Linear Tape-OpenLinear Tape-Open(リニア テープ オープン、略称:LTO)は、コンピュータ用の磁気テープ技術。一社独占的なDLTやAITに代わるオープン規格として、シーゲイト・テクノロジー、ヒューレット・パッカード(現:ヒューレット・パッカード・エンタープライズ)、IBMの3社によって開発、策定された。LTO技術の標準のフォームファクターはUltrium と呼ばれており、主にバックアップやアーカイブ用途としてコンピューターシステムで利用されている。 2000年に発売された第1世代(LTO-1)の容量は100GBであったが、2021年に発売された最新世代のLTO-9は18TBの容量を同じカートリッジサイズで実現している。特定用途向けに少数のみ販売されるため、ドライブもテープも非常に高価である[要出典]。 起源1990年代後半、クアンタムのDLTとソニーのAITはPCサーバやUNIXシステムの大容量高速テープ記憶装置として主要な位置を占めていた。反面それらの技術は権利関係の制限が厳しく、ベンダによる商品化の足かせとなっていた。そこでIBM、HP、Seagateの3社は、よりオープンな仕様を策定することでこれらに対抗しようと目論み、IBMツーソン研究所が20年間蓄積した業績を拡張してLTOを規格化した。2017年現在はIBM、クアンタム、HPのTechnology Provider Companies(TPCs)が開発、ライセンス管理及びメディアの認証を主導している[1]。 フォームファクタLTOにはUltriumとAccelisという2つのフォームファクタがある。2006年現在、LTO Ultriumの製品ばかりで市販のLTO Accelisドライブやメディアは存在しない。 Accelis8mmテープ幅、2リールカートリッジ、高速アクセス重視、SonyのAITに良く似ている。Accelisはデータへの高速アクセス、特にテープの中間地点にアクセスする時間を最小限にするために2リールカートリッジを使って1997年に開発された。IBMの(短命に終わった)IBM Magstar MP 3570がこのコンセプトの先鞭となった。実際のパフォーマンスはUltriumテープフォーマットより悪かったので、Accelisの需要は無かった。Accelisと似たAITを販売していたソニーでさえ、その改良型であるSAITでは1リール、1/2インチフォームファクタを採用した。 Ultrium1/2インチ(12.65 mm)テープ幅、1リールカートリッジ、大容量重視、QuantumのDLTとIBM 3590 Magstarに良く似ている。1/2インチ磁気テープは50年以上データ記憶装置として利用され続けてきたが、Ultriumは事実上DLTを置き換えるために開発された。カートリッジの外形寸法は 102.0 × 105.4 × 21.5 (mm) である[2]。過去のテープ資産を有効に活用できるようにするため後方互換性を規格として求めており、その世代から少なくとも1または2世代前までのカートリッジを読み出すこと、同様にその世代のカートリッジとその直前の世代のカートリッジに書き込むことが可能である。 カートリッジLTOコンソーシアムからこれまでメディア認証を受けた企業は、EMTEC、イメーション(現:グラスブリッジ・エンタープライゼス)、富士フイルム、マクセル、TDK(記録メディア事業は後にイメーションに譲渡)及びソニーである。EMTECは2003年にイメーションに買収された。TDK(実際はイメーションのTDK Life on Recordブランド)は2013年にテープ事業から撤退する事を発表した[3]。2023年現在、最新世代のLTO-9の認証を受けた企業は富士フイルムとソニーのみである[4]。全世代のドライブで利用可能なクリーニングカートリッジ(Universal Cleaning Cartridges、略称UCC)もある。カートリッジの外観色はHPを除き各社統一である。詳細は#カートリッジの色
機械装置磁気テープに記録再生を行うテープドライブとドライブへのカートリッジ入れ替えを自動化するテープライブラリが主な機械装置である。テープドライブのフォームファクターはFull-Height(高さ約8.3 cm)とHalf-Height(高さ約4.1 cm)の2種類がある。データの記録再生はファイバーチャネルやSASを通して行われる。
世代
LTO-1LTO-1テープフォーマットは将来への拡張を見据えながらも迅速に開発、販売できるようにデザインされていた。そのために難度の低い技術を用いて作られていた。
LTO-2
LTO-3
LTO-4
LTO-5
LTO-6
LTO-7
