細胞性免疫 (さいぼうせいめんえき、英 : Cell-mediated immunity )とは、体内の異物に由来する抗原 に応答した食細胞 、細胞傷害性T細胞 、ナチュラルキラー細胞 (NK細胞)のようなT細胞 系列の活性化や、様々なサイトカイン の放出により、異物を排除する免疫機構の1つの側面である。これは抗体 を介さない免疫応答 であり、液性免疫 とは対照的である。
歴史
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(2021年8月 )
19世紀後半のヒポクラテスの伝統医学 の体系では、免疫系は、体液(細胞を含まない体液 や血清 )に免疫の防御機能があるとする液性免疫 と、細胞に免疫の防御機能があるとする細胞性免疫 の、2種類から考えられていた。
CD4 細胞またはヘルパーT細胞 は、さまざまな病原体 に対する防御を果たす。ナイーブT細胞 は、まだ抗原 に遭遇していない未成熟なT細胞で、抗原提示細胞 (APC)に遭遇すると、活性化されたエフェクターT細胞 に変化する。マクロファージ 、樹状細胞 、B細胞 (状況による)などのAPCは、抗原ペプチド を細胞の主要組織適合性複合体 (MHC)にロードし、次にそのペプチドをT細胞の受容体に提示する。これらのAPCの中で最も重要なのは、高度に専門化した樹状細胞であり、おそらくは抗原を摂取して提示するためだけに働くと考えられる[ 1] 。活性化されたエフェクターT細胞は、さまざまな種類の病原体 に由来するペプチド 抗原を検出する3つの機能クラスに分類できる[ 1] 。
細胞傷害性T細胞 : サイトカインを使わずに感染した標的細胞をアポトーシス で死滅させる。
Th 1細胞 : 主にマクロファージを活性化させる。
Th 2細胞 : 主にB細胞 を刺激して抗体 を産生させる。
別のイデオロギー(観念形態)では、自然免疫系 と適応免疫系 はそれぞれ、液性免疫 と細胞性免疫 の両方の要素を含んでいる[要出典 ] 。
概要
細胞性免疫は、次の方法を通じて体を保護する。
細胞性免疫による防御は、主に食細胞 の中で生存する微生物 と、食細胞以外の細胞に感染する微生物に向けて働く。ウイルス感染細胞 の除去が最も効果的であるが、真菌 、原生動物 、癌 、細胞内細菌に対する防御にも関与する。また、これは移植後の拒絶反応 にも大きな役割を果たしている。
後述の1型免疫は、主にウイルス 、細菌 、原生動物を対象とし、マクロファージ を活性化して強力なエフェクター細胞に変える役割を担っている。これはインターフェロンガンマ (IFNγ)と腫瘍壊死因子 (TNF)の分泌によって達せられる。
分類
CD4 + ヘルパーT細胞 (CD4陽性T細胞)は、2つの主要なカテゴリーに分類できる[ 4] 。
TH 1細胞 は、インターフェロンガンマ とリンホトキシンアルファ (英語版 ) を産生する。
TH 2細胞 は、IL-4 、IL-5 、IL-13 (英語版 ) を産生する。
さらに、インターロイキン-17 を分泌することに由来してその名がついた、Tヘルパー17細胞 (TH 17)という第3のカテゴリーも発見されている。
CD8 + 細胞傷害性T細胞 (CD8陽性T細胞)は、2つの主要なカテゴリーに分類できる[ 4] 。
TC 1 細胞
TC 2 細胞
CD4+ TH 細胞と同様に、インターロイキン-17 も分泌するTC 17と呼ばれる第3のカテゴリーが発見されている。
自然リンパ球 (ILC)については、3つの主要なカテゴリーに分類できる[ 4] 。
ILC1は、1型サイトカイン を分泌する
ILC2 (英語版 ) は、2型サイトカインを分泌する
ILC3 (英語版 ) は、17型サイトカインを分泌する
細胞の発達
すべての1型細胞は、リンパ球系共通前駆細胞 (英語版 ) (CLp、common lymphoid progenitor)から発生し、その後、リンパ球形成 (英語版 ) の過程を経て、自然リンパ球共通前駆細胞(CILp、common innate lymphoid progenitor)とT細胞前駆細胞(Tp、T-cell progenitor)に分化する[ 4] [ 5] 。
自然リンパ球共通前駆細胞は、その後、ナチュラルキラー前駆細胞(NKp、natural killer progenitor)または、ヘルパー様自然リンパ球共通前駆細胞(CHILp、common helper like innate lymphoid progenitor)に分化することがある。次に、NKp細胞は、IL-15 (英語版 ) によってナチュラルキラー細胞 に分化できる。CHILp細胞は、IL-15によってILC1細胞に、IL-7 によってILC2細胞に、またはIL-7によってILC3細胞への分化が誘導される[ 4] [ 5] 。
T細胞前駆細胞は、ナイーブCD8+ 細胞またはナイーブCD4+ 細胞に分化できる。ナイーブCD8+ 細胞は、IL-12にさらされるとTC 1細胞にさらに分化でき、IL-4はTC 2細胞への分化を誘導し、IL-1 またはIL-23 はTC 17細胞への分化を誘導する。ナイーブCD4+ 細胞は、IL-12にさらされるとTH 1細胞に、IL-4にさらされるとTH 2細胞に、IL-1やIL-23にさらされるとTH 17細胞に分化しうる[ 4] [ 5] 。
1型免疫
