RED (村枝賢一)
『RED』(レッド)は、村枝賢一による日本の漫画。西部開拓時代末期を舞台にした復讐劇である。 掲載誌は『ヤングマガジンアッパーズ』(講談社刊)で、1998年第15号から2004年第21号まで連載された後、同誌の休刊ののちに『週刊ヤングマガジン』(同社刊)に引き継がれ、2005年第10号から第48号まで連載された。『週刊ヤングマガジン』では、『ヤングマガジンアッパーズ』の刊行ペースと同様の隔週連載であった。 連載回数は全151回。刊行された単行本は全19巻(講談社刊)。 2014年5月から2015年2月にかけて新装版が刊行された。新装版の巻数は全10巻(講談社刊)。 概要19世紀末のアメリカ合衆国を舞台とし、西部開拓時代やインディアン戦争を物語の背景とした復讐劇である。主人公・レッドは騎兵隊に部族を虐殺されたインディアンであり、レッドが騎兵隊員に復讐をすることが物語の本筋である。伝統的な西部劇では善玉として扱われる騎兵隊を悪役に位置付け、また、悪役として扱われがちなインディアンを主人公に位置付け、騎兵隊に復讐をするインディアンという、伝統的な西部劇とは逆の構図を作っている点が物語上の特色である。 また、西部劇でありながら、もうひとりの主人公が日本人であることが特色である。伊東伊衛郎は西南戦争に反政府側として参加し、とある事情からアメリカ合衆国に落ち延びてきた元士族である。他にも主人公の仲間として、娼婦、巡回牧師、アパッチ族、セクシュアルマイノリティなどが登場し、総じて、社会のマイノリティの視点から日本やアメリカ合衆国の社会と歴史を描写している点も特徴である。 本作は、作者の新人時代の作品である “BIBLE” を下敷きとして構成されている。“BIBLE”は出自や事情の異なる男女4人が荒廃した中東をともに旅し、それぞれの故郷へ帰るまでを描いた作品である。“BIBLE” は未完に終わったが、“BIBLE” で構想された群像劇の要素や、ロードムービー的な要素は本作で生かされている。本作の作中では複数の主人公が設定され、多数の登場人物が登場し、運命の交錯が描かれる。ニューヨークからフロンティアまでのアメリカ合衆国全土(主として大陸横断鉄道の沿線地域)を舞台とし、主人公たちの運命がやがて収束していくまでが描かれている。 あらすじ1886年のアメリカ合衆国。西部開拓時代末期。フロンティアの開拓が終焉し、大陸横断鉄道が敷かれ、長く続いたインディアン戦争が終わろうとしていた時代。インディアンたちは敗れ、先祖から続く暮らしを奪われ、居留地へと追いやられ、苦しみに喘ぎながらも、なお生きていた。 ある町に伊東伊衛郎という男が住んでいた。伊衛郎は西南戦争に参加して敗れ、落ち延びてきた元士族である。かつて敗れたときに多くの仲間を失ったことを悔やみ、鬱々としながら暮らしていた。同じ町にアンジーという娼婦がいた。美貌の娼婦として知られ、またその気っぷの良さでも知られていた。 ある日、町をひとりのインディアンが訪れる。レッドと名乗るその長身の青年は、旅のインディアン芸人であり、興業のために町を訪れたのだ。レッドと伊衛郎は知り合い、また、アンジーはレッドを気に入る。ある事件をきっかけに、レッドに心を救われたと思った伊衛郎は、レッドの旅に同行する。また、アンジーも個人的な動機からレッドと伊衛郎と同行する。 旅の途中で三人は、グレイと名乗る巡回牧師と出会う。グレイはなぜかレッドのことを知っており、レッドの生い立ちを伊衛郎とアンジーに話す。レッドは10年前に虐殺されたインディアンの部族、ウィシャの唯一の生き残りだというのだ。レッドは虐殺を行った第七騎兵隊・ブルー小隊隊員25名のリストを持っており、全員を殺すために旅をしているのだという。グレイはレッドに重厚長大なリボルバー「ヘイトソング」を渡す。尋常でない破壊力を持つ「ヘイトソング」でならば、ブルー小隊隊員全員を殺すことができるとレッドは確信し、狂喜するのだった。 アンジーはブルー小隊隊員を探すために独自の調査を開始する。最初の標的はオーエン・ランディスという男であった。