺炎が流行る地域での2%から9%がレジオネラ症が原因と推計される[ 1] 。米国では年間8,000~18,000件の入院件数が推計される[ 12] 。レジオネラ症の集団的発症 は稀である[ 1] [ 13] 。常に感染する可能性があるが夏と秋に多い[ 12] 。1976年のフィラデルフィアにて開かれた在郷軍人会にて最初に流行したことから "legionnaires' disease"(在郷軍人病) と命名された[ 14] [ 15] 。
臨床像
レジオネラ肺炎
2 - 10日の潜伏期間を経て高熱、咳、頭痛、筋肉痛、悪寒などの症状が起こる。進行すると呼吸困難を発し胸の痛み、下痢、意識障害等を併発する。死亡率は15% - 30%と高い。
体温 > 39.4℃
喀痰がない(細胞内寄生のため、好中球 やマクロファージ に貪食されず、膿性喀痰を生じない)
血清ナトリウム値 < 133mEq/L
LDH > 255IU/L
CRP > 18.7mg/dL
血小板 < 17.1万、の6つのうち4つ以上を満たす場合レジオネラ肺炎の確率が66%であると報告されている[ 16] 。
ポンティアック熱
多量のレジオネラを吸い込んだとき生じる。潜伏期間は1 - 2日で、全身の倦怠感、頭痛、咳などの症状を経て、多くは数日で回復する。
感染しやすい環境
エアコンのドレン排水管がタンクに接続された和風便器の例
前述のようにレジオネラの病原性は低く、健康人がただ風呂に入っただけでは感染しない。空調冷却水内で増殖した菌が冷却塔 (クーリングタワー)から飛散したり、入浴施設の水循環装置や浴槽表面で増殖した菌がシャワーなどで利用されたり、浴槽の気泡装置で泡沫に含まれたり、またはエアコン 等の冷媒装置のドレン 管の排水を水洗トイレ のタンクに接続されている場合に便器 洗浄時の水沫等によって塵(エアロゾル)となり、それが気道 を介して吸入され、肺に存在するマクロファージ(肺胞マクロファージ )に感染することによって発病する。日本でも毎年数人がレジオネラにより死亡している。
感染源
入浴設備、超音波加湿器、空調機器やダクト等が感染源になったと報告されているが、特に日本では入浴設備からの感染事例が多い。1996年、通産省 から家庭用24時間風呂浴水のレジオネラの存在が確認され易いとして、その製造元・発売元に衛生対策の要請がなされ、1997年にはレジオネラ対策24時間風呂が各社から発売されている。しかし、それ以降も各地の温泉 や共同入浴施設では、感染による死者が出ており、衛生管理の難しさを物語っている。前述のように、レジオネラは入浴施設で多用される濾過循環装置の濾材では処理できないため、循環式浴槽 を持つ共同入浴施設では、以下の二点が指導されている。
塩素消毒 を行い、また定期的に湯をおとし清掃すること(レジオネラ繁殖を抑制する)
泡風呂にしないこと、湯面より高い位置にある注ぎ口ではなく浴槽内から循環させること(エアロゾル 形成を抑制する)
また、L. longbeachae による疾患も報告されており、こちらは土壌 に存在する病原菌が園芸用の堆肥 などを通じて感染することが多い。
汚染状況
掛け流し式
従来、循環式よりは汚染の程度は低いと考えられているが、宮城県保健環境センターによる22施設の調査では、約30%の施設で公衆浴場法および旅館業法施行細則の基準を超える汚染が確認され[ 17] 、浴槽内の菌と浴槽付近のぬめりの菌のPFGEパターンが一致し、周囲のぬめりが浴槽の汚染源になっている可能性を報告している。同時に、掛け流し式温泉においても十分な衛生管理を行い感染事故の防止の必要があるとしている。
主なレジオネラ感染事例
日本における主な感染事例
日本国外における感染事例
2012年夏。カナダ のケベック 州でレジオネラ症感染者が続出した。CNN のリポートでは、9月3日 に165人感染、10人死亡[ 21] CBC・モントリオール発信では、11人の死亡を報告した[ 22] 。9月7日の保健所の発表では、176人の感染と11人の死亡、感染元となった冷却塔からの感染は終息の兆しとなった[ 23] 。
2005年のカナダのトロント 市では、21人が死亡し、127人が感染した[ 24] 。
治療法
レジオネラ症に対してのワクチン はない[ 8] 。細胞内寄生菌であるため、細胞内への浸透性の悪い薬剤の効きが弱い。またβ-ラクタマーゼを産生するものが多いため、ペニシリン 、セフェム 系の抗菌薬は効かない。食細胞内に移行性の高いマクロライド 系、ニューキノロン 系、リファンピシン 、テトラサイクリン 系の抗菌薬を投与する。
出典
脚注
^ a b c d e Cunha, BA; Burillo, A; Bouza, E (23 January 2016). “Legionnaires' disease.”. Lancet 387 (10016): 376–85. doi :10.1016/s0140-6736(15)60078-2 . PMID 26231463 .