1型免疫は、次のような細胞型の1型サブセットを使用する。TH 1、TC 1、およびグループ1 ILCは、インターフェロンガンマ や腫瘍壊死因子 (TNF)を分泌することによりマクロファージを活性化し、強力なエフェクター細胞へと変化させる。これは、細胞内細菌 、原生動物 、ウイルス に対する防御を行う。また、炎症 と自己免疫 にも関与しており、関節リウマチ 、多発性硬化症 、炎症性腸疾患 などの疾患はすべて1型免疫が関与していると考えられている。1型免疫は次の細胞で構成されている[ 4] 。
CD4+ TH 1細胞
CD8+ 細胞傷害性T細胞(TC 1)
T-Bet+ インターフェロンガンマ産生 グループ1 ILC(ILC1およびナチュラルキラー細胞)
CD4+ TH 1細胞
これらの細胞の特徴的なサイトカインは、インターフェロンガンマ とリンホトキシンアルファ (英語版 ) であることが、マウス とヒト の両方で明らかになっている。TH 1細胞への分化を促す主なサイトカインは、パターン認識受容体 の活性化に応反して樹状細胞 が産生するIL-12である。T-bet (英語版 ) は、TH 1細胞の特徴的な転写因子 である。また、TH 1細胞はケモカイン受容体 を発現して、炎症部位へ移動できることも特徴である。これらの細胞の主なケモカイン受容体はCXCR3A (英語版 ) とCCR5 である。上皮細胞 とケラチノサイト は、インターフェロンガンマに応反してケモカインCXCL9 (英語版 ) 、CXCL10 、CXCL11 (英語版 ) を放出することで、TH 1細胞を感染部位に動員することができる。さらに、これらの細胞によって分泌されるインターフェロンガンマは、上皮性関門の密着結合 をダウンレギュレート するのに重要な役割を果たしていると考えられる[ 4] 。
CD8+ TC 1細胞
これらの細胞は一般的にインターフェロンガンマを産生する。インターフェロンガンマとIL-12は、TC 1細胞への分化を促進する。T-bet (英語版 ) の活性化は、インターフェロンガンマと細胞溶解能の両方に必要である。CCR5 とCXCR3 は、この細胞の主なケモカイン受容体である[ 4] 。
グループ1 ILC
グループ1 ILCは、転写因子T-bet (英語版 ) を発現している自然リンパ球 (ILC)を含むと定義されており、当初はナチュラルキラー細胞 のみを含むと考えられていた。その後、特定のマスター転写因子を発現するNKp46+ 細胞が多数発見され、ILC1と呼ばれるナチュラルキラー細胞の別系統として命名されるようになった。ILC1は、サイトカインの刺激に応答してインターフェロンガンマ、TNF、GM-CSF 、およびIL-2 を産生する能力を持っており、細胞障害 能は低いか、まったくない特徴がある[ 4] 。
事例
HIVによる細胞性免疫の低下
ヒト免疫不全ウイルス (HIV;Human Immunodeficiency Virus)はCTLに感染し、その機能を低下させる。それによって、細胞性免疫を介した免疫力は著しく低下し、後天性免疫不全症候群 (AIDS;Acquired Immunodeficiency Syndrome)と呼ばれる状態に陥る。
参照項目
脚注
^ a b Janeway, Charles; Travers, Paul; Walport, Mark; Shlomchik, Mark (2001). Immunobiology (5th ed.). New York: Garland Science. ISBN 978-0-8153-3642-6 . https://archive.org/details/immunobiology00char
^ a b “Natural Killer Cells ”. British Society for Immunology . British Society for Immunology. 8 November 2018 閲覧。
^ a b “Macrophages ”. British Society for Immunology . British Society for Immunology. 8 November 2018 閲覧。
^ a b c d e f g h i j Annunziato, F; Romagnani, C; Romagnani, S (March 2015). “The 3 major types of innate and adaptive cell-mediated effector immunity.”. The Journal of Allergy and Clinical Immunology 135 (3): 626–35. doi :10.1016/j.jaci.2014.11.001 . PMID 25528359 .
^ a b c Kansler, Emily R.; Li, Ming O. (July 2019). “Innate lymphocytes—lineage, localization and timing of differentiation” . Cellular & Molecular Immunology 16 (7): 627–633. doi :10.1038/s41423-019-0211-7 . PMC 6804950 . PMID 30804475 . https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6804950/ .
推薦文献
外部リンク