本項では、ネルソン・マンデラの死について解説する。2013年12月5日、南アフリカ共和国初の黒人大統領となったネルソン・マンデラは、気道感染により95歳で死去した。
アパルトヘイト撤廃と人種間の和解に尽力したマンデラの死は、国内外の注目を集めた。南アフリカ政府は10日間の服喪期間を設け、各地でマンデラを悼む礼拝が行われた。12月10日には、ヨハネスブルグのFNBスタジアムで公式追悼式が開催された[1]。遺体は12月11日から13日までユニオンビルに安置され、15日に東ケープ州クヌで国葬が執り行われた後、同地に埋葬された。
マンデラの死
2011年2月、マンデラは気道感染で短期間入院して国際的な注目を集め[2]、2012年12月には肺感染と胆石除去のため再入院している[3]。2013年上旬に手術は成功したが、肺感染が再発したため再び入院することになった[4][5]。同年6月に肺感染が悪化して危篤状態に陥り、プレトリアの病院に入院した[6]。ケープタウン大主教(英語版)タボ・マクゴバ(英語版)は病院を訪れマンデラに祈りを捧げ、大統領ジェイコブ・ズマはモザンビーク訪問を取り止めた[7][8]。9月にマンデラは退院したが、状態は不安定なままだった[9][10]。マンデラはヨハネスブルグ・ホートン(英語版)の自宅で闘病生活を送り、12月5日に家族に看取られて死去し、翌6日にズマにより死去が公表された[11][12][13][14]。
2014年2月3日にマンデラの遺言が公表された[15]。遺言書は2004年に書かれ、2008年に最後の修正が行われていた[16]。マンデラには4,600万ランドの不動産が遺されており[17]、遺産は家族・事務所スタッフ・学校・アフリカ民族会議が相続するように書かれていた[16]。
南アフリカ政府主催の追悼行事
追悼式
12月6日にマンデラの死去を公表した南アフリカ大統領ズマは、国葬が終わるまでの10日間を服喪期間に指定した[18]。同時に、政府機関の全ての建物に半旗を掲げるように指示を出した[19]。また、12月8日を「祈りと回想の日」として、マンデラの死を悼むように国民に呼びかけた[18]。
私は、全ての国民に呼びかけます。マディバ(マンデラ)の生涯と、彼が私たちの国と世界に果たした献身への祈りと瞑想のために教会、モスク、寺院、シナゴーグ、そして家庭に集まることを呼びかけます。 — ジェイコブ・ズマ、2013年12月6日
12月9日、南アフリカ政府は約91人の各国元首・行政府の長が公式追悼式に出席することを確認した[18]。追悼式は12月10日午前11時からヨハネスブルグのFNBスタジアムで開催された[20][21]。追悼式には、各国から91人の元首・行政府の長、10人の大統領経験者が出席した[22][23]。
主な出席者は以下の通り[18]。
- 皇族・王族
-
- 国家元首
-
- 政府首脳
-
手話通訳騒動
追悼式で各国首脳が追悼演説を行う壇上の側には聴覚障害者のために手話通訳が控えていたが、手話通訳を務めたタマサンカ・ジャンティ(ドイツ語版)の手話がデタラメであることが判明し、「国家の恥」として騒ぎになった[24]。南アフリカ聴覚障害者協会(英語版)は、ジャンティが「手話通訳を侮辱している」と述べ、「聴覚障害者たちは怒っている」と批判した[25]。デイリー・テレグラフが専門家に解読を依頼したところ、全ての動作が完全にデタラメで、かろうじて意味を成していたのは「子供」という一語だけだったという[26]。これに対し、ジャンティを雇用した経緯や警備上の観点から批判の声が挙がった[25]。
12月12日にジャンティは取材を受け、「統合失調症が原因で幻覚を見たために正確な手話を行うことが出来なかった。大変申し訳なく思っている」と述べた他、「2006年ごろから19か月間精神病院に入院していた」とも述べている。しかし、彼は取材の中で「自分は手話のチャンピオンだ」と発言している[27][28]。同日、障害者政策担当副大臣は「スピーチの過程で間違いが起きた」ことを認めたが、「彼は基礎的な手話通訳資格を所持しているので、偽物というのは妥当ではありません。彼は最初は上手くやりましたが、次第に疲れてしまいました。以前は裁判所で手話通訳を務め、上手くやりとりしていました」と述べ、ジャンティが偽物であるという指摘は否定した[29]。13日にeNCAテレビ(英語版)はジャンティが過去複数の罪で起訴されたことがあると報じたが、いずれの罪も無罪または起訴が取り下げられている[30]。
