ランドは、実存は他のあらゆる知識の土台になる知覚的に自明な事実である--すなわち「実存は実存する(existence exists)」--と考えた。さらにランドは、「存在する」とは「何ものかである」ことである--すなわち「実存は個体性である(existence is identity)」--と考えた。言い換えれば、存在するということは、「特定の諸属性から成る特定の性質を持つ実在物(an entity of a specific nature made of specific attributes)」であるということである。「いかなる性質も属性も持たないもの」は存在しないし、存在し得ない。実存の公理が「あるもの(something)」と「無(nothing)」の区別において把握されるのに対し、個体性の公理は「特定の何か(one)」と「別の何か(another)」の区別において把握される。言い換えれば、個体性の公理は、他のあらゆる知識のもう一つの重要な土台である無矛盾律(the law of non-contradiction)に気づくことによって把握される。ランドは、「一枚の葉が同時に赤でありかつ緑であることはできない。また、同時に凍りかつ燃えることもできない。AはAなのだ(A leaf ... cannot be all red and green at the same time, it cannot freeze and burn at the same time... A is A)」と述べた[15]。オブジェクティビズムにおいては、実存を超越する(と主張される)存在への信仰は拒否される[16]。
ランドは、意識は「存在するものを知覚する機能(the faculty of perceiving that which exists)」であると主張した。「『意識がある』ということは『何かを意識している』ということである」とランドが述べたように、意識それ自体を、(意識の対象となっている)独立した現実から区別したり、独立した現実との関係を除外して把握したりすることはできない[17]。「意識は意識自身のみを意識できない-何かを意識するまで『意識自身』は存在しない」のである[18]。したがってオブジェクティビズムでは、精神は現実を創造しないと考える。オブジェクティビズムでは、精神は現実を発見する手段であると考える[19]。言い換えれば、実存は意識に優越するのであり、意識は実存に従わなければならない。これ以外のアプローチを、ランドは「意識の優越(the primacy of consciousness)」と呼んだ。形而上学的な主観主義(subjectivism)や有神論(theism)、およびこれらの変種は、すべて「意識の優越」に含まれる[20]。
オブジェクティビズムにおいては、行動・動作(action)と因果関係(causation)の説明は、個体性の公理から導かれる。オブジェクティビズムにおいては、因果関係は「個体性の法則の行動・動作への適用(the law of identity applied to action)」であるとされる[21]。ランドによれば、行動・動作するのは実体(entity)であり、あらゆる行動・動作は、ある特定の実体の行動・動作である。諸々の実体の行動・動作のしかたを決めるのは、それぞれの実体が持つ性質(すなわち「個体性」)である。実体が異なれば実体の行動・動作も異なる。因果関係の暗黙的な理解は、他の公理と同様、言語的に明示される前から、実体間の因果的なつながりの直接的な観察から引き出され、知識を発展させていくための土台として役立っている[22]。
オブジェクティビズムの認識論は、「意識は識別(個体性の特定)である(consciousness is identification)」という原理から始まる。この原理は、形而上学における「実存は個体性である(existence is identity)」という原理の、直接的な帰結として理解される[24]。ランドは理性(reason)を、「人間の感覚から提供される素材を識別し統合する機能(the faculty that identifies and integrates the material provided by man's senses)」と定義した[25]。また、論理(logic)は、「個体性を正しく特定するために必要な意識の活動(actions of consciousness required to achieve a correct identification)」の「体系的な諸経路(systematic courses )」を概念化したものであるとした[26]。
認識論の中でランドが最も詳細に論じたのは、概念形成に関する理論である。ランドの概念形成論は、『オブジェクティビズム認識論入門』(Introduction to Objectivist Epistemology)に示されている。ランドは、概念は具体物からの「量の捨象」(measurement omission)過程を経て形成されると論じた。レナード・ピーコフは、ランドの見解を次のように説明している。
