ミニットマンIII に搭載されているW78核弾頭 を搭載したMk.12A再突入体
核弾頭 (かくだんとう、nuclear warhead)とは、モジュール化された核兵器 のことであり、ミサイル や魚雷 などの弾頭 として用いられているもののことである。
概要
初期の核兵器は核爆弾 として、爆撃機 から投下する大型のものであった。これらは航空爆弾として核兵器と一体で開発された。しかし、1950年代 後半、大陸間弾道ミサイル などが開発されると、核爆発装置としての弾頭部(Warhead)と、搭載兵器(運搬手段)の開発が別個に行われるようになった。つまり兵器名と核弾頭の形式番号が明確に分離されるようになったのである。
例を挙げると、広島に投下された原爆の兵器名(Weapon Name)はリトルボーイ (Little Boy)であるが、弾頭の形式番号(warhead designation)はMark 1であり、これは不可分のものである。しかしW7型核弾頭 は、コーポラル短距離弾道弾 (SRBM)、自由落下爆弾ベティ、ボア空対地ミサイル、オネストジョン短距離弾道弾 、核地雷(ADM)などの複数の核兵器に使用された。
核弾頭の設計・開発が搭載兵器の開発と分離されたため、核弾頭の設計は少人数で済むようになった。冷戦終結の頃、アメリカ 国内にいた核弾頭の設計者は、わずか50人ほどだったと言われる。彼等は高度な機密を共有しお互いにファーストネームで呼び合う間柄だった。
搭載兵器
核弾頭が搭載される兵器 は概ね以下の通り。
核ミサイル
核弾頭が弾道ミサイル に搭載される場合は、大気圏 へ再突入する際に生じる空力加熱による高熱から保護するため、再突入体 (re-entry vehicle、RV)と呼ばれるカプセルに搭載されてミサイルに搭載される。RVは断熱機構を備えており先の尖った円錐形状をしているが、マッハ 25とも言われる高速で大気圏に突入するため、空力加熱で着弾までに大部分が損耗してしまう。ミサイルのテスト発射後に回収されたRVの写真には半球状にまで磨耗した姿が写っている。
核砲弾
戦術用の核兵器で大口径のカノン砲 から発射される核弾頭を搭載した砲弾 。
核地雷
敵陸上部隊に対する攻撃のほか、巨大な対戦車壕を瞬時に掘削する兵器で、敵の進行予測地域に前もって敷設される。イギリス はブルー・ピーコック (Blue Peacock)と呼ばれる核出力 10キロ トン の核地雷を当時の西ドイツ に配備する計画を持っていたが、1958年 に中止された。
核爆雷
主に対潜水艦用に使用される兵器で、そのまま航空機から投下したり対潜ミサイル の弾頭として運用される。艦船からの投下はしない。
核魚雷
主に対潜水艦用だが、対潜ミサイルに搭載された核魚雷は副次的な対艦攻撃任務を持つ物がある。
核爆弾
航空機から投下される航空爆弾 。核兵器の威力は目標への精密な誘導を必要としないことが多い。
状況
現在では核保有国の多くが核兵器のモジュール化を行っている。機密とされているため公開されている情報は少ないが、各国の状況は概ね以下の通りである。
2023年6月現在、長崎大学核兵器廃絶研究センターによれば、国別の核弾頭数(退役・解体待ちをふくむ)は、ロシア 5890発、アメリカ 5244発、中国 410発、フランス 290発、イギリス 225発、パキスタン 170発、インド 164発、イスラエル 90発、北朝鮮 40発で、9か国であわせて1万2523発[ 1] 。
アメリカ
W85核弾頭の外観模式図
Mark 1リトルボーイ やMark 3ファットマン は核爆弾であり、核起爆装置と不可分の構造である。知られている核弾頭で古い物はW4 だが1951年 に開発がキャンセルされた。続くW5 は海軍のレギュラスI や空軍のマタドール といった巡航ミサイル に搭載されて1954年 から運用された。W5はMark 5 航空爆弾から核爆弾を独立させたもので、92個の爆縮レンズ からなる最大核出力120キロトンの核弾頭である。Mark 5はMark 3にくらべて大幅に小型化されており重量は1.5トンといわれている。レギュラスIは後に核弾頭をW27 に載せ替えている。最も小型の核弾頭はおそらく重量30kg以下で核出力250トン(0.25キロトン)のW54 で、空軍で運用された空対空ミサイル の核ファルコン や陸軍の小型ロケット弾デイビー・クロケット (核出力10、20トンの切り替え型)に搭載された。デイビー・クロケットは人力搬送が可能な小型核兵器として知られている。