これはセラミックスの歴史において際立った反響であった。ルネサンス様式の多彩色の上薬をかけたタイル(azulejo renascentista、サン・ロッケ教会に使用された物)、のちにマニエリスム様式のタイル(azulejo maneirista、アマロ礼拝堂に使用された物)などがこの頃の代表作である。アズレージョのほとんどに、寓話やギリシャ神話、聖書の一場面、聖人の生涯や狩猟風景などが描かれた。サン・ロッケ教会には、セビーリャの工房の様式であるダイアモンドを四隅に打ったアズレージョ(ponta de diamante、トロンプルイユ効果とグロテスク装飾を見せるダイアモンドが使われる)が見られる。これら怪奇な表現を含むグロテスク装飾は、18世紀最後までしばしば用いられた。
対角タイルが水平多彩色タイルの反復模様に取って代わった時、一方は違ったモチーフのある新たなデザインを手に入れることができた。バラ・ツバキ(時にはバラ・花輪)を描いた、マニエリスム装飾が組み合わせたものである。奉納品(en)は常にキリストや聖人の生涯からその一場面を描写していた。彼らはこれらを絨毯構図 (azulejo de tapete)と呼んだ。絨毯構図は17世紀の間大量に生産され、精巧なフリーズと縁取りで構成されていた。秀逸な例はエヴォラのサルヴァドール修道院、オブッル・デ・モンテ・アグラソのサン・キンティノ修道院、クーバのサン・ヴィセンテ修道院、コインブラの大学礼拝堂である。
17世紀後半から18世紀初頭は、「巨匠の時代」(Ciclo dos Mestres)といわれるアズレージョの黄金時代となった。国内で高まる需要のみならず海外植民地ブラジルでも多くの需要があったため大量生産が開始された。大規模な一点ものの注文は繰り返しパターンを用いた安価なタイルに取って代わられた。教会、修道院、宮殿に加えて住宅でも内壁・外壁はアズレージョで覆われ、その多くは華やかなバロック様式の図案を用いたものであった。
このころに最初の〈応接人物像〉(invitation figures, figura de convite)と呼ばれる図案がメストレ・PMPによって考案され、18世紀から19世紀にかけて生産されることとなった。これは等身大の人物(従者やハルバードを構えた兵士、貴族の紳士や着飾った貴婦人など)を題材として背景から切り抜かれたように造形されたアズレージョのパネルで、通常は宮殿の玄関(ミトラ宮殿など)、パティオや階段の踊り場などに設置された。訪問者を歓待するためのもので、ポルトガルでのみ見られるものである。
1740年代にはポルトガル社会の嗜好が変化し、物語を描く大きなパネルではなく、ロココ調のより小さく繊細ものが好まれるようになった。こうしたパネルの主題はフランスの画家アントワーヌ・ワトーの作品のような優美で牧歌的なものであった。リスボン・カルニデ地区のメスキテラ公邸のファサードと庭園、そしてケルス宮殿の Corredor das Mangas に優れた例を見ることができる。大量生産されたタイルではより画一的な図案が用いられ、多彩色の不規則な貝型モチーフが主流となった。
そうした流行の反動として、より柔和な色調による、簡素でさらに繊細な新古典主義的な図案が現われてきた。こうした主題はロバートとジェームズのアダム兄弟の版画を通じてポルトガルに紹介されたものである。工房レアル・ファーブリカ・デ・ロウサ・ド・ラト(Real Fábrica de Louça do Rato)は、図案家のセバスティアォン・イナーシオ・デ・アルメイダと画家フランシスコ・デ・パウラ・エ・オリヴェイラを擁し、ラト・タイルと呼ばれるこの時期の重要な作り手となった。この頃の重要なタイル画家としては、他にフランシスコ・ジョルジェ・ダ・コスタがいる。
これらの産業化された手法が、簡素で、様式化されたデザインを生み出した一方で、マヌエル・ジョアキン・デ・ジェズースや殊にルイス・フェレイラの用いた手塗りタイル芸術は廃れなかった。ルイス・フェレイラはリスボンのタイル工場ヴィウヴァ・ラメーゴの工場長で、この工場のファサード全体を寓話的一場面で覆った。彼は、トロンプ・ルイユ(騙し絵)技術を用い、花瓶、樹木、寓話的人物を描いたフェレイラ・ダス・タブレタス(Ferreira das Tabuletas)として知られるパネルの作者である。これらの手塗りタイルパネルは、19世紀後期の折衷主義ロマン文化のすぐれた実例である。
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