心理学教授のロバート・L・キャンベル(Robert L. Campbell)は、ランドは心理学の領域である人間の認識とその発展について自説を展開していながら、他方で「哲学は論理的に心理学に先行し、決して心理学に依存しない」とも主張しているため、オブジェクティビズムにおいては、認識論と認知科学の関係が不明瞭なままであると述べている[45][46]。
オブジェクティビズムでは、倫理に関わる問題も幅広く扱われる。ランドは道徳について、『利己主義という気概』(The Virtue of Selfishness)、『われら生きるもの』、および『肩をすくめるアトラス』で論じている。ランドは道徳を、「人間の選択と行動、すなわち人生の目的と進路を決定づける選択と行動の、指針になる価値体系」と定義している[49]。ランドは、最初に問われるべきは「どのような価値体系にするべきか」ではなく、「人間はそもそも価値を必要としているのか? そしてそれはなぜなのか?」であると主張した。ランドによれば、「『価値』という概念を可能にするのは、『生命』という概念だけ」なのであり、「ある生命体が何をする【べき(ought)】かを決めるのは、その生命体が【存在している(is)】という事実」なのである[50]。ランドは、「この宇宙に存在する唯一の根本的選択は、『存在か、非存在か』の選択である。そしてこれは、生命体だけに関わる選択である。無生物の存在は、無条件である。生物の存在は、そうではない。生物は、特定の行動過程を取らなければ、存在し続けられない。〔中略〕『生か、死か』の選択に恒常的に直面しているのは、生命体だけである」と述べている。
人が生きることを選んだ場合は、「その選択を実現するにはどのような行動原理が必要なのか」を、合理的な倫理学によって学ぶことができる。人が生きることを選ばなかった場合は、すべてが自然のなすがままになる。人は現実の中で実に多くの「~ねばならない(must's)」に直面するのだが、これらはすべて条件付きである。すなわち、現実の必要性は「もし…なら、~しなければならない(you must, if –)」の形を取るのであり、この「もし…なら」は、「もしある目標を達成したいなら」という人間の選択を表すのである[56]。
ランドにとって、主要な価値である「合理性(rationality)」「正直さ(honesty)」「正義(justice)」「自立(independence)」「高潔(integrity)」「生産的であること(productiveness)」「誇り(pride)」はすべて、理性を人間の基本的生存手段として適用したものであった。オブジェクティビズム倫理学におけるこれらの価値について、ランドはThe Virtue of Selfishness(邦題『利己主義という気概』)で論じた。オブジェクティビズムの倫理学のエッセンスは、ランドの小説『肩をすくめるアトラス』の登場人物ジョン・ゴールトによる次の誓いに要約されている。
オブジェクティビズムの倫理学は、多くの哲学研究者から批判されてきた。哲学研究者のロバート・ノージックは、ランドの議論では、死ぬことや価値を持たないことを選好することが誰にとっても合理的でない理由を説明できないのだから、ランドの倫理学は根本的に成立していないと述べた。ノージックは、だから利己の道徳を養護するランドの試みは、ある種の論点先取なのだと主張している。またノージックは、デイヴィッド・ヒュームのis-ought問題(「-である」という命題からの推論で「-すべき」という命題を導くことはできないという問題)に対するランドの解決は不十分であるとも主張している。これに対して哲学研究者のダグラス・B.ラスムッセン(Douglas B. Rasmussen)とダグラス・デン・アイル(Douglas Den Uyl)は、ノージックはランドの議論を正しく説明していない主張している[61][62]。
オブジェクティビズムでは、「自分自身の判断が命じるところに従って行動する権利」、および「自分の努力の産物を所有し続ける権利」は、各個人の奪うことのできない道徳権利であると見なされる。なぜなら道徳的価値を達成するためには、強制力の行使におびやかされることなく理性を使用する機会が必要だからである。ピーコフは、権利の基礎について説明する中で、次のように述べている。「建国の父たちが認識していたように、内容的に見て、根本的な権利は1つであり、この根本的な権利から、いくつかの主要な権利が派生している。根本的な権利とは、生に対する権利(the right to life)である。この根本的な権利から派生する主要な権利とは、自由(liberty)に対する権利、財産(property)に対する権利、および幸福追求(pursuit of happiness)の権利である[75]」。「権利とは、人間の行動の自由を、社会的文脈において定義し是認する道徳原則である」[76]。オブジェクティビズムではこれらの権利を、「特定の結果または目的に対する権利」ではなく、「行動に対する権利」として理解する。権利によって生じる義務は、本質的に消極的(negative)なものと見なす。すなわち、「各個人には他人の権利を侵害する行為を控える義務があるだけで、他人の“権利”を実現する行為を積極的(positive)に行う義務はない」と考える[77]。
