一 サータヴァッティー市[2]が[ゆかりの場所である。]
二 [尊師[3]は言われた ―、]「修行僧たちよ。むかし、戒律をたもち美徳を具えている多くの仙人たちが、海岸の、木の葉で葺いた庵に静かに住んでいた。
三 その時神々と阿修羅との戦闘がたけなわであった。
四 さて戒律とたもち美徳を具えているそれらの仙人は、次のように思った。 ―『神々は正しいが、阿修羅たちは不正である。われらに阿修羅からの危険が起こるかもしれない。さあ、われらは、阿修羅の主であるサンバラのところに行って安全を守ってくれるように懇願しよう』と。
五 そこで、戒律をたもち美徳を具えているそれらの仙人たちは、譬えば力のある男が腕を伸ばし、伸ばした腕を屈するように、海岸にある木の葉で葺いた庵から姿を消し、阿修羅の主であるサンバラの面前に現れた。
六 そのとき、戒律をたもち美徳を具えているそれらの仙人たちは阿修羅の主であるサンバラに、詩をとなえて語りかけた、―
七 『仙人たちはサンバラのところに来て、安全をまもってくださいと懇願しています。危険を授けようと、安全を授けようとあなたの好きなようになさい。』
八 [サンバラ言わく、 ―]『サッカ(帝釈天)に仕える汚れた仙人どもには、安全はありえない。お前たちには安全を懇願するけれども、おれはお前たちに危険を与えよう。』
九 [仙人たち言わく、 ―]『われらは安全を求めるけれどもあなたは危険を与える。われらはこの危険をあなたにお返しする。あなたには尽きることのない危険が起こるぞよ。撒いた種に応じて果実を収穫する。善い行いをした人は、良い報いを得、悪い行いをした人には悪い報いを得る。父さん!あなたは種を撒いたが、その報いを受けるであろうぞよ!』
一〇 次いで、戒律をたもち美徳を具えているそれらの仙人たちは、阿修羅の主サンバラを呪詛して、誓えば力のある男が屈した腕を伸ばし、伸ばした腕を屈するように、阿修羅の主であるサンバラの面前で姿を消し、海岸にある木の葉で葺いた庵のうちに現われた。
一一 さて阿修羅の主であるサンバラは、戒律をたもち美徳を具えているそれらの仙人たちに呪われて、その夜のうちに三回、びくっとして目が覚めた。修行僧たちよ。
— 中村元 訳、『ブッダ悪魔との対話』岩波書店1986年、pp.269-271