米キューバ元首の握手
アメリカ合衆国大統領バラク・オバマは追悼演説を行う直前、長年対立関係にあるキューバ国家評議会議長ラウル・カストロと握手を交わし、世界の注目を集めた。アメリカ・キューバの元首が握手を交わすのは、2000年に国際連合ミレニアム・サミット(英語版)でビル・クリントンとフィデル・カストロが握手を交わして以来13年振りのことである[31]。
2人の握手はアメリカでは共和党からの批判を受け、キューバ出身で反カストロ派のイリアナ・ロス・レイティネンは、「握手は単なる握手に過ぎません。しかし、自由主義世界の指導者がラウル・カストロのような独裁者の血塗れの手を握ることは、独裁者のプロパガンダに利用されるだけです」と批判し、ジョン・マケインはミュンヘン会談におけるネヴィル・チェンバレンとアドルフ・ヒトラーの握手と比較して、「握手はラウル・カストロの残忍な独裁体制を継続するためのプロパガンダとなる」と批判した[32]。アメリカ政府は「握手は予定外の行動」と発表したが、キューバ政府は2人の握手を歓迎する声明を発表した[33]。また、2人の握手について、ラウルの兄フィデルも「友好的ながらも毅然とした態度だった」と評価している[34]。
自分撮り写真への批判
オバマ、キャメロン、ヘレ・トーニング=シュミットの3人は、トーニング=シュミットの携帯電話を使用して自分撮りを行ったが、これに対して批判が起きた[35][36]。トーニング=シュミットは批判に対して、「その日はたくさんの写真が撮られ、私は少し楽しいと感じていました。恐らく、各国の元首や首脳と会う他の人々も楽しんでいたと思います」と述べている[35]。
ズマ大統領へのブーイング
追悼式の最中、ズマに対して数度に渡りブーイングが起きる騒ぎがあった。報道によると、ブーイングはアパルトヘイト撤廃後も黒人層の貧困問題が解決していないことに対するズマ率いるアフリカ民族会議への不満や、ズマが私邸を改修するために2,000万ドルの費用を投じたことへの反発に原因があると指摘している[37]。
遺体の一般公開
マンデラの遺体は12月11日から13日にかけてプレトリアのユニオンビルに安置され[20]、3日間で約10万人がマンデラの遺体と別れを交わした。最終日には人々を収容し切れず、数千人がユニオンビルから退去させられた[38][39]。マンデラの孫マンドラ・マンデラ(英語版)は、成人した男性家族が埋葬までの間遺体の側に留まることを求めるテムブ人(英語版)の伝統に則り、3日間祖父の遺体の側を離れなかった[40]。
国葬
12月15日に東ケープ州クヌでマンデラの国葬が執り行われた[20]。国葬はテントの中で開催され、各国の首脳や政府高官など4,500人が出席した[41]。テントの中はテレビ中継される予定だったが、マンデラの遺族の要請で、事前に撮影と放送が中止されている[42]。代わりに、式場の周辺にスクリーンが設置され、テントの外の様子が流されることになった[43]。マンデラの埋葬には遺族や南ア政府高官の他、事前に選ばれた450人が立ち会った[44]。埋葬の直前、マンデラには21発の弔砲とミッシングマン・フォーメーションが贈られた[44][45][46]。
その他の追悼行事
ケープタウン市長パトリシア・ド・リール(英語版)は、12月8日にマンデラを悼む追悼行事をグランド・パレード(英語版)で開催することを発表した。また、11日にはケープタウン・スタジアムで無料のトリビュート・コンサートが開催された[47]。同日にはアブダビ市でマンデラを偲ぶ追悼行事が開催され[48]、ワシントンD.C.のワシントン大聖堂でも追悼行事が行われた[49]。
2014年初頭、エリザベス2世はウェストミンスター寺院でマンデラを悼む祈りを捧げた[50][51][52]。
各国の反応
南アフリカ
政治家