オブジェクティビズムでは、「積極的権利」Smith 1997, pp. 165–182; Touchstone 2006, p. 108「集団の権利」「動物の権利」[78]といった代替的(alternative)な権利概念を否認する。個人の権利を全面的に認める唯一の社会体制は、資本主義であると考える[79]。ここで言う資本主義とは、ランドが「完全な、純粋な、制御も規制もされない、自由放任の資本主義」と表現した体制である[80]。資本主義は貧困層にとって最も有益な社会体制と見なされるが、このことは、資本主義を正当化する主要な理由とは見なされない[81]。資本主義が正当化されるのは、それが唯一の道徳的な社会システムだからである。オブジェクティビズムでは、自由(または自由な国家)を確立しようとしている社会のみが、自決権を有すると見なされる[82]。
ロマン主義が芸術にもたらしたのは、“価値の卓越性(primacy of values)”だった。〔中略〕価値は感情の源である。ロマン主義の作品やその鑑賞者の反応には、強烈な感情が大量に投影されていた。色彩、イマジネーション、オリジナリティ、興奮といった、“価値指向の人生観(value-oriented view of life)”のあらゆる諸結果が大量に投影されていた。
オブジェクティビズムにおける芸術論は、その認識論から、「精神認識論(psycho-epistemology)」[111]によって導かれる。オブジェクティビズムによれば、芸術は、人間が概念を知覚的に把握することを可能にするものである。芸術は、「芸術家による形而上学的価値判断に基づく、現実の選択的再創造」(selective re-creation of reality according to an artist's metaphysical value-judgments)と定義される。ここで「芸術家による形而上学的価値判断」とは、自然および人間の本質に関して、芸術家が究極的に真かつ重要と信じることを意味する。この点で、芸術は抽象を知覚可能な形式で具象的に提示する手段と見なされている[112]。
この見方によれば、人間が芸術を必要とする根本的理由は、認識における経済性にある。概念は、
多数の具体物を代替することにより、個々の具体物について明示的に思考するよりはるかに多くの具体物について暗黙的に(あるいは間接的に)思考することを可能にしている点で、それ自体がすでに頭脳におけるショートカットである。しかし人間は、(オブジェクティビズムによれば)生きる指針を得るために包括的な概念的枠組みを必要としているにもかかわらず、頭脳に無限に多くの概念を保持することができない。芸術は、形而上学的価値判断を含む広範な抽象について伝え考えるための、知覚で容易に把握可能な媒介物となることによって、このジレンマからの脱出を助ける。オブジェクティビズムにおいては、芸術は道徳的あるいは倫理的な理想を効果的に伝える手段と見なされる[113]。ただし、芸術を布教手段と見なすわけではない。芸術は道徳的な価値や理想を必然的に含むが、その目的は教育ではなく提示に限られるとされる。また芸術は、通常は体系的で明示的な哲学の産物ではないし、そうである必要もないとされる。芸術は通常、芸術家の(偏見にとらわれた非常に感情的な)「生に対する感覚(sense of life)」から生まれるものであるとされる[114]。
1982年に出版されたレナード・ピーコフの『不吉な相似:アメリカにおける自由の終焉』(The Ominous Parallels: The End of Freedom in America)を、ランドは「私以外のオブジェクティスト哲学者による最初の本」と評した[116]。ピーコフは1991年に、ランドの哲学の包括的な解説書である『オブジェクティビズム:アイン・ランドの哲学』(Objectivism: The Philosophy of Ayn Rand)を出版した。クリス・マシュー・シャバラ(Chris Matthew Sciabarra)は、『アイン・ランド:ロシアのラディカル』(Ayn Rand: The Russian Radical、1995年)でランドの諸見解を論じ、その知的起源を理論化した。アラン・ゴットヘルフ (Allan Gotthelf)の『アイン・ランド論』(On Ayn Rand、1999年)、ティボー・R・マチャン(Tibor R. Machan)の『アイン・ランド』(Ayn Rand、2000年)、アンドリュー・バーンスタイン(Andrew Bernstein)の『一気に学ぶオブジェクティビズム』(Objectivism in One Lesson、2009)など、ランドの思想を簡潔にまとめた概説書も出版された。