LTO-8
LTO-9
注釈
技術的な特徴カートリッジメモリ全てのLTOカートリッジはカートリッジメモリ(CM)チップを内蔵している。LTO1~3では、32バイトのメモリブロック128個からなる容量4kバイト。LTO4~5では8KB、LTO6-8では16KBである。非接触型RFインターフェース経由で一度に1ブロックの情報を記録・再生できる。 LTOドライブはこの機能を標準で備えている。 CM情報はカートリッジの種類や世代の識別、テープのヘルスチェックなどに利用される。例えば、ドライブで記録・再生を実施した後は、その時のリトライ回数がCMに記録される。 LTOではテープ上の欠陥/オフトラック/付着物などの理由で記録・再生に失敗した場合、リトライを実施する。 テープが正常な場合リトライ回数は十分低い。 テープにトラブルが生じた場合、これら値が100から1000のオーダーになる場合がある。 すなわち、テープのおよその健康状態を推定する事も可能である[9]。手持ちサイズの外付けのCM読み出し機もある。[10] [11] [12] バーコードラベル→詳細は「テープライブラリ」を参照
大規模なシステムの場合、LTOはテープライブラリと併せて利用される事が多い。カートリッジにバーコードラベルを貼り付けることで、バーコードリーダーを備えたテープライブリはテープがどのスロットに格納されているか、その位置を把握する事が出来る。通常バーコードは8桁の英数で構成され、先頭の6桁はユーザーが任意に定義してよく、最後の二桁は以下の通りカートリッジの世代を示す:L1、L2、L3、L4、L5、L6、L7、M8、L8、L9、LT、LU、LV、LW、もしくはLX[13]。 圧縮LTOはドライブに圧縮機能が実装されている。データ圧縮方法はLTO-DCと呼ばれる。これはLZSの一種であるALDCと呼ばれるアルゴリズムを使用している。LTO-DCは圧縮の効かないデータ(つまり、すでに圧縮されているデータやランダム度が高く圧縮アルゴリズムを適用しても小さくならないデータ)には圧縮しないようにデザインされている。以下はカルガリーコーパスによる種々の圧縮結果の比較である。通常コンピュータに保存されるデータの中で、プレインテキスト、原画像、データベースファイル(TXT、ASCII、BMP、DBF等)の圧縮率は高い。一方、暗号化されたデータやすでに圧縮されたデータ(PGP、ZIP、JPEG、MPEG、MP3等)に対して圧縮を試みると、サイズは増加する。LTOテープドライブでは圧縮が効かないデータを検出することによりこの膨張を抑制する。
位置決め時間LTO7の最大巻き戻し時間は108秒である。[14] テープの全容量まで書き込んだ場合はテープの発端で書き終わるので巻き戻しに時間はかからない。LTO7のテープの平均シーク時間は56秒である。 信頼性エラー訂正技術LTOに限らずストレージデバイスには一般にエラー訂正アルゴリズムが組み込まれており、LTOはリード・ソロモン符号の2重エラー訂正を実装している。LTOはユーザーデータをトラック方向(横方向)およびクロストラック方向(縦方向)に数十から数百バイト並べて2次元的なマトリックスを生成し、その横一列のデータから計算したC1パリティと、縦一列 から計算したC2パリティの2種類をユーザーデータに併せてテープに記録する。この内複数個のデータが読み取り出来なくても、同じ列の読み取り可能なデータから計算することで、読み取れなかったデータを算出(再生)することができる[15]。1トラック、又はテープメディアの32 mm以下のデータを失った場合でも、データを復元することができる。 Read-While-WriteLTOは読み込みヘッドと書き込みヘッドが独立しており、読み取りヘッドは後方(テープ走行方向に対して下流側)に配置されている。ドライブは記録したデータが正しく読み出せるかをリアルタイムに験算し、必要であればデータをテープの別な物理位置に書き直し(Rewrite)することができる。これはRead-While-Writeと呼ばれる機能であり、転送速度を犠牲にせず高いデータ信頼性を実現する技術である。(HDDや光ディスクではリアルタイムなデータ検証が不可能であり、当該機能を実現しようとした場合、実効的な書き込み速度が半分になる)。Rewriteはエラーが無くなるまで繰り返される[16]。 耐久性推定
