ナショナル・シアター・ライブ (英語: National Theatre Live)、略称NTライブは、ロンドンのロイヤル・ナショナル・シアターが行っている企画であり、衛星中継により、ナショナル・シアターその他の上演を世界中の映画館やアートセンターで上映するというものである。2009年に始まり、当初は映画館などでの上映だけを実施していたが、新型コロナウイルス感染症の世界的流行をきっかけに個人向けのインターネット配信事業も開始した。
来歴
2009年6月にヘレン・ミレン主演の『フェードル』の上演でパイロットシーズンが始まり、イギリス中の70の映画館で中継された[3]。最終的には世界中の200以上の会場でこのプロダクションが上映され、あわせて5万人以上が1回のパフォーマンスを見たことになった[3]。2本目のプロダクションである『終わりよければ全てよし』は合計300ほどのスクリーンで上映された[4]。2017年時点ではNTライヴのプロダクションを上映する会場の数は700館ほどになっている[5]。
土曜のマチネだったNation、月曜の夕方だったLondon Assurance、火曜の夕方だった『欲望という名の電車』を除き、すべてのナショナル・シアター・ライブのプロダクションは映画館の週末スケジュールと重ならないよう、木曜日の午後にパブリックビューイングの中継を行う。ほとんどの会場ではライヴ中継を上映するが、南アフリカ、オーストラリア、ニュージーランド、アメリカ合衆国、日本などの会場では時差のために撮影したプロダクションを後日上映している。多くの会場では「アンコール」と言われる、人気作品の再上映も行っている。
上映されるプロダクションのほとんどはロイヤル・ナショナル・シアターのレパートリーで上演された芝居だが、他の劇団による作品も含まれている。コンプリシテの『消え行く数字』(A Disappearing Number)は2010年10月14日にプリマスのシアター・ロイヤルから中継された[6]。デレク・ジャコビ主演の『リア王』はドンマー・ウエアハウスのプロダクションで、2011年2月3日にコヴェント・ガーデンから中継された[6]。2013年7月20日にはケネス・ブラナーとアレックス・キングストン主演の『マクベス』がマンチェスター国際フェスティバルから中継された[7]。ジリアン・アンダーソン主演の『欲望という名の電車』はヤング・ヴィクから2014年9月16日に中継された[8]。この他にもニューヨークのブロードウェイにあるロングエーカー劇場で上演された『二十日鼠と人間』など、他劇場で収録されたプロダクションはいくつかある。
2015年にバービカン・センターから中継されたベネディクト・カンバーバッチ主演『ハムレット』はナショナル・シアター・ライブ史上最大のヒットとなっており、2016年8月の時点において、世界で55万人以上が鑑賞していた[9]。
日本語版
日本におけるナショナル・シアター・ライブは2014年2月、ベネディクト・カンバーバッチとジョニー・リー・ミラー主演の『フランケンシュタイン』上映から展開を開始した[10]。カルチャヴィルとTOHOシネマズの協力によるプロジェクトであり、日本語字幕をつけて上映を行っている時差のためライヴ中継ではなく、またイギリスで収録された全てのプロダクションが上映されているわけではない。
上映作品
注記がないかぎりは全てナショナル・シアターで収録された上演である[11]。日本語版が上映されたものについても注記してある。通常の長編映画とは異なる扱いであり、日本では非映画コンテンツなどと言われる。
2009年
2010年
- Nation – 2010年1月30日
- The Habit of Art – 2010年4月22日
- London Assurance – 2010年6月28日
- 『消え行く数字』A Disappearing Number – 2010年10月14日
- 『ハムレット』(ロリー・キニア主演版)– 2010年12月9日。2014年に日本で上映。
2011年
- 『一人の男と二人の主人』– 2011年9月15日。2017年に日本で上映。2020年、新型コロナウイルス感染症の流行に伴う劇場閉鎖のため、ナショナル・シアター・アット・ホームの一環としてウェブにて4月2日から9日まで無料配信された[14]。
- The Kitchen – 2011年10月6日
- Collaborators – 2011年12月1日
2012年
- Travelling Light – 2012年2月9日
- 『間違いの喜劇』 – 2012年3月1日
- 『負けるが勝ち』(She Stoops to Conquer) – 2012年3月29日
2013年
2014年
2015年
2016年
2017年
2018年
2019年
2020年
2022年
- 『レオポルトシュタット』 - 2022年1月27日に中継[66]。
- The Book of Dust – La Belle Sauvage - 2022年2月17日に中継予定[66]。
- 『ヘンリー五世』 - 2022年4月21日に中継予定。
ナショナル・シアター・アット・ホーム
2020年、新型コロナウイルス感染症の流行による劇場閉鎖に伴い、ナショナル・シアター・ライブの作品のうち『一人の男と二人の主人』、『ジェーン・エア』、『宝島』、『十二夜』の4本が、「ナショナル・シアター・アット・ホーム」として4月に1週間ずつウェブで無料配信された[67][68]。4月末から5月にかけて『フランケンシュタイン』と『アントニーとクレオパトラ』も配信された[69]。
2020年11月にはオンデマンドストリーミングサービスとして新たに有料のナショナル・シアター・アット・ホームが開始された[70][71]。ナショナル・シアタ-・ライヴの作品を中心にアーカイヴの上演映像を配信する[71]。
受容
イギリスでは当初、ナショナル・シアター・ライブがライヴパフォーマンスのチケット売り上げに悪影響を与えることが懸念されていた[72]。しかしながら、ナショナル・シアター・ライブのせいでライヴ公演のチケットが売れなくなるという兆しはないことが指摘されている[73]。
日本においては、イアン・マッケラン主演の『リア王』など注目度の高い演目を「海外へ行かずして日本の映画館で見られるのは貴重な機会[74]」であるとして評価されており、演劇ファンの間では「好評[75]」を博しているとされる。中本千晶は、あまり舞台を見に行ったことのない観客にもすすめられるシリーズであり、「日本でも定着しつつある[76]」と評価している。
脚注
- ^ “National Theatre Live”. National Theatre Live. 2017年7月24日閲覧。