オブジェクティビズムを、より専門的な領域に適用した学者もいた。マチャンは『客観性』(Objectivity、2004年)等の著作で、人間の知識に関するランドの文脈依存的な理論を、ジョン・L・オースティン(J. L. Austin)やギルバート・ハーマン(Gilbert Harman)による洞察にも依拠しながら展開した。デヴィッド・ケリー (David Kelley)は、ランドの認識論を『感覚の証拠』(The Evidence of the Senses、1986年)、『抽象作用に関する考察』(A Theory of Abstraction、2001年)等の著作で展開した。倫理学の分野では、ケリーが『洗練された個人主義』(Unrugged Individualism、1996年)、『争われるアイン・ランドの遺産』(The Contested Legacy of Ayn Rand、2000年)等の著作で、オブジェクティビズム支持者は仁愛(benevolence)という美徳により多くの注意を払うべきであり、道徳的制裁の強調を減らすべきであると主張した。ケリーのこうした見解に関しては多くの議論がある。ピーコフやピーター・シュワルツ(Peter Schwartz)は、ケリーはオブジェクティビズムの重要な諸原則を否定していると主張している[117]。ケリーは、「理性に依拠した、教条主義的にならない議論・討論へのコミットメント」、「“オブジェクティビズムは拡大、洗練、修正に対して開かれている”という認識」、および「同調者も批判者も含む他者に対する仁愛のポリシー」を伴うオブジェクティビズムという意味で、「開かれたオブジェクティビズム」(Open Objectivism)という用語を使用している[118]。
ランドの倫理学に焦点を当てている研究者タラ・スミス (Tara Smith) は、『道徳的諸権利と政治的自由』(Moral Rights and Political Freedom、1995年)、『存続可能な価値』(Viable Values、2000年)、『アイン・ランドの規範倫理学』(Ayn Rand's Normative Ethics、2006年)等の著書で、ランドの思想の原型に迫っている[119]。デイヴィッド・ハリマン(David Harriman)は、著書『論理的飛躍:物理における帰納』(The Logical Leap: Induction in Physics、2010年)で、ピーコフと協同し、ランドの概念論に基づく科学的帰納の理論を展開した[120]。
バーンスタインは、『資本主義者宣言』(The Capitalist Manifesto、2005年)でランドの思想の政治的側面を論じている。ジョージ・レイズマン(George Reisman)は、『資本主義:経済学についての論考』(Capitalism: A Treatise on Economics、1996年)で、オブジェクティビズムにおける方法論および洞察と、古典派およびオーストリア学派の経済学の統合を試みている。心理学においては、エドウィン・A.ロック (Edwin A. Locke)とエレン・ケナー(Ellen Kenner)が、『ロマンスへの利己的な道:情熱と理性で愛する方法』(The Selfish Path to Romance: How to Love with Passion & Reason)でランドの見解を検討した[121]。ルイス・トーレス(Louis Torres)およびミシェル・マーダー・カムヒ(Michelle Marder Kamhi)は、『芸術とは何か』(What Art Is、2000年)でオブジェクティビズムの芸術論への適用を試みた。ハリー・ビンスワンガー(Harry Binswanger)は、『目的論的概念の生物学的基礎』(The Biological Basis of Teleological Concepts、1990年)でオブジェクティビズムの目的論への適用を試みた。
知的影響
アカデミックな哲学研究者たちの多くは、ランドが最初に提唱した当時から、オブジェクティビズムを無視している[5]。ランドが同時代の知識人を批判していたため、オブジェクティビズムは「ひどく反学問的」とも評されてきた[3]。コロンビア大学哲学教授のデヴィッド・シドルスキー(David Sidorsky)は、ランドの哲学書は哲学の主流から外れており、十分に根拠づけられた哲学書というよりも、イデオロギー的な運動の書であると述べている[122]。イギリスの哲学研究者テッド・ホンデリック(Ted Honderich)は、『オックスフォード哲学必携』(The Oxford Companion to Philosophy)から、ランドに関する記事を意図的に排除したと述べた[123][124]。