テープレイアウトLTO Ultriumテープには5本のサーボバンドに挟まれた4本のデータバンドがある[17]。データバンドは3、1、0、2 とテープ上側から番号が付けられていて番号順にデータが埋められていく。更に1つのデータバンドに着目した場合、その領域は数十本のラップに分割される。例えば、新品のテープに書き込む場合ヘッドはデータバンド"0"のラップ"0"に位置決めされる。ここからテープが走行しヘッドの全ての書き込み端子が同時に書き込みを行う。テープの末尾に到達するとヘッドはデータバンドは変えずに次のラップへ直角に移動し、テープを先ほどと反対方向に走行させながら書き込みを行う。最終ラップへの書き込みが終わると、ヘッドは次のデータバンドへ直角に移動する。結果として各データバンドにヘビが蜷局を巻いたようなパターンができる。テープにデータを埋めつくすのに必要なパスの数を求めるには、総トラック数を書き込み端子の数で割れば良い。例えば、LTO-8テープは208パス必要となる。 WORMLTO-3からWORM (Write Once Read Many)機能が搭載された。WORMカートリッジはデータを読み出すことはできるが、消去したり上書きすることができない。法令が要求する監査証跡のため等に有効である。なおLTO-CMがWORMであることを示していることを除けば普通のLTOカートリッジと同一である。カートリッジ内のテープメディアについては違いはない。一般にWORMカートリッジの色は普通のカートリッジと異なる。 暗号化LTO4からテープドライブ内での暗号化機能が追加された。 LTOドライブはテープに記録する前(圧縮後)にデータを暗号化する。 万が一カートリッジを紛失してもテープに記録されたデータは読み出せず、情報の漏洩を防止することができる。暗号鍵の管理方法はテープライブラリ[18]やKey Management Interoperability Protocol[19]がある。暗号化アルゴリズムはAES-GCMである。データ改竄の検出が可能である。 パーティショニングLTO-5からパーティショニングが可能になった。 LTO-5は2分割に、LTO-6,7以降は4分割まで対応している。パーティションを跨いでデータ記録されることを防ぐため、パーティション毎に2ラップのガードラップが設けられる。この領域はデータが記録できないため、実効的にユーザーが利用できる容量は減少する。Nパーティションに分けた場合、(N-1)*2ラップ分の容量が失われ、例えば1ラップを50GBと仮定した場合、4パーティションを作成すれば、(4-1)*2*50 = 300GB分の容量が失われる。 LTFS→詳細は「LTFS」を参照
LTO-5からサポートされたテープフォーマット/ファイルシステム。 メタデータとファイルをテープ上の別パーティションに記録する事で、テープ中のファイルがあたかもディレクトリ構造を有しているように、ユーザー/アプリケーション側から見える。 テープメディアを一般的なディスク媒体もしくはリムーバブルメディア(USBメモリ, 外付けHDD等)と同様に扱うことが出来るようになる。 Type M メディアLTO-8からサポートされたフォーマット技術。LTO-8ドライブは未使用のLTO-7メディアをタイプ M-8メディアとしてフォーマットできる。これはLTO-7メディアの容量を50%増に相当する9 TB(圧縮容量 22.5 TB)に増加させることを可能にする。ユーザーは既存システムのドライブをLTO-8へ交換する事で、手持ちの未使用のLTO-7メディアを9 TBで利用できる事を意味する。IBM 3592にも同様の技術が実装されている。 使用上の注意クリーニングドライブテープデバイスはメディアとヘッドが接触した状態で記録再生を行うので、長時間の利用はヘッドの汚れを引き起こし予期せぬリードライトエラーに繋がる場合もある。Ultriumではヘッドをクリーニングするためのクリーニング・カートリッジが各社から販売されており、ユーザーは各自の責任でヘッドをクリーンに保つ必要がある。その一方でこれはヘッドを研磨するので、過度な使用はドライブの寿命を縮める事に注意しなくてはならない。LTOドライブはクリーニングが必要になった場合、LEDディスプレイに表示される [20]。HP LTOドライブのクリーニング方針は他社と異なりクリーニングカートリッジがロードされてもドライブがクリーニングの必要がないと判断したときには、クリーニングは行わない。 カートリッジテープメディアに付着したデブリを予めクリーニングして販売しているベンダーもある[21]。 消去バルク消磁器を使うと(または他の強力な磁場にカートリッジをさらすと)、そのカートリッジは以後使用不能になる。これはテープ上に予め磁気的に記録されたサーボトラックが消去されてしまうためである。 利用・保存環境テープの利用・保存環境はベンダーからスペックが提供されており、ユーザーの責任でこれらを遵守する必要がある[22]。 販売台数
カートリッジの色
脚注
関連項目 |