- 大統領ジェイコブ・ズマは、「私たちの国は偉大な息子を失い、国民は父を失った。この日が来ることは分かっていましたが、この深刻な喪失感を拭い去ることはできません」と述べた[53]。
- マンデラと共にアパルトヘイト廃止を主導した元大統領・元副大統領フレデリック・ウィレム・デクラークは、「彼は偉大な統一者であり、それゆえにこそ特別な男でした。人種の和解に重点を置いたのは、彼の最大の遺産です」とコメントを発表した[54]。
- 副大統領カレマ・モトランテは、「世界の中で、彼の名前は進化しました。ネルソン・マンデラの名前は歴史上の賢人の象徴となりました」と述べた[55]。
- 西ケープ州首相ヘレン・ツィレは、「私たちは全て南アフリカの家族です。そして、帰属の感覚を与えてくれたのはマディバです。これは、彼の遺産です」と述べた[56]。
聖職者・活動家
- ケープタウン大主教タボ・マクゴバ(英語版)は、「彼は世界中の国と人類への奉仕の基準を示し、私たちが市民あるいは閣僚や大統領であっても、私たち全員に、人類同胞のためにもっと役に立つよう、コミュニティの改善に貢献するよう呼びかけ続けています」と述べ、マンデラへの祈りを捧げた[57]。
- 元ケープタウン大主教デズモンド・ムピロ・ツツは、「彼は個人の行動で人種と階級を超越した。彼の暖かさと他者に耳を傾ける姿勢によって、彼はアフリカとアフリカ人に対する他者の信仰を回復させた」とコメントを発表した[58]。
- 元大統領タボ・ムベキの母で、反アパルトヘイト活動家だったエピネッテ・ムベキ(英語版)は、「彼は死んだのではなく、眠りに着いたのです」と述べ、南アフリカ国民はマンデラの生涯を祝福するべきだとコメントした[59]。
- 反アパルトヘイト運動家だった弁護士ジョージ・ビーゾス(英語版)は、「彼は歴史の中で、人種の違いを暴力を使わずに解決できることを証明した」とコメントを発表した[58]。
アフリカ
- アルジェリア - 大統領アブデルアジズ・ブーテフリカは、「アルジェリア国民と政府を代表して、南アフリカの人々に深い哀悼の意と同情を伝えます。ネルソン・マンデラは南アフリカの歴史の一部になりました。私たちが彼に贈る最大の賛辞は、アフリカのルネサンスを継続することです」と声明を発表し、8日間半旗を掲げることを決定した[60][61]。
- ボツワナ - 大統領イアン・カーマは、マンデラの「完璧な信念と、自由と正義と平等の基本原則への確実なコミットメント」を称賛し、「彼の強い道徳的立場と、あらゆる人種の苦しみに対する深い不寛容は、これまでもこれからも人を鼓舞し続けるだろう」と声明を発表した[62]。
- エジプト - 外務大臣ナビル・ファーミー(英語版)は、「マンデラの功績は国境を超え、全世界にとって誇りの源泉となった」と声明を発表した[63]。
- ギニア - 大統領アルファ・コンデは、「彼は偉大なバオバブの木です。誰もが無敵の木の下に助けを求めます。この木がなくなった今、私たちは丸裸なのです」と声明を発表し、ネルソンの功績を讃えた[64]。
- ケニア - 大統領ウフル・ケニヤッタは3日間半旗を掲げるように指示し、「マンデラは自由人としてアフリカ解放のために戦った。それは政治的なものだけではなく病気や貧困、教育の欠如といった現代生活の病との戦いです」と声明を発表した[65]。
- マラウイ - 大統領ジョイス・バンダは、マンデラの死は「南アフリカと世界にとっての損失」であり、「全てのアフリカ人はマディバからインスピレーションを得ている」と述べ、生前のマンデラと会えたことに感謝を表明した[66]。
- モーリシャス - 首相ナヴィン・ラングーラムは、「マンデラの名前は人類の良心の中で永遠に残る名前です。彼は和解と謙虚の象徴であり、アフリカのマハトマ・ガンディーでした」と声明を発表した[67]。
- ナミビア - 大統領ヒフィケプニェ・ポハンバはウィントフックの南アフリカ大使館を訪れ哀悼の意を表し、同時にマンデラとナミビア国民の絆を語り、敬意を表した[68]。
- ナイジェリア - 大統領グッドラック・ジョナサンは、「彼は偉大な解放者、勇敢で賢明な思いやりのある指導者、そして民主主義の真の象徴として、全人類から尊敬されます」と声明を発表した[69]。