ランドの思想に関する項を設けている事典には、『スタンフォード哲学百科事典』(Stanford Encyclopedia of Philosophy)[2]、『現代アメリカ哲学者辞典』(The Dictionary of Modern American Philosophers)[125]、『インターネット哲学百科事典』(Internet Encyclopedia of Philosophy)[126]、『ラウトレッジ二十世紀政治思想家辞典』(The Routledge Dictionary of Twentieth-Century Political Thinkers)[127]、『ペンギン哲学辞典』(The Penguin Dictionary of Philosophy)[128]などがある。『ラウトレッジ哲学百科事典』(Routledge Encyclopedia of Philosophy)にもアイン・ランドの項があり、「ランドの思想は、アメリカ合衆国の学生に非常に強い影響を与えた。しかしアカデミックな哲学研究者たちからはほとんど注目されなかった。『資本主義: 知られざる理想』(The Unknown Ideal、1967年)などで資本主義を堂々と擁護したことや、『利己主義という気概』(The Virtue of Selfishness,1964年)で利己主義が美徳であることを明確に主張したことで、ランドはさらに有名になったが、知識人の主流からは排除されることになった」という評価が記載されている[107]。
近年では、学校の授業でランドの作品と出会う者も多い[3]。オブジェクティビズムの学問的研究を支援しているアイン・ランド・ソサイエティ(The Ayn Rand Society)は、アメリカ哲学会(American Philosophical Association)の東部地区に加盟している[129]。アリストテレス研究者であると同時にオブジェクティビズム支持者でもあり、アイン・ランド・ソサイエティの議長も務めるアラン・ゴットヘルフ (Allan Gotthelf)は、同ソサイエティに属する他の研究者と共に、オブジェクティビズムの学問的研究の拡大を訴えている。彼らはオブジェクティビズムを、古典的自由主義を擁護する哲学としてユニークであり、知的な関心と議論に値すると見なしている[130]。1999年には、査読付き学術誌「ザ・ジャーナル・オブ・アイン・ランド・スタディーズ」(The Journal of Ayn Rand Studies)が創刊された[131]。2006年には、オブジェクティビズムに焦点を当てた会議がピッツバーグ大学 (University of Pittsburgh)で開催された[132]。テキサス大学オースティン校(University of Texas at Austin)およびノースカロライナ大学チャペルヒル校(University of North Carolina at Chapel Hill)には、オブジェクティビズムの研究を支援するプログラムおよび奨励金制度がある[133]。
^《意識の諸産物に関する諸概念の、特殊な下位カテゴリーの一つとして、〈方法〉の諸概念がある。方法の諸概念は、特定の諸目標を達成するために人間が編み出す、活動の体系的な諸経路を指す。ここで言う活動の経路は、達成する目標に応じて、(たとえば意識を使う方法のように)純粋に心理的な場合もあれば、(たとえば石油を掘削する方法のように)心理的活動と物理的活動の組み合わせである場合もある。
方法の諸概念は、活動の合目的経路の(他と区別される)特徴と、その活動の目的の(他と区別される)特徴を--それぞれの具体的な諸量(measurements)を無視しながら--認識することによって形成される。
たとえば、他のあらゆる「方法の概念」の基盤になる最も基本的な「方法の概念」は、〈論理〉である。論理の(他と区別される)特徴、すなわち「個体性を矛盾なく特定する技術」は、この活動(すなわち、個体性を正しく特定するために必要な意識の活動)の性質と、この活動の目的(すなわち、知識)の性質を、示してる。ここで、論理的推理のプロセスの長さ、複雑さ、あるいは具体的なステップや、論理の具体的な使用場面で生じる具体的な認識的問題は、無視されている。
方法の諸概念は、人間が持つ概念全体のかなりの部分を占めている。認識論は、知識を適切に獲得し立証する方法の発見を目的とする学問である。倫理学は、学問である。人生を適切に生きる方法の発見を目的とする学問である。医学は、病気を適切に治療する方法の発見を目的とする学問である。あらゆる応用科学(すなわち技術)は、方法の発見を目的とする学問である。》
