シャーラダー文字(シャーラダーもじ、英語: Sharada script、ヒンディー語: शारदा लिपि シャールダー・リピ)は、カシミール地方一帯でかつて使われていた文字。グプタ文字の系統のアブギダであり、左から右に書かれる。サンスクリットおよびカシミール語を記すのに用いる。
現在、カシミール語は主にペルシア文字で書かれ、シャーラダー文字の使用はホロスコープに限られている[1]。
歴史
シャーラダーとはカシミール地方の女神で、サラスヴァティーの別名とされる。このため、カシミール地方は「シャーラダーの国」とも呼ばれる[2]。
シャーラダー文字は8-9世紀ごろから刻文にあらわれる[3]。古い写本ではバクシャーリー写本が有名である。カシミール地方の外にも広く分布し、アフガニスタンにもシャーラダー文字で書いたサンスクリット碑文が存在する[4]。
19世紀にシャーラダー文字で書かれた『新約聖書』がカルカッタで印刷されたことはあったが[3]、一般には手書きによってのみ伝わる。
シャーラダー文字からは、商人が使うランダー文字が発展した。16世紀にシク教のグル・アンガドがランダー文字をもとにグルムキー文字を作った。最近まで西部ヒマラヤで広く使われたタークリー文字もシャーラダー文字から発展してできた[5]。
特徴
シャーラダー文字の基本的な構造は他のインド系の文字と同様である。デーヴァナーガリーと同様、多くの文字の上部に横棒がついており、i ī などの母音記号の書きかたもデーヴァナーガリーに似ている。
カシミール語は口蓋化子音や中舌母音など、他のインドの言語と異なる音声的特徴を持つが、シャーラダー文字はそれらの特徴を表すための文字を持っておらず、かならずしもカシミール語を表すのに適当ではない[1]。
Unicode
Unicode バージョン 6.1 で、U+11180..U+111DF の領域がシャーラダー文字のために割り当てられた[6][7]。
シャーラダー文字
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U+111Bx
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U+111Cx
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脚注
参考文献
- 田中敏雄 著「インド系文字の発展」、西田龍雄 編『世界の文字』大修館書店、1981年、181-210頁。
- Koul, Omkar N (2007) [2003]. “Kashmiri”. In George Cardona; Dhanesh Jain. The Indo-Aryan Languages. Routledge. pp. 895-952. ISBN 9780415772945
- Masica, Colin P (1993) [1991]. The Indo-Aryan languages (paperback ed.). Cambridge University Press. ISBN 0521299446
- Salomon, Richard (1998). Indian Epigraphy. Oxford University Press. ISBN 0195099842
外部リンク