- ルワンダ - 大統領ポール・カガメは議会で「彼は私たちの心の中に生き続けます」と述べた後、数分間黙祷を捧げた[70]。
- セネガル - 大統領マッキー・サルは、「現代のアフリカで最大の巨人を失いました。マンデラは私たちに勇気と強さ、そして許しを教えてくれました」と声明を発表した[71]。
- ソマリア - 大統領ハッサン・シェイク・モハムドは、「ネルソン・マンデラは世界の人々の生活に大きな影響を与えました」と声明を発表した[72]。
- スワジランド - 国王ムスワティ3世は、マンデラを「傑出した知恵、道徳、霊的な位格を持つ指導者」と讃える声明を発表した[73]。
- タンザニア - 大統領ジャカヤ・キクウェテは3日間の服喪期間を設け、「マンデラは人類がどのように生きるべきか例を示した」と声明を発表した[74]。
- ザンビア - 大統領マイケル・サタは、「アフリカの大地が生んだ真の息子の喪失に耐えられるよう、全能の神が残された家族たちに大いなる慈悲と慰め、勇気を与えてくれることを祈ります」と声明を発表した[75]。
- ジンバブエ - 大統領ロバート・ムガベは、「ネルソン・マンデラの政治活動の功績は永遠に残り続けます。彼は抑圧された人々の解放者であるだけではなく、謙虚で思いやりのある指導者として彼の国民のために無私の献身を捧げました」と声明を発表した[76]。
アジア
ヨーロッパ
北アメリカ
南アメリカ
オセアニア
- オーストラリア - 首相トニー・アボットは、「マンデラはアフリカの偉大な人物の一人であり、恐らくは世紀の偉人でもあります。彼は政治家としてだけではなく、道徳的リーダーとしても記憶されるでしょう」と声明を発表した[141]。
- フィジー - 首相フランク・バイニマラマは、「南アフリカの人々が偉大な男の喪失を嘆くように、フィジー人も同じ気持ちです。彼は南アフリカの指導者であるだけでなく、世界の人々に勇気、礼儀、無私の心を示しました。彼は真に愛され、私たちは決して彼を忘れません」と声明を発表した[142]。
- ニュージーランド - 首相ジョン・キーは、「マンデラは卓越した男です。南アフリカだけではなく世界を変革する力を持っていました」と声明を発表した[143]。
- パプアニューギニア - 首相ピーター・オニールは、「彼は非民主的なアパルトヘイト支配から短期間の間に堅固な民主主義の基礎を築きました」と声明を発表した[144]。
地域の反応
- サハラ・アラブ民主共和国 - 大統領ムハンマド・アブデルアズィーズは3日間の服喪期間を設け、「私たちは、20世紀の中で最もカリスマ性のある敬虔な政治家の死を悼む世界に加わります。彼は民族の解放者であり、自由で民主的な南アフリカ共和国の最初の大統領であるだけではなく、暴君と圧政に苦しむ世界の人々の中で、希望の旗と偉大なインスピレーションの源泉として生き続けます」と声明を発表した[145][146]。
- 中華民国(台湾) - 総統馬英九は、「英雄は死んだが、その精神は長く生き続けるでしょう。私たちは、南アフリカの人権の英雄マンデラを忘れることはできないでしょう」と声明を発表した[147]。
- チベット - 元首ダライ・ラマ14世は、「彼は勇気に溢れ、完全に疑いようがない偉大な人間でした。人は口々に"彼は有意義な人生を生きた"と言うことでしょう」と声明を発表した[148]。
- パレスチナ - 大統領マフムード・アッバースは、「彼は、私たちを支持する最も重要で人気がある人物であり、パレスチナ人は彼を忘れることはありません」と声明を発表し、同時に「パレスチナ人が自由を獲得しない限り、南アフリカの革命の目標は達成されない」と付け加えた[149][150]。
- 香港 - 行政長官梁振英は、「私たちは、彼の業績、犠牲、平和への追求心から、彼を偉大な人物と記憶しています。政府と香港の人々を代表して、彼の遺族に深い哀悼の意を表します」と声明を発表した[151]。
著名人の反応
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