- ^ “National Theatre broadcast live to cinemas around the world”. Loncoln Theatre. 2017年7月24日閲覧。
- ^ a b Hasan Bakhshi and David Throsby (2010年). “Culture of Innovation: An Economic Analysis of Innovation in Arts and Cultural Organisations”. National Endowment for Science, Technology and the Arts. 2017年7月24日閲覧。
- ^ Maurice Hindle (2015). Shakespeare on Film. Palgrave Macmillan. p. 89
- ^ “National Theatre Live”. National Theatre Live. 2017年7月24日閲覧。
- ^ a b “National Theatre Live: Complicite's A Disappearing Number”. Dundee Contemporary Arts. 2017年7月24日閲覧。
- ^ “Macbeth”. National Theatre Live. 2017年7月24日閲覧。
- ^ a b “A Streetcar Named Desire”. National Theatre Live. 2017年7月24日閲覧。
- ^ “National Theatre Live: everything you need to know”. The Telegraph. 2017年7月24日閲覧。
- ^ 狩野良規「スクリーンでロンドンの演劇を」Artlet: Keio University Art Center Newsletter, 44 (2015): 10–11. http://www.jstr.org/project/Arcive/ARTLET-44_0914.pdf
- ^ 上映情報は基本的にナショナル・シアター・ライブ公式サイト及び日本語版公式サイト、日本語版公式ツイッターアカウントの速報に拠る。
- ^ Mark Brown (2010年7月29日). “Sir Derek Jacobi's King Lear to go live at 300 world cinemas”. The Guardian. 2017年7月24日閲覧。
- ^ a b “ナショナル・シアター・アット・ホーム『フランケンシュタイン』『アントニーとクレオパトラ』の配信が決定 | SPICE - エンタメ特化型情報メディア スパイス”. SPICE(スパイス)|エンタメ特化型情報メディア スパイス. 2020年5月5日閲覧。
- ^ a b c d “National Theatre at Home while we're closed | National Theatre on YouTube and NT Collection”. www.nationaltheatre.org.uk. National Theatre. 2020年4月15日閲覧。
- ^ “Othello”. National Theatre Live. 2017年7月24日閲覧。
- ^ “King Lear”. National Theatre Live. 2017年7月24日閲覧。
- ^ “A Small Family Business”. National Theatre Live. 2017年7月24日閲覧。
- ^ “Skylight”. National Theatre Live. 2017年7月24日閲覧。
- ^ “Medea”. National Theatre Live. 2017年7月24日閲覧。
- ^ “メディア”. ntlivejapan. 2021年7月16日閲覧。
- ^ “JOHN”. National Theatre Live. 27 May 2016閲覧。
- ^ “Behind the Beautiful Forevers”. National Theatre Live. 27 May 2016閲覧。
- ^ “The Hard Problem”. National Theatre Live. 2017年7月24日閲覧。
- ^ “Everyman”. National Theatre Live. 27 May 2016閲覧。
- ^ 「英米の傑作舞台、日本の映画館で 字幕つき録画版」『朝日新聞』2015年5月14日、夕刊、p. 3。
- ^ “ナショナル・シアター・ライブ「ジェーン・エア」 : 作品情報”. 映画.com. 2022年2月2日閲覧。
- ^ “ナショナル・シアター・ライブ「十二夜」 : 作品情報”. 映画.com. 2022年2月2日閲覧。
- ^ “ntlivejapan | ヴァージニア・ウルフなんかこわくない”. ntlivejapan. 2019年6月15日閲覧。
- ^ a b “NTLive2019前半ラインナップ発表~『マクベス』『ヴァージニア・ウルフなんかこわくない』『リア王』『英国万歳!』『アントニーとクレオパトラ』 | SPICE - エンタメ特化型情報メディア スパイス”. SPICE(スパイス)|エンタメ特化型情報メディア スパイス. eplus (2018年12月29日). 2019年6月15日閲覧。
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- ^ “NT Live on Twitter” (英語). Twitter. https://twitter.com/NTLive/status/854655768292974592 2017年4月21日閲覧。
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- ^ Hasan Bakhshi and David Throsby, ‘Digital Complements or Substitutes? A Quasi-field Experiment from the Royal National Theatre’, Journal of Cultural Economics, 38 (2014):1–8, p. 7.
- ^ “ナショナル・シアター・ライブ2019 イアン・マッケラン主演 × シェイクスピア作『リア王』予告編解禁 - SCREEN ONLINE(スクリーンオンライン)”. screenonline.jp. 2019年6月15日閲覧。
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関連項目
外部リンク