^ Mahon, Connie (2014). Textbook of Diagnostic Microbiology . Elsevier Health Sciences. p. 416. ISBN 9780323292610 . オリジナル の2017-09-08時点におけるアーカイブ。. https://books.google.com/books?id=rdDsAwAAQBAJ&pg=PA416
^ a b c d “Legionella (Legionnaires' Disease and Pontiac Fever) Signs and Symptoms ”. CDC (January 26, 2016). 12 March 2016時点のオリジナル よりアーカイブ。21 March 2016 閲覧。
^ a b “Legionella (Legionnaires' Disease and Pontiac Fever) About the Disease ”. CDC (January 26, 2016). 25 March 2016時点のオリジナル よりアーカイブ。21 March 2016 閲覧。
^ a b c d e f “Legionella (Legionnaires' Disease and Pontiac Fever) Causes and Transmission ”. CDC (March 9, 2016). 25 March 2016時点のオリジナル よりアーカイブ。21 March 2016 閲覧。
^ a b “Legionella (Legionnaires' Disease and Pontiac Fever) People at Risk ”. CDC (January 26, 2016). 27 March 2016時点のオリジナル よりアーカイブ。21 March 2016 閲覧。
^ a b “Legionella (Legionnaires' Disease and Pontiac Fever) Diagnostic Testing ”. CDC (November 3, 2015). 12 March 2016時点のオリジナル よりアーカイブ。21 March 2016 閲覧。
^ a b c “Legionella (Legionnaires' Disease and Pontiac Fever) Prevention ”. CDC (January 26, 2016). 25 March 2016時点のオリジナル よりアーカイブ。21 March 2016 閲覧。
^ a b c “Legionella (Legionnaires' Disease and Pontiac Fever) Treatment and Complications ”. CDC (January 26, 2016). 29 March 2016時点のオリジナル よりアーカイブ。21 March 2016 閲覧。
^ a b “Legionella (Legionnaires' Disease and Pontiac Fever) Clinical Features ”. CDC (October 28, 2015). 12 March 2016時点のオリジナル よりアーカイブ。21 March 2016 閲覧。
^ Mandell, LA; Wunderink, RG; Anzueto, A; Bartlett, JG; Campbell, GD; Dean, NC; Dowell, SF; File TM, Jr et al. (1 March 2007). “Infectious Diseases Society of America/American Thoracic Society consensus guidelines on the management of community-acquired pneumonia in adults.”. Clinical Infectious Diseases 44 Suppl 2 : S27-72. doi :10.1086/511159 . PMID 17278083 .
^ a b “Legionella (Legionnaires' Disease and Pontiac Fever) History and Disease Patterns ”. CDC (January 22, 2016). 25 March 2016時点のオリジナル よりアーカイブ。21 March 2016 閲覧。
^ “Legionella (Legionnaires' Disease and Pontiac Fever) Prevention ”. CDC (October 28, 2015). 12 March 2016時点のオリジナル よりアーカイブ。21 March 2016 閲覧。
^ “Legionella (Legionnaires' Disease and Pontiac Fever) ”. CDC (January 15, 2016). 22 March 2016時点のオリジナル よりアーカイブ。21 March 2016 閲覧。
^ 倉文明, 前川純子 (2014年6月25日). “レジオネラ症とは ”. 国立感染症研究所. 2020年3月6日 閲覧。
^ Fiumefreddo R, et al. Clinical predictors for Legionella in patients presenting with community-acquired pneumonia to the emergency department. BMC Pulm Med. 2009;19;9:4. doi: 10.1186/1471-2466-9-4.
^ 掛け流し式温泉における微生物生息状況 (pdf) /2006 宮城県保健環境センター
^ 家庭用超音波式加湿器が感染源と考えられたレジオネラ症の1例 国立感染症研究所
^ 天然鉱石を使用した入浴施設が原因であると推定されたレジオネラ感染事例-群馬県 国立感染症研究所
^ “福岡の老舗旅館、湯の交換は年2回だけ 基準の3700倍の菌 ”. 毎日新聞. 2023年2月28日 閲覧。
^ CNN.co.jp 9月3日(月)11時9分配信
^ [1]
^ The Canadian Press Friday September 7, 2012 17:44配信 [2]
^ CBC Montreal 9月7日19時33分配信 Legionnaires' kills 11 people in Quebec City CBC News Sep 02, 2012 11:46
外部リンク
一類感染症 二類感染症 三類感染症 四類感染症 五類感染症 新型インフルエンザ等 感染症