オーエンのもとに向かうアンジーであったが、そこにはかつての娼婦の仲間であるタリアの姿があった。タリアはオーエンの妻であり今は身重であった。オーエンはブルー小隊の解散後、すっかり丸くなっており、今ではタリアとともに町でレストランを経営していた。オーエンの殺害を諦めるアンジーであったが、ブルー小隊の副司令官であるジョン・テレンスがオーエンを直々に招集する場面に出くわす。アンジーはテレンスを退散させるが、オーエンはテレンスの圧力に屈し、タリアを残して去る。タリアは動転し、アンジーに感情をぶつけ、アンジーとタリアは決別した。 その頃、レッドはアリゾナ準州にあるフォート・トーマスにインディアン斥候に身をやつして潜入していた。目的はフォート・トーマスの司令官、元ブルー小隊隊員のエドワード・ゴールドスミスの捕縛であった。 ゴールドスミスはブルー小隊の優秀な狙撃手であったが、ウィシャを小隊が虐殺したときに虐殺にただ一人反対し、その後も司令官であるブルー大尉に恨みを持ち、虐殺事件を軍上層部に告発した。その結果、ブルー小隊は解散され、隊員は全員軍から除隊された。しかしゴールドスミスは軍に残り、大佐の地位にまで上りつめた。 レッドはゴールドスミスを襲撃して拉致し、以降はブルーを探す手がかりとしてゴールドスミスを利用することにした。ゴールドスミスもまた、ブルーを殺すためにレッドに協力をすることにした。そして二人はブルーを追うために東方・ニューヨークへ向かうことにした。 ニューヨーク。グレイは旧知のもとを訪れていた。スタージェスというその男は、年齢はグレイとさほど変わらないはずであったが、異様に老け込んでおり、常に何かにおびえていた。スタージェスにはスカーレットという養女がいたが、そのスカーレットはインディアンの少女であった。 スカーレットは聡明で愛らしかったし、その並外れた優しさで皆から愛されていた。不自由ない暮らしを送っていたスカーレットであったが、ある日に運命が急転する。通っていた小学校をブルーの部下たちが襲撃し、児童を含め多数の死傷者が出たのだ。グレイに救出されたスカーレットは、スタージェスの懇願により西方へ逃れることになる。 東方へ向かう大陸横断鉄道上でブルー小隊隊員を殺害したレッドは、ネブラスカ州スプリングスシティに到着した。時を同じくして、西方に向かっていたスカーレットとグレイたちもスプリングスシティに到着する。同時期に、同道していた伊衛郎とアンジーもスプリングスシティに到着していた。 さらに、ブルーの命令によりスカーレットを追っているオーエンと、元ブルー小隊隊員・コッパー兄弟がスプリングスシティに到着。運命が交錯しようとしていた。 コッパー兄弟はスカーレットをいっそのこと殺してしまおうとオーエンをそそのかすが、オーエンは子供を殺すことはできないと激しく拒絶し仲間割れを起こした。コッパー兄弟はスカーレットとスタージェスを追跡し殺害しようと試みるが、グレイとアンジーに阻止される。そしてスカーレットは逃亡の道中、レッドと邂逅する。二人はお互いの名前も名乗ることのないまま別れる。 伊衛郎はオーエンと出会い、オーエンが少女を魔の手から救おうとしていることを知り同行する。伊衛郎はオーエンの情け深さに同調するが、しかしオーエンは奮闘むなしくコッパー兄弟と相打ちになる。その現場にレッドが現れ、レッドは、オーエンにもコッパー兄弟にも自らの手を下せなかったと悔やむ。伊衛郎はレッドに、オーエンには帰りを待つ妻子がいた、それでもオーエンを殺したのかと問うが、レッドはそれでも殺したと答え、伊衛郎は戦慄する。 ここに来て伊衛郎の心中にも変化が起きていた。最初はレッドへの恩を返すための旅だった。しかし、レッドの過去と内心を知るにつれ、レッドと旅をするためには自分の覚悟を問い直す必要があると考えるようになっていたのである。 レッドと伊衛郎、アンジーとゴールドスミスは東方へ向かうカジノ船に乗船するが、そこでテレンス率いるブルー小隊A小隊隊員5名の襲撃を受ける。死闘の末、A小隊隊員を退けたレッドたちであったが、伊衛郎が頭部を負傷してしまう。 