(原文)"A special subcategory of concepts pertaining to the products of consciousness, is reserved for concepts of method. Concepts of method designate systematic courses of action devised by men for the purpose of achieving certain goals. The course of action may be purely psychological (such as a method of using one’s consciousness) or it may involve a combination of psychological and physical actions (such as a method of drilling for oil), according to the goal to be achieved.
Concepts of method are formed by retaining the distinguishing characteristics of the purposive course of action and of its goal, while omitting the particular measurements of both.
For instance, the fundamental concept of method, the one on which all the others depend, is logic. The distinguishing characteristic of logic (the art of non-contradictory identification) indicates the nature of the actions (actions of consciousness required to achieve a correct identification) and their goal (knowledge)—while omitting the length, complexity or specific steps of the process of logical inference, as well as the nature of the particular cognitive problem involved in any given instance of using logic.
Concepts of method represent a large part of man’s conceptual equipment. Epistemology is a science devoted to the discovery of the proper methods of acquiring and validating knowledge. Ethics is a science devoted to the discovery of the proper methods of living one’s life. Medicine is a science devoted to the discovery of the proper methods of curing disease. All the applied sciences (i.e., technology) are sciences devoted to the discovery of methods."Rand 1990, p. 36
^Peikoff, Leonard. "The Analytic-Synthetic Dichotomy." in Rand 1990, pp. 97–98.引用文は同書の別の箇所のランドによる説明。
^Rand 1990, p. 12。ランドの概念論についてさらに詳しくは、Kelley, David "A Theory of Abstraction"、"The Psychology of Abstraction"、Cognition and Brain Theory vol. vii, no. 3 and 4 (Summer/Fall 1984)、およびRasmussen, Douglas B., "Quine and Aristotelian Essentialism"、The New Scholasticism 58 (Summer, 1984)を参照
^Long, Roderick T. (2000). Reason and Value: Rand versus Aristotle. Objectivist Studies Monographs. Poughkeepsie, New York: The Objectivist Center. ISBN1-57724-045-6. OCLC49875339
^"a code of values to guide man's choices and actions—the choices and actions that determine the purpose and the course of his life" Rand 1964, p. 13.