重量40kg台のW42 は1961年 に開発がキャンセルされた。核砲弾に使用された核出力72トン(0.072キロトン)のW48 は重量50kgほどである。最も核出力の大きい核弾頭は、タイタンII に搭載されたW53 で、熱核弾頭を搭載し核出力9メガトン、重量は約2.8トンとされている。現行のICBMであるミニットマンIIIは340ktのMk.12A再突入体(W78 )を3基搭載しており一部は300ktのMk.21再突入体(W87 )を1基搭載している。量産された最も新しい核弾頭はW88 で、トライデントD-5 用の弾頭として開発され、核出力は475キロトン、時限/高度/接触信管を備え1988年 から1989年 までの約一年間に400発が生産されたとされている。最も新しい核弾頭はW91 でSRAM-T ミサイル用の核弾頭として開発が始まったが1991年 にはキャンセルされている。
旧ソ連/ロシア
旧ソ連 で最初の量産型核爆弾はRDS-3Tと、より小型化されたRDS-4である。RDS-6からは熱核弾頭となった。これら核爆弾から多種多様な核弾頭が設計されたと考えられているが、形式番号は詳らかでは無い。R-36M には15F143、15F143U、15F147、15F678といった形式番号を持つバス(またはPost Boost Vehicle、PBV)に弾頭が搭載されていたといわれる。
イギリス
航空爆弾として開発され、1953年 から配備された核出力15キロトンの原子爆弾 Mk.1ブルーダニューブ (Blue Danube)から、レッドベアード (Red Beard)、ヴァイオレットクラブ (Violet Club)を経て、水素爆弾であるイエローサン Mk.1(Yellow Sun Mk.1)が配備されている。ヴァイオレットクラブの核爆弾にはグリーングラス (Green Grass)、イエローサンMk.2(Yellow Sun Mk.2)の熱核爆弾にはレッドスノー(Red Snow)という名前があった。イギリス空軍は1956年 からブルースチール Mk.1巡航ミサイルを配備している。その後、射程延伸型のブルースチールMk.2とブルーストリーク 中距離弾道ミサイル の開発とスカイボルト 空中発射弾道ミサイル の導入に失敗した結果、空軍の核戦力はWE.177 核爆弾を除いて退役した。WE.177も1998年に退役している。結果としてイギリスの核戦力は核弾頭を標準化するほどの多様性を持つ事が無かった。
イギリスは核戦力を海軍中心に編成しなおし、その主力にポラリスA-3 潜水艦発射弾道ミサイル を搭載したレゾリューション級原子力潜水艦 を据えた。ミサイルは米国製だが弾頭はイギリス製である。ただしその設計はアメリカのW58 核弾頭に近似していると言われる。これら弾頭を含むポラリス・ミサイルシステムはChevaline計画で近代化され、1990年代まで運用された。その後はトライデントD-5が導入され、こちらの核弾頭もイギリス製とされている。
フランス
フランス では空軍の中距離弾道ミサイルSSBSシリーズにおいて、1971年 に配備されたSSBS S-2ミサイルが核出力120キロトンのMR 31 、1980年 に運用が開始されたSSBS S-3ミサイルが核出力1.2メガトンの熱核弾頭であるTN 61 を搭載した。1974年 に配備された陸軍の短距離弾道ミサイル (地対地ミサイル )のプルトン(Pluton)は核出力25キロトンのAN 51 が、後継として1984年 から開発が始まったハデス(Hades)では80キロトンのTN 90 が搭載されている。これらのミサイルは冷戦終結後に全て廃棄された。海軍では潜水艦発射弾道ミサイルのMSBSシリーズにおいて、M-1とM-2が核出力500キロトンのMR 41 を搭載し、M-20とM4 ではTN 61、M4A/M4Bが核出力150キロトンのTN 70 /TN 71 を搭載している。M-45 /M-51 ではTN 75 が搭載されている。空軍の最初の核爆弾AN-11 、及びミラージュIV 爆撃機用の航空爆弾AN-22 に替わる巡航ミサイルASMP が1986年 に配備されている。弾頭は核出力100キロトンから300キロトンのTN 80 およびその後継のTN 81 が搭載されている。後継ミサイルのANSの弾頭は未定の模様。
その他
中国 、インド 、パキスタン 、北朝鮮 が核兵器を保有しているが、機密 とされ詳細は不明である。核兵器の保有が疑われているイスラエル も同様である。
脚注
関連項目