伊衛郎は戦闘のさなか、すべての黒幕であるブルーと対面していた。ブルーは物静かに「レッドは癒やされているだろうか?」と伊衛郎に問うた。真意を量りかねた伊衛郎であったが、その後に続いたブルーの告白を聞き、ブルーの奇怪さを実感する。 到底理解できないブルーの動機、それを基礎にして進むブルーの陰謀、これらを知った伊衛郎は、ブルーを止めるために旅をすることを決意する。伊衛郎は、レッドのための旅でなく、自分のための旅をすることにした。 アパッチ族の少年であるチリカは、レッドがヘイトソングを得た夜にレッドと出会い、ゴールドスミスを捕らえるためにレッドがフォート・トーマスに潜入した際にもレッドに同行していた。しかし、レッドはゴールドスミスを拉致したのち、チリカの前から姿を消した。チリカはアパッチ族であるインディアン斥候の隊長・アルコーズの元で暮らしていたが、ある日、信じがたい報を耳にする。アパッチ族の武闘派、ジェロニモが投降したというのだ。事実を確認したチリカは取り乱し、アパッチは終わりだと悲嘆に暮れる。 やがて、フォート・トーマスのインディアン斥候にも転機が訪れた。インディアン斥候とその家族には、フロリダに居留区が用意されているから全て移動するべしとの決定がなされたのである。フロリダへ向かう列車の車中で、アルコーズは、斥候として生きることがアパッチに平穏をもたらすと思っていたが、ジェロニモを捕らえたときに全てのアパッチから平穏が奪われるとはと嘆く。そしてアルコーズは、チリカに「お前は最後のアパッチとなれ」と告げ、チリカを列車から逃がす。チリカはアルコーズの言葉を受け止め、最後のアパッチとしての矜持を胸に生きていくことを決める。 スカーレットとグレイたちはダコタ準州に到着していた。グレイの導きにより、スカーレットは居留地に生きるインディアンの部族、マザスカと出会う。 マザスカに歓迎され、マザスカの一員となるべく儀礼を進めたスカーレットであったが、儀礼の最中にたびたび悲壮な顔をした少年の幻影(ヴィジョン)を見るようになる。ついにスカーレットがマザスカとなる最後の儀礼を終えようとしていたとき、儀礼をやめろという声が上がった。この娘は「あの男」と同じウィシャである、ウィシャは災いをマザスカにもたらす、であるからこの娘をマザスカに受け入れることはできない、と。 スカーレットは、10年前に起きたウィシャの虐殺の際、瀕死の母親から生まれた赤子であった。ブルー小隊に随伴していたスタージェスが保護し、養子として養育したのだ。 マザスカの長であるシルバーリングは、死の床でスカーレットにレッドのことを語った。レッドと初めて出会ってしばらくのこと、少年から青年への成長、レッドを自分の息子として受け入れてやりたかったこと、しかし自分がブルー小隊隊員のリストをレッドに渡す決断をしたからそれは叶わなかったことを。そしてシルバーリングはスカーレットに問う。「お前は俺の娘となるか?それとも、ウィシャとして生きるか?」。スカーレットは、レッドとは、スプリングスシティで出会ったインディアンの青年であることを確信した。そして、レッドの姿と悲壮な少年の幻影(ヴィジョン)が重なったとき、スカーレットの心は決まった。「私は、もうひとりのウィシャとしてレッドを救う」と。 かくしてスカーレットはマザスカを去り、レッドを捜す旅へとひとり旅立っていった。しかしブルーの魔手はまたしてもスカーレットに伸びようとしていた。ブルーの命令を受けてスカーレットの捜索に当たっていた村崎十字郎がついにマザスカの所にたどり着いたのである。グレイと村崎は交戦し、村崎は一時撤退した。 レッドたちはミズーリ州ドッグウッドでブルー小隊隊員たちが無法者を集めているという情報を掴み、ケンタッキー州を発しミズーリ州へと向かった。集団戦を制したレッドたちであったが、伊衛郎が狙撃を受けて川に転落し、行方知れずになってしまう。その直後、無法者の中に紛れていたブルーがレッドの前に姿を現した。ブルーに随伴していたD小隊隊員たちに制圧され、なすすべなく拘束されるレッドたち。