^Rand 1964, p. 22;。意志作用に関するランドの理論の詳細はBinswanger, Harry (December 1991). “Volition as Cognitive Self-Regulation”. Organizational Behavior and Human Decision Processes50 (2): 154–178. doi:10.1016/0749-5978(91)90019-P.、Branden, Nathaniel (1969). “Man: A Being of Volitional Consciousness”. The Psychology of Self-Esteem. Los Angeles: Nash Publishing. ISBN0-8402-1109-0、Peikoff 1991, pp. 55–72を参照
^Den Uyl, Douglas; Rasmussen, Douglas (April 1978). “Nozick On the Randian Argument”. The Personalist59: 184–205. Reprinted along with Nozick's article in Reading Nozick, J. Paul, ed., 1981, Rowman & Littlefield.
^King, J. Charles. "Life and the Theory of Value: The Randian Argument Reconsidered" in Den Uyl & Rasmussen 1984.
^Sharlet, Jeff (April 9, 1999). “Ayn Rand has finally caught the attention of scholars: New books and research projects involve philosophy, political theory, literary criticism, and feminism”. The Chronicle of Higher Education45 (31): 17–18.
^ abDoherty, Brian (2007). Radicals for Capitalism: A Freewheeling History of the Modern American Libertarian Movement. New York: Public Affairs. p. 544. ISBN1-58648-350-1
“Ayn Rand”. Stanford Encyclopedia of Philosophy (July 5, 2012). December 30, 2014閲覧。
Barry, Norman P. (1987). On Classical Liberalism and Libertarianism. New York: St. Martin's Press. ISBN0-312-00243-2. OCLC14134854
Bernstein, Andrew (2009). Objectivism in One Lesson: An Introduction to the Philosophy of Ayn Rand. Lanham, Maryland: Hamilton Books. ISBN0-7618-4359-0
Binswanger, Harry (1990). The Biological Basis of Teleological Concepts. Los Angeles, California: Ayn Rand Institute Press. ISBN0-9625336-0-2
Branden, Barbara (1987). The Passion of Ayn Rand. New York, New YOrk: Anchor Books. ISBN0-385-24388-X
Burns, Jennifer (2009). Goddess of the Market: Ayn Rand and the American Right. New York: Oxford University Press. ISBN978-0-19-532487-7. OCLC313665028
Den Uyl, Douglas; Rasmussen, Douglas B., eds (1984). The Philosophic Thought of Ayn Rand. University of Illinois Press. ISBN0-252-01407-3
Gladstein, Mimi Reisel (1999). The New Ayn Rand Companion. Westport, Connecticut: Greenwood Press. ISBN0-313-30321-5. OCLC40359365
Gladstein, Mimi Reisel (2009). Ayn Rand. Major Conservative and Libertarian Thinkers series. New York: Continuum. ISBN978-0-8264-4513-1. OCLC319595162
Gotthelf, Allan & Lennox, James G., eds (2010). Metaethics, Egoism, and Virtue: Studies in Ayn Rand's Normative Theory. Ayn Rand Society Philosophical Studies. Pittsburgh: University of Pittsburgh Press. ISBN978-0-8229-4400-3. OCLC617508678
Heyl, Jenny A. (1995). “Ayn Rand (1905–1982)”. In Waithe, Mary Ellen (ed). Contemporary Women Philosophers: 1900–today. A History of Women Philosophers series. Boston: Kluwer Academic Publishers. pp. 207–224. ISBN0-7923-2808-6. OCLC30029022
Hicks, Stephen R. C. (July 7, 2005). “Ayn Rand (1905-1982)”. Internet Encyclopedia of Philosophy. March 15, 2011閲覧。
Holzer, Erika (2005). Ayn Rand: My Fiction Writing Teacher. Indio, California: Madison Press. ISBN0-615-13041-0. OCLC70662150
Kelley, David (1986). The Evidence of the Senses: A Realist Theory of Perception. Baton Rouge, Louisiana: Louisiana State University Press. ISBN0-8071-1268-2