伊衛郎を失った怒りに燃えるレッドに、ブルーはレッドたちを自らの邸宅に迎えたいと告げ、レッドたちのもとから去って行った。 ひとり旅をしていたスカーレットは、道中でチリカと出会い同行する。やがてスプリングスシティを再び訪れたスカーレットは村崎十字郎と出会う。村崎は独特の宗教観を持っていて、スカーレットこそがこの世の救い主であると心酔しており、旅への同行を願い出た。 スカーレットは旅の途中、川に流されていた男を助ける。ミズーリで行方不明となった伊衛郎であった。伊衛郎はスカーレットがウィシャであることを知り愕然とする。そして伊衛郎には望まぬ再会が待っていた。村崎と伊衛郎は幼なじみであり、ともにアメリカへ逃れてきた間柄であったが、あることを理由に袂を分かったのだった。村崎は伊衛郎に昔ながらの友として接したい一方、伊衛郎は村崎を許すことができず、二人の思いはすれ違う。伊衛郎の感情を和らげるために村崎は伊衛郎に提案をする。知り合いの経営する農場にスカーレットを預けてはどうかという提案であった。スカーレットの安全を守るために、伊衛郎は仕方なく村崎の提案に乗るが、その知り合いとはブルーのことであった。農場で伊衛郎はブルーと対決するがブルーを取り逃がし、結局、スカーレットを村崎にさらわれてしまう。 レッドたちは決戦のためブルーの邸宅にやってきた。アンジーとグレイ、ゴールドスミスを置き去りにし、単身、ブルーの邸宅に乗り込むレッドであったが、そこにブルーはおらず、副官のテレンスがひとりで邸宅を守っているのみだった。度重なる失敗で立場的に追い詰められたテレンスはレッドに必死の抵抗をするが、レッドはテレンスを殺す。 そこに一人の男がやってきた。スカーレットに同行していたベーカーという男が、ブルーからのメッセージを携えてやってきたのだ。ベーカーの言葉により伊衛郎の生存を知ったレッドは急遽、ブルーの農場へと向かう。 レッドと伊衛郎はブルーの農場で再会した。伊衛郎はレッドとの再会を喜ぶことなく、幾つかの事実をレッドに告げる。レッドの他にウィシャの生き残りがいること、スカーレットという少女であること、そしてスカーレットは今はブルーの手中にあること。伊衛郎の言葉に対して、レッドは、ウィシャの生き残りが他にいようが関係なくブルーを殺すまでだと答えるが、その心中は動揺していた。 動揺するレッドの前に、ブラウンという女性が現れる。ブラウンはクリーブランド大統領の私設エージェントであり、ブルーの陰謀を阻止するために活動していた。ブラウンはブルーの陰謀の全容と、ブルーが「青の猟兵」と呼ばれる特殊部隊をアメリカ陸軍内に組織していることをレッドたちに告げる。青の猟兵はダコタ準州のラシュモア山に集結し、そこにブルーとスカーレットもいるという。 レッドたちはブルーと決着を付けるべく、ラシュモア山へと向かうのだった。 幾千もの夕日の向こう、憎しみ、恨み、悲しみ、その果てにあるものなど誰にも分からない。 登場人物登場人物の名前は、赤・黄・青といった、色の名前を元にしているものが多い。また、実在の人物も登場する。 レッドと仲間
ブルー小隊アメリカ合衆国陸軍第七騎兵連隊ブルー小隊。ブルー大尉を隊長に、4分隊25名から構成される。この物語の元凶である。 1876年、ダコタ準州ホワイトリバーにおいて、居留地に連行中のウィシャ・スーを一方的に殺戮した。エドワード・ゴールドスミスの訴えにより、第七騎兵隊の指揮官であるカスター将軍は、この事件の隠蔽を決定。隊員全員を2階級特進させ強制的に除隊、ブルー小隊を解散させた。なお、リトルビッグホーンの戦いで第七騎兵隊が全滅したのは、ブルー小隊の解散後のことである。 隊の支給品であった コルト・シングル・アクション・アーミー キャバルリー(COLT Single Action Army Cavalry、騎兵向け約7.5インチモデル)を使用する者が多い。
その他の人物(五十音順)
作中用語(五十音順)
単行本一覧
(新装版)
脚注
関連項目
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