Kelley, David (2001). A Theory of Abstraction. The Objectivist Center. ISBN1-57724-062-6
Kukathas, Chandran (1998). “Rand, Ayn (1905–82)”. In Craig, Edward (ed). Routledge Encyclopedia of Philosophy. 8. New York: Routledge. pp. 55–56. ISBN0-415-07310-3. OCLC318280731
Machan, Tibor R. (2000). Ayn Rand. Masterworks in the Western Tradition. New York: Peter Lang Publishing. ISBN0-8204-4144-9. OCLC41096316
Peikoff, Leonard (1991). Objectivism: The Philosophy of Ayn Rand. New York: Dutton. ISBN0-452-01101-9
Quinton, Anthony (2005). “Popular philosophy”. In Honderich, Ted. The Oxford Companion to Philosophy (2nd ed.). New York: Oxford University Press. pp. 739–741. ISBN978-0-19-926479-7
Rand, Ayn (1961). For the New Intellectual. New York: Random House
Rand, Ayn (1964). The Virtue of Selfishness (paperback ed.). New York: Signet. ISBN0-451-16393-1
Rand, Ayn (1967) [1966]. Capitalism: The Unknown Ideal (paperback 2nd ed.). New York: Signet
Rand, Ayn (1982). Peikoff, Leonard. ed. Philosophy: Who Needs It (paperback ed.). New York: Signet. ISBN0-451-13249-1
Rand, Ayn (1990). Binswanger, Harry & Peikoff, Leonard. eds. Introduction to Objectivist Epistemology (second ed.). New York: Meridian. ISBN0-452-01030-6. OCLC20353709
Rand, Ayn (1971). The Romantic Manifesto (paperback ed.). New York: Signet. OCLC733753672
Rand, Ayn (2005). Mayhew, Robert. ed. Ayn Rand Answers, the Best of Her Q&A. New York: New American Library. ISBN0-451-21665-2. OCLC59148253
Rand, Ayn; Peikoff, Leonard (1982). The Ominous Parallels: The End of Freedom in America. New York: Stein and Day. ISBN0-8128-2850-X
Salmieri, Gregory & Gotthelf, Allan (2005). “Ayn Rand”. In Shook, John (ed). The Dictionary of Modern American Philosophers. London: Thoemmes Continuum. ISBN1-84371-037-4
Sciabarra, Chris Matthew (1995). Ayn Rand: The Russian Radical. University Park, Pennsylvania: Pennsylvania State University Press. ISBN0-271-01440-7. OCLC31133644
Sciabarra, Chris Matthew (2013). Ayn Rand: The Russian Radical. University Park, Pennsylvania: Pennsylvania State University Press. ISBN978-0-271-06227-3. OCLC853618653
Smith, Tara (2000). Viable Values: A Study of Life as the Root and Reward of Morality. Lanham, Maryland: Rowman & Littlefield. ISBN0-8476-9760-6. OCLC42397381
Smith, Tara (2006). Ayn Rand's Normative Ethics: The Virtuous Egoist. New York: Cambridge University Press. ISBN0-521-86050-4. OCLC60971741
Smith, Tara (1997). Moral Rights and Political Freedom. Lanham, Maryland: Rowman & Littlefield. ISBN0-8476-8026-6. OCLC31710378
Stevens, Jacqueline (1998). “Ayn Rand”. In Benewick, Robert & Green, Philip (eds). The Routledge Dictionary of Twentieth-Century Political Thinkers (2nd ed.). London: Routledge. pp. 263–264. ISBN0-415-15881-8
Torres, Louis & Kamhi, Michelle Marder (2000). What Art Is: The Esthetic Theory of Ayn Rand. Chicago: Open Court Publishing. ISBN0-8126-9372-8. OCLC43787446
Touchstone, Kathleen (2006). Then Athena Said: Unilateral Transfers and the Transformation of Objectivist Ethics. Lanham, Maryland: University Press of America. ISBN0-7618-3519-9. OCLC70783649